有名な数学系YouTuberである3Blue1Brown(本名:Grant Sanderson)氏が、2017年に公開した「ビットコインの仕組みを解説する動画」をYouTubeから削除されるという事件が起きました。これは、Web3企業向けに“ブランド保護”を提供するChainPatrolという企業によって著作権侵害として報告され、YouTube上で「著作権侵害によるストライク」が発行されたことによるものです。しかし、後に誤検出であると判明し、現在は取り下げられています。
動画削除の経緯
3Blue1Brownは、高品質の数学解説動画で知られています。中でもビットコインの仕組みをわかりやすく解説した動画は、これまでに数百万回再生されるなど大きな注目を集めてきました。ところが最近、その動画が「Arbitrum」というWeb3プロジェクトの代理として行動したChainPatrolの通報により削除され、チャンネルには著作権侵害ストライクが付与されました。
ストライクを3回受けるとチャンネルそのものが削除されてしまうため、3Blue1Brown本人は強い不安を表明。動画は間違いなく本人が作成・所有する完全オリジナルコンテンツであるにもかかわらず、なぜ削除されたのか? 3Blue1Brownは「ボットによる誤検出の可能性がある」と指摘し、YouTubeのシステムもまたそれを盲信してしまったのではないかと推測しました。
ChainPatrolの謝罪
3Blue1Brownのツイートを受け、ChainPatrolはすぐに「これは誤検出であり、削除要請を取り下げる」と謝罪する声明を公開しました。同社は「大量にアップロードされる詐欺動画を排除するための取り組みの中で、極めて稀に誤検出が発生してしまう」としつつ、再発防止のための対策と調査を行うと約束しています。
しかし、今回の一件で浮き彫りになったのは、自動化された“ブランド保護”ツールの脆さです。YouTube側はこうした第三者からの通報を重視しており、誤検出や悪用の防波堤となるべきシステムが十分に機能していないのではないかという疑念が広がっています。
類似の問題:小規模クリエイターや他コミュニティ
この種の誤報告や誤認識による動画削除は、今回が初めてではありません。大手YouTuberの場合はコミュニティやSNS上で大きく話題になり、すぐに対処されることが多いですが、小規模クリエイターの中には誤削除されたまま放置され、チャンネルごと消されるケースもあるといわれています。
また、Minecraftコミュニティなど他のゲーム・クリエイターコミュニティでも、同様の誤検出による削除が起きているという報告があります。特にIPアドレス検知サービスや著作権保護のAIが、どこまで正確にコンテンツの中身を把握できているのか、疑問を呈する声が強まっています。
DMCAとYouTube独自システムのあいまいな線引き
YouTubeはDMCA(米国デジタルミレニアム著作権法)ベースの制度と、独自のContent IDシステムを組み合わせて運用しています。DMCAに基づく著作権侵害申請は、虚偽申請の場合に法的な罰則がありうる一方で、YouTube独自のシステム経由だと運用にあいまいな点が多く、クリエイター側が反論しづらい場合もあります。
今回の事例では、実際にDMCAが使われたかどうかが議論されていますが、YouTubeの仕組み上「著作権侵害ストライク」と「Content IDのクレーム」は異なるフローで扱われることがあると指摘するユーザーもいます。
今回の件が示す問題点
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AIの過剰検出リスク
詐欺やブランド偽物対策としてAIを活用する企業が増えていますが、大量の検出対象を一度に処理するため、誤報告が一定数発生するリスクは避けられません。 -
クリエイターへの深刻なダメージ
YouTubeでは著作権ストライクを3回受けるとチャンネルが削除されます。規模の大きいチャンネルだけでなく、小さなクリエイターにとっては死活問題です。 -
プラットフォームの責任と透明性
通報を受けた際の調査プロセスや、誤報告を行った企業へのペナルティなど、プラットフォームの透明性やポリシーの改善が求められます。 -
小規模クリエイター保護策の必要性
3Blue1Brownのような人気チャンネルはSNSなどで大きな声を上げられるため、比較的素早く対処されます。一方、そうでないチャンネルは泣き寝入りせざるを得ないケースが多く、対策が強く望まれます。
まとめ
3Blue1Brownの誤削除事件は、YouTubeにおける著作権やブランド保護の自動化の問題点を改めて浮き彫りにしました。ChainPatrolは迅速に謝罪を行い削除依頼を取り下げたものの、**「誤検出はごく稀」**だという説明に納得しない声も少なくありません。
今後、YouTubeや関連企業には、
- 不当な削除依頼に対する明確なペナルティの導入
- 通報に対する人間による審査の強化
- 小規模クリエイターの意見を反映する仕組みの整備
など、より公正で透明性のある仕組みが求められています。著作権やブランド保護システムのもつ両刃の剣が、正当なクリエイターを傷つけないために何ができるか、今回の事例は私たちに改めて考える機会を与えてくれました。