本記事はシリーズ「J-SIX:Japanese SI Transformation」の #4 です。シリーズ全体は概要編をご覧ください。
はじめに
Claude Code(以下CC)で安定した品質のコードを出力させるために、最も効果が大きく、最も手軽に始められる施策があります。CLAUDE.md を書くことです。
Anthropic 社内の調査でも、CLAUDE.md の充実度と CC の出力品質は直接相関すると報告されています1。逆に言えば、CLAUDE.md が貧弱なプロジェクトでは、CC は毎回異なるスタイルでコードを生成し、品質が安定しません。
本記事では、J-SIX で公開している CLAUDE.md テンプレートの全セクションを解説し、「明日からすぐ使える」実践的なガイドを提供します。テンプレートは GitHub で配布しています。
CLAUDE.md とは何か
CLAUDE.md は、CC がセッション開始時に自動で読み込むプロジェクト固有の設定ファイルです。J-SIX ではこれを「プロジェクト憲法」と呼んでいます。
従来のSI開発では、「開発標準書」「コーディング規約」「プロジェクト計画書」といったドキュメントが開発者の行動を規定していました。CLAUDE.md はこれらに相当する情報を、CC が理解・実行可能な形式で記述したものです。
従来のSI開発 J-SIX
───────────────────── ─────────────────────
開発標準書 ─┐
コーディング規約 ─┼──→ CLAUDE.md
プロジェクト計画書 ─┘ (CC が自動読込)
プロジェクトルートに CLAUDE.md を置くだけで、CC はセッション開始時にこれを読み込み、全出力をこの文書のルールに従わせます。設定は不要です。
なぜ重要か
CLAUDE.md がない状態でCCを使うと、以下のような問題が起きます。
- コーディングスタイルが毎回異なる — キャメルケースとスネークケースが混在する
- ディレクトリ構成を無視する — 勝手な場所にファイルを作成する
- 禁止ライブラリを使う — moment.js など非推奨パッケージを選択する
- テストを書かない — 指示しない限りテストを省略する
CLAUDE.md に明記するだけで、これらの問題は解消します。CC は「ルールがなければ自分で判断する」性質を持つため、人間が明文化したルールを与えることが品質安定の第一歩です。
CLAUDE.md vs Skills — 使い分けの原則
CC には CLAUDE.md の他に Skills(スキル)という仕組みもあります。両者の使い分けは明確です。
| CLAUDE.md | Skills | |
|---|---|---|
| 読み込みタイミング | 毎セッション自動 | 必要時にオンデマンド |
| 適切な内容 | 常に守るべきルール | 特定ワークフローの手順 |
| 例 | コーディング規約、ビルドコマンド | 設計書逆生成の手順、TDDサイクル |
| サイズの目安 | 25KB / 200行以内 | 制限なし(必要時のみ読込) |
原則は単純です。全セッションで適用すべきルールは CLAUDE.md に、特定タスクでのみ必要な手順は Skills に分離する。
たとえば「関数は30行以内」というルールは全セッションで守るべきなので CLAUDE.md に書きます。一方、「設計書をExcel形式で逆生成する手順」は特定タスクでしか使わないので Skills に切り出します。
この分離を怠ると、CLAUDE.md が膨大になり、CC のコンテキストウィンドウを圧迫して性能が低下します。
テンプレートの構成
J-SIX では CLAUDE.md テンプレートを3種類用意しています。
| テンプレート | 対象 | 主な内容 |
|---|---|---|
| base.md | 全プロジェクト共通 | コーディング規約、Git運用、品質基準、ADRルール |
| web-app.md | Webアプリケーション | 画面設計、コンポーネント設計、アクセシビリティ |
| api-service.md | API / バックエンド | API設計、DB設計、外部連携、ロギング |
使い方は、base.md をベースにプロジェクト種別のテンプレートをマージして1つの CLAUDE.md を作ります。
# Step 1: base テンプレートをコピー
cp templates/claude-md/base.md ./CLAUDE.md
# Step 2: プロジェクト種別のセクションを追記
# Web アプリの場合:
cat templates/claude-md/web-app.md >> ./CLAUDE.md
base テンプレートの全セクション解説
base テンプレートは7つのセクションで構成されています。それぞれの役割と、記入のポイントを解説します。
1. プロジェクト概要
## プロジェクト概要
- **システム名**: 受注管理システム
- **目的**: 手作業の受注処理を自動化し、処理時間を50%短縮
- **主要ステークホルダー**: A社 営業部
- **開発体制**: 5名(PL1 + SE3 + PG1)
- **J-SIX Stage**: Stage 1
### 技術スタック
- **言語**: TypeScript
- **フレームワーク**: Next.js 15
- **DB**: PostgreSQL 16
- **インフラ**: AWS(ECS + RDS)
- **CI/CD**: GitHub Actions
ポイント: CC はここを読んでプロジェクトの文脈を理解します。「目的」は1-2文で簡潔に書くと、CC が機能の優先度を正しく判断できるようになります。技術スタックはバージョンまで記載してください。CC がバージョン固有の API を使い分ける根拠になります。
2. ビルド・テスト・実行コマンド
## ビルド・テスト・実行コマンド
```bash
# 依存インストール
npm install
# ビルド
npm run build
# 全テスト実行
npm test
# 単一テスト実行
npm test -- --testPathPattern=ファイル名
# Lint
npm run lint
# 開発サーバー起動
npm run dev
```
> **重要**: テストは必ず実行して通ることを確認してからコミットすること。
ポイント: CC が自律実行する際に、ここのコマンドを使ってビルド・テスト・Lintを実行します。単一テスト実行のコマンドは必ず書いてください。 CC が TDD サイクルで1ファイルずつテストを回す際に使います。全テスト実行しか書いていないと、毎回全テストを走らせて時間を浪費します。
3. コーディング規約
## コーディング規約
### 命名規則
- **ファイル名**: kebab-case(例: user-service.ts)
- **クラス名**: PascalCase
- **関数名**: camelCase
- **定数名**: UPPER_SNAKE_CASE
- **DB テーブル名**: snake_case(複数形: users)
- **DB カラム名**: snake_case
### コードスタイル
- インデント: スペース2
- 1関数の最大行数: 30行を目安。超える場合は分割を検討
- 1関数の最大引数: 4つまで。超える場合はオブジェクトにまとめる
- コメント:「何をしているか」ではなく「なぜそうしているか」を書く
ポイント: 曖昧な表現は避け、定量的に書きます。「良いコードを書け」ではなく「関数は30行以内、引数は4つ以内」です。CC は具体的な数値や形式を明示すると、それに忠実に従います。
4. Git 運用ルール
## Git 運用ルール
### コミットメッセージ
Conventional Commits に準拠する。
```
<type>(<scope>): <description>
```
type: feat / fix / docs / style / refactor / test / chore
例:
```
feat(auth): Google OAuth ログインを追加
fix(api): ユーザー検索の N+1 クエリを修正
```
### コミット粒度
- 1タスク = 1コミット を基本とする
- TDD サイクルでは Red→Green→Refactor でそれぞれコミット
ポイント: コミットメッセージのフォーマットと具体例を示すと、CC は一貫した形式でコミットします。例がないと、毎回異なるスタイルのメッセージを生成します。
5. 品質基準
## 品質基準
### テスト
- 単体テストカバレッジ目標: 85%
- 新規コードには必ずテストを書く(TDD を推奨)
- テストファイルの配置: src/__tests__/
- テストの命名: [対象]_[条件]_[期待結果] 形式
### パフォーマンス基準
- API レスポンスタイム: 200ms以内
- ページ読込時間: 3秒以内
ポイント: カバレッジ目標を明記すると、CC がテスト不足のコードを生成した際に自ら追加テストを書く判断材料になります。パフォーマンス基準も、CC が実装方式を選択する際の判断に影響します。
6. ADR ルール
## ADR(Architecture Decision Records)ルール
### ADR が必須のケース
- 技術スタック / ライブラリの選定・変更
- DB 設計の重要な判断
- API 設計方針の決定
- セキュリティ方針の決定
- 代替案を検討して却下した場合
### ADR の作成手順
1. docs/adr/NNNN-タイトル.md に作成
2. 内容: コンテキスト、判断、理由、検討した代替案、影響
ポイント: ADR は J-SIX の3層ドキュメント戦略の第2層にあたります2。「ADR が必須のケース」を明記することで、CC が設計判断を行った際に自動的に ADR を作成するようになります。
7. セキュリティ・禁止事項
## セキュリティ・禁止事項
### 禁止事項
- 本番環境のデータベースへの直接接続・操作
- 機密情報(API キー、パスワード)のハードコーディング
- .env ファイルの Git コミット
### 使用禁止ライブラリ
- moment.js は禁止。代わりに dayjs を使用
### 変更禁止ファイル
- docker-compose.prod.yml
- .github/workflows/deploy.yml
- infrastructure/ 配下
ポイント: 禁止事項には必ず代替案を示してください。「moment.js は禁止」だけでは CC が行き詰まります。「代わりに dayjs を使用」まで書くことで、CC は適切な代替を選択できます。
CC 自律実行の範囲
base テンプレートには、J-SIX の自律度設定に関するセクションもあります。
## CC 自律実行の範囲
### Phase 4(TDD 実装)での自律実行ルール
- テストを先に書き、失敗を確認してからコミットすること
- テストが通る最小の実装を行うこと。過剰な先回り実装は禁止
- テスト3回連続失敗した場合は、人間に相談すること
- 要求 Spec に記載のない要件が必要と判明した場合は、人間に確認を求めること
### エスカレーション条件
以下の場合は自律実行を中断し、人間に判断を仰ぐこと。
- 要求 Spec のスコープ外の機能が必要になった場合
- セキュリティに関わる設計判断が必要な場合
- 外部 IF の仕様変更が必要な場合
- アーキテクチャに影響する判断
ポイント: CC の自律実行範囲を明確にすることで、「やりすぎ」を防ぎます。特にエスカレーション条件は重要です。CC は指示がなければ自分で判断して突き進む傾向があるため、「ここで止まれ」を明示する必要があります。「テスト3回連続失敗で相談」などの閾値は著者推奨値であり、プロジェクト特性に応じて調整してください。
プロジェクト種別の追加セクション
Web アプリ向け追加(web-app.md)
Web アプリケーションでは、以下のセクションを base に追加します。
## 画面設計ルール
### コンポーネント設計
- コンポーネントの分類:
- components/ui/: 汎用UIコンポーネント(ボタン、モーダル等)
- components/features/: 機能固有コンポーネント
- components/layouts/: レイアウトコンポーネント
- 1コンポーネント = 1ファイル。150行を超える場合は分割を検討
- Props は型定義を必須とする
### アクセシビリティ
- セマンティック HTML を優先(div の乱用を避ける)
- フォーム要素には label を必ず紐付ける
- キーボード操作に対応する
CC はアクセシビリティを指示しない限り省略しがちです。CLAUDE.md に明記することで、生成されるHTMLが最初からセマンティックになります。
API サービス向け追加(api-service.md)
API / バックエンドサービスでは、以下のセクションを追加します。
## API 設計ルール
### エンドポイント命名
- リソース名は複数形(/users, /orders)
- ネストは2階層まで(/users/{id}/orders は OK)
- アクションは HTTP メソッドで表現
### エラーレスポンス形式
```json
{
"error": {
"code": "VALIDATION_ERROR",
"message": "ユーザー向けメッセージ",
"details": [
{ "field": "email", "message": "メールアドレスの形式が不正です" }
]
}
}
```
## DB 設計ルール
- 共通カラム: 全テーブルに created_at, updated_at を付与
- 外部キーには必ずインデックスを張る
- インデックス追加は ADR に記録する(パフォーマンス影響のため)
エラーレスポンスの具体的な JSON フォーマットを示すと、CC は全エンドポイントで一貫した形式のエラーを返すようになります。「適切にエラーハンドリングせよ」という曖昧な指示とは結果が大きく異なります。
アンチパターン5選
CLAUDE.md の運用で陥りやすいアンチパターンを5つ紹介します。
1. 巨大すぎる CLAUDE.md
問題: CLAUDE.md が数百行に膨れ上がり、CC のコンテキストウィンドウを圧迫する。結果として CC の応答品質が低下する。コンテキスト使用率が70%を超えると精度が低下し、85%を超えると幻覚(ハルシネーション)が増加するとの報告もあります3。
対策: 25KB / 200行以内を目安にする。特定タスク用の手順は Skills に分離し、詳細な仕様は docs/xxx.md に外出しして「詳細は docs/xxx.md 参照」と記述する。
2. 曖昧な指示
問題: 「良いコードを書け」「適切にエラーハンドリングせよ」のような曖昧な指示では、CC は毎回異なる解釈をする。
対策: 定量的・具体的に書く。「関数は30行以内」「引数は4つまで」「エラーレスポンスは以下のJSON形式」のように、CC が一意に解釈できる表現にする。
3. 禁止だけで代替案なし
問題: 「moment.js は禁止」「any 型は禁止」と書くだけでは、CC が行き詰まるか、さらに悪い選択をする可能性がある。
対策: 「X は禁止。代わりに Y を使え」と必ず代替案をセットで記載する。CC は代替案があれば、スムーズにそちらを採用する。
4. 更新されない CLAUDE.md
問題: プロジェクト初期に書いたまま更新しない。技術スタックが変わり、新しいルールが増えても CLAUDE.md は古いまま。実態と乖離して CC が混乱する。
対策: Sprint ごと / Phase ごとに CLAUDE.md をレビュー・更新する。特に「CC が規約に反するコードを生成した」場合は、そのルールが CLAUDE.md に書かれているか確認し、不足していれば追記する。
5. 全てを CLAUDE.md に詰め込む
問題: TDD の手順、設計書逆生成のフロー、デプロイ手順など、あらゆるワークフローを CLAUDE.md に書く。結果としてアンチパターン1(巨大すぎる)に陥る。
対策: CLAUDE.md には「常に守るべきルール」だけを書く。特定タスクのワークフローは Skills に、詳細な仕様はドキュメントファイルに分離する。
CLAUDE.md を「育てる」運用のコツ
CLAUDE.md は一度書いて終わりではなく、生きたドキュメントとして育てていくものです。
更新すべきタイミング
| トリガー | 対応 |
|---|---|
| CC が規約に反するコードを生成した | そのルールを CLAUDE.md に追記 |
| CC が同じ質問を繰り返す | 回答を CLAUDE.md に記載 |
| 新しいライブラリやツールを導入した | 技術スタック・コマンドを更新 |
| 設計判断が確定した | ADR を作成し、CLAUDE.md から参照 |
| CC が不要なファイルを変更した | 変更禁止ファイルに追加 |
育て方の実践例
プロジェクト開始時の CLAUDE.md は、テンプレートの [TODO: ...] を埋めただけのシンプルなものです。実際にCCを使い始めると、「ここが足りない」「ここが曖昧」という気づきが出てきます。
Week 1: テンプレートの TODO を埋める(30分)
Week 2: CC が ESLint ルールを無視 → Lint設定の詳細を追記
Week 3: CC が不要な console.log を残す → 「本番コードに console.log 禁止」追記
Week 4: 認証ライブラリ導入 → 技術スタックと認証方針を更新
...以降、気づきのたびに追記
CC 自身に CLAUDE.md の更新を提案させることもできます。「このセッションで気づいた CLAUDE.md に追記すべきルールはあるか?」と尋ねると、CC がセッション中の経験に基づいて改善提案を出します。
J-SIX Stage との連動
CLAUDE.md の充実度は、J-SIX の Stage 進行と連動させると効果的です。
- Stage 1(V字+CC補助): base テンプレートの基本項目を埋める。コーディング規約とビルドコマンドが最優先
- Stage 2(SDD要素導入): ADR ルール、品質基準、エスカレーション条件を追加
- Stage 3(J-SIX全面適用): 自律実行の範囲を拡大。プロジェクト固有ルールが十分に蓄積された状態
まとめ
CLAUDE.md は、CC を活用するプロジェクトにおける最もコストパフォーマンスの高い投資です。テンプレートの [TODO: ...] を埋めるだけなら30分で完了し、それだけで CC の出力品質が大きく安定します。
明日からの3ステップ:
-
テンプレートをコピーする —
base.md+ プロジェクト種別のテンプレート -
[TODO: ...]を埋める — 技術スタック、ビルドコマンド、命名規則から - CC を使いながら育てる — 不足に気づいたら追記。Sprint ごとにレビュー
完璧な CLAUDE.md を最初から書く必要はありません。まずは最低限の項目を埋め、使いながら育てていくのが最も効果的です。
シリーズ記事
| # | タイトル | 状態 |
|---|---|---|
| #0 | J-SIX 概論 — なぜ今、日本のSI開発プロセスを再設計するのか | 公開済 |
| #1 | V字モデルの前提崩壊と SDD の台頭 | 公開済 |
| #2 | 3層ドキュメント戦略 — 設計書は「逆生成」の時代へ | 公開済 |
| #3 | TDD × Claude Code — 自律実行で生産性を最大化する | 公開済 |
| #4 | 本記事(CLAUDE.md 実践ガイド) | ✅ |
| #5 | V字モデルからの段階的移行 — 既存案件を止めずに J-SIX へ | 公開済 |
参考文献・リンク
J-SIX プロジェクト
CLAUDE.md テンプレート配布
引用した調査・データ
CC ベストプラクティス
- Anthropic. "Best Practices for Claude Code". https://code.claude.com/docs/en/best-practices
-
Anthropic. "How Anthropic teams use Claude Code" (2025.07). https://claude.com/blog/how-anthropic-teams-use-claude-code — Codingscape による解説記事も参照: https://codingscape.com/blog/how-anthropic-engineering-teams-use-claude-code-every-day ↩
-
adr.github.io. "Architectural Decision Records". https://adr.github.io/ ↩
-
FlorianBruniaux. "claude-code-ultimate-guide". https://github.com/FlorianBruniaux/claude-code-ultimate-guide ↩