Rangeの共通部分（交差）を求めるメソッドが無かったので作った

背景

必要に迫られて、2つのRangeオブジェクト間の共通部分（交差）を求めるメソッドを作成しました。
なお、現状の Ruby 3.4 には、この交差を求めるメソッドはありません。てっきり、既にあると思っていたのですが（後述）
因みに、困ったときの ActiveSupport にも Range 拡張に交差を求めるメソッドは、ありませんでした。

要求仕様

• 動作環境は Ruby 3.4
  • Range#overlap? が使える前提です
• 無限範囲に対応必要
  • 始端や終端に nil を指定した、片側が無限の範囲です
• 終端を含む/含まない、に対応必要
  • exclude_end 指定があります
• Rangeの始端や終端は、比較可能
  • 今回、具体的には Date が入ります
• 空のRangeは、与えられない
  • 今回の具体的な用途による限定です

実装

range_extensions.rb

module RangeExtensions
  class Intersection
    def initialize(range1, range2)
      raise ArgumentError, 'values must be a Ranges' unless range1.is_a?(Range) && range2.is_a?(Range)
      
      @range1 = range1
      @range2 = range2
    end
    
    def call = overlap? ? intersection : nil
    
    private
    attr_reader :range1, :range2
    
    def intersection = Range.new(new_begin, new_end, new_exclude)
    
    def overlap? = range1.overlap?(range2)
    
    def new_begin = [range1.begin, range2.begin].compact.max
    
    def new_end = [range1.end, range2.end].compact.min
    
    def new_exclude = same_end? ? same_end_exclude : different_end_exclude
    
    def same_end? = end_from_range1? && end_from_range2?

    # 両者の終端が同じ場合、どちらかが exclude ならば、交差も exclude になる
    def same_end_exclude = range1.exclude_end? || range2.exclude_end?

    # 両者の終端が異なる場合、採用した終端の exclude が、交差の exclude になる
    def different_end_exclude = end_from_range1? ? range1.exclude_end? : range2.exclude_end?
    
    def end_from_range1?  = (new_end == range1.end)
    
    def end_from_range2? = (new_end == range2.end)
  end
  
  refine Range do
    def intersection(other) = Intersection.new(self, other).call
  end
end

生成AIの利用

1. まず自力でコード実装します¹
2. メジャーな複数の生成AI²に対して「このコードの解説と評価をしなさい」とだけ指示して、結果を出力
3. 得られた結果を見比べて、意図の誤解や誤読がなされていないことを確認しておき
4. 提示された改良点を理解し、妥当かどうか判断した上で
5. 参考になる部分をコードに反映し、数回の修正を実施しました

例えば以下の実装は、生成AIの提案を参考にして実装しました。
片側無限の場合、端点が nil になる可能性を踏まえて、最大/最小を求めています。

    def new_begin = [range1.begin, range2.begin].compact.max
    def new_end = [range1.end, range2.end].compact.min

使用方法

• クラス内で using RangeExtensions すると、Range#intersection が利用できます
• 共通部分（交差）が無い場合、nil を返します
• 共通部分（交差）が一点のみの場合、その一点を含むRange (n..n) を返します
• 終端を含まない場合(exclude)、終端は「範囲が重なっていない」と見做します

実行例

using RangeExtensions

# 基本的な交差
(1..8).intersection(3..10)  #=> 3..8

# 終端を含まない場合
(1...8).intersection(3..10) #=> 3...8
(1...8).intersection(3..8)  #=> 3...8

# 交差がない場合
(1..8).intersection(10..18) #=> nil

# 終端を含むか含まないかの違い
(1..3).intersection(3..5)   #→ 3..3
(1...3).intersection(3..5)  #→ nil

# 片側無限の範囲
(1..).intersection(..10)    #=> 1..10
(..5).intersection(..8)     #=> ..5
(1..).intersection(1...5)   #=> 1...5

# Date での実用例
require 'date'

period1 = Date.new(2025, 12, 25)..Date.new(2026, 1, 15)
period2 = Date.new(2025, 12, 31)..Date.new(2026, 4, 1)
period1.intersection(period2)
=> #<Date: 2025-12-31>..#<Date: 2026-01-15>
# Date内部表現は省略しています

なぜ最初から入っていないのか？

Rangeの共通部分（交差）を求める、という用途は一般的なものだと思います。また、前記のコードを実装してみて、それほど複雑ではない、という感触を持ちました。

Ruby の場合、こうしたケースだと「きっと既にあるに違いない」という予測が当たっていることが多かった³ため、Ruby 標準ライブラリ（Core）にも ActiveSupport 拡張にも、どちらにも無かった点が気になりました。
特に、Range#overlap? が以前から実装済みだった⁴ことから、きっと Range#intersection もあるに違いないと思っていたので意外でした。

この点を少し調べたところ、2020年ころに既に Issue #16757 "Add intersection to Range" として提案が出ていたものの、現時点ではOpenなままでした。

これはどうやら、汎用の仕様を決めることが難しかったらしく、

• 空集合を表現する標準的な Range オブジェクトが存在しない
  • nil だとメソッドチェーンがやりにくくなる
• 連続値（区間）と離散値（列）の違い
• Range#step の扱い
• Array#intersection との一貫性

などなど、ちょっと合意が簡単には得られない課題があるようです。
確かに、今回の実装に際して生成AIのコメントでも、仕様面や境界条件の扱いに関する指摘が多かったです。

まとめ

今回の様に、特定の用途に絞るなら、仕様の割り切りが出来るので、比較的簡単な実装が可能です。
一方で、標準に含めるためには、仕様面での課題から、難しい点が多いと思われます。

1. 私の場合、いきなり生成AIに指示してコードを実装させるより、結果的に速く仕上がることが多いためです。 ↩

2. ChatGPT、Gemini、Microsoft Copilot、Claude、を無料枠内で利用しました。 ↩

3. 経験則として「これは無いと不便だよね～みんな使うだろうし」と思う機能は、たいてい既に在りました。 ↩

4. Ruby 3.3 で Range#overlap? が導入されました。なお、ActiveSupport 拡張には、それ以前からありました。 ↩