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[Setfos, Laoss]フレキシブル太陽電池の曲げシミュレーション

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Last updated at Posted at 2026-06-24

:pencil2:はじめに

FLUXiM AGの有機EL・太陽電池の光学・電気シミュレータSetfosは多層薄膜構造の透過率などの光学特性の他、J-V特性などの電気特性のシミュレーションを行うことができます。
また、同社の大面積半導体デバイスシミュレータLaossはデバイスサイズの大型化に伴って発生する電圧降下を考慮した電気シミュレーションを行うことができます。
本記事では、下図のように厚みhのフレキシブル太陽電池を曲率半径rの円弧状に曲げた場合にて、太陽電池の曲げ角θに対するI-V特性の変化をシミュレーションします。

フレキシブル太陽電池を曲げたときの影響

:mag:解析対象

本記事では金属基板の上に形成された幅:39.6 mm、高さ:30.6 mm、厚み12 μmのn-i-p型GaAs太陽電池を解析対象とします。
太陽電池の電流密度-電圧特性(J-V特性)はSetfosを用いて算出します。GaAsの電気特性パラメータ( https://doi.org/10.1016/j.solmat.2025.114057 )とn, k値( https://refractiveindex.info/?shelf=main&book=GaAs&page=Papatryfonos#google_vignette )は文献値を使用します。下部電極(Erectrode-Bottom)の仕事関数は5.1 eV、n, k値はSetfos内蔵のデータファイル(Au.nk)を使用します。一方、上部電極(Erectrode-Top)は金属のフィンガー電極が使われますが、フィンガー電極はセルサイズに対して十分に細く、その被覆率は小さいと考えられるため、仕事関数は4.2 eV、屈折率は空気(n=1, k=0)として扱います。

GaAs太陽電池の構造

また、太陽電池を曲げたときの電流-電圧特性(I-V特性)はLaossを用いて算出します。太陽電池を18領域に分割し、それぞれの領域の入射角に対するJ-V特性を入力することで太陽電池上の位置によって光の入射角αが変わる影響を考慮することができます。

18領域に分割した太陽電池

本解析対象のGaAs太陽電池はフィンガー電極構造を有しており、実際には生成されたキャリアは素子に対して面内方向に流れて電極へ収集される必要があります。しかし、Laossでは電流の面内方向の流れは電極でのみ扱うことができます。そこで、本解析では上部電極に到達した電流は電圧降下なく理想的に収集されると仮定し、上部電極を非常に低いシート抵抗(1×10⁻⁶ Ω/□)として扱うモデルとします。

:muscle:曲げひずみによるエネルギー準位の変化

GaAs太陽電池に引張ひずみが生じると、以下のようにエネルギー準位の変化が生じます。
・伝導帯が深くなる
・価電子帯が浅くなる
・重い正孔(HH)と軽い正孔(LH)が分裂する

ここでは、文献( https://doi.org/10.1016/j.solmat.2024.113198 )を参考に曲げ角θに対するエネルギー準位の変化を計算します。セルの曲げ方向の長さLを0.0396 m、セル全体の厚みhを1.20E-05 mとし、GaAsの材料パラメータは文献値( https://doi.org/10.3390/nano12244449 )を参照して計算します。

エネルギー準位の変化

まず、円弧の式より、曲率半径rを求めます。
$$
r = \frac{L}{\frac{\pi\theta}{180}}
$$
次に、元のセルの長さに対する変形量を示す曲げひずみεBを求めます。
$$
\varepsilon_{B} = \frac{(r+\frac{h}{2})\frac{\pi\theta}{180} - r\frac{\pi\theta}{180}}{r\frac{\pi\theta}{180}} = \frac{h}{2r}
$$
求められた曲げひずみと材料パラメータを用いることで伝導帯のシフトΔEc、価電子帯のシフトΔEv、HH-LH分裂Qを算出できます。

$$
\Delta E_c = 2a_c \varepsilon_B \left(1-\frac{c_{12}}{c_{11}}\right)
$$$$
\Delta E_v = -2a_v \varepsilon_B \left(1-\frac{c_{12}}{c_{11}}\right)
$$$$
Q = -b\varepsilon_B \left(1+\frac{c_{12}}{c_{11}}\right)
$$

ここで、材料パラメータを以下に示します。

  • $a_\mathrm{c}$:伝導帯変形ポテンシャル
  • $a_\mathrm{v}$:価電子帯変形ポテンシャル
  • $b$:せん断変形ポテンシャル
  • $c_\mathrm{11}$:引張方向の剛性を表す弾性定数
  • $c_\mathrm{12}$:引張方向と直交する方向のひずみを結び付ける弾性定数

これらの計算結果とひずみがないときの電子親和力(LUMO)χ、バンドギャップEg0、を用いることで、曲げひずみが生じたときの伝導帯Ecと価電子帯Evが算出できます。

$$
E_c = \chi - \Delta E_c
$$$$
E_v = \chi + E_{g0} - (\Delta E_v + Q)
$$

:sunny:照射位置による入射角の変化

曲げた太陽電池に平行光を照射した場合、太陽電池上の位置によって光の入射角が異なります。ここでは、太陽電池をN個の領域に等間隔に分割したときの各領域の入射角αiを計算します。

太陽電池の中心を0°とし、曲げ角θに対し、左右対称に-θ/2から+θ/2までN等分します。このときの1領域のあたりの角度幅をθ/Nとし、各領域の中心となる角αiを求めます。

曲げ角の分割(左)と 各領域の中心となる角αi(右)

$$
\alpha_i = -\frac{\theta}{2} + \left(i-\frac{1}{2}\right)\frac{\theta}{N}
$$

このαiは各領域の中心における法線と入射光のなす角であり、各領域の入射角として用いることができます。

入射角αi

:computer:各領域のJ-V特性(Setfos)

Setfosを用いて各領域のJ-V特性を算出します。Laossでは曲げ角θを直接掃引する機能がないため、SetfosのSweep機能において別のパラメータを代替的に用いる必要があります。ここでは、Sweep可能なパラメータの一つであるWavelengthをダミー変数として利用します。
本解析では300~1800 nmの波長領域の寄与を計算していますが、ここでは計算に影響しないDefault Wavelength(物理量を評価する際の基準波長)をダミー変数として割り当てることで曲げ角の条件を指定する変数として扱うことができます。
具体的には、曲げ角θ(0°~180°、20°刻み)に対し、θ = 0° → 400 nm、θ = 20° → 420 nm … θ = 180° → 490 nmと400から490まで10刻みで掃引することに対応させます。
また、曲げ角θの変化に伴う物理的影響は、入射角αおよびエネルギー準位(伝導帯Ec、価電子帯Ev​)の変化としてモデル化します。そのため、前項および前々項で算出した各曲げ角θに対応する入射角α、Ec​、Ev​を入力し、これらのパラメータをWavelengthに対してParallelに設定とすることで、曲げ角に対応した条件を同時に変化させることができます。
このモデルに対し電圧を掃引することで、曲げ角θに対する各領域のJ-V特性を算出できます。

Sweep settings

:desktop:I-V特性の算出(Laoss)

Laossを用いて太陽電池を曲げたときのVocとIscを算出します。まず、各領域にSetfosで計算したJ-V特性を入力します。下図のように太陽電池の中心ほど、曲げ角に対する入射角の変化が小さくなり、電流の変化も小さくなります。

曲げ角に対する各領域のJ-V特性の変化

また、Laossでは大面積化による電圧降下を考慮するため、電極のシート抵抗を入力することができます。本事例ではシート抵抗の影響を無視するため、全領域において電極のシート抵抗値を 1×10⁻⁶ Ω/□ に設定し、電圧降下が生じない理想電極として扱います。さらに、各領域にかかる電圧が均一となるよう、太陽電池の4辺に電圧が印加されるよう境界条件を設定しました。

境界条件

最後にSweepの設定を行います。太陽電池の4辺に対して-0.5~0.6 Vで0.01 V間隔で掃引することで、I-V特性を算出します。また、Wavelengthを400から490まで10刻みで掃引させることで、Setfosで入力したダミー変数を反映させ、曲げ角θに対するI-V特性を計算することができます。

曲げ角θに対するI-V特性

:slight_smile:曲げ角θに対する開放電圧Vocと短絡電流Iscの変化

曲げ角θに対する正規化した開放電圧Vocと短絡電流Iscの変化を以下に示します。シミュレーションの結果から曲げ角θの増加に伴い、Vocに比べてIscの変化が大きくなることが確認できました。これは、曲げ角θの増加に伴い、各領域での入射角が大きくなることで、入射光の法線方向成分(∝ cosθ)が減少し、結果として有効な受光面積が低下するため、Isc が減少する一方、Vocは太陽電池の理論式Voc = kT / q * ln(Isc / I0 + 1)よりIscの変化に対して対数的に変化するのでIscよりも変化が小さくなることを示唆します。

曲げ角θに対する正規化した開放電圧Vocと短絡電流Iscの変化

:ledger:まとめ

本記事の解析より以下の方法より曲面形状(曲率・曲げ角)を変えたときのVoc、Iscを予測できます。

1.太陽電池を複数の領域に等間隔で分割する。

2.Setfosを用いて、曲げひずみによるエネルギー準位の変化および照射位置による入射角の変化を入力し、各領域のJ-V特性を算出する。

3.Laossにおいて、各領域にSetfosで計算したJ-V特性を入力し、シミュレーションを実行する。

※本記事は筆者個人の見解であり、所属組織の公式見解を示すものではありません。また、コメントへの個別の返信はいたしかねます。

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