生成AIはエンジニアの開発体験を劇的に向上する一方、過度に流行っている気がするので、ちょっと批判的な記事を書いてみます。結論はどこでもありがちな「AIは結局ツール」論です。あくまで持論で、反論等大歓迎です。
エンドユーザーは何を得た?
生成AIが台頭して3年、エージェント型AIが台頭して1年経過しました。ここでAI台頭以前から展開しているサービスのエンジニアに質問ですが、AI発展によりそのサービスのエンドユーザーに対して劇的な付加価値を与えることができましたか?
業界によりますが、教育系や翻訳系など生成AIと親和性の高いサービスであればYESと答える方もいる一方、大半はNOと答えるのではないでしょうか。
NOだとしても悲観すべきではありません。ほとんどの既存サービスは何も変わっていません。そもそも、それが生成AIの限界です。
メルカリの例
2026年3月、メルカリで生成AIを活用した新機能が提供されましたが、意味不明で全く話題になっていません。
https://about.mercari.com/press/news/articles/20260227_aisearch/

突っ込む気にもなれませんが一応突っ込みます。
- 生成AIで価格フィルタ?価格スライダーで一瞬だし明確
- 使用状態を言語化?「新品同様=S」、「美品=A」、「良品=B」、などの文化が既に定着していて十分だし、今更曖昧な言語化に戻るのはもはや退化
- 並び替えは並び替えボタンで十分
- 条件設定はフィルタ機能で十分。あんしん鑑定利用可のチェックボックスはあるしそれで十分
どんなECサイトにも古くから存在する機能で、かつ生成AIとの親和性も無く、当然AI活用を誰からも期待されていない機能を、なんとなく作ってみましたというような印象です。
高収入で優秀なエンジニアが集まるメルカリで大真面目にこんなズッコケ機能を実装しているのはちょっと笑えます。トップダウン的に上層部が「何とか生成AIっぽい機能を実装しろ」と指示し、現場は機能の有用性など度外視にとにかくパフォーマンス的にやっただけ感が満載です。このような光景は日本中のいたる企業で見られるでしょう。
メルカリへの悪口みたいになっていましたが、むしろ逆です。AIと親和性の高い教育などの分野でない限り、既に洗練されているサービスに対して、生成AIを活用して更なるユーザー体験向上に繋げることは困難です。
普段皆さんが使うサービスは生成AI発展前後で何か変わって体験向上しましたか?私が普段使うAmazon、楽天、Netflix、各種SNS、LINE、各種銀行証券決済系アプリ、Kindle、Uber、などには優秀なエンジニアが満載でしょうが、私はユーザーとしての体験価値が生成AI前後で変わった覚えはありません。
エンジニア開発体験向上をエンドユーザーへ還元できてる?
こう思う人もいるでしょう。「AIにより、世の中のITサービスを作っているエンジニアの開発体験が劇的に向上している」。確かにそうです。エンジニアの実装コストはここ数年で、劇的に短縮されています。では、それはエンドユーザーへの体験価値へ還元できていますか?YESと自信満々に答えられるエンジニアは、多くはいないと思います。
実装コスト圧縮の分エンジニアを解雇してサービス価格を値下げできていれば、ユーザーへ一定貢献できているでしょう。ですが私の普段使うサービスが値下げされた覚えはありません(円安やインフレも絡むので一概的に過去の価格と比較できませんが)。メルカリの手数料も10%のままです。
実装コスト短縮分、いろんな新機能を展開してユーザー体験向上に繋げることができれば理想ですが、それも困難です。それについては次章で述べます。
「誰でも実装時代」に入って早数年。一般市民の実生活は何か変わったか?
現代は「良いアイデアさえあれば、個人でもアプリを作り、App Store や Google Play Store に公開し、広告収入や課金収入を得られる時代」です。
昔はアプリ開発に「やる気」と「時間」が必要だったが、今はもう「やる気」だけでOK。しかし現実には、生成AI発展後に便利なアプリが爆発的に増え、社会が大きく変わったという感覚はあまりないですよね。アプリのDLランキング、セールスランキングを見ても、個人が生成AIで作ったようなアイディア便利アプリなんて無いです。
生成AI発展後は特に、「本当に価値ある仕様」自体が希少になっています。ツールもプログラムもサービスもアプリも飽和しています。社会は「作れない」では止まらず、「何を作れば刺さるか分からない」で止まっています。前章の最後に書いた内容の続きですが、結局、実装コストを短縮しても他の有用な新機能の展開には繋がらないんです。ボトルネックは実装ではない時代なので。今、私の手元のスマホ計算機アプリは100桁まで計算できます。これが10000桁まで計算可能になっても私の生活が1ミリも変わらないのと似ています。そこがボトルネックじゃないから。
生成AIで社会の実装コストがこれ以上短縮されても非エンジニアの一般市民の生活は変わりません。もう、そこがボトルネックの時代は終わったんです。
過去の革命と比べればショボすぎる
今のAI程度でシンギュラリティだなんだと騒ぐのはあまりに過剰反応です。
IT革命では、家で何でも買い物ができるようになりました。スマホ革命により、ネットにさえ繋がれば世界中どこでも情報伝達は何でもできます。(ガラケー時代にもできていましたが、スマホにより体験価値が大幅向上していることは誰にでもわかると思います)。また、革命というよりは日進月歩の技術向上ですがストレージの進化により、大容量の動画・音楽・画像がポケットに入るようになりました。スマホのバッテリ容量拡大や省電力化も市民の体験価値に直結します。では、生成AIで一般人は何が変わりましたか?
生成AIにより、エンジニア・作文・文章要約・翻訳・教育などに関わっていた人たちの生活は大分変わったでしょう。ただ、その人たちの受ける恩恵が二次的に一般市民に広まらないという意味でショボいし微妙です。Webライターが時間効率化できて、Youtuberが簡単に画像生成できるようになって、エンジニアの実装コストが短縮されても、影響はその輪の中だけに限定されています。メルカリユーザー目線で社会を眺めた場合、AI発展により、意味不明な謎AI機能が増えただけで手数料は0.1%も下がりません。人によっては、typeC USBが登場して急速充電が可能になったという方がAIなんかより革新だったと言う人もいるかもしれません。特定業界以外へのAIの影響は所詮その程度だと思います。
生成AIはどこまで行ってもツール。一定以上極める意味は無い。Excel職人芸みたいなもん。
生成AIを極めてもその先には大したものは待っていません。次元的にはExcel職人芸とか、そういうものに近いと思います。
一昔前の職場にはよくExcel職人がいましたね。Excel諸機能、ショートカット、VBAを使いこなし、普通の人が半日かかる作業を30分でできたりします。環境によっては重宝されますが、今時、Excelの職人的技術の価値はあまりないでしょう。毎日毎日Excelでガチャガチャする作業に忙殺されている職場環境では一定価値がありますが、そんな職場ほぼ無いので、ほとんどの環境ではExcelなんて8割程度の機能が使えれば十分。それ以上をマスターする意味は薄いのです。
生成AIも同様に、8割ぐらい使えていれば十分だと思います。数年前まで3日間かかっていた作業が、今ではClaudeをちょっと使って1時間程度でできる。それで十分。それをさらに半分の30分まで短縮することにそんなに高い価値があるでしょうか。毎日毎日実装する作業に忙殺されている環境なら塵が積もって大きな時間の節約となり一定価値がありますが、今どきそんな環境なかなか無いでしょう。
AIの本当の価値をちゃんと見極める
エンジニア目線でのAIの本当の価値は、一例としては、実装の一般性の向上(コモディティ化)により、可用性や耐障害性を増すことがあります。これは非常に大きい。ただし、これはユーザー体験価値向上にはほぼ無意味です。メルカリがあのザマなんです。割り切って諦めましょう。
あとは0→1ベースの開発やPOCにはきわめて強力ですが、それで一発当てる難易度は、逆にAI発展前よりもグンと困難になっています。誰でも実装できて参入障壁が低くなっているので。昔は1個のアプリの製作時間は100時間だけどヒット確率10%で、今は1個のアプリ製作時間は10時間だけどヒット確率は0.1%みたいな感じでしょうか。規模とかによって全然違いますが。
まとめ
AIでエンジニアの実装速度が10倍になっても、特定業界以外の一般市民の生活への影響はさほど無い。せいぜい検索・リサーチ・作文が楽になったぐらい。