大門の光をくぐった瞬間、胸の奥がふるりと震えた。
空気が変わった──それだけなのに、
まるで新しい物語の扉が静かに開いたような感覚が走る。
足元には淡い光の粒が漂い、踏み出すたびに小さく揺れた。
そのうちのひとつが、ふわりと浮かび上がる。
まるで"こっちだよ"と私を誘うように奥へとふわりと流れていく。
ニカの興奮と期待を象徴するかのように流れていくさまは、
新たな出会いを予感させた。
考えるだけで、心臓が興奮を映す様に、少しだけ早くなる。
光の粒子の流れに導かれるように、
ニカは静かに一歩を踏み出した。
──第3話、未知への一歩が始まる。
内綺守官との出会い(Security Group)
光に導かれて、王都の中を進んでいく。
色んな光が、様々な流れを作り、色んな光の粒子がふわりと揺れている。
そんな様に見とれて歩いていく内に、ニカは周囲の気配とは違う光の流れを感じる。
目の前に光粒がふるりと集まり、その光がほどけるように散った瞬間──
──内綺守官ルミエラ・リス・ヴァレンタイン。
淡いピンクゴールドの光をまとったその姿は、
自分よりも背は低いのに、確かに大きな存在感を感じた。
まるで靄の奥から静かに顕現したその姿は、
これからの道筋を照らす光にも見えた。
彼女はそこに立っていた。
「……あなたが、外縁を通ってきた方ですね。
お名前を伺っても?」
促されるままに、私は小さく息を吸って自分の名前を紡ぎだす。
「……ニカ。……ニカ・ルリエです」
私の名前を聞いたその瞬間、ルミエラの瞳がふるりと確かに揺れた。
「……ルリエ……?」
驚きと確かめるような響きを帯びた声が、静かに落ちる。
そして──
「……あの、
ルリエ=アゼリアと同じ名前……」
その言葉に、私はどこか懐かしさを感じて、聞き返す。
「え……?ルリエ……=アゼリア……」
私の反応に、ルミエラははっとして目を瞬かせた。
「あっ……ごめんなさい。今のは聞かなかったことにしてください」
にっこりと微笑む。
けれどその笑顔の奥に、ほんの一瞬だけ揺らぎが見えた。
誤魔化された──
そう思ったのに、問い返す言葉が喉の奥で止まる。
「さ、こちらへ。
外縁を通って来られた方には、まず“内側の流れ”を感じていただく必要があります」
ルミエラに続いて歩くうちに、周囲の光景がゆっくりと変わっていく。
靄は薄れ、代わりに淡い光の層が幾重にも重なり合う空間が広がる。
まるで世界そのものが静かに脈打っているような場所だった。
「ここは……?」
思わず感嘆の声が漏れる。
私のその言葉を受け取って、ルミエラが言葉を紡ぐ。
「外縁を通って来られた方には、まず“内側の流れ”を感じていただくんです。
……そうですね、まずは実際に体感してもらうことが一番でしょう」
ルミエラはそっと空に向かって大きく手をかざした。
その動きは大げさではなく、ただ空気に触れるような静かな仕草。
けれど次の瞬間──
淡い波紋がゆっくりと広がり、
空間そのものが呼吸を変えたように静かに変わる。
そこにはないはずの川が、
足元からゆっくりと私を包みこみ、
頭の上へと流れを変えていく。
「これが……“内側の流れ”……?」
「はい。
境界を守るために巡っている“理の流れ”。
触れられることは滅多にありませんが……
内側に入った方には、こうして姿を見せることがあります」
私はそっと手を伸ばした。
指先が光に触れた瞬間──
胸の奥に、かすかな“逆流”のような感覚が走った。
「……今の……?」
「……気づきましたか?」
ルミエラは私の反応を確かめるように微笑む。
「流れが……少しだけ、逆に動いたような……そんな感じがして」
「それは、“内側の流れ”があなたを認識した証です。
本来、この流れは触れられても形を変えません。
でも……ごく稀に、流れが反応を返すことがあるんです」
ルミエラはさらに深い層へ手を沈めた。
光が淡い金色に、ほんのり桃色を混ぜて揺らぐ。
「これが“本質”の流れ。
触れた者の内側を静かに映す流れです」
私はもう一度、そっと触れた。
世界がふるりと震えた。
さっきよりも強く、深く。
胸の奥に温かい何かが流れ込む。
「……っ……!」
懐かしいような、呼ばれたような感覚。
私は、言葉を失った。
でも、それは確かにそこに感じた。
私の反応を見たルミエラは息を呑んだ。
「あなたはやはり……もしかして──」
言いかけた言葉は、そこで止まった。
最後まで言わずに止まった言葉に、ニカは違和感を覚える。
「……いえ、大丈夫です。忘れてください。
流れがあなたを歓迎しているだけですよ」
誤魔化すように微笑むルミエラ。
しかし、その奥の光に、まだ揺らぎが残っていた。
「さあ、こちらへ。
“内側の理”の中心へ向かいましょう。
流れの本当の姿は、そちらが分かりやすいですから」
光の川が静かに道を開く。
その先には、淡い光が幾重にも重なった、
まるで世界の心臓部のような空間が広がっていた。
胸の奥の温かさを抱えたまま、
私はその光の中心へと足を踏み入れた。