1. はじめに
本記事をご覧いただきありがとうございます。
株式会社NTTデータ九州 ビジネス共創部 デジタルビジネス推進室の野田です。
前回の記事では、Microsoft 365の活用(以下、M365)というテーマで、M365を活用したコミュニケーション基盤やゼロトラストセキュリティ基盤についてご紹介しました。
今回は、生成AIの業務利用が一般化した現在、ネットワークセキュリティの観点から、生成AIを安全に利用するために必要な検討ポイントについて考察します。
その背景として、近年Gartnerが提唱した、ゼロトラストの重要な構成要素であるSecure Access Service Edge(以下、SASE)に基づくネットワークセキュリティ対策が主流になりつつあります。
しかし、SASEが登場した時点では生成AIの業務利用は普及しておらず、導入済みのSASEで生成AIまでカバーできるのか、これから導入予定の場合は生成AIを適切にカバーできるか、検討する必要があるのではないかと私は考えています。
そのため、本記事ではSASEの機能ごとにどのような対策が可能か、生成AI独自の観点で見たときのSASEの有効性を考察していきます。
2. SASEとは
SASEとは、これまで個々に存在していたセキュリティサービスとネットワークサービスを一体にしたネットワークセキュリティの概念です。
ゼロトラストな環境を実現する上ではインターネットやクラウドサービスへのアクセスに対する可視化や制御が必要となりますが、それらを実現するためにはSASEの導入が有効です。
また、SASEの中でもセキュリティサービスの部分は、Security Service Edge(以下、SSE)と呼ばれます。
SSEは、様々なセキュリティ機能を組み合わせて、インターネットやクラウドサービス、内部ネットワークのリソースへのアクセスやアクティビティを保護する考え方です。
SASEの主な機能は以下の通りで、様々な機能があります。
| 機能名 | 概要 | 機能詳細 |
|---|---|---|
| Secure Web Gateway(以下、SWG) | 安全なWebアクセスを実現するプロキシ・検閲機能 | カテゴリフィルタリング、URLフィルタリング、偽サイト制御、サンドボックス、アンチマルウェア、SSL/TLSインスペクション |
| Cloud Access Security Broker(以下、CASB) | クラウドサービスの利用状況を可視化・制御する機能 | クラウドサービス可視化・評価・制御、認可クラウド制御、非認可クラウド(シャドーIT)制御、テナント制御、アクティビティ制御 |
| Zero Trust Network Access(以下、ZTNA) | 外部公開をしていない内部ネットワークのリソースへ安全にアクセスする仕組み。VPNと異なり、毎回すべてのアクセスを検証するのが特徴 | 内部ネットワークのリソースへの安全なアクセス、セッション評価・制御 |
| Firewall as a Service(以下、FWaaS) | クラウド上で提供されるファイアウォール機能 | 送信元・送信先IP制御、ポート制御、プロトコル制御 |
| Data Loss Prevention(以下、DLP) | 機密情報が外部に流出することを防ぐために、メールやファイルの内容を検査して制御 | 機密情報制御、個人情報制御、キーワード制御、アップロード制御、ダウンロード制御、外部共有制御、添付ファイル制御 |
| Software-Defined WAN(以下、SD-WAN) | 拠点間やクラウドへの通信を制御し、最適な回線へ自動振り分ける機能 | (概要と同様) |
3. なぜ生成AI時代にSASEが重要になるのか
生成AIをSaaSの1つとして考えたとき、SASEは有効なネットワークセキュリティ対策になると考えられます。
また、NTTデータの記事によると、生成AIの普及に伴い機密情報の漏えい、意図しない差別、不適切な判定、不正目的利用、ハルシネーションのような虚偽情報の出力などの以下のリスクが出てきました。
そのため、従来のSaaSに対する観点に加えて、生成AI独自の観点の両軸で対策が必要だと考えられます。
上記を踏まえて、次章にて生成AI利用に対して、SASEが有効なネットワークセキュリティ対策になるか検討します。
4. SASEによる生成AIのセキュリティ対策の検討
前述のSWG、CASB、DLPの機能ごとに、生成AIに対して実現可能なことを整理しました。
これらの結果をもとに、機能ごとに生成AI利用におけるセキュリティ対策として十分か考察しました。
4-1. SWG観点での考察
SWGの機能ごとに、生成AIに対して実現可能なことを整理した結果は以下の通りです。
| SWG機能例 | 生成AIに対して実現可能なこと |
|---|---|
| カテゴリフィルタリング | 生成AIのカテゴリは禁止しつつ、URL単位などでホワイトリスト的に利用する生成AIサービスを許可する。 |
| URLフィルタリング | URL単位で生成AIサービスの許可・禁止を制御する。 |
| 偽サイト制御 | 生成AIサービスを装ったフィッシングサイトや偽生成AIサイトへのアクセスを防止する。 |
| サンドボックス | 生成AIサービスからダウンロードしたファイルの不審な挙動を検査する。 |
| アンチマルウェア | 生成AI経由で取得したファイルやURLに含まれるマルウェアを検知・遮断する。 |
| SSL/TLSインスペクション | HTTPS通信内の生成AIのアクセスを可視化し、コンテンツの検査やポリシーを適用する。 |
上記より、多くの生成AIサービスはインターネット経由で利用されるため、SWGにより生成AIサービスへのアクセスを可視化および制御できると考えられます。
例えば、ChatGPTやMicrosoft Copilotのみアクセスを許可し、その他のGeminiやClaudeなどのアクセスをブロックすることが可能です。
また、生成AIを装ったフィッシングサイトや悪意のあるサイトへのアクセス防止にも有効です。
さらに、生成AIからダウンロードしたファイルに対してサンドボックスやアンチマルウェアによる検査を実施し、マルウェア感染リスクを低減できます。
つまり、SWGは「どの生成AIへアクセスできるか」を制御する入口として、安全な生成AI利用を支える重要な機能です。
4-2. CASB観点での考察
CASBの機能ごとに、生成AIに対して実現可能なことを整理した結果は以下の通りです。
| CASB機能例 | 生成AIに対して実現可能なこと |
|---|---|
| クラウドサービス可視化・評価・制御 | 利用中の生成AIサービスを可視化し、リスク評価に基づいて利用可否を判断する。 |
| 認可クラウド制御 | 組織が許可した生成AIサービスのみ利用可能とする。 |
| 非認可クラウド(シャドーIT)制御 | IT部門が把握・許可していない生成AIサービス(シャドーAI)へのアクセスを検知・制御する。 |
| テナント制御 | 組織のテナントのみ利用可能とし、個人アカウントや他テナントの利用を防止する。 |
| アクティビティ制御 | プロンプト入力やファイルアップロード、ファイルダウンロード、他の人への共有などの操作を制御する。 |
上記より、クラウドサービスへの対策と同様に生成AIサービスの可視化や評価、制御、テナント制御、アクティビティ制御の観点がそのまま活かされると考えられます。
それに加えて、生成AIならではのアクティビティであるプロンプト入力に対して、どこまできめ細かく制御できるかがポイントになりそうです。
プロンプト入力そのものはある程度制御できる可能性がありますが、機密情報の入力に関する制御はDLPとの組み合わせが必要だと考えられます。
4-3. DLP観点での考察
DLPの機能ごとに、生成AIに対して実現可能なことを整理した結果は以下の通りです。
| DLP機能例 | 生成AIに対して実現可能なこと |
|---|---|
| 機密情報制御 | 機密文書や社外秘情報のプロンプト入力・アップロードを検知してブロックする。 |
| 個人情報制御 | 氏名、住所、マイナンバー、顧客情報等の入力を検知して制御する。 |
| キーワード制御 | 事前に指定したキーワードを含むデータ送信を制御する。 |
| アップロード制御 | 機密ファイルやソースコードのアップロードを制御する。 |
| ダウンロード制御 | AIが生成したファイルや回答のダウンロードを制御する。 |
| 外部共有制御 | 生成AI連携サービスを介した情報共有や公開設定を制御する。 |
| 添付ファイル制御 | 添付ファイル内の機密情報を検査し、生成AIへの送信を制御する。 |
生成AIは生産性を大きく向上させる一方、顧客情報や設計書、ソースコードなどの機密データを意図せずプロンプトへ入力したり、ファイルをアップロードしたりするリスクがあります。
これらのリスクに対して、警告やブロックを実施できるかが重要なポイントとなります。
例えば、未認可の生成AIサービスにメールの本文を生成してもらうため、プロンプトに顧客の氏名や住所を含めて入力した場合に、警告やブロックなどの制御ができるかが重要です。
4-4. 生成AI独自の観点に対する考察
3章でご紹介した生成AIによる新たなリスクについて、SASE機能でどこまで対策できるか確認します。
※「顧客向けAIサービスにおけるリスク」については、自身が利用するOA環境や生成AIサービスに置き換えて確認します。
| No. | 生成AI独自のリスク | SASE機能による対策可否 |
|---|---|---|
| 1 | 誤情報を用いた業務遂行による品質低下 | × |
| 2 | 機密情報・個人情報の漏えい | ○ (SWG・CASB・DLP) |
| 3 | 野良AI(シャドーAI)利用が蔓延しガバナンス崩壊 | ○ (SWG・CASB) |
| 4 | AIサービスの障害による業務影響 | - (セキュリティリスクではないため対象外) |
| 5 | 誤情報による顧客への損害・訴訟リスク | × |
| 6 | 顧客データの不適切な利用によるプライバシー侵害 | ○ (DLP) |
| 7 | 外部からの攻撃(プロンプトインジェクション・データ汚染等) | × |
| 8 | AIサービスの障害による事業継続性リスク | - (セキュリティリスクではないため対象外) |
| 9 | 不適切な結果出力によるレピュテーション低下 | × |
上記の結果より、情報漏えいやシャドーAI、顧客データの不正利用など、4-1~4-3章でも出てくる観点は生成AIに対しても有効ではないかと考えられます。
しかし、生成AIによる出力の誤情報(ハルシネーション)や生成AIサービスへの攻撃は従来のSASEでは対応できない可能性があります。
4-5. 従来のSASE機能では足りない点
従来のSASE機能は、生成AI利用に対するセキュリティ対策として一定の有効性があると考えられます。
しかし、ハルシネーションや生成AIへの攻撃に対する制御は、従来のSASEにはない機能のため、対策機能が搭載されたSASEを検討するか専用の製品を追加導入するなどの検討が必要となります。
それぞれ生成AIの普及に伴い、機能追加や新しい専用の製品が登場していますので一例をご紹介します。
AIセキュリティ機能が追加されたSASE製品やAIセキュリティ機能に特化した製品の例
- Netskope
- Zscaler
- Palo Alto Networks Prisma Access
- Cisco Secure Access
- Microsoft Global Secure Access(以下、GSA)
- WitnessAI
AIセキュリティ機能の設定と動作イメージの例(GSAの場合)
GSAにおけるAIセキュリティ機能の設定と動作イメージの例です。
設定例
Microsoftの公開情報より、以下の順に設定します。
- プロンプトポリシー作成:Add conversation schemeで対象の生成AIサービスを追加、Actionで
Blockを選択 - セキュリティプロファイルにリンク:作成したプロンプトポリシーを選択
- 条件付きアクセスポリシー作成:ユーザ、デバイス、条件などの指定と、セキュリティプロファイルを選択
動作イメージ例
Qiitaの記事による検証結果では、Grokを指定した場合、プロンプト送信時にメッセージエラーとなる動作が確認されています。
5. NTTデータグループの取り組み
NTTデータグループでは、生成AI利用におけるセキュリティ対策やゼロトラストセキュリティに関するコンサルティングから導入、活用支援まで一気通貫でご支援しています。
また、働き方改革を目的としたOA環境高度化やゼロトラスト推進に関するサービスもございます。
NTTデータ九州としても、NTTデータグループと連携してお客様へ価値を提供してまいります。
- ゼロトラストネットワーク BMWS:柔軟に構築できるゼロトラスト基盤BMWS
- UnifiedMDR® for Cyber Resilience:高度な知識を有したセキュリティスペシャリストがポリシー策定からセキュリティ運用・改善までを全領域に対応した一気通貫で支援するソリューション
- Workstyle Invention®:ワークスタイル/ワークプレースの変革を通じて、デジタル従業員体験(DEX)やエンゲージメント、生産性向上に繋げるコンサルティングサービス
6. さいごに
本記事では、生成AI時代におけるネットワークセキュリティの観点でSASEの有効性について整理および考察しました。
その結果、SWG・CASB・DLPを中心とした従来のSASE機能は、情報漏えいやシャドーAI対策、利用状況の可視化・制御といった観点で有効であることが分かりました。
一方で、ハルシネーションやプロンプトインジェクションを始めとする生成AIへの攻撃など、生成AI特有のリスクについては従来のSASEだけでは十分に対応できない可能性があります。
そのため、AIセキュリティ機能を持つSASE製品や、AIセキュリティに特化した製品の導入も視野に検討することが重要です。
また、直近ではAIエージェント活用の始まりとともに、AIエージェントによる攻撃の可能性も出てきました。
今回お話しした生成AIへのセキュリティ対策に加えて、AIエージェントの観点も重要なポイントになりそうです。
生成AIの業務利用がさらに拡大する中、利便性とセキュリティを両立するために、今後どのような対策が必要になるのか継続して考えたいと思います。
7. 執筆日・免責事項・前提条件
- 執筆日:2026年8月10日
- 免責事項:本記事は執筆時点の情報に基づいています。内容は将来変更される可能性があります。
- 前提条件:本記事は一般的な企業や自治体などにおける、生成AI利用およびSASE導入を前提として考察しています。実際に利用可能な機能や対策可否は製品や構成によって異なるため、導入時には個別の確認・検証が必要です。




