はじめに
私の元職場の上司は、IEEEのことを「イェ~~」と呼んでいた。
パリピかよ。
会議中に「その規格はイェ~~が決めていて……」と仰るものだから、こっちは笑いが止まらないのである。正解はご存知「アイトリプルイー」である。
だが、よく考えたらIT業界には初見では読めない単語(あるいは読み方が直感的でない単語)が多すぎるのである。
そこで今回は、新人が現場で赤っ恥をかかないため、あるいはベテランがこっそり自信を取り戻すための「IT業界・初見殺し単語帳」をまとめてみた。
殿堂入り:誰もが一度は通る道
nginx
• ❌ ンギンクス
• ⭕ エンジンエックス
「n」が「Engine」にかかっているという、初見では絶対に到達できない正解。Webサーバー界の読み間違い王。これを「ンギンクス」と呼んで先輩にニヤニヤされたエンジニアの死体で山ができている。
Azure
• ❌ アズール
• ⭕ アジュール
Microsoftのクラウド。「Azure(紺碧)」という単語自体は「アジュール」に近い発音だが、ローマ字読みの罠にハマる人が続出。たまに「アズレ」派もいる。
LaTeX
• ❌ ラテックス
• ⭕ ラテフ / ラテック
論文を書く際にお世話になる組版システム。「ラテックス」と読むと、ゴム製品(またはフェティッシュな衣装)の意味になってしまい、文脈によっては会議室の空気が凍る。
ちなみに、末尾のXはギリシャ文字のカイ(\chi)に由来するため「フ」や「ク」に近い音になる。
略語・記号の罠:イェ~~の仲間たち
IEEE
• ❌ イエーー / アイイーイーイー
• ⭕ アイトリプルイー
冒頭の彼。IとEが3つあるから「Triple E」。この理屈を知らないと絶対に読めない。「W3C」を「ダブリュースリーシー」と読んだり、「EC2」を「イーシーツー」と読むのと同じロジック。
ICANN
・❌ アイシーエーエヌエヌ
・⭕ アイキャン
解説: Internet Corporation for Assigned Names and Numbers の略。ドメイン名などのグローバルな管理組織。助動詞の "I can" と同じ読み方。知っていればスマートだが、知らないと長々とアルファベットを読んでしまう。
SCSI
・❌ スクシ / スキシ
・⭕ スカジー(Small Computer System Interface の略)
解説: Small Computer System Interface の略。なぜこの並びが「スカジー」になるのかは、英語圏のエンジニアすら首をかしげる謎。「Scuzzy(汚い、みすぼらしい)」という英語の発音に似ている。
k8s
・❌ケーハチエス
・⭕クバネティス
もう意味がわからない。本当にどういうことなんだろうか。
理論的には、Kubernetesをの「k」と「s」の間に8文字あるからだそう。
i18n
• ❌ アイイチハチエヌ / アイジュウハチエヌ
• ⭕ インターナショナライゼーション
• 解説: Internationalization(国際化)の略語。頭文字の「I」と末尾の「n」の間に、18文字があることからこのように表記される。「略語なのに数字を挟む」という特殊な読み方。ローカライズ(Localization)は同様の構造でL10n(エルテンエヌ)と表記される。これをスムーズに言えると、ベテラン感が出る。
! (ビックリマーク)
• ❌ ビックリ
• ⭕ バン / エクスクラメーション
コマンドライン操作などで !wq などを打つ際、「ビックリ」とはあまり言わない。「バン(Bang)」と言うとかっこいい。
(別にビックリでも良いけど)
~ (チルダ)
• ❌ ニョロ / ナミセン
• ⭕ チルダ
• 解説: ホームディレクトリを表すときなどに出てくる。「ニョロ」で通じるが、かっこよく「チルダ」と言いたい。
JWT (JSON Web Token)
• ❌ ジェーダブリューティー
• ⭕ ジョット (jot)
• 解説: RFC(仕様書)に「jot(書き留める)と同じ発音」と書いてある衝撃の事実。でも日本の現場で「ジョット」と言うと「なんて?」聞き返されるので、結局「ジェーダブリューティー」と言わざるを得ない悲しき規格。
宗教戦争:どっちでもいいけど派閥があるやつ
読み方を間違えると、過激派のマサカリが飛んでくる危険地帯。
char
• ⚔️ チャー vs キャラ
「Character」の略だから「キャラ」だろ!という派閥と、炭(charcoal)みたいだから「チャー」だろ!という派閥の争い。C言語界隈でよく火種になる。
SQL
・⚔️ エスキューエル vs シークェル
海外では「シークェル」と呼ぶから、「シークェル」と読むらしい。
私は「エスキューエル」派だから仲良くできなそう。
ASUS
• ❌ アスース / エイサス
• ⭕ エイスース
• 解説: 台湾のPCパーツ・スマホメーカー。長年、ユーザー間で呼び方論争があったが、公式が「エイスース」だと歌う動画を出して決着した。でも古参は「アスース」と呼ぶのをやめない。
ちなみに私は「エイサス」派。
日本人特有の罠:ローマ字読みの悲劇
width / height
• ❌ ワイズ / ヘイト
• ⭕ ウィズ(ウィドゥス) / ハイト
CSSを書くときによく出る。「ヘイト(Hate)」だと憎しみになってしまう。「ハイト」が正解。widthも「ワイズ(Wise:賢い)」になりがち。
null
• ❌ ヌル
• ⭕ ナル
ドイツ語由来ならヌルだが、英語圏のIT用語としては「ナル」が正しい。しかし「ヌルポ(Null Pointer Exception)」という言葉が定着しすぎて、日本では「ヌル」で通じるし、むしろ「ナル」と言うと気取っていると思われる。難しい。
YAML
・❌ ヤーマル
・⭕ ヤムル / ヤメル
解説: 設定ファイルによく使われるデータ形式。"YAML Ain't Markup Language" の略。公式の発音は「ヤムル」(または「ヤメル」)に近い。多くの人がローマ字に引きずられて「ヤーマル」と読んでしまう。(少なくとも私はそうだった)
queue
• ❌ クエウエ / キューイー
• ⭕ キュー
• 解説: 待ち行列。スペルが queue で、後ろの ueue は発音しないというエコじゃない単語。「Q」一文字でいいだろ、と私はずっと思っている。
GNU
• ❌ ぐにゅ / ジーエヌユー
• ⭕ グヌー
• 解説: 「GNU's Not Unix」の再帰的頭字語(略語の中に自分自身を含む)という、初見では理解不能なユーモアを持つプロジェクト名。読み方は、アフリカに生息する「ヌー」という動物と同じ。私はぐにゅって言うのが好き。
単純に読みづらすぎるやつ
ffmpeg
毎回「エフエフエムペグ」って言うのめんどくさい。
PPPoE
IT業界とは本当に幅広いのだが、なぜ人類はPを3つ並べようと思ったのだろうか。
ちなみに読み方はそのまま「ピーピーピーオーイー」
おわりに
こうして並べてみると、IT用語は「英語」「略語」「開発者の気まぐれ」が入り混じったカオスな世界であることがわかる。
もし現場で「イェ~~」のように豪快な読み間違いをしている人がいても、笑わずに優しく教えてあげてほしい。あるいは、その独自の読み方が愛称として定着し、チームの心理的安全性を高めるかもしれないのだから。
ちなみに、私はViteをこの前「バイト」と読んで笑われました。
【募集】
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なお、記事にする際には可能な限り調べていますが、一部間違っている可能性があります。
その際は優しくコメントしてくれると嬉しいです。