はじめに
「北海道のどこで土砂災害が起こりやすいのだろう?」
少し気になったので、北海道全域を対象に地形データを使った簡単な分析を行ってみました。
今回着目したのは"接峰面差"です。
あまり聞きなれない単語かもしれませんが、接峰面差とはある範囲の中で、周囲の山の尾根(峰)の高さを繋いで作った接峰面と、実際の地形との標高差のことです。
この値が大きいほど、地形の起伏が大きいことを示します。

接峰面差の大きいエリアは、土砂災害の発生規模と一定の関係があることが報告されています。(例えば、→など https://www.jsece.or.jp/event/conf/abstract/2022/pdf/256.pdf )
そこで、北海道全域で見たときに、接峰面差が大きいエリアはどこなのか、見ていきたいと思います。
なお、今回は降雨量や地質条件などは考慮せず、地形のみを用いた確認を行っています。接峰面差が大きいからといって必ずしも土砂災害が起こりやすいとは言えません。
ただ、広域的に潜在リスクを把握するための情報のうちの一つとして活用できるのではないかと思い、分析してみようと思います。
方法
使用したデータ
分析には国土地理院が公開している**10mメッシュDEM(数値標高モデル)**を使用しました。
■基盤地図情報ダウンロードサービス
https://service.gsi.go.jp/kiban/app/map/?search=dem
使用したソフト
■QGIS 3.4
分析の方法
・DEMのダウンロード、GISソフトでの表示
基盤地図情報ダウンロードサービスから、10mメッシュ(10B(地形図の等高線))のデータをダウンロードします。
https://service.gsi.go.jp/kiban/app/map/?search=dem
全域なのでそれなりに時間がかかります。
データはxmlファイルです。これをGISソフトで表示可能なGeotiffファイルに変換します。変換方法は以下のプラグインを使用させて頂きました。
https://qiita.com/nokonoko_1203/items/b99aa733cb215305f8aa
・接峰面の算出
まず、国土地理院の10m DEMを用いて接峰面を作成します。
接峰面とは、周囲の山地の高い部分(尾根や山頂)を包絡するように作られる仮想的な地形面のことです。山地全体に薄いシートを被せたときにできる上側の面をイメージすると分かりやすいかもしれません。
接峰面の作成では、「どの範囲の地形を見て最高標高を探すか」が重要になります。そこで利用するのがウインドウサイズです。
例えば、あるメッシュを中心として周囲100m四方を対象にした場合、その範囲内の最高標高値を抽出します。同じ処理を全てのメッシュに対して行い、得られた最高標高値を連続的な面として表現したものが接峰面です。
下図のように、赤色で示した計算対象メッシュを中心に、周囲の一定範囲を計算対象として最高標高値を求めます。ウインドウサイズが大きいほど広域的な地形の特徴を捉え、小さいほど局所的な起伏を反映した接峰面になります。

引用元:https://www.jsece.or.jp/event/conf/abstract/2022/pdf/256.pdf
↑引用元の論文では、ウインドウサイズの最適値が議論されていて、これは崩壊の規模の大きさで変わってくるようです。具体には
・深層崩壊(より規模の大きい崩壊)→ウインドウサイズ250m
・それ以外の規模の小さい崩壊 →ウインドウサイズ30mとされています。
今回の解析では、規模の大きい崩壊を想定して、ウインドウサイズを250設定し、接峰面を作成しました。
QGISでは、この処理を 「r.neighbor」 の最大値(maximum)を用いて計算してみました。
・入力ラスタレイヤ
DEM
・近隣状態に関する関数
maximum
・隣接関係のサイズ(奇数)→これがウインドウサイズになります。
11
入力値はセルサイズです。
DEMが25mメッシュのため、250mにしたい場合は25m × "10セル"=250mということで"10"を入力します。ただし、奇数しか無理という条件なので"11"で近似します。

・接峰面差の算出
接峰面を作成したら、次は接峰面差を計算します。
接峰面差とは、
接峰面の標高 − 実際の地形(DEM)の標高
で表される値です。
QGISの「ラスター演算機能」を使用して、
① 接峰面のラスター から ② DEMラスター を減算することで接峰面差を求めることができます。
↓ラスター演算機能の計算例

接峰面差が大きい場所ほど(よりピンク色が濃い範囲)、周囲の尾根に対して谷が深く刻まれており、地形の起伏が大きいことを示します。
一方、接峰面差が小さい場所(より白色に近い範囲)は、比較的平坦な地形や起伏の小さい地形と考えられます。
・メッシュに分けて評価
接峰面差のラスターが出来上がりましたが、表現を少しだけ変えます。
北海道全域を5kmのメッシュに区分して、ヒートマップのような感じで接峰面差を可視化してみたいと思います。
まず、「ベクタ作成」の「グリッドを作成」を使用して、5kmメッシュを作成します。

次に、メッシュごとに接峰面差ラスターの値を集計します。
[プロセッシングツールボックス]から[ラスタ解析]→[ゾーン統計量(ベクタ)]を実行します。
入力レイヤ:メッシュデータ
入力ラスタ:接峰面差レイヤ(集計する値を持つラスタ)
計算する統計量:最大値、平均など
ゾーン統計量出力:データの保存先とファイル名を指定

結果
5kmメッシュで評価した結果です。今回は1メッシュ内の接峰面差の平均値を表示しています。
よりピンク色が深くなっていくほど、接峰面差が大きく起伏が大きいエリアになります。
みなさまの想定通りの結果でしょうか?それとも意外なエリアもあるでしょうか?
こうして見ると、やはり日高山脈周辺では、ひときわ接峰面差が大きい範囲が目立ちます。流石は北海道を代表する山岳地帯です。

日高山脈周辺をぼーっと見ていたら、少し気になることがありました。
日高山脈の東西では、接峰面差の分布が東西対象かと思っていましたが、そうではなさそうです。
オープンストリートマップ(左)と接峰面差(右)を見比べてみましょう。

ざっくりと尾根線をかいてますが、尾根線より西側は色がついている範囲が東側に比べて広いですよね。一方で東側は割とすぐに白色になります。
これは恐らく地質的な違いがあるのかと思い、地質構造を調べてみました。
日高山脈ははるか昔に2つの巨大プレート(北米プレートとユーラシアプレート)が衝突してできた山脈とのこと。

引用元:https://www.apoi-geopark.jp/apoi/theme_a2.html
さらに日高山脈は、西側ほど地下深部の岩石が露出し、東へ向かうにつれて浅部の岩石へ移り変わることも知られています。
このような地質構造の違いが接峰面差の違いに影響しているのかもしれません。

引用元:https://www.apoi-geopark.jp/apoi/theme_a2.html
また、日高山脈の真裏の辺りはかの有名な中央海嶺で、北米プレートとユーラシアプレートの拡大境界となっています。この拡大境界は北極点付近で衝突境界に転じ、北海道付近はこの2つの巨大プレートが衝突する場所となっているようです。

引用元:https://www.env.go.jp/content/900493585.pdf
途中から当初の分析目的から大きく逸れていますが、、、
1枚のDEMデータからこのような地球のダイナミクスまで話が進むなんてGIS解析は面白ですね。
今回は、接峰面差に着目して北海道を可視化してみました。
最後までご覧いただきありがとうございました。
それではまた。


