キーボード遍歴:まず US 配列、そして Alice 配列へ
前提として、私はずっと US 配列派です。理由は2つあります。
- キーキャップやスイッチを交換して遊びたかったから。 自分でカスタムするなら、選択肢の多い US 配列のほうが圧倒的に有利です。
- そして最大の理由が——
=を一発で打ちたかったから。
日本語配列(JIS)だと、= は Shift を押しながらでないと打てません。コーディングをしていると = は嫌というほど出てきます。代入のたびに Shift。比較のたびに Shift。些細なことだと思うでしょう。 毎日何百回と打つキーです、些細ではありません。US 配列なら = に専用キーがあります。これだけで選ぶ価値がありました。
そんな US 配列生活を送るなかで気になりだしたのが、CIDOO ABM066 でした。いわゆる Alice 配列——一体型なのに、キーが左右にハの字に分かれている、あの配列です。「左右に分かれている」というのが気になって、「一度使ってみたい」と手を出しました。
ふと気づいた:「数字を打つとき、キーボードを見ている」
ABM066 には満足していました。ところがある日、自分のタイピングを観察していて、あることに気づきます。
数字キーを打つとき、なんとなく手元を見ている。
ホームポジションから数字の列までは距離があって、指が迷う。だから確認のために視線が落ちる。アルファベットはブラインドで打てているのに、数字の列だけは目で探している——これ、なんか無駄じゃないか?
そして思ったわけです。どうせ見ないと打てないなら、数字の列ごと無くてもいいのでは? と。
数字行のないキーボード。つまり 40% キーボードです。こうして次の沼への扉が開きました。
Corne V4 を買った
選んだのは YIVU の Corne V4 です。
Corne(コルネ)は定番の分割キーボードで、特徴はだいたいこんな感じです。
- 左右完全分割。 肩幅に合わせて好きな位置に置けます。
- キーは全部で42個。 数字行はもちろん、記号キーもごっそりありません。
- カラムスタッガード(列ごとに縦ずれ)配列。 普通のキーボードの「行ごとの横ずれ」と違い、指の長さに合わせて列が上下にずれています。
- 親指で押すキーが左右3つずつ。 普通のキーボードでは親指がスペースバー1個を担当しているのに対し、Corne では親指が主役級の働きをします。
Corne 自体はずっと気になっていたのですが、YIVU 版で踏み切った決め手はシンプルです。
- 組み立て済み。 自作キーボードの最初の関門である、はんだ付けや組み立てをスキップして、届いたその日から使えます。
- セールで 12,000 円ほどだった。 「気になってるし、買ってみるか」が成立してしまう価格でした。
- そろそろ新しいキーボードが欲しかった。 ABM066 も買ってから 2〜3 年。次の沼を覗くには十分な年月です。
現実:寿司打 3000 円コース、1380 円の大赤字
で、快適にスラスラ打てているのか?
いいえ。絶賛苦戦中です。
どれくらい苦戦しているかというと、タイピングゲーム「寿司打」の 3000 円コースで 1380 円損します。3000 円払って 1620 円分しか皿を取れていない計算です。回らない寿司屋なら追い出されています。
原因ははっきりしていて、
-
カラムスタッガードに指が慣れていない。 今までの「斜めずれ」の癖で、
CやBあたりを盛大に打ち間違えます。 - 記号と数字がレイヤーの向こうにいる。 42 キーしかないので、数字も記号も「レイヤーキーを押しながら」打つ方式になります。体が覚えるまでは、頭の中でキーマップを検索する時間が発生します。
「数字キーを見て打つのが無駄」と言って乗り換えた結果、当面は数字を打つたびに脳内でレイヤー表を見ているわけで、本末転倒もいいところです。ただ、これは自転車の練習みたいなもので、体が覚えれば視線も思考も介在しなくなる——はず。その途中経過だと思っています。
キーマップは Vial で育てる
42 キー生活の生命線がキーマップのカスタマイズです。Corne V4 は Vial に対応しているので、ブラウザやアプリから GUI でキーマップを書き換えられます。ファームウェアを書き込み直す必要がなく、変更が即座に反映されるので、「打ちにくい → その場で直す」のループが高速に回せます。
現時点のレイヤー構成はこんな感じです。
- レイヤー0(ベース): アルファベット+親指キー。親指は左手が左から「レイヤー1・Ctrl・Space」、右手が左から「Enter・レイヤー2・Windows」です。
- レイヤー1: 数字と記号
- レイヤー2: ファンクションキー
親指の一等地に Ctrl がいるのがポイントです。ABM066 で逆ハの字の真ん中に Ctrl を置いていた話を覚えているでしょうか。あの頃から「Ctrl は親指で押すもの」になっていて、Corne でもそのまま引き継いでいます。レイヤーキーを左右の親指に1つずつ分けているので、どちらの手でもレイヤーの入り口に迷いません。
ところで、勘のいい読者は気づいたかもしれません。「あれ、= はどこに行ったの?」と。
レイヤー1にいます。
……(。´・ω・)ん?
思い出してください。私が US 配列を使っている最大の理由は「JIS だと = に Shift が要るのが嫌だから」でした。Shift 1個すら許せなかったはずの = が、今や Shift どころかレイヤーキーを押しながらでないと打てない場所にいます。完全に本末転倒です。Shift 1個を嫌った結果、たどり着いた先がレイヤー1。何をやっているんでしょうか。
ただ、ここが Vial のいいところで、「やっぱり打ちにくい」と思ったらその場でキーマップを直せます。= の住所は現在も検討中です。= のために US 配列を選んだ意地にかけて、いずれ一等地に戻す予定です。
日本語入力の切り替えはマクロで解決
日本語圏ユーザーの最大の関門が IME の on/off です。42 キーのキーボードに「半角/全角」キーはもちろんありません。
私は Vial でマクロを組んで、それをキーに割り当てる方式にしました。中身はこうです。

- 左 Shift を押し込む(Down)
- 50ms 待つ
- CapsLock をタップ
- 50ms 待つ
- 左 Shift を離す(Up)
要するに Shift + CapsLock をワンキーで発射するマクロです。私の環境ではこれで日本語⇔英数の入力が切り替わります。
地味なこだわりが、間に挟んだ 50ms のディレイです。マクロの再生は人間の指よりずっと速いので、ディレイなしだと「Shift が押されたと OS が認識する前に CapsLock が届く」ことがあり、たまに不発になります。各ステップの間に 50ms 置くだけで安定しました。Vial でマクロを組むときの小さな Tips です。
「半角/全角」キーのない US 配列、しかも 42 キー。それでもホームポジションを崩さず一発で IME を切り替えられます。数字行を捨ててまで視線移動を減らそうとしている人間として、ここは妥協できないポイントでした。
おまけ:WezTerm の Leader キーもワンキーにした
実はもう一つ、Vial でマクロを組んでいます。ターミナル(WezTerm)の Leader キーです。
私は WezTerm のキーバインドを tmux 風の Leader キー方式にしていて、Leader には Ctrl + Space を割り当てています。ペイン分割も、ペイン移動も、ワークスペース切り替えも、ぜんぶ「Leader → 何かのキー」で操作するスタイルです。
そもそも Leader を Ctrl + Space にしたのは、ABM066 時代の名残です。ABM066 もキー配列をいじれるキーボードなので、逆ハの字の真ん中にある1キーを Ctrl に割り当てていました。そしてその隣がスペースキー。つまり ABM066 では Ctrl と Space が隣どうしで、同時押しの Leader として最適な配置だったのです。
Corne に乗り換えてもこの Leader は変えず、今度は Ctrl + Space をマクロでワンキーにしました。構造は IME マクロとまったく同じです。

- 左 Ctrl を押し込む(Down)
- 50ms 待つ
- Space をタップ
- 50ms 待つ
- 左 Ctrl を離す(Up)
これで、ペインを割りたくなったら「マクロキー → d」、ペイン移動は「マクロキー → hjkl」。Leader 起点の操作がすべて1キーから始まります。
キーボード側の Vial と、ソフト側の WezTerm 設定——両方を自分で握っていると、こうやって境界をまたいだ設計ができるのが楽しいところです。42 キーしかないキーボードは不便の塊に見えて、実は「どのキーに何をさせるか」を全部自分で決められる自由の塊でもあります。
まとめ:効率化のはずが、一番遠回りしている
整理すると、私のキーボード遍歴はこうです。
- JIS の
=が嫌で US 配列へ - 左右に分かれた配列が気になって Alice 配列の ABM066 へ
- 数字キーを目で探すのが無駄で 数字行のない Corne V4 へ
- その結果、現在寿司打で 1380 円損している
- そして Shift が嫌だったはずの
=は、Shift より遠いレイヤー1にいる
効率を求めて乗り換え続けた結果、いまが一番タイピングが遅い。完全に矛盾しています。
でも、不思議と後悔はありません。レイヤーを直して、打って、また直して——キーボードを「買うもの」から「育てるもの」に変えてくれたのが Corne でした。寿司打の損額が日に日に縮んでいくのを眺めるのも、それはそれで楽しいものです。
3000 円コースで黒字になったら、また報告します。





