ITエンジニアはAI時代をどう渡り歩くのか?(AIディストピア論への懐疑)
AIが本格的にソフトウェア業界にも導入されてきました。非IT業界でも、自動音声応答、議事録作成、社内文書検索・作成などいろいろな場面でAIが利用されるようになっています。
一方で、AIによる雇用削減の話も聞こえてきます。
ソフトウェア開発では、VibeCoding(AIによるコーディング)に限らず、さらに、MCPサーバを利用して既存のいろいろなツールをAIが操作できるようになっていっています。
ITエンジニアのジュニア層の仕事がなくなるのではという話もチラホラ目にします。
IT業界に限りませんが、シンギュラリティの話を踏まえて、AIが仕事を奪うというディストピア論的な話はよく耳にします。
個人的にはこれらのディストピア論は短期的には当たらないと思っています。実際にAI駆動開発を導入したり、企業のAIシステム導入をみていると、AIに関する新しい作業や仕事もでてきているので、それほどディストピア的なイメージはありません。
そもそも、今までもやりたくてもできなかった仕事が沢山あると思います(残業が多いとか、工数が足りないとかよくいってますよね!)。それができるようになるだけで、人間の欲望は限りないと考えています。きっと、AI社会を前提にした新しいビジネスや仕事が生まれてきます。
また、AIは特定の業務知識(ドメイン)を前提にしていますが、そのドメイン情報の整理がまだまだ不十分で、人間の作業はたくさんあると思っています。そして、AIを使いこなすことすら、ある程度のスキルがまだ必要です。
もっとも、ロボティクスの発展でAIが体を持ち出すとディストピア的な危機感は少しもちますが。
とりあえず、ロボットが生活や仕事に採用されるのはもう少し先な感じもします。まずは、AIが近い将来にもたらす、前向きな世界について考察してみます。
2025年:AX / AIX(AIトランスフォーメーション)が叫ばれ始める
2020年のコロナ禍辺りから、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を目にすることが多くなりました。
感染予防のため、リモートワークをすることが多くなりました。これにより、企業や個人がインターネットを最大限に使うきっかけが生まれ、DXがより進んでいくことになったと思います。
そして、2025年現在、AIブームがかなり本格化してきました。2023年11月のChatGPTショックで、多くの人がAIを生活や仕事にもつかっていけるのかもと思い始めました。
そして、2024年から2025年の前半にかけて、AIアシスタント、AIエージェントに関するサービスやツールが開発され、広まりつつあります。
IT業界では、2025年2月にリリースされたClaude3.7のプログラム開発能力の高さをきっかけに、本格的にAI駆動開発やVibeCoding(AIによるコーディング)の導入が始まりだしたように感じます。
2025年4月現在では、システム開発関連企業のなかには、GithubCopilotだけでなく、VibeCodingに特化したエディタであるCursorを全社導入するところもでてきました。
とにかく、AIの実務への導入は着実に進んでおり、これまでと違う仕事の在り方をもたらしていくと考えられます。
そして、このようなAIの導入を背景として、DXを超えて、AX/AIX(AIトランスフォーメーション)という言葉を目にする機会も増えてきました。
AIトランスフォーメーションの略語は、いろいろな論者やサイトによって異なるのでどれが正しいかはわかりません。また、その指し示す内容もまちまちです。以下に参考記事や動画を掲載しているので、参考にしていただければと思います。
いろいろな記事を読んだ感じ、AIトランスフォーメーションは以下のような内容を指し示していると思います。
AIX(AIトランスフォーメーション)とは?
・既存のシステムやツールにAIの機能を組み込んで自律性を高め、そのシステムやツールを前提に事業や生活の在り方を変える。
・AIを取り込んだシステムが多量の情報を分析・推論し、意思決定の範囲を広げたり、その速度を速めていく。
こうしたAIに関する公的な情報としては、総務省、デジタル庁、経産省の資料が参考になりますが、AIトランスフォーメーションに関するイメージスライドを経産省の資料から引用します。
※経済産業省、「第22回 デジタル時代の人材政策に関する検討会 生成AIがビジネスモデルに 与える影響とDXの加速」(2024年5月30日)の資料より抜粋。
以下、経産省の資料に使われているAIXという表記を利用していきます。
AIXがベンチャー企業創出の後押しになる可能性
DeNAの南場会長がAI導入について語った動画は有名かと思います。この動画では、AIを導入して既存事業の人員を削減し、新規事業を創出していくことに触れられています。
この動画で語られていることは、他の日本企業の経営者も考えていると思います。単なるコストカットをするためだけでなく、新規ビジネスの創出をして利益を増加させていく動きはこれから増えてくると思います。
AIに関係する製品やサービスを開発しているAI関連企業への投資は、ここ数年増加しているのは周知の事実だと思います。
これからは、AI関連企業だけでなく、AIをバックオフィスや生産工程に活用した新しいビジネス、既存ビジネスのリフォームが起こっていくと予測されます。アメリカでは、AIを利用した1人起業が増加しているようです。
以下の記事は、統計的なデータも踏まえてこのあたりの内容がよく整理されています。
上記の記事から一部抜粋です。
ソロ起業の追い風となっている最大の要因はテクノロジーの進化です。Crunchbaseのニュース記事は「テックの進歩により、ビジネス運営がスムーズかつ低コストになったおかげで、世界的にソロプレナーシップが急上昇している」と伝えています。
中でもAI(人工知能)の普及がゲームチェンジャーとなっています。実際、Accessible AI tools(誰もが利用できるAIツール)の登場によって、一人でもデータ分析から顧客対応まで複雑なプロセスを自動化しやすくなったと指摘されています。かつては人手が必要だった種々のタスクを、AIが「仮想のチームメンバー」のように肩代わりできる時代になったのです。
このようにAIXにより、バックオフィス系の時間短縮や、ドメイン(特定業務)特化作業の効率が上がることで、少数の人間でビジネスをする可能性が高くなりつつあります。
完全に1人で仕事を回せるかはさておき、AIXツールにより、1人の人間の生産性があがるのは確実だと思います。社会的にも政府も含めてDXを推進しており、起業する手続きや案件獲得などもしやすくなっています。
今のところ日本全体の起業に関する動きは活発ではないようですが、AIXツールの普及に伴って開業もふえてくるのではないでしょうか?
ちなみに、ITや学術系での起業は増加しています。
上記のグラフは、「中小企業庁 2024年版 小規模企業白書(HTML版)」からの抜粋になります。
ちなみに、日本政府もスタートアップ企業の支援を推進しており、AIXも追い風になるのではないでしょうか?
政府の具体的な支援策としては以下の記事にあるものがあります。
知っておきたい基礎知識
~政府系機関におけるスタートアップ支援とは~
日本については、米中に比べてAI活用はまだまだですが、だからこそチャンスは多いのではという気もします。
総務省 『令和6年版情報通信白書(PDF版)』 第5章 デジタルテクノロジーの浸透 第1節 国民・企業における利用状況」より引用
※この白書はAIに関する統計データが多くて必見だと思います。
スタートアップ企業こそAIネイティブ企業に近づける
AIXと同じく、最近、少しずつ目にするのが「AIネイティブ企業」という言葉です。
AIネイティブ企業というのも、近年出始めた言葉なので、定義はサイトや論者によってまちまちだと思いますが、以下の記事から引用してみます。
AIネイティブ企業とは?
・業務プロセスから製品、販売、顧客対応に至るまで、あらゆる領域にAIを組み込み、ビジネスモデルや組織の在り方を変えようとしている企業
・データ駆動型の自動化や機械学習を活用して業務運営や価値提供の方法を再定義しています。
事業や経営をAI前提で考えられている企業と簡単にいってもよいかもしれません。こうした企業は、既存の企業ではなかなか難しいと思います。やはり既存のしがらみがあり、AIネイティブをつくるにはベンチャー企業としてスタートを切る必要があると思います。
AIXを最大限に実現した会社こそ、AIネイティブ企業といえるのではないでしょうか?
ちなみに、既存企業のAI導入をみていると、どうしても既存の人間中心の動きを変えるのが難しく、それに引っ張られてしまっているように思います。それは導入支援をしていても感じます。
既存企業のAI導入やAIX対応も進んでいくとは思いますが、やはり既存のしがらみを切り捨てられない以上は、AIネイティブ企業になるにはかなり時間がかかると思います。
だからこそ、前述のDeNAの南場会長がいうように、既存企業がノウハウと資本をもって、新しいベンチャー企業をつくり、それをAIネイティブ企業にする方がよいのではないかと思います。
大学生など若者がAIネイティブ企業を作る可能性
インターネットやスマホが普及しだしたときも同じでしたが、やはり若い世代ほどAI利用率は高いです。
AIの導入支援をしていて思うのが、年配になるほどAIがなんとなく便利なのはわかるけど、どこにどうやってつかうのか「発想」ができないといわれます。
AIツールがまだまだ未発達なのもあるし、やや使い勝手が悪いところはあるのでこれは仕方ない事かもしれません。AIで便利になる領域も少しずつ増えていますが、年配の人ほど、どうするか考えるよりも先に手や体が動いてしまうので、AIを使う場所というのがなかなかないのかもしれません。
また、そもそも今まで使ってきてないものを使って、それをいろんな場所に活用するということを発想するにはそれなりの時間が必要だと思います。
一方、大学生を中心に若者はAIを日常生活や学習の中で多用しており、どこでAIをつかったらよいのかなど年配の人より発想を得やすい状況だと思います。
仕事に関して言えば、ノウハウや知見がないから危ない面もあるかもしれませんが、AIネイティブ企業をつくるに際して、重要なAIに関する発想力や知見があるのはアドバテージだと思います。
最近は、大学生で起業する人も増えているようです。
さいごに:少しずつAI利用が浸透しつつあるが変化の遅い日本だからこそチャンスがある
ここまで見たきたように日本でもソフトウェア業界を中心に業務へのAI導入は進んで来ています。
一方で、日本は、他国に比べて企業のAI活用が進んでおらず、世代別で年配の人ほど利用率が低いようです。
ITエンジニアなどAIによって働き方が変わる分野はいろいろと出てきて、仕事がなくなるのではというディストピア論もありますが、これまで誰もしなかったAIをベースにしたビジネスをつくるAIネイティブ企業が生まれていくなかで、新しい仕事も生まれてくると思います。
AIだけあっても実際仕事にはならず、特定の業務に特化したモデルをどうつくり、それを活用するかがAIビジネスには重要です。
これから大学生など若手を中心に新しい、AIネイティブ・ベンチャー企業も生まれていくと思います。それら新しい企業を技術的に、また、業務上や資金的に支援していくことも考えられます。
個人的には、AIによって今までできなかったことが色々と実現していく非ディストピア的な世界を期待しています。ユートピアかどうかはわかりませんが、悲観論に支配された世界ではなく、これまで同様やることがたくさんある社会だと思っています。
個人的には、AIが便利でないとも思わないし、AIが人間の仕事のすべてを奪ってしまうなどとも思いません。冷静に、「AIは今、何ができて、何ができないのか」を見極めつつ、AIをどう活かして新しいことをするのかを考えるとワクワクします。
特に、大学生をはじめ若い人が、これまでなかった発想をAIで形にして、新しい時代をつくってくれることを心より願っています。
おまけ:【起業志望向け】AIビジネスプランコンテスト ~ 先輩起業家にプレゼンしてみよう!
知り合いの会社が2025年5月17日(土)にAIビジネスプランコンテストを行います。AI分野で起業されている先輩経営者の方が審査員になっています。
AI技術そのものだけでなく、AIを活用した既存ビジネスのリフォームなど新しいAIX実現をするビジネスプランを考えてプレゼンするイベントです。
起業家同士、先輩経営者との交流などもあるようです。
大学生だけでなく、起業家や起業志望者であれば参加可能のようです。