はじめに
FLUXiM AGの有機EL・太陽電池の光学・電気シミュレータSetfosは多層薄膜構造の透過率などの光学特性の他、J-V特性などの電気特性をシミュレーションを行うことができます。
本記事では、文献( https://doi.org/10.29026/oea.2026.250218 )を参考に、色制御が可能な半透明ペロブスカイト太陽電池デバイスのシミュレーションを実施します。
屈折率n(黒線)と消衰係数k(赤線)について、ガラスはSetfos内蔵のデータファイル(SiO2.nk)の値、ガラス以外の薄膜は文献のFig. S1からフリーソフトGraphcel( https://www.vector.co.jp/soft/win95/business/se247204.html )より波長360 - 830 nmの範囲にて5 nm間隔で抽出した値を使用します(下図参照)。
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| 各層の屈折率n(黒線)と消衰係数k(赤線) |
多層薄膜構造の作成
まずは初めに、Setfosにて多層薄膜構造を作成します。構造は透過型ペロブスカイト太陽電池(Glass/ITO/SnOx/MAPbI3/Spiro-OMeTAD/MoOx/IGTO)と誘電体多層膜(ZnS/MgF2)で構成されています。
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| 多層薄膜構造 |
次に各層にnk値をインポートします。屈折率n、消衰係数kの特性をSetfosに入力します。
下図を参考に、拡張子「.nk」のファイルを作成します。
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| nkファイル |
SetfosのLayer structure→Refractive indexを開き、File(tabulated nk values)[.nk]を選択した後、Importをクリックします。
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| Refractive index |
作成した拡張子「.nk」のファイルを指定すると、Previewにnk値が表示され、正しく読み込まれていることを確認できます。
透過率のシミュレーション
ここでは誘電体多層膜(ZnS/MgF2)がある場合(Coated)とない場合(Uncoated)を比較します。Passive opticsを選択し、シミュレーションを実行します。シミュレーションの設定は下図の通り360 nmから830 nmの範囲で1 nmステップで計算します。Setfosではシミュレーションで設定した波長刻みがnkファイル内のデータ点と一致しない場合は、線形補間が適用されます。
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| Passive optics settings |
デバイスの透過率(transmittance)を比較しますと透過型ペロブスカイト太陽電池に誘電体多層膜を形成することで、500 nm~750 nm の波長領域において透過率が特に低下していることが確認できます。また、Display key figuresより透過光のCIE座標は、Uncoatedが(0.43, 0.43)、Coatedが(0.26, 0.25)であり、誘電体多層膜によって透過光がペロブスカイト太陽電池の黄褐色からシアン色に変化したことが確認できます。
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| デバイスの透過率 |
さらに、Sweep settingsにて入射角を0度から90度まで10度刻みで掃引したシミュレーション結果を示します。入射角が大きくなると、Coatedデバイスが褐色へと変化する様子が確認できました。誘電体多層膜(ZnS/MgF2)の透過率に着目すると、ペロブスカイト層(MAPbI3)の透過率が高い580-700 nmの波長範囲で、入射角0°では誘電体多層膜の透過率が10%以下となります。一方、入射角を大きくするにつれ、誘電体多層膜の透過光スペクトルが短波長へシフトするとともに、同波長範囲における透過率が大きくなることが確認できます。このことから、入射角が大きくなるにつれて、誘電体多層膜の透過率が高くなり、ペロブスカイトの層の色が見えるようになると考えることができます。
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| Coated(左)とUncoated(右)デバイスの透過色の角度依存性 |
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| 入射角0度(左)、30度(中央)、60度(右)のペロブスカイト層と誘電体多層膜の透過率 |
また、デバイスの透過率の角度依存性について等高線図で表したものを以下に示します。この結果から、誘電体多層膜を含むCoatedデバイスでは、500 nm付近のピークと830 nm付近のピークが入射角が大きくなるにつれ短波長側へシフトしていることが確認できます。これは入射光が斜めになることで、光の干渉の条件が変化したことを示唆しています。
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| Coated(左)とUncoated(右)デバイスの透過率の角度依存性 |
J-V特性のシミュレーション
AbsorptionとErectro-thermalを選択し、太陽電池のJ-V特性のシミュレーションを行います。ここではペロブスカイト層(MAPbI3)をSemiconductingとして扱い、ElectricalmaterialはSetfos内蔵のサンプルファイル(Perovskite-IV.parx)のペロブスカイト層からインポートしました。またSnOx層、Spiro-OMeTAD層はElectrodeとし、Injection modelをOhmic、Workfunctionを4.2 eV、5.2 eVに設定しました。
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| エネルギーダイアグラムの設定 |
Sweep settingsにて0 Vから0.8 Vへ0.02 Vで掃引したJ-V特性が以下となります。この結果から、短絡電流密度が11.10 mA/cm2から13.34 mA/cm2と増加し、変換効率も5.89%から7.12%と増加していることが確認できました。吸収プロファイルを確認すると、ペロブスカイト層、特に誘電体多層膜(反射層)に近い側にて吸収が増加していることが確認できます。この結果はデバイスを透過した光が誘電体多層膜(ZnS/MgF2)によって反射され、その反射光がペロブスカイト層内で再吸収されたことを示唆しています。
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| デバイスのJ-V特性(左)と吸収プロファイル(右) |
※本記事は筆者個人の見解であり、所属組織の公式見解を示すものではありません。また、コメントへの個別の返信はいたしかねます。
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