はじめに
2026年2月25日、Solanaチェーン上に「SANAE TOKEN(SANAET)」が発行されました。NoBorder DAOが発行主体であり、発行初日には約30倍の急騰を記録し、時価総額は一時約$17M(約25億円)に達しました。
本記事では、TokenForge(マルチチェーン・セキュリティ分析プラットフォーム)の Contract Alert 機能と TX検索(Address Query) 機能を用いて、SANAE TOKENのオンチェーンデータを調査した結果をまとめます。
免責事項: 本記事はオンチェーンデータの分析に基づく技術的な調査レポートであり、当該事業への批判や投資助言を行うものではありません。すべてのデータは公開されたブロックチェーン情報と公開APIから取得しています。
1. トークン基本情報
| 項目 | 値 |
|---|---|
| Mint Address | 2ieDnfWLzrat7zGFz4qFh5FMg75WkQrvmWaAHeSZoxHZ |
| チェーン | Solana |
| 総供給量 | 1,000,000,000 SANAET |
| Decimals | 6 |
| 発行日 | 2026-02-25 |
| Creator / Update Authority | XkW4p5pnoLm2BYwMW4NHcXPPaZUbttb1QSggwJreLVy |
| Mint Authority | Revoked(追加発行不可) |
| Freeze Authority | Revoked(凍結不可) |
| Metadata | Mutable(変更可能) |
| 検証ステータス | Jupiter / RugCheck 未検証 |
| 発行体 | NoBorder DAO(代表: 溝口勇児氏) |
RugCheckのリスクスコアは 12,513点(正規化: 53/100)で、主な警告は以下の通りです。
- 単一ホルダーが34.28%を保有
- 単一ホルダーが20%を保有
- Top 10ホルダーが50%超を保有
- 14ウォレットが同額保有(相関リスク)
- Metadataが変更可能
2. トークン配分(トークノミクス)
公式サイト(japanisbacksanaet.jp)に記載されたトークン配分は以下の通りです。
| 配分 | 割合 | Cliff | Vesting |
|---|---|---|---|
| Reserve / Ecosystem | 65% | なし | なし |
| Community | 20% | なし | 2ヶ月×15回 |
| Liquidity | 10% | — | — |
| Team | 5% | 6ヶ月 | 12ヶ月 |
構造的な問題点
総供給量の65%が、ベスティングもクリフもなしで運営の手元にあるという点は、最も重大なリスク要因です。
一般的なトークンプロジェクトでは、チーム・リザーブ枠には1〜2年のクリフと段階的なベスティングが設定されます。ベスティングなしの65%は、運営者がいつでも全量を市場で売却できることを意味します。
Team枠(5%)には6ヶ月クリフ+12ヶ月ベスティングが設定されていますが、運営者はReserve枠経由で無制限にアクセスできるため、実質的な制約にはなっていません。
3. オンチェーン分析 — ウォレット構造の解明
3.1 トップホルダー分析(RugCheck)
| 順位 | オーナーウォレット | 保有量 | 割合 | 推定役割 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 75TpF4mDTC888MJC5Y7GFriibSQvGKePAhLrnZP9mwPx |
342,833,334 | 34.28% | マスターウォレット(リザーブ) |
| 2 | Eu3ZE6Q7dsV1xDSAV67tTFoBYXgYGaaTNdvFjEE1kjyS |
200,000,000 | 20.00% | コミュニティ配布枠 |
| 3 | BzCDkgjrvmpMciSkrCsnQkRJBUmPcip27174ifPXtmWe |
50,000,000 | 5.00% | チーム枠 |
| 4 | GpMZbSM2GgvTKHJirzeGfMFoaZ8UR2X7F4v8vHTvxFbL |
20,191,403 | 2.02% | Raydium CPMMプール |
| 5 | 3dnvproYP3Vf9XZwZoDzG8FVaKRZ9Fjm1y5M4r3GCr9e |
20,000,000 | 2.00% | 運営関連(端数なし) |
| 6 | 7WFJ9jvNbejgzrsK2BKpaBAy6XDFCXKNmeFRgLKqATNw |
18,696,989 | 1.87% | 一般保有者 |
| 7-20 | 14アドレス(各異なるオーナー) | 各6,222,222 | 各0.62% | 同額配布ウォレット |
第7位〜20位の14ウォレットが完全に同額(6,222,222 SANAET) を保有している点は注目に値します。合計 87,111,108 SANAET(8.71%)で、計画的な配布(エアドロップまたはSybil的構造)を示唆しています。
3.2 流動性プール(LP)の状況
| 項目 | 値 |
|---|---|
| メインプール | Raydium CPMM |
| LP総額 | $500,634 |
| LPロック率 | 99.92% |
| ロック額 | $497,621 |
| メインLP提供者 |
2RGMt9FJjPndAb9dpdjXf7H8LuXRvGVfYPb2ieaJrVo(99.92%) |
LPの99.92%がロックされている点は好材料ですが、LP提供者が1アドレスに集中している点はリスクです。
4. TokenForge Contract Alert — パターン検出結果
TokenForgeのContract Alert機能で、SANAE TOKENのmintアドレスに対する全転送(585件)を分析した結果、16件の不審アドレスが検出されました。
検出サマリー
主要な中継ウォレット(relay_chain)
| アドレス | 転送時間 | 金額(SANAET) | 備考 |
|---|---|---|---|
7SLnPzB4ncyVDrPEqAix5iq1nyUEv4rApMRTr5sb4xgK |
12秒 | 15,208 | 自動化bot疑い |
32dGnebvXtFuPK9ZsLtSSmDTmafYeHF84rkZA5bU9hsP |
77秒 | 10,867 | — |
DzYeR9ac97quBvjEwRfDHR5cqzUusxET2zRGEWE3DrjK |
98秒 | 51,584 | 高額中継 |
CvbPxVL1ld6NKgjSBaA8MC1UUaBhBHj55usr4XTfhQET |
103秒 | 7,121 | — |
GpMZbSM2GgvTKHJirzeGfMFoaZ8UR2X7F4v8vHTvxFbL |
571秒 | 935,337 | Raydium CPMM(正常動作) |
受信後12秒で全額を別アドレスに転送する7SLnPzB4ncyVDrPEqAix5iq1nyUEv4rApMRTr5sb4xgKは、自動化された中継bot(ウォッシュトレーディングまたはマーケットメイキング)の可能性が高いと考えられます。
5. TX検索 — 運営ウォレットの資金フロー追跡
5.1 LP管理者 BBAXLoSaMvTSmivJU7wPSzGbvYBARWVixr7rsXF7DBCU の分析
TX検索で53件の転送を分析した結果、このアドレスは複数DEXプールのLP管理者であることが判明しました。
| 相手プール | 送信(SANAET) | 受信(SANAET) | 差引 |
|---|---|---|---|
Raydium CPMM (GpMZbSM2GgvTKHJirzeGfMFoaZ8UR2X7F4v8vHTvxFbL) |
245,773 | 538,080 | +292,307 |
Raydium CLMM (8LN8YbdQvAD2JkELmVFPLJpAVCvRUrRxCcTPEeESkn93) |
425,256 | 303,886 | -121,370 |
Raydium CLMM (21FYFfrckXtX5Ns3thCCTiDmST5HmrJjgMUrcC4P7os6) |
401,884 | 213,238 | -188,646 |
Meteora DAMM v2 (25pmS3QuFL36vCDCKCGjoPp6GMTTsNe1CtSrSgS1Ya4g) |
74,779 | 95,488 | +20,709 |
CLMMプール2つからnet約31万SANAETを引き出し、CPMMに約29万を投入しています。CLMMからCPMMへの流動性集約、あるいは流動性の段階的縮小と解釈できます。
5.2 運営配布ウォレットの特定
TX検索により、最大保有者 75TpF4mDTC888MJC5Y7GFriibSQvGKePAhLrnZP9mwPx(34.28%)から直接トークンを受領しているウォレットを特定しました。
5by5VsZVecJuZ28mEKaJ6r8fhMpJHgBQEVfX5UXhxLwQ
- 2/25 8:41 — マスターウォレットから 250,000 SANAET を受信
- その後、Raydium CPMMに37,205を投入(LP追加)
-
7bPFysSk3XqTBzT66bEUWQPpNjpfkYaSB94bRQ4YDLE4に111,615を送信(配布または売却)
AQm8A3xdYQsW6zQvMQCNQdZobEEkMADgdJTW7v92hAzK
- 2/25 8:45 — マスターウォレットから 1,666,667 SANAET を受信
-
2RPg7tNxMRp9a6sBBf3GGN1hjMU3nSkLRCJLpZfwRS76に67,000を送信
両アドレスとも、トークン発行日(2/25)にマスターウォレットから直接受領しており、一般ユーザーのDEX購入とは明確に異なるパターンです。
5.3 運営ウォレットの全体構造
6. 運営者(NoBorder DAO)のリスク評価
6.1 代表者の経歴
NoBorder DAOの主宰者は、BreakingDown COOの溝口勇児氏という方のようです。他の番組ですが、YouTubeで拝見したことはあります。
| プロジェクト | 期間 | 概要 |
|---|---|---|
| FiNC Technologies | 2012-2020 | 元CEO |
| BreakingDown | 2021- | 商業的に成功 |
| SANAE TOKEN | 2026.2- | 本記事の調査対象 |
6.2 法規制リスク
公式disclaimerには以下の記載があります。
「現時点において、本トークンは、高市氏と提携または承認されているものではない」
一方で、プロジェクト名「Japan is Back」は高市首相のスローガンと密接に結びついており、「偶然」という説明には矛盾があります。
また、65%のReserveを継続的に売却する行為は、暗号資産交換業(資金決済法)の無登録営業に該当する可能性が指摘されています。NoBorder DAOは日本国内で暗号資産交換業者として登録されていません。
6.3 組織の透明性
「DAO」を標榜していますが、以下の点でガバナンスの実態が不透明です。
- オンチェーンガバナンス(投票、提案)の仕組みが確認できない
- Treasury管理の透明性が欠如
- 公式サイトにチームメンバーの明記がない
7. TokenForge リスクスコア(推定)
TokenForgeの検知エンジンでこのトークンを評価した場合の推定結果です。
| 検出ID | 検出名 | 重大度 | 減点 |
|---|---|---|---|
| H2 | TOP_HOLDER_OVER_50PCT | HIGH | -15 |
| H4 | SINGLE_WHALE_OVER_20PCT | HIGH | -15 |
| M4 | METADATA_MISMATCH | MEDIUM | -5 |
| M5 | SINGLE_LP_PROVIDER | MEDIUM | -5 |
| L1 | SOCIAL_MISSING | LOW | -2 |
| L4 | NOT_ON_JUPITER | LOW | -2 |
推定スコア: 56/100(HIGH リスク)
8. 運営の公式見解とオンチェーンデータの照合
2026年2月28日、NoBorder公式Xアカウント(@NoBorder公式)はSANAE TOKENに関する見解を公開しました。その中で以下の2点について言及しています。
8.1 「トークンを売却した事実はない」
公式見解では、運営ウォレットについて以下のように述べられています。
「さらに、これらのウォレットは現在に至るまで、トークンを売却した事実はありません。」
一方、TX検索で確認されたオンチェーンの事実は以下の通りです。
5by5VsZVecJuZ28mEKaJ6r8fhMpJHgBQEVfX5UXhxLwQ の転送履歴:
| 日時 | 方向 | 金額(SANAET) | 相手先 | 内容 |
|---|---|---|---|---|
| 2/25 8:41 | 受信 | 250,000 | 75TpF4mDTC888MJC5Y7GFriibSQvGKePAhLrnZP9mwPx |
マスターウォレットから受領 |
| — | 送信 | 37,205 | Raydium CPMM | DEX流動性プールへ投入 |
| — | 送信 | 111,615 | 7bPFysSk3XqTBzT66bEUWQPpNjpfkYaSB94bRQ4YDLE4 |
第三者アドレスへ転送 |
AQm8A3xdYQsW6zQvMQCNQdZobEEkMADgdJTW7v92hAzK の転送履歴:
| 日時 | 方向 | 金額(SANAET) | 相手先 | 内容 |
|---|---|---|---|---|
| 2/25 8:45 | 受信 | 1,666,667 | 75TpF4mDTC888MJC5Y7GFriibSQvGKePAhLrnZP9mwPx |
マスターウォレットから受領 |
| — | 送信 | 67,000 | 2RPg7tNxMRp9a6sBBf3GGN1hjMU3nSkLRCJLpZfwRS76 |
第三者アドレスへ転送 |
Raydium CPMMへの投入はAMM(自動マーケットメイカー)への流動性提供であり、「売却」とは異なる操作です。ただし、プールに供給されたトークンは他のユーザーのスワップを通じて市場に流通します。また、第三者アドレスへの転送が「売却」なのか「配布」なのかはオンチェーンデータだけでは判断できませんが、トークンの移動が発生している事実は確認できます。
8.2 「分散管理はハッキングリスク対策」
同一数量のウォレット(14アドレス × 6,222,222 SANAET)について、公式見解では以下のように説明されています。
「リザーブ分(エコシステム分)のトークンを一括管理するのではなく、ハッキングリスク等を抑えるために分散管理しております。こちらは慣習的に利用される方法です。」
セキュリティ目的の分散管理は確かに業界で用いられる手法です。ただし、一般的なセキュリティ分散では金額を不均等にする、あるいはマルチシグウォレットを使用するケースが多く見られます。14アドレスが完全に同額(6,222,222 SANAET) である点は、RugCheckのリスク分析でも「Correlated wallets」として検出されています。
9. まとめ
技術面の所見
SANAE TOKENは、Mint Authority / Freeze Authorityがrevokeされており、LPも99.92%がロックされているため、即座のラグプル(流動性引き抜き型)のリスクは低いと考えられます。
構造面のリスク
しかし、以下の点から構造的な「スローラグ」リスクが存在します。
- 65% Reserveにベスティングなし — 運営がいつでも全量売却可能
- Top 2ウォレットで54.28%保有 — 価格操縦が容易
- 14ウォレットが完全同額 — 組織的配布構造
- LP管理者がCLMMから流動性引き出し中 — 段階的縮小の兆候
- 12秒で転送する中継bot — 自動化されたマーケット操作の可能性
運営面のリスク
- 内閣総理大臣名の無許可使用 — 公式承認なし
- 暗号資産交換業の無登録 — 資金決済法違反の可能性
- 代表者の当該事業に関する知見のリスク — アドバイザー不在の可能性
公式見解との不整合
- 「売却事実なし」とオンチェーン記録の乖離 — 運営ウォレットからDEXプールおよび第三者アドレスへのトークン移動が確認されている
調査に使用したツール
- TokenForge — Contract Alert / TX検索 / トークンスキャナー
- RugCheck — トークンリスクレポート
- Solscan — トランザクション検証
本記事の分析は2026年3月1日時点のオンチェーンデータに基づいています。当該事業の推奨も批判も意図するものではありません。暗号資産への投資は自己責任で行ってください。
追加記事はこちらです
https://qiita.com/Rascal/items/5ecfec19007e4a89c0fc