仕様の正しさより、遊ぶ人の納得感――限界突破バグが教えてくれたこと
はじめに
個人でJavaScriptによるゲーム開発(『のらにゃんこ』)を続けている中で、改めて実感したことがあります。
それは、「プログラムとしての合理性・仕様の正しさ」と「実際に遊んだときの面白さ・手触り」は全く別の問題である ということです。
近年、AIによるコード生成やアセット作成が身近になり、プロトタイプを素早く動かすハードルは大きく下がりました。しかし、「動く」「見栄えが良い」「面白い」の3つはそれぞれ次元が異なる課題です。
今回は、テストプレイでの実体験をもとに、システム設計のロジックとプレイヤー感情のギャップ、そしてそこから生まれた「面白さの調整」についてまとめます。
1. 合理的な設計 vs プレイヤーの感情
『のらにゃんこ』の調整中、以下のような内部仕様とプレイ感のギャップに直面しました。
- 内部ロジック: 能力値が200以上になると、成功判定の計算式上はほぼランダム(頭打ち)になり、それ以上数値を上げる実質的な意味(合理性)はない。
- 初期の仕様: デフォルトの能力上限を「999」に設定。
プログラマー視点では「200で実質カンストなのだから、999まで上げる意味はない」という計算上の合理性で考えていました。しかし、妻にテストプレイしてもらったところ、強い不満(文句)が出ました。
「上限が999で止まっちゃうとプレイが続けられなくなる!」
プレイヤーにとっては、「数字が上がっていくこと自体が成長の報酬」 であり、上限が存在することはストレスになります。
対応:【限界突破】という概念の導入
そこで、「200、999を超えて育てること」に意味と演出上のハラオチ感を持たせるため、「限界突破」 の仕組み・項目を導入しました。
数式としての合理性を追うのではなく、「数字が増えるだけで楽しい」というプレイヤーの感情に寄り添う ことで、プレイヤーに納得感と達成感を与えることができました。
2. 「10%のバグ仕様」が最高の神イベントに化ける
さらに面白い現象が起きました。
ゲーム内のある場所によく登場する「特定キャラ」を倒した際、「10%の確率で上限が消失し、999を超えて数値が無限に伸びる」 という仕様にしました。これは、システム上バグであることのリスクになります。
| 視点 | 受け取り方 |
|---|---|
| 開発者(プログラム視点) | 仕様外の挙動。不整合・バグとして修正すべきエラー。 |
| プレイヤー(感情視点) | 「10%を引き当てた!」という圧倒的な全能感とカタルシス。 |
テストプレイの結果、「絶対にこちらの(バグの)方が面白い!」 というフィードバックを得ました。
10%という絶妙な発生確率と、世界のルール(上限999)を突き破る体験が、強力なプレイのモチベーションを生み出していたのです。開発者としては不整合に見えるノイズを、そのまま 「仕様(神イベント)」 として残す決断をしました。
3. AI時代のゲーム制作における「手触り」の価値
AIに全自動でコードやシステムを生成させると、基本的には 「矛盾のない正しいコード」「無駄のない合理的なシステム」 が出力されます。
しかし、ゲーム制作の本質的な面白さは、往々にして以下のような部分に潜んでいます。
- 数値計算上は無駄だが、人間が直感的に「気持ちいい」と感じる数値の跳ね上がり
- 偶然生まれたバグやノイズの中から「これ、遊んだらめちゃくちゃ面白くないか?」と見抜く感性
- 開発者のロジックとプレイヤーの生々しい感情が衝突したときに行う、泥臭いチューニング
AIは「プロトタイプを動かす」「アセットを揃える」速度を劇的に上げてくれますが、「何がプレイヤーの心を動かすのか」を発見し、不合理な面白さを肯定して磨き上げるプロセス は、実際に人間が遊んで調整する対話の中にしか存在しません。
おわりに
- 「完成して動く」(工程・技術)
- 「見栄えが良い」(グラフィック・演出)
- 「面白い」(ゲームデザイン・体験)
これら3つは全て別のものであり、ロジックの正しさだけでは「面白さ」に到達できません。
バグや設計ミスだと思ったものでも、遊ぶ人の感情と向き合うことで最高の仕様に化けることがあります。これだから個人でのゲーム制作とチューニングはやめられません。
- 実機プレイはこちら:のらにゃんこ
作者
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