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【219人が回答】ペアプロに対するエンジニアの本音と職場の相性

Last updated at Posted at 2025-01-05

はじめに

前記事「ペアプロが嫌すぎて会社を退職した話」をご覧くださりありがとうございました。
こちらの記事の反響がとても大きく、はてぶのテクノロジー分野でデイリー 1位を獲得いたしました。

そこで、ペアプロ・モブプロのアンケートを取ったところ、219名の方にご回答いただきました。
🎉ご回答いただいた皆様、ありがとうございました。🎉

分かったこと

  • ペアプロは合う人合わない人が分かれるため、一律のルールで組織に導入するのは危険
  • エンジニアがペアプロする・しないを選択できる環境を作るべし
  • ペアプロ主体で開発したいなら採用時点でエンジニアを厳選すべき

目次


調査方法

はじめに今回の調査方法について説明します。アンケートはGoogle Formで作成し、筆者の前記事でアンケート開催を告知いたしました。

  • アンケート方法: Google Form(匿名回答)
  • 告知方法: 筆者の前記事にアンケートの回答URLを貼り付け
  • 質問内容(全7問)
    • 性別、エンジニア歴、ポジション(役職)
    • ペアプロ・モブプロをしたいか?
    • 職場のペアプロ・モブプロ頻度
    • 理想のペアプロ・モブプロ頻度
    • コメント
  • 集計期間: 2024/12/22~2024/1/3

アンケート結果

あなたはペアプロをやりたいですか?

image.png

ペアプロに肯定的な層は32.4%であり、ペアプロに否定的な層は全体の47.5%でした。円グラフの回答結果が比較的均等に分布していることから、ペアプロの好き嫌いは個人差が大きいことが分かります。
(職場でペアプロを強制すると息苦しくなる人がそれなりにいるため、個人がペア・ソロを選択できる環境づくりが重要だと思います。)

理想のペアプロ頻度と職場のペアプロ頻度

回答者の理想のペアプロ頻度と職場でのペアプロ頻度を円グラフで示します。2つの円グラフは、ペアプロに対する「理想と現実」の関係になっています。

理想のペアプロ頻度

image.png

職場でのペアプロ頻度

image.png


ペアプロを全く実施していない職場が大半

「職場でのペアプロ頻度」を見ると、ペアプロを全く行っていない職場は62%であり、ペアプロを実施している時点で少数派に入ることが分かりました。

一方で、ペアプロの頻度が一日4時間以上(50%以上)の職場が5%弱もあったのが驚きでした。

ソロ開発をメインにする層が多数派

理想のペアプロ頻度が0%(=全てソロ開発)の層は28%でした。また、週に2時間以内のペアプロを希望する層が43%でした。

一方、ペアプロ頻度が5%を超える層(円グラフのオレンジ~赤の層)は全体の3割程度にとどまりました。

100%ペアプロを希望する人もいる

100%ペアプロが良いと回答した人が5名もいらっしゃいました。(すごい✨)

回答者のコメント

ここで皆様からいただいたコメントをご紹介いたします。

ペアプロの良い点

  • 新人教育、オンボーディング

未経験で入社した1〜2年目社員に対しては、ペアプロするのが良いと考えています。(No.45)

特に若手はそのコミュニケーションが自分から取れるようになるまでは固定で時間を設けて上げると意味があるかな(No.161)

  • 知見の共有

2時間以上詰まってしまったときに自分より知識、経験豊富な方とペアプロすることは有効だと感じます。(No.10)

開発中に使っているエディタ、拡張機能、その他ツールなどを共有しあえる場として使える(No.13)

  • 共同作業による設計

ペアプロの名前の雰囲気通りにコーディングのみに実施するのではなく、モデリングやクラス図といった設計段階やタスクの分割といった場合でも利用することもあります。(No.172)

  • 進捗管理

リーダー視点でいうと、特にリモートワーク中心で作業している場合、その人の進捗を把握したり、詰まっている部分を解決するために5分ぐらいだけペアプロすることはよくあります。(No.165)

進捗が遅れるメンバーはだいたい報告も曖昧で進捗が確認しづらい。ペアプロを活用してつまづきポイントを確認する(No.219)

注) 進捗管理のために100%ペアプロすべきという主張ではありません。

ペアプロの悪い点

ペア・モブを会社が義務化することって、本来は独りでやることによって独り立ちして仕事ができるようになる成長や経験を得る機会を、会社が消し続けてしまっているのと同じだよね、とも思っています。(No.100)

ペアプロは若いエンジニアの育成には効果があると思うが、マイスターレベルの環境では記事にある通り効果は低いどころか害悪であると思う。(No.102)

ペアプロ・モブプロは手段であって目的ではない.同期的なコミュニケーションに頼りすぎると読めない,書けない人になる傾向があると思う.(No.177)

チームで運用するときの課題

  • 好みの問題

好みの問題の衝突に関しては衝突することは仕方がないと思います。チームのふりかえりの場なのでガイドラインを作り衝突をなくすという取り組みも良さそう(No.47)

  • 臨機応変な対応

エンジニアのレベルや作業内容によって回答が変わる。(No.57)

向き不向き。学習法の1つ。強制されるなら病める自信ある(No.77)

  • エンジニアが決める

あくまで自由意志で、誰かから強制されてやるのは絶対に嫌ですね。一度ペアプロを始めると、「そろそろソロプロに戻りましょうか」と言い出しづらい(No.217)

希望する人がスポット的にやれる環境が望ましく、また相性や適性にも左右されるため相手を選べたり拒否権があったりすると良いなと思います。(No.82)

その他

重要なことは、社風に合わなければ自由に転職できる環境がある、ということだと考えます。イヤなことを強制され、それから逃れられない、という地獄は無いに越したことはありません。究極を言えば、ペアプロの是非というより、職業選択(転職)の自由があるということにあるように感じました。(No.128)

※ コメント全文は、記事下部の「生データ」からダウンロードできます。

相関分析

アンケートの回答内容の関連性を調べるため相関分析を行いました。相関係数は -1,0~+1.0 の範囲を取り、値が大きいほど、回答内容の間に強い相関があると言えます。

image.png

本記事では、相関係数の値に応じて下記のように評価します。

相関係数 評価
0.7 ~ 1.0 かなり強い正の相関がある
0.4 ~ 0.7 正の相関がある
0.2 ~ 0.4 弱い正の相関がある
-0.2 ~ 0.2 ほとんど相関がない
-0.4 ~ -0.2 弱い負の相関がある
-0.7 ~ -0.4 負の相関がある
-1.0 ~ -0.7 かなり強い負の相関がある

グラフから、ペアプロへの意欲に対して、下記の3点が読み取れました。

① エンジニア歴と相関は無かった

エンジニア歴とペアプロやりたいか?との相関係数は-0.03で、相関が無いと言えます。私個人としては、ジュニア層が好意的、シニア層が否定的かなと予想していたので意外な結果でした。ペアプロの好き嫌いは経験に左右されない個性のようなものでしょうか?

② 職場のペアプロ頻度と弱い相関があった

職場のペアプロ頻度とペアプロやりたいか?との相関係数は、+0.27で、弱い相関がありました。ペアプロを多く取り入れている組織はペアプロ好きなエンジニアが集まっているイメージがありますね

ペアプロが全くない職場の場合、ペアプロを絶対にやりたくない層が20%を超えています。職場のペアプロ頻度が上がるにつれ、絶対にやりたくない層が減少し、「一日に4時間以内」以上の職場ではペアプロを絶対にやりたくない回答者が0になりました。

一方で、ペアプロが全くない職場の場合、ペアプロをとてもやりたい層は2%程度と僅かなのに対し、「一日に8時間以内」と回答した職場ではペアプロをとてもやりたい回答者が25%までに増加しました。

image.png

③ 役職ごとに相関の傾向が異なった

役職とペアプロやりたいかとの相関は、役職ごとに傾向が別れました。リーダーは+0.21とペアプロに好意的な回答者が多かったのに対し、部長以上は-0.22、フリーランスは-0.21と、ペアプロに否定的な回答者が多い印象です。

image.png

ここからは、②に関して深堀りします。

職場環境とペアプロ

回答者の職場環境と「ペアプロやりたいか?」との間にどのような関連があるかを深堀りしました。

理想のペアプロ頻度の分布

下図は、

  • X軸に「職場のペアプロ頻度」
  • Y軸に「ペアプロやりたいか?」

を取り、各マスの数値は「理想のペアプロ頻度」を示しています。

image.png

注1) 1日に8時間以内(~100%)の選択肢が示すペアプロ頻度の範囲は50%~100%と広いため、内部では75%として計算しています。
注2) マスの数値は、そのマスに属する回答者の平均値です。

エンジニアと職場のマッチング

ここで上記のヒートマップを4つのブロックに分類し、それぞれA群, B群, C群, D群と名付けました。各群の特徴を説明します。

回答者の特徴 理想のペアプロ頻度 回答者の割合
A群 ペアプロが大好きな回答者 57% 6.8%
B群 ペアプロ開発が浸透していない職場における大部分の回答者 8% 85.4%
C群 ペアプロ開発が浸透した職場における大部分の回答者 35% 7.8%
D群 ペアプロ開発が浸透した職場におけるペアプロ嫌いな回答者 - 0%

image.png

A群

  • ペアプロが大好きな回答者

A群は、職場のペアプロ頻度が0~100%であり、ペアプロへの意欲は「5.とてもやりたい」と答えた回答者群です。この群の理想のペアプロ頻度は35%~75%と高く、平均値は57%でした。
このことから、職場のペアプロ頻度に関わらずペアプロをやりたい人は一定数存在し、1日の半分をペアプロしても苦にならないと言えます。

回答者のコメント

みんなでワイワイ「あーでもない」「こーでもない」と言い合いながら作業を進めるのが大好きです。エンジニアだけでなく、デザイナーやQAとモブ作業をするのも楽しいですね!(No.151)

やってみたいがやる機会がない、言い出しづらい (No.190)

実際にペアプロをすると会話量が増えるので、みんなとワイワイするのが好きな方であれば、ペアプロはハマるのかもしれません。また、職場でペアプロをしていないが、実は興味がある方もいらっしゃいました。

B群

  • ペアプロ開発が浸透していない職場における大部分の回答者

B群は、職場のペアプロ頻度が0~25%以下であり、ペアプロを全く実施していないもしくは1日2時間以内の回答者群です。また、ペアプロへの意欲は「1.絶対にやりたくない~4.どちらかというとやりたい」のいずれかです。この群の理想のペアプロ頻度は高々20%であり、平均値は8%でした。
このことから、ペアプロ文化がない職場にペアプロを導入する場合は、週に2時間程度の低い頻度から試し、ペアプロが組織にフィットするか見極めることが重要です。

C群

  • ペアプロ開発が浸透した職場における大部分の回答者

C群は、職場のペアプロ頻度が25%~100%であり、1日に2時間以上の頻度でペアプロを実施している職場です。また、ペアプロへの意欲は「2.どちらかといえばやりたくない~4.どちらかというとやりたい」のいずれかです。理想のペアプロ頻度は11%~50%の範囲にあり、平均値は35%でした。

この結果は、現在ペアプロ文化が浸透している職場においても、職場のペアプロ頻度が理想のペアプロ頻度よりも高い可能性があることを示唆しています。C群の中にはペアプロが負担と感じている人も一定数居そうですね。組織としては、ペアプロに対する従業員の心理的負荷を調査し、ペアプロ頻度を調整するといった取り組みが有効そうです。

D群

  • ペアプロ開発が浸透した職場におけるペアプロ嫌いな回答者

D群は、職場のペアプロ頻度が25%~100%であり、1日に2時間以上の頻度でペアプロを実施している職場です。一方で、回答者のペアプロへの意欲は「1.絶対にやりたくない」と回答した群になります。

この群の回答者は居ませんでした。

ペアプロ嫌いの人は淘汰されたのでしょうか...。

回答者のコメント

以前、D群の環境にいらっしゃったと思われる方のコメントが3件ありました。こういったネガティブな話はなかなか表に出ないですが、開発体制が肌に合わず離職された方もそれなりに居るということが分かりました。

私も1日8時間ずっとペアプロ・モブプロをする職場を辞めてフリーランスに転向したので、記事の内容に強く共感しました。私の場合はコードに対しての「所有感」みたいなのが薄れてしまって楽しくなかったっていうのもペアプロが嫌な理由でした。(No.20)

以前、常時モブプロの開発チームにいましたが苦痛でした。これは嫌ですと言いづらい雰囲気がとても苦手でした。結局、モブプロ導入から3ヶ月くらいで仕事を転職しました。(No.122)

私は1日中モブプロやる現場にいましたが、その現場はストレスが高くて2ヶ月くらいですぐ辞めました。(No.170)

(※ 筆者もD群の環境に居ましたが、肌に合わずB群に移動しました。)

ペアプロメインで開発する組織の採用戦略

ペアプロメインで開発する組織においてエンジニア採用には注意が必要です。今回のアンケート結果では、D群に当てはまる人は居なかったことから、採用しても職場環境に合わず短期離職につながる恐れがあります。

C群はペアプロ頻度が高い職場に属するグループですが、現職のペアプロ頻度が理想のペアプロ頻度より高い場合があります。このことから、ペアプロメインでの開発経験があるエンジニアを採用する場合でも、職場が求めるペアプロ頻度と候補者が求めるペアプロ頻度のすり合わせは必要です。

合わない人はあわないから、入社時にそのあたりを見極めたら良いかも。と思いました。(途中から変更は辛そう)(No.22)

28014534_s (1).jpg

母集団形成

ペアプロメインで開発する職場では、A群のエンジニアを採用することが会社および求職者両方にとって幸せだと筆者は考えます。しかしA群の回答者の割合はわずか7%であり、A群とC群を足しても15%しか存在しません。これは候補者の母集団としては小さいと言えそうです。

よって、ペアプロをメインとして開発する組織の採用戦略としては、下記の2案が考えられそうです。

  • 案1: ペアプロメインでの開発を採用戦略として打ち出し、A群の求職者を囲い込む(難易度高)
  • 案2: ペアプロ嫌いな求職者でも組織で活躍できるよう、開発体制を見直す(より現実的)

案1は難易度が高いですが、もし実現できればユニークなカルチャーを持った組織になるでしょう。

まとめ

今回のペアプロ・モブプロアンケートの結果から、筆者は下記のように考えています。

  • ペアプロの合う合わないや、理想のペアプロの頻度は、個人差が大きい
    • ペアプロをルール化すると、ペアプロ嫌いな人にとっては地獄になる
    • エンジニアがペアプロする・しないを選択できる環境を作るべし
  • ペアプロ主体で開発したいなら採用時点で候補者を厳選すべき。だが、候補者の母集団はかなり小さくなる

生データ

最後にアンケート結果を共有いたします。記事では紹介しきれなかった回答者の皆様のコメント全文を見ることができます!

また、アンケート結果を解析し、本記事で使用したグラフを作成するスクリプトも公開します。こちらもご自由にお使いください。決定木のサンプルコードも載せていますので遊んでみてください。

image.png


アンケート回答期間を延長しました

もしご興味がある方がいらっしゃいましたら下記のリンクよりお願いいたします。

参考記事

モブプログラミング・ベストプラクティス

ペアプロの進め方のみならず、ペアプロの課題やペアプロとソロプロ棲み分けについても記述されています。ペアプロを始めたい方、ペアプロに興味がある方にお勧めの一冊です。

ペアプロメインで開発する組織の事例

この記事はYahoo!社でのペアプロの導入事例を要約したブログです。元の記事は長いのですがペアプロメインで開発する上でのチーム作りや注意点についてよくまとまっています。


Xを始めました。たまにつぶやきます。💬

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