この記事の要約
- 論文を書く時に気を付けて欲しい最低限のことを要約
- 変数の書き方,参考文献,図表に関してのマナー
変数
基本的な表記
変数は大きくわけると,スカラー,ベクトル,行列があり,それぞれ表記の仕方が異なります.
- スカラー:(小文字の)イタリックフォント($a$,$b$,$x$,$y$など)
- ベクトル:(小文字の)ボールドフォント(${\bf a}$,${\bf b}$,${\bf x}$,${\bf y}$など)
- 行列:大文字のイタリックフォント($A$,$B$,$X$,$Y$など)
括弧内は表す変数や分野によっても違います.例えばスカラーでも,数を表すことが多い$N$や$M$はイタリックフォント(斜め)の大文字で書かれることが多いです(もちろん$n$や$m$と書いても問題ありません).ベクトルはボールドフォント(太字)さえ守っていれば,斜めにしている人もいます(太字は絶対です).行列は大体大文字で,太字で書かれることもありますが,私は太字にはしません.
ベクトル関数(返り値がベクトルになる関数)はあまり書き方が統一されていない気がします.${\bf y} = {\bf f}({\bf x})$という様に${\bf f}$と太字で書く人もいれば,${\bf y} = f({\bf x})$と書く人もいます.個人的には${\bf f}$と書きます.
変数は基本的に1文字
例えば重さ(mass)を$mass$などと書かれる例を見ますが,これは$m \times a \times s \times s$というスカラー変数の掛け算を意味することになります.変数は必ず1文字で書いてください(重さはだいたい$m$です).
複数の物体が存在し,その重さを区別したいときがあるとします.例えばカート(cart)の上に箱(box)が載っているとしましょう.そうすると$m_{cart}$や$m_{box}$と書きたくなりますが,$m_{\rm cart}$や$m_{\rm box}$と書くべきです(名前の様なものは斜体にしません).上の例と同様に,$cart$は$c \times a \times r \times t$という意味になってしまいます.
どうしても複数文字使いたい場合は,私は斜体でない大文字を使います.
たとえば,effective sample sizeというものを私はよく使うのですが,${\rm ESS} = 100$の様に記述します.
sinとかcos
${\rm sin}$や${\rm cos}$は斜体にせずローマン体で書きます.${\rm log}$とか${\rm exp}$もです.ただし,これらに中に入る変数は斜体なので,${\rm sin}(x)$という書き方になります.
単位
単位はローマン体で書きます.${\rm kg}$とか${\rm m}$です.括弧で括るときは[]で括ります.[]の前に数値や文字がある場合は半角スペースを入れます.$1~[{\rm kg}]$とかです.
変数表記の重要性
論文を書き始めた頃は,上の表記を守る理由が良くわからないという人もいると思います.ですが少し想像するとわかりますが,スカラーの掛け算,ベクトルの掛け算(外積),行列の掛け算はすべて行う操作が違います.つまりスカラーの表記で書かれているのに,実は行列の掛け算を要求しているなどあると,意味が全く通じなくなるのです.
変数の表記のルールを守らないということは,文法のルールを守らずに作文をしているということと同じであり,意味の通じない文章を書いているということになります.文法を完全無視して書かれている英語を見たら「おいおいこいつ大丈夫か?」って思ってしまいますよね?数式でもそれと同じことが起こるのだと思ってください.
参考文献
参考文献を引用するときは,必ず公のものを引用してください.卒論や修論は一般公開されていないので公ではありません(博士論文は公です).また,出典(発表された学会や雑誌名,出版社)のわからない資料も引用してはいけません.最近はwebで良い記事がたくさんあるので引用したくなりますが,それらを引用するのは良くありません.ただしarXivとかのPreprint(学会・学会誌に採択される前に公開された論文)を引用するのは問題ない傾向にあります(ここら辺は時代とともに変わりそうなので注意を).
論文を引用するにあたっては,以下を心がけてください.
- 査読付きの論文(雑誌論文,国際会議論文)を第1に引用
- もし査読付き論文がない場合にのみ,査読なし論文(国内学会発表論文)を引用(私は査読なし論文の引用は推奨してません)
- 教科書を引用するより,できれば最初にそれを提案した論文を引用した方が良い(ただし教科書の引用がダメと言っているわけではない)
- 英語の論文を書くときには日本語論文を引用しない
余談ですが,たとえ日本語論文であっても,私は査読のある英語論文しか引用しない様にしています.
以下,論文の引用のスタイルです.一応例を書いていますが,Texのbibtexを使えば自動で引用スタイルを整えてくれます.論文は「統一性」が大切です.自動でやってくれた方が統一されるので,bibtexの使用を強く推奨します.
日本語の論文
学会発表論文
[1] 著者1,著者2,著者3."論文のタイトル",○○学会学術講演会,発表番号,2000.
[2] 著者1,他."論文のタイトル",○○学会学術講演会,発表番号,2000.
雑誌論文
[1] 著者1,著者2,著者3."論文のタイトル",○○学会論文集,vol. xx,no. x,pp. xxx-xxx,2000.
[2] 著者1,他."論文のタイトル",○○学会論文集,vol. xx,no. x,pp. xxx-xxx,2000.
注意
- 引用した文献のページ数が1ページの場合は「p. x」となる.
- 「,」「.」は全角.
- 著者は「他」と省略しても良いが,できるだけ全員書いた方が良い.
- Texでタイトルを囲む「"タイトル"」を書くときは「``タイトル''」となる.
- [1]と引用している場合は,文中でも[1]と引用する(ただしTexであれば\cite{}で自動でやってくれる)
英語の論文
国際会議発表論文
[1] Author1, Author2, and Author3. "Title of the paper," In Proceedings of the IEEE International Conference on Hoge Hoge, pp. xxx-xxx, 2000.
[2] Author1 et al. "Title of the paper," In Proceedings of the IEEE International Conference on Hoge Hoge, pp. xxx-xxx, 2000.
[3] Author1 and Author2. "Title of the paper," In Proceedings of the IEEE International Conference on Hoge Hoge, pp. xxx-xxx, 2000.
雑誌論文
[1] Author1, Author2, and Author3. "Title of the paper," Journal of Hoge Hoge, vol. xx, no. x, pp. xxx-xxx, 2000.
[2] Author1 et al. "Title of the paper," Journal of Hoge Hoge, vol. xx, no. x, pp. xxx-xxx, 2000.
[3] Author1 and Author2. "Title of the paper," Journal of Hoge Hoge, vol. xx, no. x, pp. xxx-xxx, 2000.
注意
- 引用した文献のページ数が1ページの場合は「p. x」となる.
- 「,」と「.」は半角(文が続く場合は後ろに半角スペースが入る).
- 著者を省略するときは「et al.」(斜体となることに注意).
- 国際会議名と雑誌名も斜体となる(ただし国際会議の場合の「In」は斜体ではない).
- 英語の場合著者が2人だと「Author1 and Author2」となる.
- 著者が3人以上の場合「Author1, Author2, and Author3」となるが,andの前に「,」が入るかはどちらでも大丈夫(ただし論文を通して統一されていること)
- Texでタイトルを囲む「"タイトル"」を書くときは「``タイトル''」となる.
- "title,"の様に,タイトルの最後の「,」は「"」の前に入れる.
細かい条件のあるとき
採択されたけどまだ掲載されていないとき(volやnoなどがまだわからないとき)
[1] 著者1,著者2,著者3."論文のタイトル",○○学会論文集,2000(掲載予定).
[2] Author1, Author2, and Author3. "Title of the paper," Journal of Hoge Hoge, 2000 (to be appeared).
(to be appeared)じゃなくて(accepted)とか書いても大丈夫です.
英語論文で日本語を論文を引用するとき(非推奨)
[1] Author1, Author2, and Author3. "Title of the paper," Journal of Hoge Hoge, vol. xx, no. x, pp. xxx-xxx, 2000 (in Japanese).
何か特許に関わる様なことや,絶対に自分達が先にやったのだということを主張したい時以外,英語論文で日本語論文の引用は控えてください.(in Chinese)とか書かれてたら「え?読めないよ?」って思ってしまいますよね.英語で論文になっていない内容は,英語で論文を書くにあたっては公の文章として存在していないと思って問題ありません.
図や表の引用
日本語の場合
図や表のキャプションが「図1」や「表1」という様に日本語であれば,同様に「図1」や「表1」という様に引用します.
キャプションが「Fig. 1」や「Table 1」となっている場合は,同様に「Fig. 1」や「Table 1」と引用します.
「Fig. 1」の「.」は短縮表記を表しています.つまり「Fig.」は「Figure」を表しています.短縮表記の「.」の後ろには半角スペースを入れてください(Figs.1はFigure1という意味になります).Texなら「Fig.~\ref{fig:}」というように記述してください.
Figureは短縮表記「Fig.」を使いますが,Tableは短縮表記を使いません.
Fig. 1の(a)のサブフィギュアを引用刷る際は「Fig. 1(a)」という様に,1の後ろにスペースを入れずに(a)を書きます.
英語の場合
キャプションは英語で基本的に「Fig. 1」や「Table 1」となっているので,同様に「Fig. 1」や「Table 1」と引用します.
ただし,文の先頭でFig.を引用するときは「Figure 1」という様に短縮表記しないことが多いです.また連続して「Fig. 1 and Fig. 2」と引用する場合は,「Figs. 1 and 2」となります.
その他
この記事では論文を書くに当たってのマナーというか,ルールの様なことのみをまとめています.内容的に何を書くべきかなどは,以下のページを参考にして頂けると幸いです.
ロボティクスが専門の研究者の査読経験に基づいた論文の書き方
論文における提案手法の書き方
まとめ
論文を書くにあたっての細かいルールの様なことをまとめました.論文を書くルールは,正直研究をやるにあたってはあまり重要ではありません.そのため,わざわざ時間を取って全体に教えるということをする研究室はあまりしないと思います(私は何個かの研究室を経験していますが,見たことはありませんでした).しかし,論文を書く際には守らなければならないため,論文を書いてから都度教員が教えるという作業が毎年繰り返されると思います.そんな作業がなくなればと思いこの記事を書きました.少しでも役に立てば幸いです.