0
1

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

POML Microsoftが提案する新しいプロンプト管理

Last updated at Posted at 2025-08-17

はじめに

プロンプトエンジニアリングが直面する「管理の壁」

ChatGPTをはじめとする大規模言語モデル(LLM)の能力を最大限に引き出す「プロンプトエンジニアリング」。しかし、プロジェクトが進行するにつれて、プロンプトはどんどん長く、複雑になっていきます。

  • 「あのタスクで使ったプロンプトは、どこに保存したか」
  • 「このプロンプトは、どの部分がどういう意図か」

このような「プロンプト管理の壁」に突き当たっている方も多いのではないでしょうか。プロンプトが単なるテキストとして扱われる限り、再利用性や可読性の効率には限界があります。

この記事が提供する解決策とゴール

本記事では、この課題を解決する新しいアプローチとして、Microsoftが開発したPOML (Prompt Orchestration Markup Language) を紹介します。POMLは、プロンプトを構造化し、再利用性を高めるために設計されたマークアップ言語です。

この記事を読み終える頃には、以下のことができるようになります。

  • POMLの基本的な概念とメリットを理解できます。
  • POMLを使って、構造的で読みやすいプロンプトを作成できます。
  • VSCode拡張機能を使い、効率的にプロンプトを管理・活用できます。

それでは、プロンプト開発の新しい世界を見ていきましょう。

POMLとは? - プロンプトのためのマークアップ言語

Microsoftが提唱する新しいプロンプトの形

POMLは、Microsoftによって開発が進められている、プロンプトを記述するための新しいマークアップ言語です。HTMLがWebページの構造を定義するように、POMLはプロンプトの構造を定義します。これにより、人間と機械双方にとって、プロンプトの意図が理解しやすくなります。

POMLの3つのコアコンセプト:構造化、保守性、汎用性

POMLは、以下の3つのコンセプトを重視しています。

  1. 構造化 (Structure): <role><examples>といったタグを用いて、プロンプトの役割や構成要素を意味的に区別します。これにより、複雑な指示も論理的に整理できます。
  2. 保守性 (Maintainability): プロンプトの変更が容易になります。例えば、複数のプロンプトで共通して利用する指示や設定を<include>タグで外部ファイルに切り出せます。後から指示を修正する必要が出た場合でも、参照元のファイルを1つ変更するだけで、それを参照しているすべてのプロンプトに修正が反映されるため、管理コストが大幅に削減されます。
  3. 汎用性 (Versatility): プロンプトを部品(コンポーネント)として定義し、他のプロンプトから参照・再利用できます。これにより、共通の指示や設定を何度も書く手間が省けます。

POMLの主要な構文と特徴

POMLでは、直感的なタグを使って様々なプロンプトテクニックを表現できます。

基本構造: <poml>, <role>, <task>

プロンプトは<poml>タグで囲み、<role>で役割を、<task>で具体的な指示を記述します。

<poml>
  <role>あなたは忍耐強い先生です。10歳の子供に概念を説明します。</role>
  <task>提供された画像を参考に、光合成の概念を説明してください。</task>
  
  <img src="photosynthesis_diagram.png" alt="光合成の図" />

  <output-format>
    説明はシンプルで、魅力的で、100語未満にしてください。
    「やあ、未来の科学者!」で始めてください。
  </output-format>
</poml>

Few-shotプロンプト: <examples><example>

LLMに応答の例を示すFew-shotプロンプティングも簡単です。<examples>タグで複数の<example>をまとめることができます。

<examples>
  <example>
    <input>What is the capital of France?</input>
    <output>Paris</output>
  </example>
  <example>
    <input>What is the capital of Germany?</input>
    <output>Berlin</output>
  </example>
</examples>

思考連鎖 (CoT): <stepwise-instructions>

複雑なタスクは、<stepwise-instructions>とリストを使って段階的な指示に分解できます。

<stepwise-instructions>
  <list listStyle="decimal">
    <item>まず、テキストの主題を特定します。</item>
    <item>次に、主要な議論を要約します。</item>
    <item>最後に、結論となる文を書きます。</item>
  </list>
</stepwise-instructions>

外部リソースの参照: <include>, <Document>, <webpage>

POMLの強力な機能の1つが、外部リソースの埋め込みです。<include>タグを使えば、他のPOMLファイルを埋め込んでプロンプトを部品化できます。

<poml>
  <include src="./common_instructions.poml" />
  <task>このテキストを要約してください。</task>
</poml>

さらに、<img>タグによる画像だけでなく、<Document>タグや<webpage>タグを使うことで、PDF、Word文書、テキストファイル、Webページなど、多様なデータソースを直接プロンプトに組み込めます。

<poml>
  <task>以下の資料をすべて参照して、レポートを作成してください。</task>
  
  <img src="chart.png" />
  <Document src="manual.pdf" selectedPages="2:4" />
  <Document src="data.docx" />
  <webpage url="https://example.com/research_paper" selector="main article" />
</poml>

ヒントとメタデータ: <hint>, <meta>

<hint>タグを使うと、LLMに対する直接的な指示ではない「ヒント」を与え、応答の質を向上させることができます。

<poml>
  <task>Pythonで高速な並べ替えアルゴリズムを実装してください。</task>
  <hint>クイックソートかマージソートの使用を検討してください。</hint>
</poml>

また、<meta>タグを使えば、使用するモデルやAPIキー、温度設定などのパラメータをPOMLファイル内で直接管理できます。これにより、プロンプトとその実行環境を一体として管理でき、VSCodeのsettings.jsonの設定を上書きすることもできます。

<poml>
  <meta>
    <model>gpt-4o</model>
    <temperature>0.7</temperature>
  </meta>
  <task>物語を創作してください。</task>
</poml>

【実践】VSCodeとPOMLで変わるプロンプト開発

POMLは、VSCodeの拡張機能と組み合わせることで、その真価を発揮します。

VSCode拡張機能のセットアップ

  1. VSCodeのマーケットプレイスで「POML」と検索します。
  2. Microsoftが提供している「POML」をインストールします。

これにより、.pomlファイルに対するシンタックスハイライト、リアルタイムプレビュー、プロンプトのテストなどが有効になります。

LLMプロバイダーの設定

VSCodeのsettings.jsonに設定を追加することで、POMLから直接LLMを呼び出してプロンプトをテストできます。

OpenAIの設定:

{
  "poml.languageModel.provider": "openai",
  "poml.languageModel.model": "gpt-4o",
  "poml.languageModel.apiKey": "sk-your-api-key-here",
  "poml.languageModel.apiUrl": "https://api.openai.com/v1"
}

Googleの設定:

// Google
{
  "poml.languageModel.provider": "google",
  "poml.languageModel.model": "gemini-1.5-pro",
  "poml.languageModel.apiKey": "your-google-api-key",
  "poml.languageModel.apiUrl": "https://generativelanguage.googleapis.com"
}

使用方法:プロンプトの作成、テスト、再利用

拡張機能をインストールすると、アクティビティバーにPOMLのアイコンが表示されます。これをクリックすると、プロンプトを管理するための専用パネルが開きます。

image.png

パネルにはデフォルトでいくつかのサンプルプロンプトが登録されています。例えばask.pomlを開いてみましょう。
エディタの右上にあるプレビューボタンを押すと、画面右側にプレビューが表示されます。
このプレビューには、POMLファイルから生成されたプロンプトがリアルタイムで表示されます。これにより、LLMに実際に送信される内容を確認しながら、構造化されたPOMLを編集できます。

image.png

プロンプトのテスト実行

エディタ上部の「Run」ボタンから直接テスト実行できます。
プロンプトに変数 ({{prompt}}のような形式) を含めている場合、テストを容易にするために<let>タグで変数の値をあらかじめ定義しておくと便利です。

image.png

「Run」を押すと入力フィールドが表示され、変数の値を入力してLLMに送信し、応答をすぐに確認できます。これにより、プロンプトのデバッグサイクルを高速に回せます。

プロンプトの再利用と管理

image.png

パネルの「➕」ボタンからは、すでにPOMLファイルとして作成したプロンプトを登録できます。

例えば、複数のプロジェクトで共通して使う「日本語の文章を校正するプロンプト」や「コードレビューを依頼するプロンプト」などをテンプレートとして登録しておけば、必要な時にすぐに呼び出して利用できます。

このように、POMLとVSCode拡張機能は、プロンプトを単なるテキストから「管理・再利用可能な資産」へと進化させてくれるのです。

POMLの将来性と展望

なぜ今、POMLに注目すべきか

POMLはまだ新しい技術ですが、以下の理由から大きな可能性を秘めています。

  • Microsoftによる強力なサポート: 世界的なソフトウェア企業が開発を主導しており、今後の発展とエコシステムの拡大が期待できます。
  • 標準化への期待: プロンプトの記述方法が標準化されることで、異なるツールやプラットフォーム間でのプロンプトの共有が容易になります。
  • エンタープライズでの活用: 構造化され管理しやすいプロンプトは、LLMのチーム開発や大規模プロジェクトでの品質維持、セキュリティポリシーの適用において不可欠な要素となります。
  • エコシステムの拡大: Python用のSDKも提供されており、すでにLangChainと連携するための機能が実装されています。これにより、VSCodeで作成・管理しているプロンプトを、Pythonアプリケーションから直接利用できます。将来的には、さらに多くのライブラリやフレームワークでPOMLがサポートされ、プロンプトのポータビリティが向上することが期待されます。

まとめ

本記事では、Microsoftが開発したプロンプト記述言語「POML」について、解説しました。

  • POMLは、プロンプトの構造化・保守性・汎用性を向上させるマークアップ言語です。
  • <role>, <examples>, <img>などのタグで、高度なプロンプトを明示的に記述できます。
  • VSCode拡張機能と連携することで、プロンプト管理が容易になります。

複雑化するプロンプトエンジニアリングの世界において、POMLは強力な味方となるでしょう。ぜひ1度、試してみてはいかがでしょうか。

参考資料

0
1
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
0
1

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?