Tricentis AI Workspace入門: AIエージェントで品質業務を自動化する機能
背景
「AIを使ってテスト効率を上げたい」「でもどのAIが何をしたか追えない」「ツールが増えて逆に管理が大変になった」——。
AIエージェントをQA・テスト業務に持ち込むと、こういった壁にぶつかりがちです。AI自体は便利でも、複数ツールのつなぎや承認フロー、監査対応が後追いになって、気づいたら全体を把握できていない、というのが発生します。
Tricentis AI Workspaceは、こうした課題に正面から向き合った製品です。キャッチコピーは「the control plane that makes agentic quality engineering usable at scale」——AIエージェントを現場で安全にスケールさせるための制御塔、といったイメージです。
この記事では、AI Workspaceの全体像と基本操作を初心者向けに整理します。
AI Workspaceとは何か
AI Workspaceは、ソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC)全体の品質エンジニアリングワークフローを設計・実行・監視するプラットフォームという売り込みです。
単なるAIアシスタントではなく、AIエージェントたちを「ワークフロー」という形でつなぎ合わせ、実運用に耐える自動化を実現するのが特徴です。
製品が解決しようとしている課題は3つです。
- Operational Control — AIが何をしたか確認でき、ガバナンスを継続的に効かせられる
- Faster Quality at Scale — エージェントとツールを一元管理し、プロセスの断絶を防ぐ
- Lower Risk Adoption — 組み込みの承認機能と監査証跡で、規制環境でも安心して導入できる
PoC段階でAIを試す段階から、チーム全体の運用に乗せる段階への橋渡しを担う製品です。
誰に向けた製品か
公式ドキュメントが想定している利用者は次の通りです。
- QEチーム・テスト自動化エンジニア: 要件やJiraチケットからテストケースを生成し、qTestへ公開するまでを自動化
- 開発・DevOpsチーム: GitHubやJiraと連携しながら、品質チェックをパイプラインに組み込む
- 組織・管理者: 承認責任の明確化、監査向けのトレース、チーム横断での標準化
「便利な実験」から「統制された運用」に引き上げたいときに特に相性がよい製品です。
3つの概念
AI Workspaceを触り始める前に、この3つ押さえておくと画面の理解が格段に速くなります。
Workflow(ワークフロー)
一連の処理手順です。「Jiraチケットを読む → テストケース案を作る → 人がレビュー → qTestに登録する」といった流れを1つの単位として定義します。各処理はAgentが担当します。
Agent(エージェント)
各ステップで実際に処理を担うAIの実行主体です。LLMモデルの選択、メモリのオン/オフ、応答のばらつきを制御するTemperature(0.0〜2.0)、利用するtool(APIやMCPの利用先)、そして最大20万文字まで書ける指示文(Instructions)を設定できます。
Toolset(ツールセット)
JiraやGitHub、qTestなど外部システムへの接続手段です。REST APIベースのAPI Toolset、Model Context Protocol(MCP)に対応したMCP Toolset、エージェント間通信のA2A Agentの3種類があります。
セットアップ
前提条件
AI Workspaceを使うにはTosca Cloudへのアクセスと有償ライセンスが必要です。
- 担当営業に相談する
- AI Workspaceの有効化が完了したらページにアクセスする
- ToscaテナントURLの先頭部分(テナント名)と資格情報でサインインする
ワークフローを作る
ワークフローの作成方法は2通りあります。
テンプレートから始める
一部のユースケースがテンプレートとして用意されています。まず試してみたいときはここから始めるのが最短です。
Workflow Assistantで作る(推奨)
自然言語でやりたいことを伝えると、アシスタントが対話形式でワークフローを組み立ててくれます。処理の流れは次の通りです。
- 目的・分岐条件の確認
- 各ステップに合うAgentの割り当て
- ノードと接続の自動生成
- 検証とアクティブ化
作成後はビジュアルエディタでフロー全体を確認・編集できるため、チームレビューもしやすくなります。既存ワークフローのJSONファイルをインポートして流用することも可能です。
実運用にむけて
承認ゲート(Approval Gate)
ここがAI Workspaceの核心機能のひとつです。重要なステップで処理を一時停止し、人がレビューしてから続行できます。レビュアーの指定、タイトル・説明の設定、承認期限の指定が可能です。
ポイントは「全ステップに入れない」ことです。高リスクな工程だけに絞らないと、承認待ちが積み上がって本末転倒になります。
遅延設定(Delay)
APIのレート制限対策や外部システムへの反映待ちのために、ステップの前後に1〜3600秒の待機を入れられます。外部APIをたたく処理が多いワークフローでは早めに検討しておく価値があります。
リビジョン管理
変更のたびに世代管理されます。複数人が同時編集した場合の競合も検出してくれるため、チーム運用でも安心です。問題が起きたときは過去の状態にロールバックできます。

実行とログ確認
実行方法は3パターン
手動実行
ワークフローを選んで「Execute」をクリックし、初期入力(例:JiraチケットID「PROJ-1234」)を与えると即時実行されます。
Manual Trigger
ワークフロー名と初期入力をあらかじめ登録しておくトリガーです。「毎回同じ入力で流す」ルーティンタスクに便利です。
Schedule Trigger / Webhook Trigger
スケジュール(例:毎朝9時)または外部システムからのWebhookで自動起動します。Webhookには非同期(Async)と同期(Sync、30秒タイムアウト)の2モードがあります。
実行結果の確認
実行後は「Runs」セクションからステップ単位の結果を確認できます。承認ゲートがあるワークフローでは、その箇所で一時停止し、出力内容を確認・編集してから承認または却下を選べます。

つまずきやすいポイントと対策
| よくある問題 | 対策 |
|---|---|
| Agentの出力がばらつく・想定外の内容になる | Instructions に「禁止事項」「期待する出力形式」「具体例」を明示する。Temperature を下げるのも有効 |
| Toolset接続でエラーになる | 「Call Tool」機能でデプロイ前に接続テストを行い、認証・権限・エンドポイントを確認する |
| 自動化しすぎてレビューが追いつかない | 承認ゲートは高リスク工程のみに絞る。ルーティン処理は通過させてよい |
| 大きな変更で壊れた | 本番ワークフローをクローンしてから改修する。リビジョン管理を使って戻す |
| ループ内に承認ゲートを入れようとしてエラー | ループ構造の外側に承認ゲートを配置する設計に変更する |
トラブル時の基本順序は「Agent指示文の確認 → Toolset割り当ての確認 → エージェント単体でのテスト実行」です。
まとめ
AI Workspaceは、AIを「便利な実験道具」から「統制された現場の仕組み」に引き上げるためのプラットフォームです。
最初の一手としては、小さなワークフローを1本作って、高リスク工程に承認ゲートを1か所だけ入れることをおすすめします。最初から完璧を目指さず、リビジョン管理とRunsの履歴を頼りにイテレーションを回していくのが定石です。
次のステップとして試してほしいのは、「JiraチケットIDを入力するとテストケース案が生成されてqTestに登録される」という最小ワークフローです。承認ゲートを1か所挟むだけで、AIの出力を人の目で確認する仕組みが出来上がります。


