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麻雀AIは本当にリーチで降りるのか?人間と比べたら降りる割合はほぼ同じ、でも安牌は抱えない【詳細②】

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Last updated at Posted at 2026-10-27

はじめに

網羅編の「降り」と「安牌」の部分を、定義や数え方まで詳しく書いた詳細編②です。

問いは3つです。

  1. 他家にリーチされたとき、AIは人間と同じように降りるのか
  2. どんな状況で降りるのか(何を見て降りているのか)
  3. 安牌(通りやすい牌)をわざと手に残す「安牌保持」はあるのか

使ったのは、人間の打牌を真似るように学習したモデルです。ここで見えるのは「人間らしい降りを再現するか」で、降りが正しいか、AIが強いかは分かりません。

条件

  • モデル: 天鳳2009〜2024年の16年分で学習した強いモデル(6層、約482万パラメータ)
  • データ: 2024年のvalid。強制ツモ切りを除く
  • 降りの解析: 他家リーチ中の約9,000局面
  • 安牌保持の追跡解析: 2024年のvalidから局を80局に1局の割合で取った2,564局(10,225軌跡、判断122,659件)
  • 「人間」は天鳳の実際の打牌、「モデル」は出力確率の合計です

「降り」をどう数えるか

他家リーチ中に現物(リーチ者が通った牌)を切っても、それだけでは降りと言えません。要らない牌がたまたま現物だっただけかもしれないからです。そこで、リーチ中の打牌を4種類に分けました。

  • 押し: 現物でなく、手を崩さない牌
  • 現物をただで切る: 現物だが、手は崩さない(要らない牌が現物だった)
  • 降り: 手を崩して現物を切る
  • 手を崩して、現物でもない牌

「手を崩す」とは、その牌を切るとシャンテン数が悪くなる、という意味です。

結果1: 降りの割合は人間とほぼ同じ

向聴数ごとの降り

他家リーチ中の打牌 人間 モデル
押し 30.7% 30.6%
現物をただで切る 49.1% 49.1%
降り(手を崩して現物) 15.4% 15.5%
手を崩して現物でない牌 4.8% 4.8%

降りの割合は人間15.36%、モデル15.48%で、差は−0.12ポイントでした。現物を切る約64%のうち、半分近くは降りではなく、「たまたま現物」だったことになります。

手の進み具合で、どう変わるか

現物を切ると手が崩れる局面(押すか降りるかの選択になる局面)に絞って、現物を切る率を見ました。

手の進み具合 人間 モデル
聴牌 17.1% 18.4%
1向聴 48.2% 48.4%
2向聴 72.0% 71.0%
3向聴 86.2% 83.9%

手が遠いほど降り、聴牌に近いほど押す、という曲線が人間とそっくりです。

結果2: どんな状況で降りるのか

降りる割合は、状況で変わります。麻雀の感覚と合うか、人間とモデルを並べて見ます。

押す牌が危ないほど、降りる

押そうとしていた牌(手を崩さない非現物のうち、受け入れが最大の牌)の危険度で分けて、現物を切る率を見ました。

押す牌 手が近い(聴牌・1向聴) 人間 同 モデル 手が遠い(2向聴以上) 人間 同 モデル
字牌(場に2枚以上見え) 24.3% 26.6% 73.2% 74.1%
字牌(それ以外) 48.5% 49.7% 87.7% 87.9%
スジ 60.0% 62.9% 89.8% 89.2%
無スジの端牌 61.1% 63.9% 90.8% 89.4%
無スジの中張牌 67.0% 66.2% 89.5% 89.3%
ノーチャンス・ワンチャンス 66.5% 64.4% 93.1% 91.7%

手が近いときは、押す牌が危ないほど現物に逃げる率が上がります。場に2枚以上見えた字牌なら、ほとんど押します。一方、手が遠いと、どの牌でも約9割が降ります。人間とモデルの差は、ほとんどの行で数ポイント以内です。

スジの判定は、リーチした人全員から見た粗いものです。スジ(60%)と無スジ中張牌(67%)の差が小さいのは、そのためかもしれません。細かい危険度の差までは言えません。

リーチの人数・親子・巡目・順位・ドラ

状況ごとの降り

  • リーチした人数: 1人なら15.0%、2人以上なら19.6%(モデル18.9%)。複数人からリーチされると、降りが増えます
  • 親か子か: 親のリーチなら16.8%、子なら14.1%。親リーチのほうが降ります
  • 巡目: 1〜6巡は14.0%、13〜18巡は16.7%。終盤ほど、少しずつ降りが増えます
  • 自分の順位: 1位17.3%、2位16.3%、3位15.3%、4位10.9%。ラス目は、あまり降りません
  • 手牌のドラ: 0枚15.7%、1枚15.9%、2枚以上14.1%。ドラを持つと、わずかに降りが減ります

どの項目でも、モデルの値は人間の値に数ポイント以内で付いていきます。順位や親子のような局情報から、人間の降り方のくせまで読み取っているようです。

ただし、これは「状況ごとの割合が似ている」という結果です。モデルが、その情報を実際に使って判断しているかどうかは、次の結果4(入力を消す実験)で見ます。ラス目の降りが少ないのは、ラス目は追わないと順位が上がらないからだと思いますが、理由までは調べていません。

結果3: 降り確率は「確率として正しい」

モデルが出す「降りる確率」を信じてよいかを、校正(calibration)で確かめました。「モデルが降りると言った確率」ごとに、人間が実際に降った割合を見ます。

降り確率の校正と、人間との差

  • 点が対角線の上に乗ります(校正の傾き1.019、理想は1)
  • 人間が実際に降った局面を、モデルの降り確率で見分けられます(AUC 0.977)

結果4: リーチの情報を消すと、降りは減る

モデルが本当にリーチの情報を使って降りているのかを、入力の一部を消して確かめました(他家リーチ中の9,015局面)。

入力を消す介入実験

入力の書き換え 現物を切る確率 うち降り 人間の打牌との一致率
なし 64.6% 15.5% 81.2%
局情報のリーチ情報を消す 64.0% 15.0% 81.2%
相手の現物チャネルを消す 56.5% 13.5% 72.5%
リーチ宣言イベントを消す 61.3% 13.7% 80.1%
3つとも消す 55.5% 11.9% 74.3%

リーチの情報を消すと、降りは減ります。ただし、減り方は思ったより小さいです。リーチ宣言のイベントを消しても、他の入力(リーチ後の打牌の並び、牌ごとの枚数、現物など)から補っているように見えます。なぜ補えるのかは調べていません。

入力を消した局面は、学習のときには見ていない入力(分布外)で、数字の大きさはそのまま読めません。見るのは向き(消すと下がる)です。また、これは「使った」ことの完全な証拠ではありません。

結果5: 安牌は「持つ」より先に切られる

「安牌をわざと手に残す」動きがあるかも調べました。

集計だけでは分けられない

最初に、リーチがない局面で、安牌候補(手に1枚で、場に2枚以上見えている字牌)と、場に0枚の字牌を両方持っているときに、どちらを先に切るかを見ました。人間もモデルも、安牌候補の方を先に切ります(巡目が進むほど高い)。ただ、これだけでは「安全のための保持」と「牌効率のための処理」が分けられません。場に見えている字牌は、対子・刻子になる見込みが薄いので、効率の面でも先に切られます。

同じ人の手を追う

そこで、同じ人の手牌を順に追って、牌が手に1枚で来てから切られるまでの「生き残り方」を数えました(他家も自分もリーチなし。対子になる、自分がリーチする、追跡が終わるものは打ち切り)。手が遠い局面(2向聴以上)での、手に残っている割合です(人間)。

手に来た牌 1回の判断後 3回後 8回後 8回後(モデル)
字牌・場に2枚以上(安牌候補) 31% 17% 7.4% 7.2%
字牌・場に0〜1枚 65% 33% 11.0% 11.4%
孤立した端牌(1・9) 48% 19% 6.6% 6.8%
孤立した中張牌(2〜8) 79% 65% 39% (未集計)

(1回後・3回後は、8回後とは別の集計の値で、概数です。)

安牌候補の字牌が、いちばん早く手から出ていきます。人間は安牌を取っておくのではなく、使い道のない牌として先に処理していました。逆に、場に見えていない字牌(まだ対子・刻子になる見込みがある)は長く残ります。孤立した中張牌が長く残るのは、周りの牌とつながる可能性があるからでしょう。

モデルの予測する残り方は、人間の曲線とほぼ重なります(差は数ポイント以内)。どの牌をどれだけ持つかまで、人間の持ち方を再現しています。

リーチを最初に受けた判断

他家のリーチを最初に受けた判断(4,371軌跡)では、次のとおりです。

  • 完全安牌の字牌(場に残り0枚で、誰も待てない牌)を手に持っていた: 12.9%
  • 完全安牌を持っていたとき、それを切る率: 人間56.6%、モデル57.5%

リーチを受けても、半分前後は完全安牌を手に残して、他の牌から処理しています。

これは「安牌を抱える打ち方は、平均的には見えなかった」という結果です。強い人だけを取り出したり、持っていた理由(対子候補・役牌など)を分けたりすると違う結果になるかもしれません(未確認)。数が少ない層もあります。

限界

  • 降りの解析は2024年のvalidの一部(他家リーチ中9,015局面)、1つのモデル・1つのシードです
  • 状況ごとの割合は、局面数が少ない層(リーチ2人以上は802局面など)では、ぶれます。状況どうしが重なる(ラス目は親が少ない、など)ので、1つずつの要因は分けられていません
  • 降りの危険度は粗い定義です(スジの判定がリーチ者全員から見た粗いもの)。牌ごとの放銃率のような外部の指標は使っていません
  • 安牌保持の追跡は、手の遠さを判断ごとの状態で分けています。長く残る軌跡は、手がずっと遠いまま進んだものに偏ります
  • 人間の打牌と一致することは「人間らしく降りる」ことで、「正しく降りる」ことではありません
  • 段位・勝率など、人ごとの違いは分けていません

まとめ

  • 降りの割合は、人間15.4%、モデル15.5%でほぼ一致
  • 押す牌が危ないほど、複数人からリーチされるほど、親リーチほど降りる。ラス目はあまり降りない。モデルも同じ向きに付いていく
  • 手が遠いほど降りる曲線も、人間とそっくり。降り確率は確率として校正されている(傾き1.019、AUC 0.977)
  • リーチ情報を消すと降りは減るが、思ったより小さい。他の入力から補っているように見える(理由は未調査)
  • 安牌候補の字牌は、むしろいちばん早く手から出ていく。モデルも同じ持ち方を再現する

モデルの中身を覗く話は、詳細③に書きました。

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