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[Setfos]太陽電池のS字カーブ解析

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Last updated at Posted at 2026-05-14

:pencil2:はじめに

太陽電池におけるS字カーブ(S-shaped curve)とは、太陽電池の電流密度–電圧特性(J–V特性)において、本来ダイオード特性になるはずのカーブが、途中で折れ曲がって“S”のような形状を示す異常な挙動を指します。この現象はフィルファクタ(FF)の大幅な低下を引き起こし、その結果として変換効率(PCE)の低下を招きます。
本記事ではFLUXiM AGの有機EL・太陽電池の光学・電気シミュレータSetfosを用いて、S字カーブが起こる過程を考察します。

S字カーブ

:tools:デバイス作成

本記事はGlass/ITO/ZnO/Active_Layer/MoO3/Ag逆構造有機薄膜太陽電池を解析対象とします。デバイス構造、並びに各層の光学的特性(一部はSetfos内蔵のデータファイルを使用)、電気的特性を以下に示します。

デバイス構造
層名称 厚さ 光学的特性(n, k) 電気的特性
Air 0 nm n = 1, k = 0
Glass 1 mm n = 1.5, k = 0
ITO 100 nm ITO.nk Injection model:Ohmic
Workfunction = 4.7 eV
ZnO 40 nm ZnO.nk 誘電率 εr = 8.5
HOMO = 7.5 eV
LUMO = 4.3 eV
状態密度 N0 = 1×10²¹ cm⁻³
電子移動度 μₙ = 1 cm²/Vs
正孔移動度 μₚ = 1×10⁻⁶ cm²/Vs
Optical generation efficiency = 1
Discretization = 80 elements
Active_Layer 100 nm P3HT-PCBM.nk 誘電率 εr = 3.5
HOMO = 5.4 eV
LUMO = 3.7 eV
状態密度 N0 = 1×10²¹ cm⁻³
電子移動度 μₙ = 1×10⁻³ cm²/Vs
正孔移動度 μₚ = 1×10⁻⁴ cm²/Vs
Langevin recombination efficiency = 0.2
Electron SRH lifetime = 600 ns
Hole SRH lifetime = 600 ns
Trap energy offset = 0.2 eV
Optical generation efficiency = 1
Discretization = 200 elements
MoO3 10 nm MoO3.nk 誘電率 εr = 8.01
HOMO = 5.3 eV
LUMO = 2.3 eV
状態密度 N0 = 1×10²¹ cm⁻³
電子移動度 μₙ = 1×10⁻⁶ cm²/Vs
正孔移動度 μₚ = 1 cm²/Vs
Optical generation efficiency = 1
Ag 100 nm Ag.nk Injection model:Ohmic
Hole density = 1×10²⁰ cm⁻³
Air 0 nm n = 1, k = 0

※トップレイヤーから順に負極/電子輸送層(ETL)/光電変換層(Active_Layer)/正孔輸送層(HTL)/正極で構成されている逆構造太陽電池をシミュレーションする場合、Drift-diffusion settings → General → Default parameters内のAt bottom electrodeにチェックを入れることで、負極側がGNDとなり、正極側に電圧が印加される設定になります。

At bottom electrode

:computer:シミュレーション実行

デバイス構造、並びに各層の光学的特性、電気的特性を入力したら下表に従ってSweep settingsの設定を行います。

Paramater Mode From To Step Unit
Voltage Linear 0 1.1 0.02 V
Active_Layer.LUMO Linear 3 4.4 0.1 eV
Active_Layer.HOMO Linear 4.7 6.1 0.1 eV
MoO3.HOMO Linear 4.6 6 0.1 eV

このとき、Active_Layer.HOMOMoO3.HOMOのチェックボックスParallelにチェックを入れます。これにより、Active_Layer.LUMOのエネルギー準位のスイープに追随して、Active_Layer.HOMOとMoO3.HOMOのエネルギー準位も変化します

Sweep settings

この条件にてシミュレーションを実行しますと、ZnOとActive_Layer間のバンドオフセットが変化したときのJ-V特性を出力することができます。下図のように、Active_LayerのLUMOが浅い場合においてS字カーブの発生が確認できます。

ZnOとActive_Layer間のバンドオフセット(左)とJ-V特性(右)

:one:0 Vバイアス時のバンド図

シミュレーション実行後、Elecrtical profilesより、Band diagramを確認すると各層のエネルギー準位を把握することができます。ここではEv(HOMO)、Ec(LUMO)の他、準フェルミ準位(Quasi-Fermi level)を確認することができます。準フェルミ準位は電子と正孔が非平衡状態のときのフェルミ準位のことをいい、下図のようにデバイスに光照射すると、電子のフェルミ準位EFn正孔のフェルミ準位EFpがそれぞれ別の値をとることが確認できます。

光照射前(左)と光照射後(右)のBand diagram

ここでは、0 Vバイアス時のEFnに注目します。Active_LayerのLUMOが浅くなる、すなわちバンドオフセットが大きくなるほど、ZnOとActive_Layerの界面におけるEFnの段差(ΔEFn)がも大きくなることが確認できます。

EFnのエネルギー準位

また、Nc(= 1×10²¹ cm⁻³)を伝導帯の有効状態密度、kをボルツマン定数、Tを絶対温度とすると、電子密度nは下式で求められます。
$$
n = N_{C} \exp \left( - \frac{E_{C} - E_{Fn}}{kT} \right)
$$さらにこの式をEFnについて解くと
$$E_{Fn} = E_{C} + kT \ln \left( \frac{n}{N_{C}} \right)
$$となり、ZnOとActive_LayerのEFnの差のΔEFnは以下のように表せます。
$$\Delta E_{Fn} = E_{Fn, Active} - E_{Fn, ZnO}$$$$= \left( E_{C, Active} + kT \ln \frac{n_{Active}}{N_{C}} \right) - \left( E_{C, ZnO} + kT \ln \frac{n_{ZnO}}{N_{C}} \right)$$$$ = (E_{C, Active} - E_{C, ZnO}) + kT \ln \left( \frac{n_{Active}}{N_{C}} \cdot \frac{N_{C}}{n_{ZnO}} \right)$$$$= \Delta E_{C} + kT \ln \left( \frac{n_{Active}}{n_{ZnO}} \right)
$$

ZnOとActive_Layerのフェルミ準位準位

SetfosではCharge densitiesより電子密度を確認することができ、電子密度の値と上式から計算されたΔEFn(計算値)とBand diagramから確認できるΔEFn(シミュレーション)結果が一致していることが確認できます。この結果は、ZnOとActive LayerにおけるLUMO位置と界面近傍での電子密度分布に基づいて、ΔEFnを一貫して再現できることを示唆しています。

Active_LayerのLUMOに対するEFnの段差(ΔEFn)

※Setfosでは、界面における準フェルミ準位(EFn)の連続性が仮定されます。ZnOとActivelayerの界面において、EFnは変化しない一方、Ec(LUMO)は不連続に変化します。したがって、電子密度の式を満たすように、界面直近のActive layer側において電子密度nの急低下が見られます。本記事では、ΔEFnの評価にあたり、Active layer側については界面直近の内部点におけるLUMOおよび電子密度を用いて算出しています。

計算対象となる電子密度

:two:電圧印加時のバンド図

続いて、電圧を印加したときのBand diagramを確認します。ここではバンドオフセットが大きい条件(Active_Layer.LUMO = 3.6 eV)と小さい条件(Active_Layer.LUMO = 4.3 eV)で比較します。ここでは、電圧を0 Vから1 Vまで0.2 V刻みでスイープします。

Active_Layer.LUMO = 3.6 eV、0 V(左)と0.8 V(右)印加時のBand diagram
Active_Layer.LUMO = 4.3 eV、0 V(左)と0.8 V(右)印加時のBand diagram

印加電圧に対するΔEFnを比較します。バンドオフセットが大きい場合(3.6 eV)、印加電圧に対して0.7 eVから0.2 eVとΔEFnが減少しました。一方、バンドオフセットが小さい場合(4.3 eV)、0.1 eVから減少し最終的に0.0 eVとなりました。

印加電圧に対するΔEFn

また、印加電圧に対するフェルミ準位分裂として(Active_Layer中のEFn-EFpの和)/(サンプル点数)を計算します。バンドオフセットが大きい場合(3.6 eV)、0.8 V以降、フェルミ準位分裂が頭打ちになりました。一方、バンドオフセットが小さい場合(4.3 eV)、電圧に追従してフェルミ準位分裂が大きくなりました。
以上の結果から、バンドオフセットが大きい条件では、印加電圧の多くがZnO/Active Layer界面における電子準フェルミ準位の段差(ΔEFn)の低減に優先的に消費されてしまいます。この場合、印加電圧によるActive Layer内部の電界を打ち消す効果が弱く、電圧の印加に対してキャリアの蓄積が進みにくいため、準フェルミ準位分裂大きくならないと考えられます。
一方、バンドオフセットが小さい条件では、印加電圧がActive Layer内部の電界を効果的に打ち消すため、キャリアの蓄積が進むことで準フェルミ準位分裂が大きくなると考えることができます。

印加電圧に対するフェルミ準位分裂

:three:再結合電流への影響

最後に、再結合電流について確認します。再結合電流とは電子と正孔が再結合することによって生じる電流であり太陽電池の等価回路におけるダイオード成分に相当します。再結合電流は以下の式から求めることができ、電圧を印加しても、Active_Layer中のフェルミ準位分裂(EFn − EFp)が増加しない場合、再結合電流が増えないと考えることができます。

$$J_{rec} \propto (n \cdot p - n_{i}^{2})$$

$$n \cdot p = N_{C} \exp \left( - \frac{E_{C} - E_{Fn}}{kT} \right) N_{V} \exp \left( - \frac{E_{Fp} - E_{V}}{kT} \right) $$$$= n_{i}^{2} \exp \left( \frac{E_{Fn} - E_{Fp}}{kT} \right) = n_{i}^{2} \exp \left( \frac{qV}{kT} \right)$$

ここで、Jrec:再結合電流、ni:真性キャリア密度、n、p:電子、正孔密度、Nc、Nv:伝導帯、価電子帯の有効状態密度、EFn、EFp:準フェルミ準位、Ec、Ev:伝導帯、価電子帯、k:ボルツマン定数、T:絶対温度、q:素電荷、V = (EFn - EFp) / q:準フェルミ準位分裂に応じた電圧となります。

Elecrtical integratedDevice cuttentから再結合電流(Jrec)を確認した結果が以下の図であり、フェルミ準位分裂が頭打ちになった条件(3.6 eV)では電圧を印加しても再結合電流が指数関数状に増加せず、それに従い、J-V特性もS字カーブとなることが確認できます。

Active_Layer.LUMO = 3.6 eV(左)と4.3 eV(右)の再結合電流Jrecと電流密度J

これは、再結合電流の式において、電圧依存性をもつ項であるnp積の挙動がシミュレーション結果と理論式の間で整合していることを示唆しています。

印加電圧に対するフェルミ準位分裂

:sunny:まとめ

本記事の解析から、以下の過程によってS字カーブが発生したと考察することができます。

1.バンドオフセットが大きいと、ZnO/Active_Layerの界面でのEFn段差(ΔEFn)が大きくなる。

2.電圧を印加すると界面でのEFn段差の低減に消費されるため、フェルミ準位分裂(EFn − EFp)が大きくならない。

3.フェルミ準位分裂が増加しないと再結合電流は上がらないため、J-V特性にS字カーブが生じる。

※本記事は筆者個人の見解であり、所属組織の公式見解を示すものではありません。また、コメントへの個別の返信はいたしかねます。

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