この記事は 株式会社TRAILBLAZER Advent Calendar 2025 の3日目の記事です。
目次
- はじめに: 定性調査の「沼」にハマっていませんか?
- 1. 直面した課題: 「ペルソナが作れない!」ではなく「人数が少ない」
- 2. 実践: AIへの指示を「ざっくり要約」から「類型づくり」へ
- 3. 定量データとの「ハイブリッド技」
- 4. 類型から「刺さる」コンセプトへ
- 5. 結論:生成AIは「時短ツール」ではなく「バイアス外しツール」
- 💡 明日から使える Prompt Tips(実務で効いたやつ)
- おわりに
はじめに: 定性調査の「沼」にハマっていませんか?
こんにちは、TRAILBLAZERでリサーチャーをしている金です。1年ほどJR西日本の観光ナビアプリ「tabiwa」に関わっています。
商品開発やサービス改善の現場において、デプスインタビュー(定性調査)は宝の山です。
一方で、その分析はかなりの「沼」でもあります。
録画を見返し、数万文字のログを読み込み、
膨大な付箋のMiroボードとにらめっこしながら、
構造化してペルソナやコンセプトに落としていく……。
しかもプロジェクトでは、いろいろな事情が重なって、
- 「◯日後の会議で方向性だけでも出してほしいです」
- 「一旦のたたき台でいいので、今週中にほしいです」
のような要請が飛んできます。
「ちゃんとやりたいのに時間がない」という状況、まれによくありますよね。
今回、私が担当したのは、とあるエリアの参詣体験をテーマにした新商品企画のリサーチでした。
このプロジェクトでも、例にもれずスケジュールはタイトでした。その影響で、現実的に確保できたのは、1セグメントあたり1〜2名分のインタビュー時間だけでした。
つまり、「セグメントは複数あるのに、各セグメントの人数が少ない」という、分析的にはなかなかシビアな条件でした。
この前提のもとで、生成AI(Gemini)を「壁打ちパートナー」として徹底活用し、
通常なら数日〜1週間コースの分析とコンセプト整理を、数時間程度で企画書レベルまで持っていきました。
この記事では、実際に私がAIにどのような指示(プロンプト)を入力し、どのように軌道修正しながら「使える企画」まで到達したのか、
試行錯誤のプロセスそのものにフォーカスしてご紹介します。
1. 直面した課題: 「ペルソナが作れない!」ではなく「人数が少ない」
今回インタビューしたのは計6名でした。
事前の設計として、複数のセグメントを想定し、各セグメントから1〜2名ずつ話を聞く構成にしていました。
なので、「ふたをあけたらバラバラだった」というよりは、
「意図的にセグメントを散らしているが、
各セグメントの人数が1〜2名しかない」
という状況です。
普段であれば、
- 1セグメントあたり3〜5名インタビュー
- 共通点・差異を見ながらそのセグメントの代表像としてのペルソナを作る
という流れをとりますが、今回はそこまで人数を集めていません。
それなのに「インタビュー全体から代表的なペルソナを1人作る」のは、さすがに無理があります。
ここで、ありがちな失敗パターンを先に書いておきます。
- 6人分のインタビュー結果をざっくり混ぜる
- 共通していそうな属性・価値観だけ抜き出す
- 「平均的なペルソナ」を1枚作ってしまう
このパターンをやると、だいたい、
「歴史や文化に興味があり、たまに癒やしを求めて旅に出る40代女性」
のような、「ざっくりしすぎていて、企画へのインパクトがない」と感じる人物像が出てきます。
今回の条件(セグメント分散+各1〜2名)では、このやり方は最初から封印したほうが良いと判断しました。
2. 実践: AIへの指示を「ざっくり要約」から「類型づくり」へ
今回とったアプローチはシンプルで、次の2ステップです。
- インタビューの文字起こし全文(数万文字)をそのままAIに読み込ませる
- そのうえで、次のような指示を行う
「無理に1つのペルソナにまとめようとしないでください。
インタビューの発話内容にもとづいて、顧客をいくつかの『類型』に分類し、
それぞれの『譲れない価値観』を抽出してください。」
ここで重要にしたのは、
- 「平均的な1人」を作らせない
- 「違いを消す」のではなく、「違いをはっきりさせる」方向に振る
という2点です。
この指示に対して、AIが構成してきたのは次のような4つの類型でした。
- 巡礼求道者(参詣そのものが目的で、物語や由来も重視)
- 美術収集家(コンプリート欲求と審美眼が強い)
- 景観・歴史散策者(ライトな観光・街歩きがしたい)
- 癒やしの探求者(心のデトックスや内省の時間が欲しい)
こうして類型が出てくると、
- 「今回はどの類型にフォーカスして商品化するのか」
- 「どの類型は“今は追いきれない”として割り切るのか」
といった判断の軸が、かなりクリアになります。
このステップのポイントは、AIに発話を類型ごとに整理させて、構造を組み立てさせることでした。
3. 定量データとの「ハイブリッド技」
類型が見えてきたところで、次の論点が出てきます。
「この類型、本当にビジネスとして成立する市場規模があるのか?」
今回は、インタビューとは別に、数千サンプル規模のアンケート調査も実施していました。
そこで、定性(インタビュー)と定量(アンケート)をどう噛み合わせるかを、AIに手伝ってもらいました。
AIへの依頼は、次のような形です。
「インタビューで見えた『4つの類型』を、企画の【骨格(主役)】にしてください。
そのうえで、アンケートの分析結果を【裏付け資料】として使い、
類型ごとの市場ニーズやボリューム感を補強してください。」
要は、
- 深さ:インタビュー由来の類型・エピソード・価値観
- 広さ:アンケート由来の規模感・属性傾向
という役割分担を整理させた、ということです。
結果として、
- 「美術収集家タイプ」
→ アンケート上の「知的好奇心が強く、文化財・美術への支出意欲が高い層」で裏付け - 「癒やし探求者タイプ」
→ 「リトリート・ウェルネス志向の層」のデータで裏付け
というように、個人のストーリーと市場全体の数字が、同じ土俵で語れる状態になりました。
4. 類型から「刺さる」コンセプトへ
AIとの壁打ちを数ラウンド回した結果、類型ごとに具体的な商品コンセプト案が出そろってきました。
ここでは雰囲気が伝わる範囲で、いくつか紹介します。
案①:【美術収集家向け】
『とあるエリアの文化財と対話する、大人のための美術探訪』
-
刺さるポイント:
「ガラスケース越しではない距離感」で文化財と向き合えること。
懐中電灯や単眼鏡を持参し、細部まで観察する時間をきちんと確保します。 -
AIの整理:
この層の主なドライバーは「信仰」ではなく、文化財コンプリート欲や知的好奇心です。
そのため、情緒たっぷりのストーリーよりも、作品の背景や技法といったファクト情報をコンパクトに押さえる構成が望ましい、という示唆でした。
案②:【癒やし探求者向け】
『静かな里を巡る、心のデトックス旅』
-
刺さるポイント:
「心が白くなる時間」を明示的に組み込むこと。
寺社や宿の縁側で、あえて何もしない時間を過ごせるように、スケジュールと動線を設計します。 -
AIの整理:
この層は、詳細な歴史解説はほとんど求めていません。
欲しているのは、「情報遮断」と「自分の内側に戻るための余白」です。
つまり、構造化すべきは“コンテンツ”よりも“時間の使い方”だ、という見立てです。
同じエリア・同じスポットを使っていても、
「誰のどんな熱量に応えるか」を変えるだけで、企画の設計がまったく別物になる、ということがはっきり見えてきました。
5. 結論:生成AIは「時短ツール」ではなく「バイアス外しツール」
タイトルに「爆速」と入れていますが、使ってみて一番価値を感じたのは、単なる時間短縮ではありません。
- 「こうまとめるしかないよね」と人間が思い込みがちなところを、別の切り方で再構造化してくれる
- 「ノイズかも」と思っていた発話を、別の軸の価値として拾い上げてくれる
こうした働きによって、自分の中の前提やバイアスを揺さぶってくれることが、生成AIと協業するうえで一番おいしい部分だと感じました。
💡 明日から使える Prompt Tips(実務で効いたやつ)
1. 「生データ」を読ませる
要約済みのメモではなく、インタビューの文字起こし(全文)をそのまま読ませるほうが、
「あの人のあの一言」レベルまで遡った整理をしてくれます。
- 長文と推論に強いモデル(Geminiの思考モードや、ChatGPTの高性能モデルなど)を使う
- 1本ずつでも良いので、なるべく加工していないテキストを渡す
この2点だけでも、アウトプットの質はかなり変わると感じました。
2. 「役割」と「禁止事項」をセットで伝える
役割指定は、やや細かいくらいでちょうど良いです。
「あなたは、UXリサーチチームの辛口エディターです。
ありきたりなまとめや、“優等生な平均ペルソナ”は出さないでください。
代わりに、尖った類型や、『この人だけ明らかに違う』という人をきちんと見つけてください。」
のように、「やってほしいこと」と同時に「やってほしくないこと」も明示します。
3. 人間側の「生っぽいフィードバック」を細かく返す
ここが一番効いたポイントです。
単に「良い」「悪い」とコメントするのではなく、インタビューの具体的なシーンを引用しながらフィードバックを返しました。
例えば:
- 「Aさんは、家族との思い出を話しているときだけ声のトーンが一段上がっていたので、ここを類型の中で重めに扱ってほしいです。」
- 「Bさんは、『人混みは嫌い』と言っていた一方で、『限定の御朱印なら行列でも並ぶ』とも話していて矛盾しているように見えます。
このズレにインサイトがありそうなので、別軸として整理できないか見てほしいです。」
といった具合に、
「どの発話をどう解釈したいか」をコメントとして伝えると、AIの分析が一気にこちらの “肌感” に寄ってくる感覚がありました。
おわりに
今回は、
- 6時間分のインタビュー動画・文字起こし
- 数千サンプル規模のアンケートデータ
という素材を、生成AIと一緒に数時間レベルで企画書にまで持っていった話を紹介しました。
浮いた時間は、
- 「お客様が本当に喜ぶポイントはどこか?」を詰める議論
- 商品企画担当の方々と、実現可能性や表現のニュアンスをすり合わせるミーティング
といった、人間にしかできない仕事にしっかり使えました。
JR西日本「tabiwa」では、これからもテクノロジーの力と現場の対話を組み合わせながら、
西日本の新しい旅のかたちを模索していきます。
この記事のもとになった参詣体験の商品も、どこかのタイミングで世の中に出てくると思いますので、
「もしかしてあの記事のやつかも」と思ったら、そっとニヤッとしてもらえるとうれしいです。