はじめに
「ローカルLLMは、高性能なGPUを搭載した特別なPCでなければ使えない」
私自身、少し前までそう思っていました。しかし今回、一般的な M1 Mac・メモリ16GB にLM Studioを導入し、Qwen3.5-9BとQwen3.5-4Bを試したところ、その認識が大きく変わりました。
結論から言えば、次の構成なら十分に実用的です。
- 品質重視:Qwen3.5-9B MLX 4bit
- 速度重視:Qwen3.5-4B MLX 4bit
特に4Bは軽快で、一般的な質問、文章作成、要約、アイデア整理なら大きな不満を感じませんでした。
この記事では、導入の過程で試したモデル、速度差、つまずいた点、ベンチマークの見方、そしてローカルLLMのセキュリティ上のメリットをまとめます。
検証・記載内容は2026年8月時点のものです。LM Studioやモデルの更新により、画面・挙動・性能が変わる可能性があります。
検証環境
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| PC | Apple Silicon搭載Mac |
| チップ | M1 |
| ユニファイドメモリ | 16GB |
| アプリ | LM Studio |
| GGUF Runtime | Metal llama.cpp |
| MLX Runtime | LM Studio MLX |
| 主なContext Length | 4096 |
LM Studioは、モデルの検索、ダウンロード、チャット、設定変更までをGUIで行えるローカルLLM実行環境です。ダウンロード済みモデルとの通常のチャットは、インターネット接続なしでも実行できます。
最初に試したのはQwen3.8-27Bの低ビット量子化版
きっかけは、「Qwen3.8-27Bの2bit級量子化版なら、16GBのMacでも動く」という情報でした。
実際に試すと、モデルを動作させること自体はできました。しかし、生成速度はおよそ 2トークン/秒。技術的には動いていますが、日常的なチャット用途には待ち時間が長く感じます。
ここで得た最初の気付きは、次の点です。
「メモリに載る」ことと「快適に使える」ことは別である。
27Bモデルを極端に量子化すれば16GB環境でも読み込める可能性があります。しかし、速度と量子化による品質低下を考えると、必ずしも最適解ではありません。
なお、2026年8月時点で正式公開されているローカル向けQwen3.8の小さいモデルは27Bです。LM StudioもQwen3.8-27Bのモデル容量を約16.1GB、最低システムメモリを16GBとしています。OSやKVキャッシュの使用分まで考えると、M1・16GBで4bit版を快適に扱うのは厳しい条件です。
Qwen3.5-9B GGUF Q4_K_M:品質は良いが速度は約5トークン/秒
次に試したのが Qwen3.5-9B GGUF Q4_K_M です。
27Bより大幅に軽くなり、回答品質もかなり優秀でした。一方、私の環境では生成速度が約 5トークン/秒。利用できない速度ではありませんが、長い回答を待つ場面では少しつらさがあります。
この段階では、次のような評価でした。
| 項目 | 感触 |
|---|---|
| 日本語品質 | 良好 |
| 一般知識 | 良好 |
| 分析・推論 | かなり使える |
| 生成速度 | やや遅い |
| 実用性 | 用途を選べば使える |
転機はMLX版への切り替え
Apple Siliconでは、GGUF+llama.cppだけでなく、Apple Silicon向けに最適化された MLX 形式を利用できます。
そこで同じ9Bモデルを、Qwen3.5-9B MLX 4bit に切り替えました。
結果は明確で、GGUF版より体感速度が改善し、回答品質とのバランスも良好でした。M1・16GBで使うなら、Qwen3.5-9BはMLX 4bitが本命だと感じます。
モデル容量の目安は約5.95GBです。16GBのユニファイドメモリでも、Context Lengthを4096程度に抑えれば、通常利用に十分な余裕を確保できます。
Qwen3.5-4B MLX 4bit:一般用途なら驚くほど実用的
さらに軽い Qwen3.5-4B MLX 4bit も試しました。
こちらは約3GBのモデルで、9Bより明らかに軽快です。一般的な質問、文章作成、要約、アイデア出しでは、想像していたほど9Bとの差を感じませんでした。
もちろん、4Bが常に9Bと同じ品質というわけではありません。複雑な条件を含む指示、技術的な検討、長文全体の整合性、プログラミングなどでは9Bのほうが安定します。
私の使用感を整理すると、次のようになります。
| 用途 | 4B | 9B |
|---|---|---|
| 一般的な質問 | ◎ | ◎ |
| メール・文書の下書き | ◎ | ◎ |
| 要約・箇条書き整理 | ◎ | ◎ |
| アイデア出し | ◎ | ◎ |
| 複数条件を含む分析 | ○ | ◎ |
| 技術文書・仕様検討 | ○ | ◎ |
| 数学・論理推論 | ○ | ◎ |
| コーディング | △~○ | ○~◎ |
| 応答速度 | ◎ | ○ |
そのため、現在の推奨運用は次のとおりです。
- 普段使い:Qwen3.5-4B MLX 4bit
- 重要な分析:Qwen3.5-9B MLX 4bit
どちらか一方を削除する必要はありません。両方保存してもモデルファイルは合計約9GBで、使用時に必要なモデルだけをロードすれば済みます。
ベンチマークでは4Bと9Bの差が意外に小さい
Artificial Analysis Intelligence Indexでは、各モデルについて次のスコアが掲載されています。Reasoningの有無が異なるため、表にも評価条件を併記します。
| モデル | Intelligence Index | Reasoning | 備考 |
|---|---|---|---|
| GPT-4o(2025年3月版) | 12 | なし | 推定値 |
| GPT-4.1 | 20 | なし | 推定値 |
| Qwen3.5-4B | 20 | あり | 推定値 |
| Qwen3.5-9B | 22 | あり | 独立評価 |
| Qwen3.5-27B | 35 | あり | 推定値 |
| Qwen3.8-27B | 52 | あり | 独立評価 |
4Bと9Bの差はわずか2ポイントです。一般用途で4Bが十分使えると感じたこととも整合します。
ただし、この数値は正答率ではありません。また、私が使用しているMLX 4bit版をM1上で直接測定した値でもありません。Thinkingの有無、量子化、プロンプト、実行環境によって実際の性能は変わります。
もう一つ驚いたのが、少し前まで最高水準だったクラウドAIとの比較です。GPT-4oは2024年5月にOpenAIの新しいフラッグシップモデルとして発表されました。現在の同指数で再評価すると、GPT-4oの2025年3月版が12、後継のGPT-4.1が20です。Qwen3.5-4Bの20はGPT-4.1と同点で、GPT-4oを上回っています。
つまり、約2年前にはクラウドで提供される最高水準クラスだった生成AIに近いテキスト推論性能が、約3GBのモデルとして手元のM1 Macで動いている、という見方ができます。ローカルLLMの進歩を実感するには、非常に分かりやすい比較だと思います。
ただし、これは現在のArtificial Analysis Intelligence Index上での比較です。同指数はエージェント、コーディング、科学的推論などを重視しており、数値だけで「Qwen3.5-4Bは総合的にGPT-4oやGPT-4.1と完全に同等」とは断定できません。またQwen3.5-4BはThinkingあり、GPT-4oとGPT-4.1はThinkingなしで評価されているという条件差もあります。
QwenはThinkingを使った難しいテキスト推論に強い一方、ChatGPTにはWeb検索、コード実行、音声、各種ツール連携など、モデル以外の機能があります。比較するときは「モデル単体」と「サービス全体」を分けて考える必要があります。
インストール時につまずいた点:Thinkingが常にONになった
MLX版を最初にインストールした際、LM Studio上でThinkingの選択ができず、常にThinkingが動作する状態になりました。
原因として考えられたのは、Hugging Face上のMLXモデルをURLで直接指定したため、LM Studio側のモデル設定情報が正しく適用されなかったことです。
一度モデルを削除し、LM Studio公式カタログからインストールし直すことで解決しました。
推奨するインストール方法
- LM StudioのRuntimeを最新版にする
- LM Studio公式モデルページを開く
- 「Use Model in LM Studio」を押す
- ダウンロード形式で「MLX 4bit」を選ぶ
- 新しいチャットを作り、対象モデルを選択する
公式モデルページはこちらです。
選択するモデルは次のものです。
lmstudio-community/Qwen3.5-9B-MLX-4bit
lmstudio-community/Qwen3.5-4B-MLX-4bit
Hugging FaceのURLを直接入力する方法でもモデル自体は導入できますが、Thinking切替などLM Studio独自設定を確実に使いたい場合は、公式カタログ経由が安全です。
M1・16GBで最初に設定した値
まずは次の設定から始めました。
| 設定項目 | 推奨値 |
|---|---|
| Context Length | 4096 |
| Max Concurrent Predictions | 1 |
| Thinking | 通常はOFF |
| Vision | 画像を扱うときだけON |
| Speculative Decoding | 最初はOFF |
| その他 | 原則として初期値 |
MLXでは、GGUFのようにGPU Offloadの層数を細かく設定する必要はありません。
Context Lengthは大きいほどよいわけではありません。モデル上は非常に長いContextに対応していても、実際にはKVキャッシュが増えてメモリを消費し、処理も重くなります。通常のチャットなら4096、長い資料を扱うときだけ8192以上を検討するのが現実的です。
ローカルLLMはWeb検索できない。しかし、それが安全性になる
LM Studioでダウンロード済みQwenを通常のチャットとして使う場合、モデル自身はWeb検索しません。学習済み知識と、ユーザーが入力・添付した情報だけを使って回答します。
これは不便な面もありますが、社内利用では大きな利点になります。
- 入力した文章を外部AIサービスへ送らない
- PDFなどの文書処理もローカルで完結できる
- インターネットを切断した状態でも利用できる
- 製品仕様、品質情報、会議資料などを扱いやすい
LM StudioはMCPサーバーを追加することでWeb検索や外部ツール連携も可能ですが、その場合は検索語やデータが外部サービスへ送られる可能性があります。
実務では、次の2モードに分けるのが分かりやすいと感じました。
完全ローカルモード
- 社内文書の要約
- 品質報告の整理
- アイデア検討
- 文章の下書き
- 機密情報を含む作業
外部AI・Web検索モード
- 最新ニュース
- 法改正や市場情報
- 製品価格
- 公開情報の調査
「何でも一つのAIに任せる」のではなく、情報の機密性と鮮度によって使い分けることが重要です。
WindowsではMLXではなくGGUFを使う
MLXはApple Silicon向けです。Windowsで同じQwen3.5-4Bを使う場合は、通常は GGUF Q4_K_M を選びます。
ただし、空きRAMが5GB程度しかないWindows PCでは、4Bでもかなりギリギリです。Context Lengthを2048から始め、ThinkingとVisionをOFF、同時生成数を1にする必要があります。
WindowsではCPU、専用GPU、VRAMの有無によって速度差が大きいため、「4Bだから必ずM1と同じ速度になる」とは限りません。
なぜ2020年発売のM1で、今になってローカルLLMが快適になったのか
M1が突然高速化したわけではありません。後から次の条件が揃いました。
- 4bit量子化によりモデル容量が小さくなった
- llama.cppやMLXがApple Siliconへ最適化された
- 4B~9Bの小型モデル自体が大幅に賢くなった
- LM Studioによって導入と設定がGUI化された
技術者が試行錯誤しながらローカルLLMを動かし始めたのは2023年頃です。一般ユーザーでも扱いやすくなったのは2024年以降、日本語で高品質な小型モデルを快適に使えるようになったのは2025~2026年と考えるのが自然です。
今回使ったQwen3.5-4B/9Bが公開されたのは2026年3月です。つまり、M1・16GBでこの水準の回答を得られるようになったのは、ごく最近です。
まとめ
今回の検証で最も大きかった気付きは、次の5点です。
- M1・16GBでもローカルLLMは実用品になる
- 動く最大モデルより、快適に動く適正サイズを選ぶべき
- Apple SiliconではMLX 4bitが有力
- Qwen3.5-4Bは一般用途で想像以上に優秀
- Web検索できない完全ローカル構成は、機密情報を扱う際の強みになる
現在の私の推奨構成は、以下のとおりです。
| 優先事項 | 推奨モデル |
|---|---|
| 速度・普段使い | Qwen3.5-4B MLX 4bit |
| 品質・複雑な分析 | Qwen3.5-9B MLX 4bit |
| Qwen3.8の検証 | 16GB機では実験用途に限定 |
ローカルLLMは、クラウドAIを完全に置き換えるものではありません。しかし、外部へ出したくない情報を扱う「安全な思考補助ツール」としては、すでに十分実用段階に入っています。
古いM1 Macが、これほど有効な生成AI端末になるとは予想していませんでした。今後、小型モデルと推論エンジンの進化が続けば、一般的なPCにローカルAIが常駐する使い方は、さらに広がっていくと思います。
参考リンク
- LM Studio:Offline Operation
- LM Studio:Qwen3.5-4B
- LM Studio:Qwen3.5-9B
- LM Studio:Qwen3.8
- Qwen3.5-4B MLX 4bit
- Qwen3.5-9B MLX 4bit
- Artificial Analysis:Qwen3.5-4B
- Artificial Analysis:Qwen3.5-9B
- Artificial Analysis:Qwen3.8-27B
- Artificial Analysis:GPT-4o(2025年3月版)
- Artificial Analysis:GPT-4.1
- OpenAI:Hello GPT-4o