はじめに
Microsoft Ignite 2025で参加した「Edge for Business: reimagined with AI, security at the core」セッションのレポートです。MicrosoftがSecure Enterprise AI BrowserとしてEdge for Businessを大幅にアップデートする発表がありました。
単にAI機能を追加するのではなく、エンタープライズに求められるセキュリティとコンプライアンスを維持しながら、AIを日常のブラウジングワークフローに統合している点が印象的でした。
Edge for Businessの新しい方向性
AIブラウザ市場の課題
現在、多くの「AIブラウザ」が登場していますが、セッションで指摘されていたのはエンタープライズ向けではないという点です。
- 基本的な脅威保護すら欠けているケースがある
- エンタープライズグレードの保護機能が不足
- セキュリティと生産性のトレードオフを強いられる
一方、Edge for Businessは既にトップMicrosoftカスタマーの大多数が信頼して使用している実績があり、その基盤の上でAI機能を統合するアプローチを取っています。
Secure Enterprise AI Browserという新カテゴリ
今回の発表の核心は、Edge for BusinessをSecure Enterprise AI Browserという新カテゴリとして位置づけたことです。
特徴:
- Microsoft 365 Copilotが日常ワークフローに統合
- エンタープライズ対応のコンプライアンスとコントロールを最初から提供
- Microsoft Graphとの深い統合
- ウェブ、アプリ、タブ、タスクを横断的に連携
新機能: Copilot Mode
今回の発表で最も注目すべきはCopilot Modeの導入です。コンシューマー向けに提供されていた機能を、エンタープライズ向けに統合します。
1. Agent Mode
ブラウザが能動的なパートナーとして複数ステップのワークフローを自動実行する機能です。
主な特徴:
- IT部門が承認したWebサイト上で動作
- 視覚的なインジケータで透明性を確保
- 時間のかかるタスクを委譲し、ユーザーは重要な作業に集中
デモでは、マーケティングフォームの入力作業を自動化する様子が紹介されました。別ドキュメントの情報を自動で複数フィールドに入力し、最終送信前にユーザーが確認できる仕組みです。
2. Copilot Inspired New Tab Page
検索とチャットを1つのインテリジェントなボックスに統合した新しいタブページです。
- ファイルとカレンダーへの簡単アクセス
- パーソナライズされたプロンプト提案
- Microsoft 365 Copilotライセンスで、Microsoft Graphからさらに多くの情報を取得
3. Daily Briefing
会議、タスク、優先事項を1つのビューでまとめたサマリー機能です。
- 複数のアプリやタブを行き来する必要がなくなる
- ブラウザコンテキストとMicrosoft Graphを組み合わせて重要事項を把握
- 新しいタブページから起動可能
ブラウザコンテキストを活用したスマート機能
Multi-Tab Reasoning
最大30個のタブにわたってコンテンツを分析できる機能です。Webページ、社内サイト、PDF、Officeドキュメントに対応し、手動での比較や延々とタブを切り替える作業が不要になります。
Intelligent Browser History
自然言語で過去3ヶ月分のページを検索できる機能です。「数週間前に見たあのページ」を自然な言葉で検索できるようになります。登壇者のSean氏は「この機能を毎日使っている」と述べていました。
YouTube Video Summarization
YouTube動画のハイライトを取得し、コンテンツについて質問できる機能です。長時間のセッション動画から必要な部分だけを見つける用途に便利そうです。
モバイル対応
これらの機能は近日中にモバイル対応予定です(Windows、Mac、iOS、Android)。
[画像: Multi-Tab Reasoningのデモ画面]
セキュリティとコントロール
Safe AI Browsingの基盤
Microsoft 365 Copilotのエンタープライズデータ保護:
- プロンプト、レスポンス、ファイルはMicrosoft 365テナント内に留まる
- 組み込みのコンプライアンスとプライバシー制御
- 基盤モデルのトレーニングや広告には使用しない
段階的なAI導入を可能にする設計
組織の準備状況に応じて、明示的なトグルで高度なAI機能を有効化できます。
Agent Modeの多層的な制御:
- IT部門が有効化タイミングと対象サイトを決定
- 既存のDLPポリシーを自動的に尊重
- 保護されたページはCopilotが自動除外
- パスワードや決済情報にはアクセス不可
- 必要な場合はAgent Modeが一時停止し、ユーザーに手動入力を要求
デモでは、複数タブの比較・要約時に、IT部門が保護したPower BIページを自動除外し、その理由を明確に通知する様子が示されました。セキュリティポリシーが実際のワークフローで自然に機能している点が印象的でした。
新発表のセキュリティ機能
1. コントラクターデバイス向けの保護(プレビュー:来年初頭)
代理店が管理するデバイスにセキュアなアクセスを提供する機能です。
- Intuneのモバイルアプリ保護ポリシーをWindows PCに拡張
- ダウンロードはOneDrive for Businessの指定場所に誘導
- コピー&ペーストを制限してデータ漏洩を防止
- 追加コストや複雑さなしにコントロールを維持
2. Watermarking(プレビュー:現在利用可能)
機密とマークされたファイルやサイトに視覚的なリマインダーをオーバーレイ表示します。Edge Management Serviceで今すぐ有効化可能です。
3. Protected Clipboard(プレビュー:現在利用可能)
これまでの「全面禁止」か「全面許可」の極端な選択から脱却します。
- 既存のPurview DLPポリシーを活用して信頼境界を定義
- 境界内のデータは外部にペースト不可
- 外部からのデータは必要に応じて境界内に入力可能
- 細かい制御でユーザーの生産性を維持しつつデータ漏洩を防止
4. BYOAI対応 - Inline Prompt Protections
従業員が個人的なAIツールに機密データを入力するリスクへの対応です。
- 一般的なコンテンツにはコンシューマーAIサイトの使用を許可
- 機密コンテンツの入力はブラウザ内でブロック
- DLPポリシーでフラグが立つ内容を検知
- プロンプトがブラウザ外に出る前に明確な説明とともにブロック
デモでは、DeepSeekで企業の買収に関する機密情報を含むプロンプトを送信前にブロックする様子が示されました。
管理機能の強化
Edge Management Serviceのクロスプラットフォーム対応
Microsoft 365管理センターでWindows、macOS、iOS、Android全体のEdgeポリシーを一元管理できるようになりました。
Enterprise Preview機能(プレビュー:年内)
安定版Edgeアプリ内でベータ版やDev版ビルドを直接配信できる機能です。
- 追加インストールやアプリ切り替え不要
- リグレッションを早期発見
- ユーザーはいつでも安定版にロールバック可能
- プレリリーステストが日常作業の一部に
IDC MarketScape評価
MicrosoftはIDC MarketScapeの「Worldwide Application Streaming and Enterprise Browsers 2025 Vendor Assessment」でリーダーに選出されました。
- 現在の機能と将来戦略の両面で高評価
- 実証済みのゼロトラストプラットフォームプロバイダーとして認知
Edge for Businessの3つの価値
1. Security is Built-in
Microsoft Defender for Endpoint、Entra、Intune、Purviewからの保護を標準装備。追加のアドオンは不要です。
2. Easy for Everyone
WindowsにEdge for Businessがプリインストール済み。デプロイの心配は不要です。
3. Available at No Extra Cost
既存のMicrosoft 365への投資で、追加コストなしでブラウザセキュリティとAI機能を実現できます。
利用開始方法
今すぐ試せる機能
**Copilot Mode(コンシューマー版)**でAI機能を体験できます。Microsoftアカウントでサインインすれば、エンタープライズ版の機能感を事前に確認可能です。
Edge Management Serviceで以下が設定可能:
- Copilot Modeの有効化
- Watermarking(プレビュー)
- Protected Clipboard(プレビュー)
まとめ
Microsoft Ignite 2025で発表されたEdge for Businessの進化は、単なる機能追加ではなく、エンタープライズブラウザの在り方そのものを再定義する取り組みなのかなと感じました。
特に印象的だった点:
AIとセキュリティの両立: 多くの新興AIブラウザが生産性を優先する中、Microsoftはエンタープライズに必要なセキュリティとコンプライアンスを最初から組み込む姿勢を明確にしています。Agent Modeの多層的な制御やDLP保護の統合など、実際のワークフローでセキュリティポリシーが自然に機能する設計になっていました。
段階的な導入を可能にする柔軟性: 組織やチームによってAI導入の準備状況が異なることを理解し、明示的なトグルで機能を有効化できる設計は、実際のエンタープライズ環境を深く理解しているからこそなのかなと思います。
コスト効率の高さ: 既存のMicrosoft 365投資を活用し、追加コストなしで高度なブラウザセキュリティとAI機能を提供する点は、多くの組織にとって魅力的な選択肢になるのではないでしょうか。
Multi-Tab ReasoningやIntelligent Browser Historyなど、実際に日常業務で役立ちそうな機能が多く発表されました。Edge for Businessは、AIとセキュリティを両立させたエンタープライズブラウザとして、今後の業務環境における重要な選択肢になっていくのかなと感じました。
参考リンク
※本記事は2025年11月20日に開催されたMicrosoft Ignite 2025のセッション内容に基づいています。機能の提供時期や詳細は変更される可能性があります。


