こちらは「Applibot Advent Calendar 2022」 11日目の記事になります。
はじめに
私はゲーム開発を行う大規模プロジェクトに所属していますが、大規模なソフトウェア開発のプロジェクトにおいてのチームビルディングは特に重要で、そのチームビルディングについて学んでいると度々目にするのが「心理的安全性」という言葉です。心理的安全性はチームの生産性を上げるのに必要となるものですが、不用意に取り入れようとするとその目指すところとは逆方向に進んでしまいます。その注意点についても触れつつ、重要性や作り方についてお話ししていきたいと思います。
心理的安全性とは
心理的安全性とは、「チームにおいて、他のメンバーが自分が発言することを恥じたり、拒絶したり、罰をあたえるようなことをしないという確信をもっている状態であり、チームは対人リスクをとるのに安全な場所であるとの信念がメンバー 間で共有された状態」のことを言います。噛み砕くと、「メンバーがお互いに心理的負担を感じずに発言をし合うことができる状態」です。近年この心理的安全性という言葉が流行っているのですが、流行った背景としてGoogleの社内で行った調査の結果「心理的安全性がチームの生産性を高める重要な要素である」と結論づけたことが挙げられます。なぜそのような調査結果が出たのかなのですが、VUCAという言葉が鍵になると考えられます。
VUCA
VUCAとは、「不確実性が高く世の中の変化を予測しにくい状況」のことを指します。近年ではITの急速な進化により世の中には情報が溢れ目まぐるしく状況が変化していくため、不確実性が高く予測しにくい状況となっています。このような状況をVUCAと言います。VUCAの世の中では、学習せずに停滞したままでの存続は難しく、常に新しい考え方、手法が求められます。さらに、新しい考え方、手法を考える際に、従来のウォーターフォール型のような、一部の人間しか考えないような組織では対応し切れない可能性が高い状況となっています。
心理的安全性の重要性
つまり、VUCAに対応するためには、より多くの人間が不確実性に向き合い、チームとして対話をしながらやり方を模索していく必要があります。ここで重要になるのが、心理的安全性です。心理的安全性がないチームではこの対話は行われず、世の中の急速な変化に対応することは困難となります。
心理的安全性のメリット
心理的安全性のメリットには下記の3つが挙げられます。
-
チームメンバーのパフォーマンス向上
必要な質問や意見を容易に発言することができるため、質問するのに時間がかかってしまったりそもそも質問ができないような個人プレイの状況と比べチームとしてのパフォーマンスは向上します。 -
イノベーションや改善の推進
多くのメンバーが別々の観点で世の中の動向を追い、日々新しい考えや改善案について話し合うため、イノベーションや改善が促進されます。逆に言うと、改善や学習が促されていない状況は心理的安全性ではないと言えます。 -
質の高い体験の提供
意見をすることが許されないまたは意見をしても聞き入れてもらえないようなチームとは違い、自分の意見を発言されることが許されており、意見があれば改善に向けた動きをしていくため、質の高い体験ができます。当事者意識も上がり、離職率にも影響を与えます。
心理的安全性の作り方
心理的安全性の作り方についてはそう簡単に語れることではないのですが、一つ確実なこととして、「リーダーが心理的安全性を意識すること」が挙げられます。チームメンバーがどんなに努力しても、リーダーが意識してなければ心理的安全性を作ることはできません。何を意識するのかですが、それが最初の方にお話ししていた「メンバーがお互いに心理的負担を感じずに発言をし合うことができる状態」です。例えば、メンバーが今までそのチームでずっとやってきたやり方についてリスクや改善案を唱えたときに、それをはなから否定することなく議論することができるか、ミスの報告について罰があたえられることがなく、建設的な対話が行われるか、メンバーが質問をするときに「こんなことも知らないなんてと思われないか」「自分のために時間を取らせるなんて勿体ないのではないか」などと思わないようになっているか。このようなことをリーダーが意識し、そうなるようにチームメンバーを導いていく必要があります。また、コミュニケーションの促進も重要です。お互いのことを知ることで話しやすくなるので自己開示の施策を行ったり、リスクなどについて話すための場を設ける、コミュニケーションラインを確立させるなどがこれにあたります。心理的安全性作りは、まずはリーダーが意識することから始まると言えるでしょう。
心理的安全性の落とし穴
心理的安全性を目指す際に気を付けなくてはいけない落とし穴がいくつかありますが、そのうち2つほどご紹介したいと思います。
・心理的安全性は目標設定基準を下げることではない
まず絶対に注意しなければいけないのが「心理的安全性は目標設定基準を下げることではない」ということです。これは本当によく勘違いされることなのですが、「ミスの報告が罰せられない」などの考え方から、「納期には間に合わなくても良いだろう」「クオリティが低くてもいいだろう」と考え、目標設定を低く設定するケースがあります。心理的安全性が目指す所は必要な議論を促すことで学習を重ね、常に改善ていき、生産性が向上することです。心理的安全性を目指す上では、常に高い目標を設定し、それを達成できるように務めることが必須となります。
・心理的安全性を目指すチームではメンバー構成が重要
もう一つの勘違いとして、「メンバーに恐怖感を与えてしまうのでメンバー構成を変える判断をしてはいけないのではないか」と考えてメンバーを変えられないということです。もちろんどのチームのリーダーの方でもチームにメンバーを迎え入れる際にはチームに合っているかどうかをよく考えて判断するとは思いますし、それでチームに合わないメンバーが入ってくることはあまり無いとは思いますが、実際に入ってみたらチームとの相性が悪く心理的安全性を乱す要因になってしまうことが無いわけでは無いので、ときにはそのような判断も必要になります。こちらは基本的にはチームに合うように意識づくりを試みてからになるかと思います。
ゲーム開発における心理的安全性
私のチームではチームのメンバーが少ないときから心理的安全性について輪読会や映像を見たり、勉強会を行うなどして意識づくりをしてきましたが、時間が経ったり人数が増えたりするにつれて心理的安全性の場を作り続けるのは難しくなってきています。ですが、上層の一部のメンバーだけではなく、むしろ作業者の議論が活発に行われないと生産性は上がっていかないように感じます。特に大規模なゲーム開発においては、作業者同士で適切なコミュニケーションが行われずに制作が進むと、意図したものができなかったり、作り直しに工数を割くことになったり、ゲームの面白さについての議論もはかどらないため、ユーザーの心を掴むようなものは作れません。
まとめ
心理的安全性を作ることは難しく、それを維持することは更に難しいのですが、VUCAの世の中で特に大規模なゲーム開発においては必須であると考えます。やってみるとわかるのですが、心理的安全性は一筋縄では行かず、チーム全体を観察し、そのときそのチームに沿った方法を模索していかなければなりません。私はこれからも心理的安全性の作り方を模索していきたいと思います。
この記事が少しでも誰かのお役に立てれば幸いです。
以上、「Applibot Advent Calendar 2022」 11日目の記事でした!