はじめに
会社で、AI活用に関するアンケートへ回答する機会があった。
私は日常的にかなりAIを使っている。
だから、それなりに高い点数になるだろうと思っていた。
しかし、実際にはあまり高くならなかった。
正直、少しモヤモヤした。 自分のAI活用は、大したことなかったのだろうか、と。
でも、項目をよく見て気づいた。
生成AIシステム連携 / AI運用設計 / 業務システムへの導入経験
アンケートが測っていたのは、「企業で生成AIシステムを作る人材」としての能力だった。
一方で私が日常的にやっているのは、別のことだ。
- AIとの対話を通じて問いを深める
- 複数のAIに異なる役割を持たせ、出てきた意見を比較し、統合する
- そこから記事や書籍、企画、事業の構想へつなげる
私のAI活用はアンケートの測定範囲の外側にあったのだ。
そこから、第一世代のAI人材と第二世代のAI人材という考え方が浮かんだ。
第一世代のAI人材
ここでは、企業の中に生成AIシステムを実装し、運用できる状態を作る人を、
仮に「第一世代のAI人材」と呼びたい。
個人が生成AIを試しに使うだけなら、比較的簡単に始められる。
しかし、企業で使うとなれば話は変わる。
- 誰が利用するのか
- どの情報を入力してよいのか
- 問題が起きたときに誰が対応するのか
- 出力の品質をどう管理するのか
こうした仕組みが必要になる。
第一世代のAI人材は、AIを組織の仕組みとして成立させる人である。
つまり、AIを企業の中で動かせる形にする人だ。
この役割は、今後も重要であり続ける。
第二世代のAI人材
第一世代がAIを動かすための土台を作る人だとすれば、
第二世代は、そのAIを使って新しい価値を生み出す人である。
第二世代のAI人材は、必ずしも生成AIシステムを構築できるとは限らない。
その代わり、AIを使って、
- 思考を拡張する
- 複数のAIを組織のように運用する
- 新しい企画や事業を作る
- 発信を通じて市場へ新しい見方を持ち込む
といったことを行う。
第一世代はAIを企業へ実装する。 第二世代はAIとの協働から生まれた価値を、社会へ実装する。
ここで断っておくと、「第一」「第二」は、優劣でも新旧でもなく、
組織から見える順番である。
第一世代の能力は、すでに評価項目になっている。 つまり、もう見えている。
第二世代の能力は、まだ物差しがない。 つまり、まだ見えていない。
先に見えたものが第一、これから見えてくるものが第二。 この記事では、その意味で「世代」と呼ぶ。
両者を対比すると、こうなる。
| 第一世代(基盤の実装) | 第二世代(価値の実装) | |
|---|---|---|
| 主な役割 | AIを組織の中で動く仕組みにする | AIとの協働から新しい価値を生む |
| 能力の例 | システム構築、運用設計、品質管理 | 問いの更新、AI組織の編成、事業・概念の創造 |
| AIの位置づけ | 組織に実装する対象 | 協働する相手 |
| 現在の視認性 | すでに見えている(評価項目がある) | まだ見えていない(物差しが未開発) |
AIを思考の相手として使う
第二世代のAI活用は、AIに答えを出してもらうことだけではない。
AIとの対話を通じて、自分の思考を外へ展開する。
曖昧だった感覚を言葉にする。前提を問い直す。反論を受ける。複数の概念をつなげる。まだ名前のないものに輪郭を与える。
このとき、AIは検索窓の代用品ではない。指示した作業をこなすだけの外注先でもない。
思考を映し返し、ときには自分とは少し異なる視点を返すことで、認知の範囲を広げる相手になる。
重要なのは、AIが出した答えをそのまま採用することではない。
どこに違和感を持つか。何を残し、何を捨てるか。次にどんな問いを立てるか。
AIとの対話を通じて、問いそのものを更新していく。
これは、生成AIシステムを作る能力とは異なるAI活用である。
AIを組織として運用する
AI活用は、人間一人とAI一体の関係だけではない。
複数のAIに、異なる役割を持たせることもできる。
私自身、実際に役割を分けている。
草稿を出す担当。 批評とレビューの担当。 調査の担当。 構造の整理と編集の担当。
誰に何を考えさせるのか。どの順番で意見を出させるのか。どの段階で人間が判断するのか。
役割と流れを設計する。 出てきたものは完成品ではなく素材として扱い、最後の統合は人間が行う。
ひとつ注意していることがある。
複数のAIが同じ意見を返しても、それは独立した裏付けとは限らない。
全員が、こちらの前提に合わせているだけのこともある。
だから編成では、あえて異なる立場や批判役を割り当てる。
このとき、人間はAIの利用者というより、
AI組織の編成者
に近くなる。
これも第二世代のAI人材に必要な能力になると思う。
AIを用いて事業を作り、市場へ持ち込む
AI活用というと、業務効率化が注目されやすい。
文章作成を速くする。 資料作成を補助する。 問い合わせ対応を自動化する。
これらは重要である。
ただ、第二世代のAI人材が考えるのは、その先である。
既存業務を速くするだけではなく、
AIがあるから初めて成立する事業を考える。
AIによって個人ごとに体験が変わるサービス。 これまで人員やコストの制約で成立しなかった商品。 AIとの対話そのものを価値に変える仕組み。
既存の工程へAIを追加するのではなく、AIが存在することを前提として、商品、サービス、顧客体験、収益の流れを設計し直す。
そして、市場へ持ち込めるのは商品やサービスだけではない。
新しい概念を作る。 これまで言葉になっていなかった違和感に名前を与える。 新しい評価軸を提示する。
市場への影響というと、大企業や大きな流行を想像しやすい。
しかし、これまで存在しなかった選択肢を示すことも、まだ見えていなかった需要に輪郭を与えることも、市場への影響である。
第二世代のAI人材は、AIを使って既存市場に適応するだけではない。
AIとともに、新しい価値の見方を市場へ持ち込む。
第一世代と第二世代は、支え合う関係にある
両者は、価値を作る場所が違うだけである。
第一世代がいなければ、第二世代の構想を安定した仕組みとして届けにくい。
第二世代がいなければ、第一世代が作った仕組みは、既存業務の効率化だけで終わる可能性がある。
第一世代は基盤を作る。第二世代は、その基盤の上で価値を作る。
同じ人が両方の能力を持つこともある。
「世代」は人間を分類する言葉ではなく、AI人材の役割がすでに複数の方向へ広がっていることを表すための仮称である。
第二世代の能力は、現在の評価軸では見えにくい
第一世代の能力は、比較的項目にしやすい。
システムを作ったか。 業務へ導入したか。 運用を設計したか。
一方で、第二世代の能力は測りにくい。
AIとの対話によって問いを更新できるか。 複数のAIを目的に応じて編成できるか。 AIを使って新しい事業や成果物を生み出せるか。
こうした能力は、単純な「経験あり/なし」では表しにくい。 そのため、現在の評価項目から抜けやすい。
しかし、測りにくいから存在しないわけではない。
AIが一般化すれば、AIを使えること自体は特別ではなくなる。
そのとき差を生むのは、
AIを使って何を考え、何を作り、どんな価値を社会へ渡したか
になると思う。
AI人材を測る物差しを広げる
今回のアンケートを通じて感じたのは、単に自分の点数が低かったという話ではない。
「AI人材」という言葉が、企業で生成AIシステムを作る人材に寄りすぎているのではないか、ということだった。
その人材は必要である。 現在の評価軸が間違っているわけでもない。
ただ、その物差しが測っているのは、AI活用の片側だけなのだと思う。
AI人材の物差しを捨てる必要はないが、
もう一本、別の方向を測る物差しを加える必要がある。
おわりに
私はAIをかなり使っている。 でも、会社のAI活用アンケートでは高い点数にならなかった。
測られていたのが、AI活用の片側だったからだ。
これから必要なのは、どちらか一方だけをAI人材と呼ぶことではない。
異なる方向のAI活用を認識し、それぞれの能力を見えるようにすることである。
AI人材が足りないのではない。
すでに存在しているAI人材を見つけるための言葉と物差しが、まだ足りていないのかもしれない。