第63回宇宙科学技術連合講演会[主催 日本航空宇宙学会 2019/11/06-08 アスティとくしま(徳島市)]に11/7~8の2日間参加しました。 聴講した講演の中から超小型衛星/CubeSatの主制御を行うOBC(OnBoard Computer)について記します。
全体を通して
もう、FPGA搭載はあたり前になったようです。放射線に対する信頼性の点で使われないというイメージだったのですが、古い話だったのかもしれません。インタフェースや信号処理に用いるとCPUよりも高速化できますし、カスタマイズができますから、利点は計り知れません。ただ、SoCではなく、CPU + FPGA という使われ方のようなので、CPUはFPGAとバス接続ができるものに限定されてくると思います。
ユーザサイドとして、放射線耐性への関心が高いようで、ボードやモジュールを開発するにあたってはトータルドーズとシングルイベントの試験結果が問われていた。
講演より
2M12 並列処理指向型光再構成型ゲートアレイVLSIにおける回路実装
〇伊藤 嘉俊,渡邊 実(静岡大)
FPGAのコンフィグレーションはリセット解除毎に行う必要があり、データ転送をシリアルで内部回路上を数珠つなぎで行うため、放射線によりどこかがダメージを受けるとコンフィグレーションができなくなるという欠点がある。コンフィグレーションの手段として、ゲートアレイ上に発光素子を配置し、発光によって書き込むしくみのようである。
2M13 超小型衛星搭載用ソフトコアプロセッサの検討
〇名座 広一,伊与田 健敏(創価大)
Negai☆(2010年打ち上げ)以来の衛星で、民生品FPGAの宇宙実証を目指す。
FPGAのプロセッサコアとしてRISC-V(32IM)を採用、ARMと比べ、オープンソース、簡潔性が高い、モジュラー型で粒度が高いという利点がある。一方、ソフトウェア開発環境はLinux(Ubuntu)上でクロスコンパイルとなり、環境構築に苦労したそうだ。
MAX10+RISC-Vコアの構成(うろ覚え)で、CanSatの投下実験を行った。SPI I/Fの不調でSDにデータが記録されなかったが、現在この問題は解消された。
3K06 高機能CubeSat用OBCの軌道上実証
谷本 和夫,萱場 英毅,〇永峰 健太(明星電気)
明星電気さんはこれまでに宇宙機搭載用デバイスを開発してきたが、CubuSat用OBCの問い合わせを数多く受けている。CubuSat用のOBCは数多くあるもののユーザは海外製品や内製化に頼っているのが現状だそうである。
ユーザの要望として
- カスタマイズできる
- ミッションが多様でありそのまま使えることはまれ
- 軌道上実績や信頼性がある
- OBCの実証が目的ではないので、実績のあるものを利用したい
- 国産である
- クイックレスポンスや輸出入管理の問題
が挙げられる。
そこで、CubeSat用OBCを革新的衛星技術実証2号機で打ち上げられる3U CubeSatに搭載し、軌道上実証を行う。
PC/104規格に穴位置を合わせた2段スタック、CPUはSH2の車載用グレード(国立大学の衛星すら具体的なデバイスを明かさないなか型名を外部公開するのはめずらしい)で、FPGAによりデバイスとのインタフェース(UART, SPI, GPIO, etc.)が提供される。また、通信プロトコル(?)としてCCSDSがサポートされる。ユーザが利用できるようドライバAPIとサンプルプログラムが提供される予定。
FPGAも車載用なら宇宙でもいけそうとのことだった。
3K07 高専連携技術実証衛星KOSEN-1について
〇今井 一雅(高知高専),平社 信人(群馬高専),高田 拓(高知高専),北 村 健太郎(徳山高専),中谷 淳(岐阜高専),村上 幸一(香川高専),徳光 政弘(米子高専),KOSEN-1 チーム
高専スペース連携のCubeSatとして、こちらも革新的衛星技術実証2号機で打ち上げられる予定
メインOBCは、Raspberry Pi ZEROをSO SIMMカードのようにしたRaspberry Pi Compute Module (CM1)とCM1用アダプタボードを元に(?)CubeSat用にカスタマイズした「CubePi」からなる。CM1は、ZEROのピンヘッダよりもI/Fが拡張されているようだ。
メインミッション
-
DUALリアクションホイール
逆方向に回転させると打ち消しあう性質があるので、回転に差を持たせることにより高精度の姿勢制御が可能になる。また、使用しないときは回転を止める使用しないときは停止できる。 -
木星電波の観測
巻き尺方式で収納したダイポールアンテナを展開し、ダウンコンバータ+SDRで受信する。
通信系は西無線の送信機+受信機+CubeCom(I/Fボード)。西無線は小型化されたあたらしいものとのこと
3K08 ソニー製 超低消費電力プロセッサ搭載ボード「SPRESENSE」の宇宙へのチャレ ンジ
〇太田 義則(ソニーセミコンダクタソリューションズ),堀井 昭浩(ソニー)
- SPRESENSE
- ARM Cortex-F4Fコアを6個を搭載した低消費電力マイコン
- オープンソースハードウェアとして各社から対応したモジュールが出されている。
- 宇宙用ではなく民生用
- 放射線耐性は、500km軌道上のシングルイベントで、マイコンが月に1回程度、カメラは1回未満となっている。
- 搭載にあたってはJAXAのサポートにより多数決回路等を搭載する。
目的「宇宙を近くする。AIを身近にする」
- GUIツールで作詞絵したAIをSPRESENSEで動作させることができる。
- 軌道上で撮影した地球画像を地上で学習させ、位置を割り出したり、収集したデータとサンプルをデータセットとして公開し、活用してもらったりコンテスの開催を考えているようだ。
本記事は、講演の聴講メモを元にしており、記憶違い、聞き違いにより記述内容に誤りがある恐れがあることをお断りしておきます。