はじめに
1日は24時間です。
人間が1日に使える時間には、当然ながら物理的な上限があります。
ところが、AI Agentの利用データを見ると、この当たり前の前提が少し揺らいで見えます。
OpenAIは、2026年6月までに、社内の日次アクティブユーザーのうち利用量が99パーセンタイルに位置するユーザーが、複数のAgentへ分散した並列実行によって、1日あたり60時間を超えるCodex agent turnsを定常的に生成していたと公開しています。
参考:
OpenAI - How agents are transforming work
「1日は24時間なのに、60時間とはどういうことだろう?」
もちろん、これは1つのAIが60時間連続で働いているという意味ではありません。
複数のAgentを同時に動かせるため、複数のCodex agent turnsのruntimeを合計すると、1日の中でも24時間を超えられるという話です。
以降、本記事では分かりやすさのため、このruntimeを「Agentの実行時間」と表記します。
この記事では、この「60時間」という数字と、OpenAIが別のレポートで公開した 3.1 agent-workdays という数字を手がかりに、Agent時代に「仕事量」や「労働時間」をどう考えればよいのかを整理します。
※本記事はOpenAIが公開しているデータをもとにした個人の整理・考察です。
※記事中の図は公開情報をもとに筆者が独自に作成したものであり、OpenAI公式の資料ではありません。
※確認日:2026年9月16日
OpenAIで観測された「1日60時間超」
OpenAIは2026年6月25日に公開した「How agents are transforming work」で、社内におけるCodex利用の変化を紹介しています。
その中で興味深いのが、Codexの日次実行時間に関するデータです。
OpenAIによると、2026年6月までに、社内の日次アクティブユーザーの99パーセンタイルでは、
- 1日あたり60時間を超えるCodex agent turns
- 複数のAgentへ分散
- 並列実行
という利用が定常的に見られるようになったとしています。
原文では次のように説明されています。
Among daily active users at OpenAI, the heaviest users ask Codex to run many hours of agent work in a single day. By June 2026, users at the 99th percentile regularly generated more than 60 hours of Codex agent turns per day, distributed across multiple, parallel agents.
ここで重要なのは、「1人が60時間働いた」という話ではないことです。
Agentを複数立ち上げ、それぞれを並列に動かしているため、その実行時間を合算すると60時間を超える、という構造です。
数字を読むときに、あわせて押さえておきたい前提が3つあります。
- 対象は OpenAI社内の日次アクティブユーザーであり、Codexユーザー全体の平均ではない
- 99パーセンタイル、つまり最も使っている層の水準である
- 数えているのは Codex agent turnsの実行時間の合計であり、人間の労働時間と同じ単位ではない
なぜ1日24時間を超えられるのか
人間の場合、同じ人が同時に複数の仕事を完全に並列で進めることには限界があります。
たとえば8時間働く場合、単純化すると次のようになります。
人間:09:00 ───────────── 17:00
8時間
一方、Agentは複数のタスクを並列で動かせます。
Agent A:10時間
Agent B: 8時間
Agent C:12時間
Agent D:14時間
Agent E:16時間
----------------
合計 :60時間
これは説明のための単純な例であり、OpenAIが公開した内訳ではありません。考え方としてはこのようなものです。
時計の上では同じ1日でも、Agent側では複数の処理を同時進行できます。
つまり、Agent時代には、
経過時間(wall-clock time)と、Agentが処理した時間の合計が一致しなくなる
という特徴があります。
従来は「1人が何時間働いたか」が仕事量を考える一つの尺度でした。
しかしAgentを利用すると、
1人が何時間作業したか
だけでなく、
その人が何本のAgentタスクを並行して動かしたか
という見方も必要になってきます。
「1つずつ質問する」から「複数の仕事を任せる」へ
OpenAIは、Codexの利用方法そのものも変化していると説明しています。
以前のAI利用は、
人間 → AIに質問 → 回答を待つ → 次の質問
という、比較的直列的な使い方が中心でした。
一方、Agent型の利用では、たとえば次のような形が考えられます。
人間
├─ Agent A:実装
├─ Agent B:テスト
├─ Agent C:調査
├─ Agent D:ドキュメント整理
└─ Agent E:別案の検証
↓
結果を確認・統合する
OpenAIの記事でも、Codexが強力になり並列化しやすくなるにつれて、ユーザーが「一度に1つの回答を求める」使い方から、1日の中で複数のAgentタスクをオーケストレーションする使い方へ移っていると説明されています。
なお、この記事とあわせて公開された論文「The Shift to Agentic AI: Evidence from Codex」では、Codexユーザーのうち10%を超えるユーザーが、週のどこかの時点で3つ以上のAgentを同時に管理しているとも報告されています。並列利用は、99パーセンタイルの一部のユーザーだけの話ではないようです。
この変化は、単にAIの回答が速くなったという話とは少し違います。
仕事そのものを複数のAgentへ分割し、同時進行させるという使い方です。
関連して見たい「3.1 agent-workdays」
この「60時間」という数字とあわせて読みたいのが、OpenAIが2026年9月6日に公開した「Research acceleration: The view inside OpenAI」です。
参考:
OpenAI - Research acceleration: The view inside OpenAI
このレポートでは、OpenAIの研究組織におけるAgent利用について、2026年8月中旬時点で、
人間の1 workdayに対して、3.1 agent-workdaysのAgent実行量
になっていると説明されています。
ここでは1 workdayを標準的な8時間として扱っています。
単純にイメージすると、
人間 1 workday
Agent 3.1 workdays
という関係です。
同じレポートでは、4つ以上のAgentを同時に動かす高並列なワークフローを使う研究者が増えていることも紹介されています。
さらに、この同時実行数は日次のピーク値として集計されており、ユーザーが直接起動したAgentだけでなく、そこから派生したsubagentも含まれています。つまり「4つ以上」は、3.1 agent-workdays(総実行時間の比)とは別の集計です。
60時間という数字と3.1 agent-workdaysは、対象となる集団・時点・集計方法が異なるため、直接比較したり換算したりすることはできません。
| 1日60時間超 | 3.1 agent-workdays | |
|---|---|---|
| 出典 | How agents are transforming work(2026年6月25日) | Research acceleration(2026年9月6日) |
| 時点 | 2026年6月までに | 2026年8月中旬 |
| 対象 | OpenAI社内の日次アクティブユーザー | OpenAIの研究組織全体 |
| 数え方 | 99パーセンタイルのユーザー1人あたりの実行時間 | 人間の1労働日あたりのAgent実行量の比 |
ただし、どちらにも共通して見えるのは、
Agentを並列利用すると、人間の労働時間とは別の「Agent側の仕事量」が積み上がっていく
という点です。
60時間 = 60時間分の成果、ではない
ここは特に注意したいところです。
「AIが1日60時間働ける」と聞くと、
人間の60時間分の仕事が1日で終わる
ようにも見えてしまいます。
しかし、OpenAIの公開データはそこまでを意味していません。60時間は、あくまで**投入量(Agentを何時間動かしたか)**の数字です。
一般に、複数のAgentを並列実行する場合には、
- Agentが途中で失敗する
- 同じ方向を重複して調査する
- 人間による修正が必要になる
- 出力のレビューが必要になる
- 最終的に採用されない案もある
- 計算資源や実験環境など、別のボトルネックが発生する
といったことも考えられます。
OpenAIの「Research acceleration」でも、Agentが成功するためには依然として人間による介入が重要だとしています。
実際、直近6か月の成功した4〜8時間規模のタスクでも、半数を超えるケースで1回以上の人間による介入があったと報告されています。
そのため、
Agentの実行時間
≠
人間の労働時間
≠
成果
と分けて考える必要があります。
OpenAI自身も、コード量や実験回数などは比較的測定しやすい一方、それらと研究進捗との関係は解釈が難しいと説明しています。
変わるのは「労働時間」より「仕事量の尺度」かもしれない
ここまでの数字を見ていて興味深いのは、AIが人間より長時間働くことそのものではありません。
むしろ、仕事量を時間だけで表すことが難しくなる点です。
これまでの仕事では、
1人 × 8時間
という考え方が比較的分かりやすい尺度でした。
Agentを使うと、
1人
×
複数Agent
×
複数タスク
という構造になります。
さらにOpenAIのデータでは、ユーザーが直接起動したAgentから派生したsubagentまで含む高並列な利用も観測されています。
こうした構造では、人間側で重要になるのは「自分が何時間手を動かしたか」だけではなく、
- 何をAgentへ任せるか決める
- タスクを分割する
- Agentを並列で走らせる
- 結果を比較する
- 間違いを見つける
- どの結果を採用するか判断する
- 必要なら追加のAgentへ再委任する
といった部分になっていきます。
人間自身がすべての作業を行うというより、複数の作業スロットを管理する役割が増える、と考えることもできます。
ボトルネックも移動する
Agentを増やせば、仕事が無限に速くなるわけではありません。
たとえば5つのAgentから同時に結果が返ってきても、それを確認する人間が1人なら、レビュー側が詰まる可能性があります。
Agent A ─┐
Agent B ─┤
Agent C ─┼──→ 人間による確認・判断
Agent D ─┤
Agent E ─┘
↑
次のボトルネック
Agentによって実装が速くなれば、次は、
- レビュー
- 意思決定
- 実験環境
- Compute
- セキュリティ
- 組織内の承認
などがボトルネックになる可能性があります。
OpenAIの「Research acceleration」でも、自動化が進むにつれて、自動化しにくい作業が研究者の時間のより大きな割合を占め、将来の重要なボトルネックになると説明しています。また、Computeも進捗を制約する要因として挙げられており、他のボトルネックが減るほど重要になっていく可能性があるとしています。
つまり、Agent時代の生産性を考えるときには、Agentを何時間動かせたかだけでなく、
Agentによって空いたボトルネックが次にどこへ移ったのか
を見ることも重要です。
「1日60時間」の数字から見えてくるもの
「AIが1日60時間働く」という表現だけを見ると、少しSF的に聞こえます。
しかし、今回の数字から見えてくる変化は、もっと実務的です。
従来
人間の時間が仕事量の上限になりやすい
↓
Agent利用
複数の作業を並列で進められる
↓
人間
実行する人 → 指示・分解・確認・判断する人
↓
次のボトルネック
レビュー、判断、Compute、環境など
「60時間」という数字そのものより、人間の1日24時間という制約が、そのままAgent側の仕事量の上限にはならないことがポイントだと感じます。
まとめ
今回のポイントを3つにまとめます。
- OpenAIでは2026年6月までに、社内の日次アクティブユーザーの99パーセンタイルが、複数の並列Agentに分散して1日あたり60時間を超えるCodex agent turnsを定常的に生成していた
- 2026年8月中旬には、OpenAIの研究組織全体で、人間の1 workdayに対して3.1 agent-workdaysのAgent実行量が観測されていた(60時間の数字とは対象・時点・集計方法が異なる)
- ただし、Agentの実行時間は人間の労働時間や成果と同じではないため、並列化によって増えた作業量と、その結果を確認・判断する人間側のボトルネックを分けて考える必要がある
1日はこれからも24時間です。
ただし、1人が1日の中で動かせるAgent側の「作業時間」の総量は、並列化によって24時間を超えられる。
今回の「60時間」という数字は、Agent時代に仕事量の尺度そのものが変わりつつあることを、分かりやすく示す一例なのかもしれません。
参考
-
OpenAI - How agents are transforming work
- 2026年6月25日
- OpenAI社内におけるCodex利用、60時間超のCodex agent turns、並列Agent利用など
-
OpenAI - The Shift to Agentic AI: Evidence from Codex(arXiv:2606.26959)
- 2026年6月25日
- 上記記事のもとになった論文。外部の個人アカウント/組織アカウント/OpenAI社内の3集団を比較。3つ以上のAgentの同時管理、タスクの長時間化など
-
OpenAI - Research acceleration: The view inside OpenAI
- 2026年9月6日
- 3.1 agent-workdays、Agentの並列利用、subagent、人間による介入、研究におけるボトルネックなど









