消えゆくプログラミング言語
プログラミング言語の世界も、アイドルの世界と同じでデビュー、全盛期、そして引退(?)があります。今回は、かつてスーパースターだった言語たちの現在をお届けします。
COBOL:銀行の裏方として今日も働く長寿番組
1959年デビューのCOBL(Common Business Oriented Language)は、まさに「平成を超えて令和も頑張るベテラン言語」です。
IDENTIFICATION DIVISION.
PROGRAM-ID. HELLO-WORLD.
PROCEDURE DIVISION.
DISPLAY "お客様の残高は".
ADD SALARY TO BALANCE GIVING NEW-BALANCE.
DISPLAY NEW-BALANCE "円です".
STOP RUN.
英語に近い文法で「ADD A TO B GIVING C」のように書けるため、当時の経理部員たちを魅了しました。今でも金融機関の基幹システムで現役バリバリ。ただし、保守できるプログラマーの平均年齢は上がる一方で、「COBOL技術者、まもなく還暦」なんて冗談が冗談でなくなってきています。
FORTRAN:研究室に生息する理系の生き字引
1957年生まれのFORTRAN、通称「科学計算界の大御所」。
PROGRAM MATRIX_MULTIPLY
DIMENSION A(10,10), B(10,10), C(10,10)
DO 10 I = 1,10
DO 10 J = 1,10
C(I,J) = 0
DO 10 K = 1,10
10 C(I,J) = C(I,J) + A(I,K) * B(K,J)
END
現代ではPythonやRに押され気味ですが、「計算速度なら私に任せなさい」と、今でも研究室の片隅で複雑な方程式を解いています。
Pascal:元教育者の優等生
1970年代、「構造化プログラミングの申し子」として教育現場で大活躍したPascal。
program StudentGrades;
var
grade: integer;
begin
writeln('成績を入力してください:');
readln(grade);
if (grade >= 80) then
writeln('優秀です!')
else if (grade >= 60) then
writeln('合格です')
else
writeln('もう少し頑張りましょう');
end.
厳格な文法で多くの学生を育て上げましたが、今ではより自由奔放なPythonに教壇を明け渡しています。
BASIC:パソコン少年の思い出
1964年生まれのBASIC、80年代には「パソコン少年の相棒」として大ブレイク。
10 PRINT "こんにちは!"
20 INPUT "お名前は?"; N$
30 PRINT N$; "さん、プログラミングを始めましょう!"
40 FOR I = 1 TO 3
50 PRINT "BASIC is Fun!"
60 NEXT I
「10 PRINT "HELLO"」で始まる簡単なプログラムで、多くの少年少女をプログラミングの世界に導きました。
Perl:テキスト処理の忍者、引退を考える
1987年デビューのPerl、90年代のWeb開発では「テキスト処理の忍者」として大活躍。
#!/usr/bin/perl
$text = "Perl は テキスト処理の 達人です";
if ($text =~ /テキスト処理/) {
print "マッチしました!\n";
}
@words = split / /, $text;
foreach $word (@words) {
print "$word\n";
}
正規表現を自在に操り、CGIスクリプトの第一人者として君臨しました。
Ada:軍事機密として生き続ける厳格主義者
1980年代、米国防総省が育てた「信頼性の守護神」Ada。
with Ada.Text_IO; use Ada.Text_IO;
procedure Security_Check is
Level : Integer;
begin
Put_Line("セキュリティレベルを入力してください:");
Get(Level);
if Level >= 5 then
Put_Line("アクセス許可");
else
Put_Line("アクセス拒否");
end if;
end Security_Check;
厳格すぎる性格が災いして民間での普及は今一つでしたが、軍事システムや航空宇宙分野では「堅実な仕事ぶり」を買われ、今でも密かに活躍中です。
なぜ消えていったのか
あらゆるものに「オワコン」(この言葉もすでにオワコンですが..)の烙印が押されるように、プログラミング言語にも以下のような「引退の危機」が訪れます。
- 新人の台頭(より使いやすい言語の登場)
- ファンの減少(開発者コミュニティの縮小)
- 新しいトレンドへの対応の遅れ
- 若手育成の失敗(学習リソースの不足)
- 事務所の解散(企業サポートの終了)
それでも偉大な足跡
しかし、これらの「引退」した言語たちは、プログラミングの歴史に大きな足跡を残しました。
- COBOLは「ビジネスロジックの書き方」を確立
- FORTRANは「科学技術計算の高速化」に貢献
- Pascalは「きちんと構造化」の大切さを教育
- BASICは「プログラミングの楽しさ」を広める
- Perlは「テキスト処理の自由さ」を示した
- Adaは「信頼性の重要性」を説いた
今でこそ第一線を退いていても、彼らの功績は現代の言語たちに確実に受け継がれています。まさに「巨人の肩の上に立つ」現代のプログラミング言語たちなのです。
これらの言語の歴史は、技術の進化と共に変化する要求に対応し続けることの重要性を私たちに教えてくれています。
※個人的な補足:
実は、これらの言語が「消えゆく」というのは少し語弊があるかもしれません。確かに主流ではなくなっていますが、例えばCOBOLは金融システムの重要な部分で現役で動いていますし、FORTRANは科学計算の分野で今でも新しいコードが書かれています。「役割が変化している」というのが、より正確な表現かもしれません。