はじめに
近年、AIエージェントを活用して自作のナレッジベースやObsidian上のデータベース(セカンドブレイン)を自動構築・運用する取り組みが盛んになっています。特にGoogleの「Antigravity」やAnthropicの「Claude Code」、OpenAIの「Codex」といったCLI/IDE型AIエージェントを組み合わせたマルチエージェント体制は、個人の開発効率を何倍にも引き上げてくれます。
しかし、開発が順調に進んでいたある日、エージェントの爆速な処理能力と人間の曖昧な指示が噛み合い、構築中だったObsidian DBやエージェントの共有メモリ(.md)が誤って上書き・全消去されるという大惨事が発生しました。
本記事では、このリアルな失敗談をもとに、なぜデータ消失が起きてしまったのか、どのように地獄からリカバリーしたのか、そして今後のAIエージェント運用で学んだ**「3つの鉄則」**を共有します。
1. 失敗の全貌:なぜデータとメモリは消失したのか?
今回のトラブルは、Obsidian内でのセカンドブレイン構造の再構築と、各AIエージェントの動作ルールを定義した「インストラクションメモ(CLAUDE.md, GEMINI.mdなど)」の更新を行っている最中に発生しました。
原因を分析すると、以下の3つの要素が重なっていました。
1-1. 分散セッションによるコンテキストの迷子
大型のDB構築やディレクトリ再編を複数の会話セッションに分けて実行依頼していたため、「どの会話でどのノートを生成・接続したか」の全体像を人間側が追跡不能になりました。結果として、依存関係が断ち切られた状態でAIが孤立したノートを上書き・削除してしまう事態に陥りました。
1-2. 指示不足によるメモリ(.md)の事故上書き
AIエージェントの行動規範や環境設定を記録している.mdファイルを更新する際、追加・修正指示のプロンプトが雑だったため、エージェントが「ファイル全体の書き換え」と解釈。過去に積み上げてきた重要な共有記憶や制約ルールが、そっくりそのまま白紙化・上書きされてしまいました。
1-3. Antigravityと他エージェントの特性差の見落とし
これが最大の間違いでした。Claude CodeやCodexはある程度「人間の行間(文脈の意図)」を汲み取って安全側に倒す傾向があります。しかし、Antigravityは指示に対して非常に忠実かつ爆速でコードやファイルを書き換えます。エージェントの「解釈力」に甘え、雑な指示を出した結果、ダイレクトに壊滅的な破壊につながってしまったのです。
2. 地獄からのリカバリー手順
データとメモリが消失した直後は絶望的でしたが、以下のステップを踏むことで無事に構造を復旧させることができました。
ステップ1:全フォルダの再走査とコンテキスト総動員
最後の手段として、Obsidian内のすべてのディレクトリをAIエージェントに再読み込みさせました。さらに、残っていたログ、別セッションの会話履歴のテキストやスクリーンショットなど、集められるすべての情報をAIにインプットし、「かつて存在したDB構造」の推論と再作成を依頼しました。
ステップ2:いきなり編集させない「思考プロセス出力プロンプト」の導入
二の舞を防ぐため、ファイルを直接編集・作成させる前に、必ず以下の内容をテキストで出力させる運用へと変更しました。
- 何をどう判断したか(判断基準)
- 既存のノートやDB構造とどのように接続する決断をしたか
AIが提示した設計・接続方針を人間が確認し、問題がないと承認を出してから初めてファイル編集を実行させるガードレールを設けました。
3. 失敗から得た「AIマルチエージェント運用・3つの鉄則」
この失敗から得られた、AIエージェント(特にAntigravityなどの爆速ツール)と安全に付き合うための鉄則は以下の3点です。
鉄則1:DB構築は可能な限り1セッションで完結させよ
依存関係が複雑なデータベースやナレッジグラフの初期構築・大規模改修は、セッションを分けずに単一のセッション内でやり切りましょう。万が一トラブルが起きた際も、同一セッション内であれば過去の履歴から原因特定とロールバックが容易になります。
鉄則2:メモリ系.mdの変更前にはバックアップを取れ
CLAUDE.mdやGEMINI.mdなど、AIエージェントの挙動を左右するファイルや共有記憶ノートを編集する際は、どれだけ軽微な変更であっても手動またはGitでバックアップを取得しましょう。「指示の甘さひとつで記憶が消える」という前提で扱う必要があります。
鉄則3:Antigravityには「思考を出力させてから」動かせ
処理スピードが速いエージェントほど、走り出す前に手綱を引く必要があります。「いきなり編集させる」のではなく、「何をどう判断し、どう接続するか」をまず出力させ、人間の合意を得てからファイル書き込みを行わせることが、悲劇を防ぐ最強の予防策です。
おわりに
AIエージェントは非常に強力で頼もしい相棒ですが、その高い処理能力の裏には、人間側が適切なプロンプトとガードレールを用意する必要性があります。
「爆速なAIほど指示は慎重に」「メモリのバックアップは怠らない」。今回の失敗談が、AIとともにセカンドブレインや自動化システムを構築するエンジニアの皆さんの参考になれば幸いです。