システムやアプリの開発では、終盤での上位マネジメントや顧客からの指摘により、手戻り、やり直し地獄に陥ることも少なくありません。そこで現場で疲弊する開発者やPdMのために、「顧客指摘ゼロ」を目指すユーザビリティ評価方法を短くまとめました。実際に現場で実践できる具体的なステップや評価指標を紹介します。「そもそもユーザビリティ評価って何をやるの?」「何かいいことがあるの?」「何をどうすればいいか分からない」そんな人のためにエッセンスを取り出したので、ぜひ明日から試してみてください。
はじめに
リリース後のUI起因の指摘事項対策で困ったことはありませんか?多くの企業システムや業務アプリでは、ユーザビリティ評価が軽視されがちであるようです。それにより、顧客からの指摘事項がリリース後に発生すると、後戻り・やり直しにより開発チームに大きな負荷を与えることになります。この記事では、このような問題の発生を防ぐユーザビリティ評価と、現場で無理なく回せる最小フレームワークを紹介します。
ユーザビリティ評価とは?
ここでいうユーザビリティ評価とは、以下のようなプロセスを指します。
- デザイン検討中のUI画面を用いたプロトタイプや実際に開発したアプリを用いてユーザーに操作してもらう
- その操作を観察・記録する(特に迷いや間違いを含む想定外の操作を見る)
- 観察・記録を分析し、改善すべき箇所を特定する
ユーザーに操作してもらうことがここでは重要です。開発者やデザイナーが「使いやすい」と思っていても、実際のユーザーが同じように感じるとは限りません。ユーザーが実際に操作することで、どこで迷うのか、どのような誤操作が起きるのかを明らかにし、改善点を特定することができます。
ユーザビリティ評価の重要性
ユーザビリティ(ごく簡単には「使いやすさ」といってもよいです)は単なるデザインの美しさにとどまらず、業務効率や顧客満足度、開発コストに直結します。例えば、
- 業務効率の低下:UIや業務を進めるためのタスク実装の複雑さはユーザのミスや迷いを引き起こしやすくなります。そのため作業効率を低下させ、結果的に業務全体の生産性を損ないます。
- 顧客体験の悪化:使いにくいサービスは顧客離れを招きます。仮にそのシステム納入ができても、次の機会を失う原因になります。
- 開発コストの増加:リリース後にUI改善を行う場合、設計・開発・テストの再作業が発生し、コストが膨らみます。
このような問題を解決するためには、ユーザビリティ評価を開発プロセスに組み込み、継続的に改善のサイクルを回していくことが重要です。また評価と改善においては、ユーザー目線で評価することや、具体的な指標(タスク完了率、タスクの所要時間、誤クリック率など)を用いて何を改善するかを定義し、改善できたかどうかを検証することが重要です。
ユーザビリティ評価の始め方:実施ステップ
最初の試行では簡単に実施できることが重要でしょう。とはいえ意味ある評価とするためには、以下のようなポイントを押さえた流れで実施するとよいでしょう。
- 評価対象の選定:システムやアプリケーションをやみくもに使ってみる・使ってもらうのではなく、利用が多いところ、問題が多くでているところ、業務や顧客に与える影響が大きいUIや機能を優先して選びます。まずは一番重要なところから始めましょう
- タスクと評価項目の定義:評価対象のUIや機能について、そのUIを用いてユーザーが行うタスクと、そのタスクが正常に完了する条件、完了させるまでの時間やミスクリックなどの間違った操作などの評価項目を定義します
- 評価対象の準備: 実際にユーザーが操作できる画面や試作版(プロトタイプ)を準備します1。評価項目が測定可能であることが重要で、すべての機能が実装されている必要はありません
- 記録と分析:ユーザーに操作を依頼し、その様子を記録します。以前は手間のかかる作業でしたが、画面の録画が可能なビデオ会議が普及した現在では、この機能を使えば簡単に実現できます2。なお、この際ユーザーには、操作中に感じたことや迷った点などを自由に話してもらうと、より多くの情報が得られます。またアンケートを実施し、ユーザーからのフィードバックを得るのも有効です。その後、記録した内容を分析し、タスクは完了できたかといったあらかじめ設定した評価項目について評価を実施します
- 差分反映:分析結果をもとに改善実施します
- 再計測:改善後に同じ評価項目で再度計測し、改善できていることを確認します
主な評価項目
ユーザビリティ評価で用いる主要な評価項目を以下に示します。
- タスク完了率: 基本的な指標であり、あらかじめ定義したタスクをユーザーが最後まで達成できた割合です。使いにくいシステムやアプリでは、ユーザーがタスクを完了できず、あきらめてしまうこともあります
- 所要時間: タスク達成までにかかった時間です
- ミスクリック: 想定していた場所とは異なるところをクリックすることです。割合で評価することが多いです。UIの分かりやすさ、誤認識の少なさを示します
- 画面遷移パス: タスク達成までに移動した画面の数です。想定外の遷移をしていることが評価できます
- 入力の間違い: フォーム入力などで、誤った、あるいは想定外の値の入力のことです
ユーザビリティ評価の効果
顧客指摘事項の削減により、以下のような効果が期待できます。
- 仕様策定時にプロトタイプを用いたユーザビリティ評価を行うことによって、ユーザーの「つまずきポイント」を把握できます。これにより「なぜここで迷うのか」「どこが誤解されるのか」を事前に発見することで、設計段階での改善が可能になります
- このような活動を通じて、顧客との「仕様の認識ズレ」や「期待値の食い違い」が減り、顧客との合意形成がより確実になります。これにより納品後のやり直しや追加要望も減少します
- 結果として、開発チームの心理的負担が軽減し、品質向上・業務効率化・工数圧縮が実現されます。現場の「やり直し地獄」や「指摘対応疲弊」から解放され、より本質的な改善や価値創出にリソースを割くことができるようになります
ではなぜユーザビリティ評価が浸透しないのか?
ここまでを見れば、ユーザビリティ評価の重要性は、理論的・定性的には理解できるはずです。しかし実際にはなかなかユーザビリティ評価は浸透しているとは言い難い状態です。この理由として、以下のようなことが考えられます。
- 何をしてよいかが分からない:ユーザビリティ評価の具体的な方法論やフレームワークが知られていない、あるいは理解されていないため、何をすればよいか分からない。またそのために工数の見積もりもできず、計画に組み込めない、という声も聞きます
- 開発プロセスに組み込まれていない:ユーザビリティ評価が開発プロセスに正式に組み込まれていないので実施されない(これは要件定義が機能要件から行っていることとも関連しそうですが、このお話はまた別の機会に。)
- 評価活動の価値が理解されていない:ユーザビリティ評価の意義や効果が、意思決定者(プロダクトオーナー(PO)/プロジェクトマネージャー(PM)/プロダクトマネージャー(PdM)/経営層)に理解されないと、予算もつかないし、活動も進みません
この記事では、「何をしてよいかがわからない」、という問題点に対して、実施ステップを紹介しました。その他のことも重要ではありますが、まずはやってみることが重要なので、今回紹介したステップを小さく実行することから始めてみるのがよいでしょう。
おわりに
ユーザビリティ評価は、単なるデザインの美しさを追求するものではなく、業務効率・顧客満足度・開発コストを改善する重要な活動です。まずは1画面、1タスクから始めて1回でも回すことで、要件定義や仕様、設計の質が変わり、開発の後工程で顧客に言われてから直すのではなく、開発の前工程で改善できるようになります。よってこれまで紙の仕様書だけでは気づけなかったことがわかるようになり、リリース後の手戻りや顧客との認識齟齬を削減できるようになります。まずは小さく始めて、現場の変化を体感してください。
本記事は、ユーザビリティ評価の実施内容をぎゅっと圧縮した超簡易版として準備しました。記事中で紹介したMaze2を活用した事例が、東芝のデザイン部UIデザインチームのnote記事(社会インフラだからこそ「迷わない」体験を──ユーザビリティ評価ツールの活用)で紹介されていますので、ぜひこちらも合わせて参考にしてください。
掲載内容は個人の見解です。間違いへのご指摘やコメント等、広くご意見をお待ちしております。
参考文献
- "Usability Evaluation", "INTERACTION DESIGN FOUNDATION", https://www.interaction-design.org/literature/topics/usability-evaluation, 参照 Dec. 9, 2025.
- 安藤昌也, UXデザインの教科書, 丸善出版(株), 東京, 2016.