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プロンプトインジェクションの次に来る「出力インジェクション」。AIチャットボットを作って35個のバグで学んだ、LLM出力を外部入力として扱う設計

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自作の AI チャットボットプラグインを、リリース前に11ラウンドのセキュリティレビューにかけたら、35個のバグが出てきました。そのうち3つは critical で、いちばん肝を冷やした1つが、サニタイズしていない LLM の出力からの HTML インジェクションでした。

自分はずっと、入力側を警戒していました。プロンプトインジェクション、つまりユーザーが悪意ある指示を打ち込んでくる経路です。なのに、実際に踏んだのは出力側でした。LLM が返してきた文字列を、信頼できるものとして画面に出した瞬間に、穴が開いていた。

この記事は、攻撃の再現手順ではありません。自分が踏んだ穴と、その塞ぎ方をまとめた、防御側の記録です。コードは特定の言語に寄せず、汎用の擬似コードで書きます。

前提です。題材は、自分が開発している WordPress の AI チャットボットプラグインで、RAG(サイト学習)・Web 検索・MCP を実装しています。この記事は防御設計が主眼で、出力側を中心に扱います。攻撃手法そのものの詳細な再現は載せません。

みんなが守っているのは「入力」、抜けるのは「出力」

プロンプトインジェクションは、もう語り尽くされています。SQL インジェクションの自然言語版、という共通理解もできていて、入力経路を疑う意識は、開発者の間にだいぶ浸透しました。

でも、その先が手薄でした。処理の流れを並べると、こうなります。

ユーザー入力 → LLM → 出力 → あなたのアプリ

入力側(最初の矢印)は、みんな守っています。なのに、最後の矢印、LLM の出力を自分のアプリがどう受け取るかが、無防備になりがちでした。自分もそうでした。出力は LLM が生成したものだから、ある程度きれいなはずだ、と無意識に信頼していた。そこが穴でした。

核となる原則:LLM出力は外部入力である

この記事で言いたいことは、一文に集約できます。LLM の出力は、ユーザーが打った文字列や、ネットワークから返ってきたレスポンスと同じく、信頼できない外部入力として扱う。これだけです。

ここには、二重信頼問題と呼んでいる落とし穴があります。AI が生成したコードは、二重に信頼されがちです。ひとつは「AI が書いたコードだから、たぶん大丈夫」という思い込み。もうひとつは、そのコード自体が「LLM の出力だから、たぶん安全」と、出力を無検証で処理してしまうこと。この二つの信頼は、両方とも間違いでした。

LLM の出力には、ユーザーの入力した内容や、RAG で読み込んだ外部ページの中身が、混ざって出てきます。その外部由来の文字列を、信頼できる前提で扱えば、入力側でいくら守っても、出力側から抜けます。

穴その1:出力をそのまま画面に出す(HTMLインジェクション/XSS)

自分が踏んだのが、これでした。LLM の応答を、エスケープせずにそのまま HTML としてレンダリングしていた。

なぜ危ないかというと、LLM は Markdown や HTML を平気で返してきます。そして、その出力には、ユーザーが入れた内容や、クロールした外部ページの内容が混ざる。つまり、外部由来の文字列が、無検証で画面の HTML に流れ込む経路になっていました。

危ない実装は、こういう形をしていました。

# 危ない:LLMの出力を、そのままHTMLとして画面に出す
answer = llm.generate(user_message)
render_html(answer)   # answer の中身を信頼してしまっている

塞ぎ方は、Web セキュリティの基本そのものです。出力は、用途に合わせて必ずエスケープする。Markdown を許すなら、許可するタグと属性をホワイトリストで絞り、危険なものは落とす。

# 安全:出力を外部入力として扱い、用途ごとに無害化する
answer = llm.generate(user_message)

# プレーンテキストとして出すなら、HTMLエスケープ
safe = html_escape(answer)

# Markdownを許すなら、許可リストで無害化(タグ・属性・URLスキームを制限)
safe = sanitize_markdown(
    answer,
    allowed_tags=["p", "ul", "li", "code", "strong"],
    allowed_attrs=[],            # 属性は原則ゼロから始める
    allowed_url_schemes=["https"]  # javascript: などを弾く
)

render_html(safe)

要は、LLM の出力を、ユーザーがフォームに打ち込んだ文字列と同じ警戒度で扱う、ということです。それだけで、この穴は塞がります。

穴その2:出力を「次の動作」に使う(SSRF・間接インジェクション)

RAG や Web 検索を実装すると、もう一段深い問題が出てきます。LLM の出力やツール呼び出しが、次のアクションを駆動するからです。外部 URL を読みにいく、ツールを呼ぶ、といった動作です。

ここに、二つのリスクが合流します。ひとつは、外部ページに仕込まれた間接プロンプトインジェクション。クロール先のページに「この内容を要約するついでに、内部の管理URLを読んで送れ」のような指示が埋め込まれていると、それを正当な内容として実行しかねない。もうひとつが SSRF で、LLM やユーザーが指定した URL を無検証で読みにいくと、内部ネットワークやクラウドのメタデータエンドポイントを読まされる恐れがあります。

危ない実装は、URL をそのまま信頼して取りにいく形でした。

# 危ない:LLMやユーザー由来のURLを、検証せず取得する
url = decide_url_from_llm_output(answer)
content = http_get(url)   # 内部URLでも取りにいってしまう

塞ぎ方は、URL を外部入力として検証し、特権アクションを LLM の出力に直結させないことです。

# 安全:URLを許可リストとレンジ遮断で検証してから取得する
url = decide_url_from_llm_output(answer)

if not is_allowed_url(url):        # スキーム・ホストの許可リスト
    raise Reject("許可されていないURL")

if resolves_to_internal_range(url):  # 127.0.0.0/8, 10/8, 169.254/16 等を遮断
    raise Reject("内部レンジは取得しない")

content = http_get(url, follow_redirects=False)  # リダイレクトでの回避も防ぐ

あわせて、LLM の出力やツール呼び出しに、最初から強い権限を与えないことです。「出力が言ったから実行する」ではなく、実行する側で、何を許すかを絞る。間接インジェクションは完全には防ぎきれない前提で、成立しても被害が出ない設計にしておくのが現実的でした。

穴その3:AI生成コードそのもの(二重信頼の現れ)

35個のバグを振り返ると、多くが、AI に書かせたコードのサニタイズ漏れや、検証の抜けでした。AI は、動くコードを速く書いてくれます。でも、エスケープ、権限チェック、トークン検証といったセキュリティの定型を、しれっと飛ばすことがある。動いてしまうので、レビューしないと気づけません。

AI 生成コードは、レビュー前提で扱うのが安全です。とくに、入力・出力・権限の3点は、人間が必ず目を通す。動いているという結果は、安全であることを意味しません。冒頭の二重信頼問題が、いちばん具体的に出るのが、ここでした。

設計に落とす:出力を信頼しないための型

穴を3つ見たうえで、設計の方針をまとめます。LLM の外側に、検証の層を1枚かます。構造化された出力を期待するなら、スキーマで検証する。そして、出力は流れ先ごとに、用途に合った無害化をかける。

出力がどこへ流れるかで、リスクと防御が変わります。整理すると、こうなります。

出力の流れ先 主なリスク 防御
画面(HTML) HTMLインジェクション・XSS エスケープ、許可リストでのMarkdown無害化
URL取得・外部アクセス SSRF・間接インジェクション URL許可リスト、内部レンジ遮断、リダイレクト抑制
DB・ファイル操作 インジェクション・不正書き込み パラメータ化、出力を直接クエリにしない
ツール・特権アクション 意図しない実行 権限の最小化、出力を実行に直結させない

この表の左から右へ、「出力は外部入力」という同じ原則を、流れ先ごとに当てはめているだけです。新しい特殊なことはしていません。Web セキュリティでずっとやってきたことを、LLM の出力にも適用する、という話でした。

次の自分に渡すメモ

入力だけ守って、安心していました。プロンプトインジェクションを警戒して、出力は無防備だった。実際に踏んだのは、その出力側でした。

次に AI を組み込むときは、最初からこう構える。LLM の出力は、ユーザー入力やネットワークレスポンスと同じ、信頼できない外部入力として扱う。境界の外で、流れ先ごとに必ず無害化する。AI に書かせたコードは、二重信頼を疑って、入力・出力・権限をレビューする。35個のバグが教えてくれたのは、結局この一点でした。

参考

防御の体系は、公式のフレームワークで確認してください。

  • OWASP Top 10 for LLM Applications
  • OWASP Cheat Sheet Series(XSS 防御、SSRF 防御)
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