はじめに
2026年2月25日、Nous ResearchはオープンソースのAIエージェント「Hermes Agent」を発表しました。
Hermes Agentには、ツール実行、メモリ、スキル、定期実行、Slackなどのメッセージングサービスとの連携といった機能があります。ただ、機能を見ているうちに、別の疑問が浮かびました。
Hermes Agentは、どこから来たのか?
開発元のNous Researchは、もともと「Hermes」というLLMシリーズを公開してきたAI研究組織です。モデルを作る側だった組織が、なぜモデルを動かすエージェントまで公開したのでしょうか。
この記事では、2023年の初期Hermesから2026年のHermes Agent公開までを、モデルカード、技術レポート、公式GitHub、公式発表から追います。
先に結論を述べると、確認できる流れは次のとおりです。
- 初期のHermesは、汎用の指示追従モデルとして始まった
- Hermes 2 ProとHermes 3で、関数呼び出しやツール利用が前面に出た
- AtroposとHermes 4では、モデルを環境内で学習・評価する取り組みが進んだ
- Hermes Agentは、利用者向けのエージェントであると同時に、トラジェクトリ生成などの研究向け機能も備えている(ただし、公開直後のv0.2.0時点で実装されていたAtropos連携は2026年5月に削除された)
ただし、Nous Researchがこの4段階を一つの開発史として公式に説明しているわけではありません。前半は一次資料で確認できる事実、後半の「どうつながって見えるか」は筆者の整理として分けて書きます。
確認時点:2026年10月2日
この記事の年月は、モデルリポジトリの作成日、技術レポートの投稿日、GitHubリポジトリの作成日、公式発表日など、種類の異なる節目を含みます。
本記事の図解は公開情報をもとに筆者が独自に作成したものであり、Nous Research公式の資料ではありません。
まず「Hermesモデル」と「Hermes Agent」を分ける
名前が似ていますが、両者は同じものではありません。
- Hermesモデル:Nous Researchが公開してきたLLMシリーズ。世代ごとに異なるベースモデルをファインチューニングしている
- Hermes Agent:LLMを利用して、ツール実行、記憶、スキル、定期処理などを行うエージェントソフトウェア
Hermes Agentは、Hermesモデル専用のソフトウェアではありません。現行の公式READMEには、Nous Portal、OpenRouter、OpenAI、独自エンドポイントなど、任意のモデルを利用できると書かれています。
名前は共通していますが、Hermes AgentはHermesモデルに限定されていない。ここを分けておくと、後の流れを追いやすくなります。
ざっくり年表
| 年月 | 確認できた節目 | 資料上の意味 |
|---|---|---|
| 2023年6月 | Nous-Hermes-13bのモデルリポジトリ作成 | LLaMA 13Bを30万件超の指示データでファインチューニング |
| 2023年7月 | Nous-Hermes-Llama2-13bのモデルリポジトリ作成 | 同じデータセットを使ったLlama 2版 |
| 2024年3月 | Hermes 2 Proのモデルリポジトリ作成 | 関数呼び出し・JSONモード用データを追加 |
| 2024年7〜8月 | Hermes 3のモデルリポジトリ作成・技術レポート投稿 | 汎用の指示追従・ツール利用モデルと説明 |
| 2025年4月 | AtroposのGitHubリポジトリ作成 | 強化学習用の環境・ロールアウトを扱う基盤 |
| 2025年7月 | hermes-agentのGitHubリポジトリ作成 | 公開発表より前にリポジトリが存在したことを確認できる |
| 2025年8月 | Hermes 4技術レポート投稿 | 推論と指示追従を組み合わせたハイブリッド推論モデル |
| 2026年2月25日 | Hermes Agentを公式Xで発表 | 「一緒に成長する」オープンソースエージェントとして公開 |
| 2026年3月12日 | Hermes Agent v0.2.0 | v0.1.0以来、初のタグ付きリリース |
| 2026年5月15日 | hermes-agentからAtropos連携を削除 | RL環境・RL学習ツール・tinker-atroposを除去(PR #26106) |
| 2026年7月 | Atroposリポジトリをアーカイブ | READMEに「archived and no longer maintained」と掲示 |
Hermes 3の「2024年7〜8月」は、Hugging Faceのモデルリポジトリ作成日(2024年7月)と技術レポートのarXiv投稿日(2024年8月)を指します。一般公開日を示すものではありません。
この表は「Hermes Agentという一製品の履歴」ではありません。モデル、学習基盤、エージェントという3つの流れを同じ時間軸に置いたものです。
2023年:Hermesは指示追従モデルから始まった
Hugging Face上のNous-Hermes-13bリポジトリは、2023年6月3日に作成されています。モデルカードでは、LLaMA 13Bを30万件を超える指示データでファインチューニングし、データの多くをGPT-4で生成したと説明しています。
MetaがLlama 2を公開した後、Nous Researchは2023年7月にNous-Hermes-Llama2-13bを公開しました。こちらのモデルカードには、Nous-Hermes-13bと同じデータセットで学習したとあります。
この時期のモデルカードで前面に出ているのは、指示への応答、会話、長い回答といった汎用アシスタントとしての性質です。後の世代で目立つ関数呼び出しやツール利用は、まだ中心的な説明にはなっていませんでした。
2024年:関数呼び出しとツール利用が前面に出る
Hermes 2 Pro:関数呼び出しとJSONモード
Hermes 2 Pro(Mistral 7Bベース)のモデルリポジトリは、2024年3月11日に作成されています。
モデルカードによると、従来のデータセットを整理したうえで、Nous Researchが作成した関数呼び出しとJSONモード向けのデータセットを追加しています。関数呼び出し用のプロンプト形式や、ツール呼び出しを表す会話形式も説明されました。
また、Nous ResearchはHermesの関数呼び出し形式や利用例をまとめたHermes-Function-Callingリポジトリも公開しています。
Hermes 3:「tool use model」と明記
Hermes 3の技術レポートは、2024年8月15日にarXivへ投稿されました。Llama 3.1の8B・70B・405Bをベースとするモデル群です。
技術レポートの要約では、Hermes 3を次のように位置づけています。
a neutrally-aligned generalist instruct and tool use model
つまり、汎用の指示追従モデルであることに加えて、ツール利用モデルであることが明示されています。
2023年のモデルカードと比べると、2024年には「回答するモデル」だけでなく、構造化された形式で関数やツールを呼び出すモデルへ、対象が広がっていたことが分かります。
2025年:モデルを「環境の中で」鍛える
Atropos:強化学習用の環境を扱う基盤
NousResearch/atroposのGitHubリポジトリは、2025年4月29日に作成されています。
Atroposは、モデルのロールアウト、採点、学習側へのデータ供給など、強化学習(RL)の環境を扱うためのフレームワークです。ここでいう「環境」は、AIエージェント製品そのものではなく、モデルへ課題を与え、出力を評価して学習につなげる仕組みを指します。
なお、確認時点(2026年10月)のAtroposリポジトリはアーカイブ済みです。2026年7月4日のコミットでREADME冒頭に「This repository has been archived and is no longer maintained.」という告知が追加され、今後の更新やセキュリティ修正は行わないと明記されています。この記事では、Atroposを「現在も開発中の基盤」ではなく、Hermes 4の時期に使われた学習基盤として扱います。
Hermes 4:ハイブリッド推論と環境ベースの学習
Hermes 4の技術レポート初版は、2025年8月25日にarXivへ投稿されました。要約では、Hermes 4を構造化された複数ターンの推論と、幅広い指示追従能力を組み合わせたハイブリッド推論モデル群と説明しています。
公開されたモデル群では、14B版がQwen3 14B、70B・405B版がLlama 3.1をベースにしています。Hermes 4の技術レポートでは、DataForgeとAtroposを使ったデータ生成・選別のパイプラインや、Atroposの環境を使った検証・学習が説明されています。
ここまでで一次資料から確認できるのは、Nous Researchが次の両方を進めていたことです。
- 関数呼び出しやツール利用ができるモデルを作る
- モデルを課題環境の中で動かし、出力を評価して学習へつなげる
この「環境」という考え方は、次に登場するエージェントとも重なります。ただし、AtroposがそのままHermes Agentになったと公式が説明しているわけではありません。
2025〜2026年:Hermes Agentの開発と公開
リポジトリ作成は発表の約7か月前
GitHub APIで確認できるhermes-agentリポジトリの作成日時は、2025年7月22日22:22:28 UTCです。
一方、Nous Researchが公式XでHermes Agentを発表したのは、2026年2月25日でした。したがって、少なくとも公開発表の約7か月前にはリポジトリが作られていたことになります。
発表時には、利用を通じて学んだことを記憶し、時間とともに能力を高めるエージェントとして紹介されました。現在の公式READMEでも、メモリ、スキルの作成・改善、過去セッションの検索などを「closed learning loop」として説明しています。
利用者向けだけでなく「研究向け」でもある
Hermes Agentの成り立ちを考えるうえで重要なのが、公式資料に書かれた研究用途です。
- 公式READMEは、
Research-readyの項目でバッチ形式のトラジェクトリ生成と、次世代のツール呼び出しモデルを学習するためのトラジェクトリ圧縮を挙げています - 公式ドキュメントの「Batch Processing」ページは、数百〜数千のプロンプトに対してエージェントを並列実行し、学習データ生成用のトラジェクトリを出力する機能として説明しています
トラジェクトリとは、モデルへの入力、モデルの応答、ツール呼び出し、ツールの結果などを含む一連の実行履歴です。
Atropos連携は「あった」が、現在は削除されている
公開直後のv0.2.0時点では、Atroposとの連携も実装されていました。v0.2.0(2026年3月12日)のソースにはenvironments/ディレクトリがあり、そのREADMEは、Hermes Agentのツール呼び出しループをAtroposのRL学習フレームワークへつなぐ統合レイヤーだと説明しています。
しかし、2026年5月15日にマージされたPull Request(#26106)で、Atropos連携に関わる次のものがまとめて削除されました。
- Atropos用のRL環境(
environments/) - RL学習用CLI(
rl_cli.py)とRL training tools -
tinker-atroposサブモジュール - optional skillの
hermes-atropos-environments - RL Training/Environmentsに関するドキュメントページ
2026年9月24日のv0.21.5にも、確認時点のmainにも、これらは含まれていません。
確認時点でも、公式ドキュメントの一部にはAtroposを使ったRL学習に関する記述が残っています。
- トップページ:
Research-ready — Batch processing, trajectory export, RL training with Atropos. - Learning Pathの「I want to train models」:Atroposを使ったRL training pipelineの説明
まとめると、現行実装ではAtropos連携に関するコードや専用ドキュメント等は削除されています。一方、公式ドキュメントの一部にはAtroposを使ったRL学習の説明が残っており、ドキュメントと現在の実装にはずれがあります。Atropos連携を前提に試す場合は、この点に注意してください。
ここから分かるのは、Hermes Agentが利用者の作業を支援するソフトウェアであるだけでなく、エージェントの実行履歴をモデル研究へつなげるための機能も備えていること、そしてAtroposとの直接連携は一時期のもので、現在はトラジェクトリの生成・圧縮が中心になっていることです。
どこまでが事実で、どこからが筆者の整理か
ここまでの一次資料を並べると、次の事実を確認できます。
- Hermes 2 ProとHermes 3では、関数呼び出し・ツール利用が明確な特徴になった
- AtroposとHermes 4では、環境内でモデルを動かして学習につなげる仕組みが使われた
- Hermes Agentは、トラジェクトリ生成・圧縮・エクスポートに対応すると公式に説明されている。また、v0.2.0時点から2026年5月までは、Atropos連携も実装されていた
そのうえで、次のように見るのが筆者の整理です。
ツールを使うモデルを作るだけでなく、そのモデルが継続的にツールを使う実行環境と、実行履歴を次の学習へつなぐ仕組みまで、Nous Researchの対象が広がっていった。
これは資料間の関係を読み解いたものであり、Nous Researchが公式に示した一本道のロードマップではありません。
言い換えると、「Atroposを作ったからHermes Agentが生まれた」と因果関係を断定することはできません。一方で、ツール利用、環境、トラジェクトリ、RL学習という要素が、Hermesモデル群とHermes Agentの両方に現れていたことは、公式資料から確認できます。
公開後:コミュニティの貢献で拡大
2026年3月12日のHermes Agent v0.2.0リリースノートでは、v0.1.0を「initial pre-public foundation」としたうえで、v0.2.0をそれ以来の最初のタグ付きリリースと記しています。
リリースノートによると、2週間余りで小さな内部プロジェクトから多機能なAIエージェント基盤へ広がり、その期間に216件のPull Requestがマージされ、63人が貢献しました。
その後も更新は続き、確認時点(2026年10月2日)では、2026年9月24日にHermes Agent v0.21.5(タグはv2026.9.24)が公開されています。この間には、前述のとおりAtropos連携の削除(2026年5月)のように、機能を整理する変更も含まれています。
ここで押さえておきたいのは、Nous Researchが固定された完成品を一度だけ公開したのではなく、公開後にコミュニティの貢献を取り込みながら機能を広げ、ときには整理もしてきたという点です。
以前からあったものと、Hermes Agentで加わったもの
| 観点 | Hermesモデル・学習基盤で確認できるもの | Hermes Agentで確認できるもの |
|---|---|---|
| モデル | 指示追従、関数呼び出し、ツール利用 | Hermes以外を含む複数のモデルを選択可能 |
| 実行 | ツール呼び出しの形式と学習データ | ツールを継続的に使うエージェント実行環境 |
| 学習 | Atroposによる環境・ロールアウト・評価(Atroposは2026年7月にアーカイブ) | トラジェクトリの生成、エクスポート、圧縮(Atropos連携は2026年5月に削除) |
| 利用形態 | Hugging Faceなどでモデルを配布 | CLI、デスクトップ、メッセージングサービスから利用 |
一言でまとめるなら、Hermes Agentは、Hermesモデルを動かす専用アプリではありません。ツールを利用するモデルを研究してきたNous Researchが、モデルを継続的に動かし、その実行履歴を研究にもつなげられるエージェント基盤を公開したものと整理できます。
まとめ
- HermesモデルとHermes Agentは別物であり、Hermes AgentはHermesモデル専用ではない
- 初期のHermesは、汎用の指示追従モデルとして始まった
- Hermes 2 ProとHermes 3では、関数呼び出し・ツール利用が前面に出た
- AtroposとHermes 4では、モデルを環境内で動かし、評価と学習につなげる取り組みが確認できる
- Hermes Agentは、利用者向け機能に加えて、トラジェクトリの生成・圧縮といった研究向け機能も備えている
- 公開直後のv0.2.0時点ではAtropos連携も実装されていたが、2026年5月に削除され、Atropos自体も2026年7月にアーカイブされた
- ただし、AtroposからHermes Agentへ直線的に発展したと公式が説明しているわけではない
「Hermes Agentはどこから来たのか」という問いに対しては、ツールを使うモデルを作ってきた研究組織が、モデルを動かす実行環境と、利用結果を次の研究へつなぐ仕組みまで公開したものと答えるのが、一次資料に沿った整理になりそうです。
用語補足
本文で登場した用語を簡単に整理します。
| 用語 | ざっくり説明 | この記事での位置づけ |
|---|---|---|
| Hermesモデル | Nous Researchが公開してきたLLMシリーズ。指示追従に加え、世代が進むにつれて関数呼び出しやツール利用にも対応 | 実際に回答したり、ツールを呼び出したりする「モデル」 |
| Hermes Agent | LLMを使って、ツール実行、メモリ、スキル、定期処理などを行うエージェントソフトウェア | モデルを継続的に動かす「実行環境」。Hermesモデル以外も利用できる |
| Atropos | Nous Researchが公開していた強化学習(RL)向けフレームワーク。モデルに課題を与えて実行させ、結果の評価や学習用データ生成などを行う | モデルを環境の中で動かし、評価・学習につなげる研究基盤。2026年7月にアーカイブ |
| ロールアウト(rollout) | モデルに課題を与え、応答やツール利用などを含めて実際に最後まで実行させること | Atroposなどで、モデルの動作を評価・学習するために生成する |
| トラジェクトリ(trajectory) | モデルへの入力、応答、ツール呼び出し、ツールの結果などを含む一連の実行履歴 | Hermes Agentでは生成・エクスポート・圧縮し、モデル学習用データとして利用できる |
| 関数呼び出し(Function Calling) | モデルが決められた形式で外部の関数やツールを呼び出す仕組み | Hermes 2 Pro以降で前面に出てきた特徴 |
| 強化学習(RL) | モデルの行動・出力を評価し、その結果をもとに望ましい振る舞いを学習させる方法 | AtroposやHermes 4の学習・評価の文脈で登場 |
参考資料
Hermes Agent
- Hermes Agent公式サイト
- NousResearch/hermes-agent(GitHub)
- Hermes Agent公式ドキュメントのトップページ(GitHub上のソース)
- Learning Path(Hermes Agent公式ドキュメント)
- Hermes Agent v0.2.0(2026年3月12日)
- Hermes Agent v0.21.5(2026年9月24日)
- Batch Processing(Hermes Agent公式ドキュメント)
- chore: remove Atropos RL environments and tinker-atropos integration(PR #26106)
- Nous Research公式Xでの発表(2026年2月25日)










