AI駆動開発において、Claude Codeの存在感は非常に高まっている。しかし、実際のソフトウェア開発は、コードを書く行為だけで完結するものではない。開発には常に、より大きなワークフローが存在する。
要件を整理し、タスクとして分解し、進捗を管理し、関係者と合意を取りながら実装を進め、テストとレビューを経て、CI/CD によってデプロイされる。そこには、タスク管理ツール、プロジェクト管理ツール、コミュニケーションツール、アジャイル開発向けの看板ツール、テストフレームワーク、Git を中心とした開発フロー、さらには CI サービスなど、数多くのツールが関与している。
現状の Claude Code は、主に「コードを書く」という局面に強く最適化されている。一方で、これら周辺ツールやプロセスと分断されたままでは、開発全体の流れの中で人間が担う調整コストは依然として大きい。
もし、タスクの背景や進捗状況、議論の履歴、開発ルールといった文脈を Claude Code が理解し、それらと連携しながら作業できるようになったとしたら、開発体験は質的に変化するはずである。
本記事では、そうした Claude Code を中心とした AI 駆動開発を、周辺ワークフローまで含めて拡張する という視点から、その一つの実践的アプローチとして BMAD-METHOD を紹介する。単なるコーディング支援に留まらず、タスク設計、仕様整理、コンテキスト管理といった領域まで含めて自動化・構造化することで、AI を開発プロセス全体に組み込むための考え方と方法を見ていく。
BMAD-METHODとは
AI を活用したアジャイル開発ワークフローを構造化するフレームワークである。GitHub 上で公開されており、専門化された複数の AI エージェントと豊富なワークフローを組み合わせることで、企画・設計・実装・テストまでのソフトウェア開発ライフサイクルをガイドする仕組みを提供している。
2025年5月にリリースされてから、バージョン6までアップデートされ、インストールが簡単になり、ワークフローも洗練され、カスタマイズ性も高くなった。
BMAD-METHOD の目的と価値
1. AI エージェントによる構造化された開発プロセスの実現
BMAD-METHOD は単なるコード生成ツールではなく、プロジェクト全体のライフサイクルを 構造化されたワークフロー として定義します。複数の AI エージェント(Product Manager、Architect、Developer、QA など)が役割分担し、要件定義、設計、実装、テストまで一貫して進める仕組みです。
この構造化された進行モデルにより、従来の「AI に投げっぱなしのコード生成」と比較して以下のような価値が生まれます:
仕様とコンテキストの一貫性保持
すべての指示・成果物がワークフロー内で共有され、コンテキストの断絶を避ける仕組みが設計されています。
ドキュメントと実装の整合性
要件(PRD 等), アーキテクチャ設計, コードが一貫したストーリーで生成されるため、プロジェクト内での齟齬が発生しにくくなります。
2. アジャイル開発プロセスの強化と型化
BMAD-METHOD はアジャイル開発手法をベースにしつつ、AI を活用した ワークフロー駆動開発 を標準化します。典型的な価値は次の通りです:
フェーズごとの明確なガイドライン
分析 → 計画 → ソリューション設計 → 実装 といった段階ごとの成果物テンプレートとエージェント役割が定義されており、手戻りを減らす設計になっています。
スケール対応
小さなバグ修正から大規模なエンタープライズ開発まで、プロジェクト規模に応じたワークフローを提供し、過不足ない開発管理を可能にしています。
3. 専門性に基づく AI エージェントチームの提供
従来の大規模言語モデルはプロンプト次第で何でも行える一方、専門性の分割がないために曖昧さが出やすいという課題があります。BMAD-METHOD では役割ごとに AI エージェントを分離し、専門領域ごとの最適化を図っています:
Product Management, Architecture, UX, Testing などの専門エージェント
それぞれの段階で必要なアウトプットを生成・検証するための AI エージェントを標準装備し、分担してタスクを遂行します。
このアプローチにより、AI 生成内容の品質と信頼性が向上するという意義が生まれています。
4. 開発者ワークフローとの統合性
BMAD-METHOD は単体ツールとして完結するのではなく、以下のような 開発ツールとの統合 を重視しています:
IDE との連携(Claude Code、Cursor、VS Code など)
開発環境で直接エージェントを操作しながら進行できます。
ワークフロー初期化コマンドなどの CLI サポート
プロジェクトに合わせた初期ワークフローの提案や開始を容易にするコマンドが提供されています。
これにより、AI と手動作業のシームレスな連携が可能となっています。
5. 拡張性とカスタマイズ可能性
BMAD-METHOD は BMad Core と呼ばれるフレームワーク上に構築されており、その上で動くモジュールとして位置付けられています。カスタムモジュール(独自エージェント、ワークフロー)を作成・共有できる仕組みがあり、特定ドメイン向けの開発プロセス構築が可能です。
課題管理システムとの統合
AI コーディングが単発の支援を超え、開発プロセス全体としてワークフロー化されていくにつれ、課題管理システムなどの外部ツールとの統合は避けて通れない論点となる。理想的には、
- 課題管理システム上で課題が作成される
- その内容を起点としてコーディングワークフローが開始される
- 実装後、PR のレビューとマージを経て課題がクローズされる
といった、より大きな開発ワークフロー全体が一貫して自動化・支援される姿が想定される。
このような統合を現実的に可能にするのが、BMAD-METHOD が備えるカスタマイズ機能である。Agent OS や Spec Kit のようなツールでは、あらかじめ定義されたワークフローに沿って進めることが前提となり、柔軟な拡張は難しい。一方、実際の開発現場では、Linear や Jira などの課題管理システムから直接実装対象を取得し、それを解決する形で AI に動いてほしい、という要求が自然に生じる。
BMAD-METHOD では edit-workflow コマンドを用いることで、既存のワークフローを拡張し、独自の手順を組み込むことができる。たとえば、
- MCP 経由で Linear の Issue 内容を取得する
- git worktree を用いて並行開発を行う
といった、標準では含まれていないステップをワークフローに追加できる。スラッシュコマンドやワークフローをゼロから自作するのは負担が大きく、特に開発全体をカバーする一連のステップを設計するのは容易ではない。その点、BMAD-METHOD では基盤となるワークフローがすでに用意されており、必要な部分だけを追加・調整すればよい。
実装完了後に Slack へ通知を送る、CI の結果を踏まえて次のアクションを分岐させるなど、応用の余地も広い。
QuickFlow による軽量な実装フロー
BMAD-METHOD のもう一つの特徴が QuickFlow の存在である。SDD は強力な開発手法である一方、軽微な修正であっても仕様策定や仕様書作成といった工程を踏む必要があり、実運用では過剰に感じられる場面も少なくない。開発ワークフローを自動化するにあたり、常にこのフルセットの流れを通過しなければならないとすれば、かえって開発効率を損なう。
QuickFlow は、そうしたケースに対応するための軽量なワークフローであり、必要に応じて仕様策定フェーズを省略し、実装に直接入ることを可能にする。これにより BMAD-METHOD は、厳密な SDD に基づく開発と、即応性を重視した実装作業の両立を現実的な形で支援している。
Party Mode による要件定義のブラッシュアップ
BMAD-METHOD のもう一つの特徴的な機能が Party Mode である。BMAD-METHOD の作者である Brian は、このツールを構想した当初から、PRD(Product Requirements Document)を作成することの重要性を一貫して強調してきた。すなわち、「どのようなシステムを作るのか」という初期段階の要件定義を、十分に時間をかけて行うべきだという考え方である。この思想は、BMadCode の YouTube チャンネルに公開されている過去の動画からも確認できる。
BMAD-METHOD の標準的なワークフローにおいても、要件定義は Brainstorming などの工程を経て段階的に作成される設計になっているが、Party Mode を用いると、そのプロセスがさらに強化される。Party Mode では、PM、開発、QA といった役割を持つ複数のエージェントが同時に参加し、互いに会話を行いながら要件を洗練させていく。このやり取りを通じて、要件の抜け漏れや曖昧さが自然に解消されていく様子は、BMAD-METHOD の思想を端的に表している。
BMAD-METHOD は近年注目度が高まりつつあるリポジトリであり、それに伴ってドキュメントも充実してきている。通常のアジャイル開発フローはもちろん、QuickFlow、GreenField・BrownField の双方への適用方法、さらにはリポジトリの規模に応じた進め方まで丁寧に整理されている点は評価に値する。多数のユーザからのフィードバックを反映しながら成熟してきたプロジェクトであり、AI 駆動開発に関心があるのであれば、一度実際に触れてみる価値はあるだろう。
