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現代スポーツアナリティックス

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Last updated at Posted at 2026-04-03

現代スポーツとデータ分析

データ分析はスポーツをどう変えてきたか。 近年、データ収集技術と分析技術の急速な進歩により、スポーツ界は大きな変革期を迎えています(Fujii, 2025)。歴史的に見ると、スポーツへのデータサイエンスの応用は、基礎的な統計分析から始まりました。1970年代後半に開発されたセイバーメトリクスは、野球に客観的な統計手法を導入し、有名な「マネー・ボール」時代を築きました。データを活用することで、限られた予算でも非常に競争力の高いチームを構築できることを実証しました。その後、同様にデータ主導の変化がNBAにも波及しました。これは「3ポイント革命」として広く知られています。各チームは、ミドルレンジからの2ポイントシュートよりも、ショットあたりの得点期待値が高い3ポイントシュートやレイアップに焦点を移し、バスケのプレースタイルを根本から変えました。

現代AIとスポーツ。 データ収集手法の高度化と深層学習技術の発展により、ピッチ上の複雑な課題を解決する高度な機械学習モデルの開発が可能になりました。この進化の典型的な例が、Google DeepMindとリバプールFCの共同研究です。両者は、サッカーのコーナーキック時における選手のポジショニングを分析し、最適化するために設計された高度なシステム「TacticAI」を開発しました(Wang et al., 2023)。TacticAIは、予測と生成モデルを通してコーナーキック時の最も効果的な選手の配置をコーチに提言することができます。

現代スポーツにおけるデータ分析の役割。 競争が激化する今日のスポーツ界において、競争的優位性を得るために、データ分析はますます重要になっています。データ分析は、今やスポーツのほぼすべての側面に影響を及ぼしています 。個人レベルでは選手のパフォーマンス最適化や怪我の予防プロトコルに影響を与えています 。チームレベルでは、分析から対戦相手の弱点を特定し、自チームの強みを最大化できるよう、ゲーム戦略を構築しています 。さらに、データはファンのエンゲージメント向上においても重要な役割を果たします。メディア、放送局、解説者は、データに基づいたストーリーや詳細分析を提供することで、試合を取り巻く物語を豊かにし、ファンに対してより深く、より魅力的な理解をもたらしています。

この記事の内容。 この記事では、サッカーに焦点を当て、機械学習を用いたスポーツアナリティックスの具体的な取り組みを紹介し、将来展望について触れていきます。

サッカー:予測分析とプレー評価

単純な集計からプロセスと意思決定の予測評価へ。 サッカーにおける従来のデータ分析は、シュート数やパス成功数など、観測可能な結果を人間が集計するアプローチが主流でした。ゴール期待値などの指標も普及しましたが、得点という稀なイベントに依存するため、守備の貢献やボール奪取に至るプロセスを正しく評価することが困難でした。

これに対し、近年の機械学習アプローチでは、全選手とボールのトラッキングデータを入力とし、「次に何が起こるか」を確率的に予測することで、結果ではなくプロセスや意思決定そのものを評価することが可能になっています。

例えば、名古屋大学の藤井先生らの研究グループが提案する Valuing Defense by Estimating Probabilities of Ball Recovering and Being Attacked(VDEP)という指標は、ボール奪取や相手の有効な攻撃に繋がる確率を機械学習分類器によって連続的に予測します(Toda et al., 2022)。これにより、「結果的にシュートは打たれたが、失点確率を大幅に下げる優れた守備のポジショニングであった」といった、プロセスベースの守備評価が定量化されます。

オフ・ザ・ボールの評価。 プロセス評価を突き詰めていくと、選手がボールに触れていない時間の評価に行き着きます。サッカーの試合中、選手がボールに触れている時間はごくわずかであり、大半は「オフ・ザ・ボール」の動きで構成されているためです。従来はボロノイ図を用いた支配領域の計算などが主流でしたが、近年ではより確率的なアプローチが注目されています。選手の位置、移動速度、ボールの軌道などからどの選手がどのスペースを支配できるか(Pitch Control Model)、次にボールがどこへ移動するか(Transition Model)、シュートを打った際の得点確率(Score Model)という3つの確率的な数理モデルを掛け合わせることでオフ・ザ・ボールの得点機会を定量化する手法が注目されています(Spearman, 2018)。

選手たちの連動を予測。 空間的価値を評価する技術が確立されると、AIの予測対象は選手が次にどう動くかという未来のアクションへと進みます。現在では、高度な深層学習技術を用いることで、選手間の複雑な相互作用を学習し、未来の軌跡を予測することが可能になっています。これにより、選手同士の連動性までもがデータとして扱えるようになりました。

「もしあの時…」を定量化する反実仮想分析。 この未来予測を応用した最も実務的価値が高いアプローチが反実仮想分析です。これは「もし別の行動をとっていたらどうなっていたか?」という仮想シナリオを定量化し、戦術的な意思決定を支援・評価するアプローチです。記事の冒頭で紹介したTacticAIもまた反実仮想ベースの手法に分類されます。

例えば、ボールを持った選手が「シュートを打つべきか、より良い位置にいる味方にパスを出すべきか」という意思決定の評価があります。この課題に対し、深層学習を用いて枠内シュート期待確率を算出し、ゲーム理論と組み合わせて最適戦略を分析する Shooting Payoff Computation フレームワークが提案されています(Yeung et al., 2024)。

Fig_1.png

図1: SPCフレームワークによるシュート状況の分析例(Yeung et al., 2024)。各選手のシュート成功確率やパス成功確率(P(Control))を算出し、最適なパスのターゲットを定量的に導き出す。

さらに、この反実仮想はボールを持たない選手の「献身性」をも可視化します。オフ・ザ・ボールの選手が「おとりになって味方のためのスペースを空けた」といった動きは、従来の指標では評価できませんでした。そこで、軌道予測モデルを用いた反実仮想的な評価フレームワーク「C-OBSO」が提案されています(Teranishi et al., 2023)。

このフレームワークでは、深層学習モデルを用いて、対象選手 $i$ の「基準となる動き」を反実仮想として予測します。選手 $i$ のオフ・ザ・ボールの動きによる介入効果は、実際のゲームにおいて未来にボールを持つ選手 $k$ が得た実際の価値 $V_k$ と、モデルによって予測された「もし選手 $i$ が基準となる動きをしていた場合」の反実仮想的な価値 $V'_k$ との差分として、次のように定式化されます:

$$
\text{貢献度}_k = V_k - V'_k
$$

この指標を用いてプロサッカーリーグの年間データ分析を行った結果、既存のイベント指標(ゴールやアシストなど)では説明しきれない選手の「年俸」との間に有意な相関があることが確認されており、実務でのスカウティング指標としての有効性が示唆されています。

Fig_2.png

図2: 軌道予測を用いたオフボール得点機会創出(C-OBSO)の評価フレームワーク(Teranishi et al., 2023)。対象選手の実際の動きと、モデルによる予測軌道(反実仮想)を比較し、チームメイトへの貢献を定量化する。

スポーツアナリティクスの未来

選手の育成から高度な戦術決定、さらに人材発掘に至るまで、データ分析はスポーツのあらゆる領域を変貌させる可能性をもっています。

  • トレーニングとパフォーマンス。 生体データやGPSに加え、映像からスキルの習得度や怪我のリスクまで可視化することが可能になります。リアルタイムに近いフィードバックやコンディション予測により、選手のパフォーマンス最大化と選手生命の延伸が実現します。さらに、トレーニングの専門知見をデジタル化して機械学習に取り込むことで、個々の選手のポテンシャルを最大限に引き出す個別化されたメニューを柔軟に提案できるようになります。
  • ゲーム戦略。 事前のスカウティングから試合中のリアルタイムな戦術変更、そして試合後の検証に至るまで、AIモデルが全フェーズで意思決定を支援します。蓄積されたデータを用いて対戦相手の傾向を把握し、自チームのコンディションを評価することで、相手の動きを予測した適応的な戦略立案や、次戦のラインナップ選定が飛躍的に高度化します。
  • リクルーティング。 従来の統計値やスカウトの主観に頼った評価を超え、「ボールを持たない時の動き」や「連携の質」をデータで可視化します。これにより、チームの戦術や長期目標に合致する有望株を的確に見極めることができます。また、リーグや技術提供者が連携してトラッキングデータの収集・共有を標準化することが、世界規模での選手発掘の鍵となります。
  • ファンとのエンゲージメント。 AIが選手の意思決定や戦術を定量的に解説することで、初心者ファンの理解を促進します。さらに、選手のオフ・ザ・ボールでの貢献度の可視化や、リアルタイムのベッティング予測など、より多角的で奥深い観戦体験を提供します。

未来の実現に向けた課題とエコシステムの構築。 このようなスポーツアナリティクスの未来を実現するためには、データの収集者、分析者、そして現場の利用者が一体となったエコシステムの構築が不可欠です。技術の持続可能性と倫理的な活用を担保し、社会全体での受容性を高めるために、以下の3つの基盤整備が重要となります。

  • オープンソース活動の推進。 データや分析コードの共有は、研究の透明性を高めるだけではありません。コンペティションの開催や公開講座を通じて新たな人材の参入障壁を下げ、分野全体の革新を加速させる原動力となります。
  • データ形式の標準化。 コンピュータビジョンの分野におけるMOTやCOCOといった共通形式の導入や、トラッキングデータを扱うOpenSTARLab(Yeung et al., 2025)のような統合ライブラリを活用することで、異なるソース間の互換性が確保されます。これにより、分析の信頼性とシステム開発の効率が大幅に向上します。
  • 共同研究ネットワークの構築。 アカデミア、スポーツ組織、そして企業が連携するネットワークは、理論と実践の溝を埋めるために不可欠です。PySportやSoccerNetのようなオープンソース・コミュニティも、こうしたステークホルダー同士のつながりを強固なものにします。

これらの基盤が整うことで、継続的なイノベーションを支える堅牢なエコシステムが構築されます。その結果、競技力の向上からファン体験の拡張、そしてクラブの運営管理に至るまで、スポーツアナリティクスは常に最先端の価値を生み出し続けることが可能になります。

参考文献

Fujii Keisuke (2025). Machine Learning in Sports: Open Approach for Next Play Analytics. SpringerBriefs in Computer Science.

Wang Zhe, Veličković Petar, Hennes Daniel, et al. (2024). TacticAI: an AI assistant for football tactics. Nature Communications 15: 1906.

Toda Kosuke, Teranishi Masakiyo, Kushiro Keisuke, and Fujii Keisuke (2022). Evaluation of soccer team defense based on prediction models of ball recovery and being attacked: A pilot study. PLoS ONE 17(1): e0263051.

Yeung Calvin and Fujii Keisuke (2024). A strategic framework for optimal decisions in football 1-vs-1 shot-taking situations: an integrated approach of machine learning, theory-based modeling, and game theory. Complex & Intelligent Systems 10, 5989–6008.

Spearman William (2018). Beyond Expected Goals. Proceedings of the 12th MIT Sloan Sports Analytics Conference, pp. 1–17.

Teranishi Masakiyo, Tsutsui Kazushi, Takeda Kazuya, and Fujii Keisuke (2023). Evaluation of Creating Scoring Opportunities for Teammates in Soccer via Trajectory Prediction. Machine Learning and Data Mining for Sports Analytics (MLSA 2022), Communications in Computer and Information Science, vol. 1783, pp. 53–73. Springer.

Yeung Calvin, Ide Kenjiro, Someya Taiga, and Fujii Keisuke (2025). OpenSTARLab: open approach for spatio-temporal agent data analysis in soccer. Complex & Intelligent Systems 11, 342.

おわりに

株式会社Nospareでは統計学の様々な分野を専門とする研究者が所属しております。統計アドバイザリーやビジネスデータの分析につきましては株式会社Nospareまでお問い合わせください。

執筆・編集
段(Imperial College London、株式会社Nospare)
酒井(筑波大学、株式会社Nospare)
小林(明治大学、株式会社Nospare)

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