この記事の要約
- 自己位置推定に必要な確率の基礎的な話(条件付き確率,同時確率,加法定理,乗法定理,全確率の定理,ベイズの定理)を説明しています
- ものすごく基本的なことしか説明していません(教科書を読めばわかることです)
確率の基礎的な話
確率の表現
ある確率変数$A$が存在するとします.例えば$A$はサイコロの出目を表すような変数だとすると,$A$は1から6の整数の値を取ります.このとき,例えば$A = 1$となる確率は以下の様に表現されます.
p(A = 1) = \frac{1}{6}
このとき,$p(A)$は$A$に従う関数となり,これを確率分布と呼びます.
条件付き確率
別の確率変数$B$があったとします.例えば$B$はコイントスの結果の裏表を表すものであり,$p(B = 表) = 1/2$であるとします.
ここで,$B$の値によって投げるサイコロを変える問題を考えます.例えば,$B = 表$のときは普通のサイコロを投げ,$B = 裏$のときは奇数目しかないサイコロ(1, 1, 3, 3, 5, 5)を投げるとします.このとき,$B$は条件となり,この様な条件の付いた確率を条件付き確率と呼びます.この例では,サイコロの出目$A$が1となる確率はそれぞれ以下の様になります.
p(A = 1 | B = 表) = \frac{1}{6} \\
p(A = 1 | B = 裏) = \frac{2}{6} = \frac{1}{3}
なお,$p(A | B)$は$A$の関数(確率分布)であり,$B$は定数として考えられることに注意してください($p(A | B)$は$B$の関数にはなりません).
同時確率
確率変数$A$と$B$が同時に起こる事象を考えるとき,この様な確率を同時確率と呼びます.サイコロを投げて出目が1になる事象$A = 1$と,コインを投げて表になる事象$B = 表$が同時に発生する確率は以下の様になります.
p(A = 1, B = 表) = p(A = 1)p(B = 表) = \frac{1}{6} \cdot \frac{1}{2} = \frac{1}{12}
ここで$p(A, B)$は,$A$と$B$の2変数関数(確率分布)となります.
なお,上の同時確率は暗黙的に2つの確率の積の形に分解されていますが,これはお互いの変数が独立しているという前提があります.独立とは,互いの事象が影響を与えないことを意味します.
加法定理・乗法定理
確率論において最も重要となる2つの定理があります.
p(A) = \sum_{B} p(A, B)
p(A, B) = p(A | B) p(B)( = p(B | A) p(A))
上が加法定理,下が乗法定理と呼ばれます.加法定理は,$A$と$B$の同時確率に対して$B$の値を変化させていった確率を足した値が,$A$に対する確率となるということを意味しています.これは周辺確率とも呼ばれたりします.
乗法定理は,$A$と$B$が同時に起きる確率は,$B$が起きる確率(もしくは$A$が起こる確率)と,$A$の条件付き確率(もしくは$B$の条件付き確率)の積になることを意味しています.なお,乗法定理をどのように分解するかは,考えているモデルによって変わるので注意してください.
全確率の定理
加法定理の右辺の同時確率に対して,乗法定理を適用すると,全確率の定理を得ることができます.
p(A) = \sum_{B} p(A, B) = \sum_{B} p(A | B) p(B)
これは,$A$の確率を得るために,$B$に関する知識を導入できること,またその際に,$A$と$B$の同時確率を考えなくても良いということを意味しています.
ベイズの定理
上述の定理を用いると,以下に示すベイズの定理を導出することができます.
p(A | B) = \frac{p(B | A) p(A)}{p(B)} = \frac{p(B | A) p(A)}{\sum_{A} p(B | A) p(A)}
これは,事後確率&p(A | B)&が,事前確率&p(B)&と尤度&p(B | A)&の積の形になることを意味しています.なお分母は確率としてのルール(総和が1になる)ことを満たすための値と解釈できます.
「事前」,「事後」という言葉が出ていますが,ベイズの定理では尤度を掛けることで確率が更新されていると考えます.また,重要なことは,左辺と右辺の分子に存在する条件付き確率の変数が反転していることです.反転することで,確率分布のモデル化が容易になるなどの利点を得られたりします.
まとめ
この記事では,自己位置推定に必要になる確率の基礎的な話をしました.この記事を基に,確率的な自己位置推定の定式化に関する話を進めていこうと思います.