はじめに
Microsoft Build 2026が、米国時間の 2026年6月2日から3日 に開催されます。会場はサンフランシスコの Fort Mason Center(Fort Mason Center for Arts & Culture)で、キーノートと一部セッションはオンラインでも無料配信されます。今年は会場をシアトルからサンフランシスコへ移し、現地参加を約2,500人規模に絞った、やや小さめの構成になると報じられています。
配信時刻やセッション情報は変更される可能性があります。リアルタイムで視聴する場合は、直前に公式イベントページと公式ライブブログを確認してください。
Build直前になると、「結局どこを見ればよいのか」が少し難しくなります。AI関連の発表は増えていますが、個別機能だけを追うと全体像を見失いやすいためです。
そこで本記事では、2026年5月31日時点で公開されている公式イベントページとセッションカタログ、直近のMicrosoft公式発表をもとに、当日のニュースを読み解くための予習メモを整理します。
この記事は未発表情報を断定するものではありません。
「発表されるはず」という予想ではなく、公式情報から見える注目領域をまとめています。記載しているセッション名やセッションIDは、2026年5月31日時点の情報です。最新情報は公式サイトを確認してください。
まず押さえたい全体像
今年の公式イベントページには、次の6カテゴリが掲載されています。
- Developer tools and frameworks
- Cloud platform and data
- Working with models
- Agents and apps
- Responsible AI
- Windows
この並びを見ると、今年のBuildは単に「新しいモデルが出るか」を見るイベントではなさそうです。
むしろ、モデルを選び、企業データで文脈を与え、エージェントとして動かし、開発・運用し、ガバナンスを効かせるところまでが一続きのテーマになっています。
以下では、この流れを6つの観点に分けて見ていきます。
1. エージェントは「作れる」から「本番運用できる」へ
最も大きな軸は、やはりAIエージェントです。
2026年3月のNVIDIA GTCに合わせた公式発表では、次世代の Foundry Agent Service と Foundry Control PlaneのObservability が一般提供(GA)になったと説明されています。
Buildのセッションにも、次のような実務寄りのテーマが並んでいます。
- From fragile demos to production agents with Foundry Toolkit
- Any agent, any cloud: Observability patterns that scale
- Build work-ready agents with Foundry + Work IQ, govern with Agent 365
注目したいのは、「エージェントを作る方法」だけではありません。
- どのツールを呼び出したか
- どのモデルを使ったか
- 品質、遅延、コストをどう測るか
- 失敗をどう追跡するか
- 権限やIDをどう扱うか
このあたりが、プロンプト設計と同じくらい重要になります。
Build当日は、デモの派手さよりも、評価・トレース・デプロイ・監視がどこまで一体化されるかを見たいところです。
2. IQレイヤー: RAGの次に「業務文脈」をどう扱うか
もう一つ重要なのが、Microsoftが打ち出している Work IQ、Foundry IQ、Fabric IQ です。
2026年1月のMicrosoft公式ブログでは、これらを、企業のデータ、ロジック、ワークフローにAIをグラウンディングするための知能レイヤーとして説明しています(この3層の枠組み自体は、2025年のIgniteで初めて公開されたものです)。
Buildにも、3つのIQをまとめて扱うセッションがあります。
- Build Intelligent Agents with Work IQ, Foundry IQ, and Fabric IQ
- From data to context: Agent-ready knowledge with Foundry IQ
特に興味深いのは、後者で Foundry IQのナレッジベースをMCPサーバーとして公開し、GitHub Copilot CLIにつなぐ流れが示されていることです。
これまでのRAGでは、検索対象、ベクトルDB、チャンク分割、検索精度などを個別に考える場面が多くありました。今後は、企業内の知識や業務シグナルを、エージェントが再利用できる文脈としてどう提供するかが焦点になりそうです。
3. GitHub Copilot: コード補完から「委譲できる開発環境」へ
GitHub Copilotも見逃せません。
GitHub Copilot CLIは2026年2月25日に一般提供となり、ターミナル上で計画、実装、レビュー、セッションをまたぐ記憶を扱える開発環境として説明されています。MCP、plugins、Agent Skills による拡張も重要なポイントです。
Buildのセッションでは、さらに具体的な使い方が見えます。
- Make GitHub Copilot Work Your Way: Custom Tools, Context and Workflows
- MCP does way more than you think
- Your agent, anywhere: MultiClient, MultiDevice with GitHub Copilot SDK
ここでの確認ポイントは、単に生成コードの精度ではありません。
- チーム固有の手順を
Agent Skillsとして再利用できるか - 外部サービスを
MCPでどの程度自然につなげられるか - エディタ、CLI、クラウドをまたいで同じ文脈を扱えるか
- 長いタスクをどの範囲まで委譲できるか
開発者向けAIは、「質問すると答えるもの」から「役割と道具を渡して仕事を任せるもの」へ移りつつあります。
4. MCPはツール接続から会話内UIへ
2025年から注目されてきた MCP も、引き続き重要です。
MCPは、AIエージェントと外部のツールやデータを接続するための共通インターフェースとして使われています。さらに MCP Apps では、ツール呼び出しからチャット内へダッシュボードやフォームのようなUIを返すことができます。
Microsoft 365 Copilot Chatでは、2026年3月9日の発表により、MCP Apps(およびOpenAI Apps SDK)による会話内UIがすでに利用可能です。サンドボックス化されたiFrame内に、テーブル、フォーム、ダッシュボード、地図などをレンダリングできるとされています。BuildのMCP does way more than you thinkでは、エディタ、CLI、クラウドを横断してMCPをどう活用するかにも注目したいところです。
これは地味に見えて、かなり実務的な変化です。
テキスト応答だけでは扱いにくかった確認画面、承認画面、入力フォーム、可視化を、エージェントとの会話の中へ持ち込める可能性があります。
今後の広がりを見るうえでは、次の点を確認したいところです。
- UIを返すための仕様
- 対応クライアント
- 認証・認可の扱い
- 人間による確認ポイントの設計
5. マルチモデルと推論コスト: モデル選択はアーキテクチャになる
モデル周辺では、「最新モデルが何か」だけでなく、どこで、どのモデルを、どのコストで動かすかが重要になります。
Microsoft 365 Copilot Wave 3を含むFrontier Suiteの公式発表では、「model diverse by design(設計としてのモデル多様性)」が掲げられ、OpenAIとAnthropicのモデルを含む構成が明示されています。Claudeがメインのチャットでも選べるようになった点が象徴的です。
また、Azure側ではMaia 200が発表済みです。Maia 200は推論向けに設計されたアクセラレータであり、Microsoft FoundryやMicrosoft 365 Copilotを支える基盤として位置づけられています。
Buildにも、OSS reasoning modelの学習・調整やAKS上での推論運用を扱うセッションがあります。
- Train and deploy custom OSS reasoning models with Foundry
- Digital Lab: Take LLMs from prototype to production on AKS
見るべき軸は、モデル名だけではありません。
- 推論品質
- レイテンシ
- トークン単価
- OSSモデルの調整
- クラウド、エッジ、オンプレミスの配置
- 評価結果に応じたモデルルーティング
エージェントが長時間動くほど、推論コストは設計上の論点になります。
6. WindowsとローカルAI: NPUをどう使うか
Windows関連では、ローカルAIにも注目です。
From prompt to app, build AI powered apps on Windows では、Windows ML、Windows AI APIs、Windows ML model kit を使い、ローカル計算資源を活用するデスクトップアプリの流れが紹介される予定です。
また、公式イベントページのスポンサー紹介には、Snapdragon上で最適化されたFoundryモデルとNPUアクセラレーションへの言及もあります。
クラウドAIが不要になるわけではありません。ただし、用途によっては次の利点があります。
- 低レイテンシ
- オフライン動作
- データを端末外へ出さない設計
- クラウド推論コストの抑制
Build当日は、どのモデルがどのハードウェアで動くのか、開発者がどこまで抽象化されたAPIで扱えるのかを確認したいところです。
横断テーマ: Agent 365とResponsible AI
最後に、すべての項目にまたがるテーマがガバナンスです。
Microsoft Agent 365は2026年5月1日に一般提供となりました。Microsoftは、組織内のエージェントを観測(observe)、管理(govern)、保護(secure)するコントロールプレーンとして位置づけています(標準価格はユーザーあたり月15ドル、3月9日のFrontier Suite発表時に告知されたものです)。
エージェントが外部ツールを呼び出し、企業データを参照し、複数ステップの処理を進めるなら、便利さと同時に次の観点が必要です。
- エージェントID
- 最小権限
- 操作ログ
- 品質評価
- コスト監視
- 人間による承認
- データ境界
Build当日は、新機能の数だけでなく、エージェントを従業員やアプリと同じように管理対象として扱えるかを見ると理解しやすそうです。
当日の確認用チェックリスト
ニュースを追うときは、次の順で見ると整理しやすいと思います。
- その発表は、モデル、データ、エージェント、開発ツール、運用、端末のどの層か
- Previewなのか、一般提供(GA)なのか
- 既存のFoundry、Fabric、Copilot、Windowsとどうつながるか
- MCPやAgent Skillsなど、再利用できる拡張ポイントがあるか
- 評価、トレース、認証、権限、コスト管理が含まれるか
- 日本リージョン、価格、利用条件に追加情報があるか
まとめ
Microsoft Build 2026を事前に見る限り、中心テーマは「AIを使う」から「AIシステムを本番運用する」への移行だと整理できます。
特に注目したいのは、次の6点です。
- Foundry Agent Serviceを中心とした本番向けエージェント開発
- Work IQ、Foundry IQ、Fabric IQによる業務文脈
- GitHub Copilot CLI、Agent Skills、MCPによる開発ワークフロー
- MCP Appsによる会話内UI
- マルチモデル、OSSモデル、推論基盤
- Windows MLとNPUを使ったローカルAI
個別の発表を追いながら、「モデルから運用まで、どの層が更新されたのか」を考えると、全体像をつかみやすくなりそうです。
参考情報
- Microsoft Build 2026 公式サイト
- Microsoft Build 2026 Live Blog
- How Microsoft is empowering Frontier Transformation with Intelligence + Trust
- Introducing the First Frontier Suite built on Intelligence + Trust
- Microsoft at NVIDIA GTC: New solutions for Microsoft Foundry, Azure AI infrastructure and Physical AI
- Maia 200: The AI accelerator built for inference
- GitHub Copilot CLI is now generally available
- MCP Apps now available in Copilot chat
- Microsoft Agent 365, now generally available, expands capabilities and integrations



