この記事の要約
- グラフィカルモデルの話を簡単にする
- 自己位置推定で利用される確率計算(ベイズの定理,全確率の定理)に利用されるグラフィカルモデルをまとめる
グラフィカルモデル
グラフィカルモデルとは,確率変数間の関係や依存を図的に表現したモデルです.グラフィカルモデルを用いてモデル化を行うと,どの様な問題を扱っているかが非常に理解しやすくなります.また,式を展開する上でも非常に役に立ちます.
グラフィカルモデルにも色々な種類があります(有向グラフ,無向グラフ,因子グラフなど).自己位置推定では基本的に有向グラフを扱います.特に,有向非循環グラフと呼ばれるものを用います.このグラフは別名ベイジアンネットワークとも呼ばれます.
表記のルール
グラフィカルモデルでは未知変数と可観測変数を扱います.未知変数は推定したい変数であり,可観測変数は観測できている変数です.自己位置推定においては,推定したい自己位置が未知変数となり,センサの観測値や地図が可観測変数となります.グラフィカルモデルでは,未知変数を白,可観測変数を灰色のノードで表現します(文献によっては色が逆になっていることもあるので注意してください).また,矢印は依存関係を表し,*矢印の先の変数が矢印の根元の変数に依存している**ということを意味します.したの図であると,「可観測変数$B$は,未知変数$A$に依存している」ということを意味します.
ベイズの定理
この記事【自己位置推定の基礎】確率の基礎のお話でベイズの定理に関する話をしています.ベイズの定理とは,条件付き確率を以下の様に計算できるというものです.
p(A | B) = \frac{p(B | A) p(A)}{p(B)} = \frac{p(B | A) p(A)}{\sum_{A} p(B | A) p(A)}
この式に対応するグラフィカルモデルが,上に示したものとなっています.求めたい未知変数が$A$であり,可観測変数$B$が条件となっており,対応していることがわかります.この様な関係が成り立つときには,上式の様に式を変形することができます.
自己位置推定では,センサ観測が自己位置に依存しているということを仮定します.すなわち,センサ観測を可観測変数としてベイズの定理を適用することで,未知変数である自己位置に対する確率分布を求めることができます.
全確率の定理
この記事【自己位置推定の基礎】確率の基礎のお話では,全確率の定理にも触れています.全確率の定理とは,確率変数$A$に対する確率を求める際に,確率変数$B$に関する知識を導入することができるものです.
p(A) = \sum_{B} p(A | B) p(B)
この式に対応するグラフィカルモデルは以下の様になります.未知変数$A$が未知変数$B$に依存していることを意味しています.
自己位置推定では,自己位置が時系列的に発展していくものとします.すなわち,現時刻の自己位置を求めるにあたり,1時刻前の自己位置の情報が利用できます.すなわち全確率の定理を適用することで,1時刻前の情報を利用した自己位置に対する確率分布を求めることができます.
注意点
上の例では,明示的に未知・可観測変数といっていますが,実際はどちらでも大丈夫です.ただ,自己位置推定の定式化にあたり必要となる式の展開に合わせて,あえて明示的に変数を定義しています.
まとめ
この記事では,ベイズの定理と全確率に対応するグラフィカルモデルの話をしました.次回の記事では,自己位置推定で利用されるグラフィカルモデルを説明し,それを式展開する話をします.