生産形態
- 今までの記事では、見込生産のシナリオを中心に話を進めてきましたが、SAP ERPでは、見込生産以外の生産形態についても対応可能です。(半見込生産、受注生産、受注設計生産 等)
- 受注前に、どのレベルまで手配を行っておくかで生産形態は異なってきます。
- 見込生産は、生産計画にもとづいて製品を製造・在庫しておき受注に備えます。受注が入ったら、製品在庫を引当てて出荷します。したがって、部品調達~製品在庫まで、受注紐付での手配は行われません。
- 一方、受注生産は、受注が入ってから製品組立を開始しますので、受注以降に必要となる部品手配(購買発注、製造指図 等)や部品在庫、また、製品在庫は、受注紐付の個別手配データ・個別在庫として管理することができます。
見込生産全体フロー
- 上図は、見込生産の全体フローです。この全体フローの中で、生産管理(PP)モジュールが関わるプロセスは青点線枠の中になります。
- ここでは、上図赤枠で囲っている下記について説明します。
① 品目に対する生産計画の更新(計画独立所要量の更新)
② 計画シミュレーション(長期計画)
※ 計画シミュレーションについては、資材所要量計画(MRP)の内容を理解いただいた後の方が理解しやすいので、説明は後ろに記載します。
③ 資材所要量計画(MRP)
④ 能力負荷状況確認(能力評価)
計画独立所要量(生産計画)
- ここでは、見込生産品に対する生産計画数量の登録(計画独立所要量の登録)について説明します。SAP ERPでは、見込生産品に対して登録する生産計画数量を「計画独立所要量」として登録します。
- 生産計画を立案する品目に対して生産計画を投入する機能が、需要管理の中の計画独立所要量の登録です。
- 計画独立所要量を登録することによって、MRPで処理される需要要素(所要データ)となります。
- 計画独立所要量は、販売事業計画(SOP)からのデータ転送、画面からの入力によって、登録することができます。(※販売事業計画は当研修では対象外とさせていただきます。)
- 計画独立所要量は、複数のバージョンをもつことができます。
(通常、1つの有効バージョン(00)、複数のシミュレーション(無効)バージョン(01~)をもちます。) - シミュレーションバージョンを使用して、計画シミュレーション(長期計画)を行います。本番MRPの需要要素となるのは、有効バージョンのみです。
※計画シミュレーション(長期計画)については、後述します。
資材所要量計画(MRP)
- ここでは、資材所要量計画(MRP)について説明します。
- 必要なモノを、必要な時に、必要な数だけ揃えておくには、適切な生産計画・調達計画を立てることが必要です。
- この適切な生産計画・調達計画をサポートする機能として、MRPを利用します。
- MRPは、何が、いくつ、いつまでに必要かを計算する仕組み(機能)です。
MRPで自動生成されるデータ
- MRPは、通常運用においては、バックグラウンドでプラントごとに実行されます。(ただし、品目ごとの実行、オンライン実行も可能です。)
- MRP方式が何であるかに関係なく、MRP対象となる品目が、すべて計算されます。したがって、MRP対象となる品目の数、部品表(BOM)の階層の深さによっては、時間がかかることもあります。
- MRPの結果、品目の不足が確認されると、手配データが自動生成されます。
- まず、最初に、計画手配という伝票が生成されます。これは未来において、何か手配が必要になるという状況を表すための伝票です。
- MRPの管理者は、MRPの結果をウォッチして、手配開始日が近づいてきたら、次のステップの伝票に変換します。
- 次のステップの伝票とは、内製品の場合、製造指図です。これは、生産管理(PP)モジュールで処理されます。外部調達品の場合、購買依頼伝票になります。これは在庫/購買管理(MM)モジュールで処理されます。購買依頼伝票は、購買担当者へ渡されて、購買発注伝票へとつながります。
- 外部調達品については、計画手配を経由せずに、MRPで購買依頼を自動生成することも可能です。
MRPで使用されるデータ
- MRPでは、需要要素データ、供給要素データを時系列に沿って加味しながら、必要なモノ(品目)、必要なタイミング(所要日)、必要な量(数量)を計算し、調達方法(内製 or 外部調達)に応じて、手配データを自動生成します。
- MRPでは、その計算プロセスにおいて、生産管理の主要なマスタや稼働日カレンダが、読み込まれます。
- MRP実行の結果、内製品については、製造オーダーの前段階の仮オーダーとして計画手配が、外部調達品については、計画手配 or 購買依頼が、自動生成されます。
- 外部調達品に対して、計画手配を生成するか、購買依頼を生成するかは、MRP実行時の条件指定によって制御されます。
MRPの実行ステップ
- 上図は、MRPの実行ステップを表しています。
- ①正味所要量計算では、総所要量と在庫+入庫要素を確認して、不足分が正味所要量として計算されます。
- ②ロットサイズ計算では、①で算出した正味所要量をもとにして、品目マスタで定義したロットサイズの計算方法にしたがって、実際に手配する数量が計算されます。
- ③調達タイプの確認では、MRP対象の品目が、内製品か外部調達品かが品目マスタで確認されます。
- ④日程計画では、マスタのリードタイムが読み込まれて、手配の開始日、終了日(納期)が決定されます。
- ⑤部品表(BOM)展開では、部品表(BOM)が読み込まれて、下位構成品目へ所要量を流します。
正味所要量計算について
- 計画主導型における正味所要量計算方法について説明します。
- 所要量の計算方法は、品目マスタで設定したMRPタイプによって決まります。
- 需要要素と供給要素が比較され、需要要素数量 – 供給要素数量 を不足分(正味所要量)とします。
- 不足分(正味所要量)は、品目マスタで設定されているロットサイズ計算方法にしたがって、丸め・まとめが行われ、実際の手配数量が算出されます。
ロットサイズ計算について
- 主要なロットサイズ計算方法について説明します。
- 不足分の数量だけを手配しようとすると、少量発注となってしまう場合があります。これだと発注処理、入庫処理の手間や運送費用の点から適切ではない場合もあります。
- ある程度、まとまった数量を手配して、効率化を図ります。一定のルールにしたがって数量をまとめて発注することをロットまとめと言います。
- 固定的な数量にまとめる固定数量まとめ、1日あたりの数量を週単位や月単位にまとめる期間まとめなど、様々なロットまとめ方法が用意されています。
- ロットまとめ方法は、要件に応じて、カスタマイズ(パラメータ設定)することも可能です。
- ロットまとめ方法は、品目マスタ MRPビューで指定します。
日程計画について
- 上図は、計画主導型MRPの日程計画のイメージ図です。
- 計画主導型MRPの場合、いつまでに品目が必要かを基準に日程計画を行います。この場合、利用可能日(所要日)から、マスタに設定されているリードタイムを使用して、手配を開始するべき日付を計算します。これを逆日程計画と言います。
- 日程計画には、「基準日程計画」と「リードタイム日程計画」の2種類があり、MRP実行時にどちらで実行するかを指定します。
・ 基準日程計画 :
品目マスタの内製日数、納入予定日数を使用して、日程計画を行います。
(作業手順マスタは読み込まれません。)
・ リードタイム日程計画 :
作業手順マスタで指定された標準時間(標準値)を使用して、より詳細な日程計画と
能力計画を行います。
能力所要量の計算(能力の負荷山積み)は、リードタイム日程計画の場合のみ行われます。 - リードタイム日程計画は、作業手順マスタまで読み込んで、各作業の標準値と作業に割り当たっている作業区の計算式から、より詳細な日程計画、および、能力所要量の計算を行いますので、基準日程計画に比べると処理時間が長くなります。
- ちなみに、製造指図登録時にも日程計画が実行されますが、製造指図登録においては、常に、リードタイム日程計画が実行されます。(つまり、常に作業手順マスタの標準値を使用して、日程計画が行われます。)
内製品の日程計画について
- 上図は、内製品の逆日程計画の概要図です。
- まず、所要日 - 入庫処理日数 = 基準終了日 を算出します。
- この後、
基準日程計画の場合
基準終了日 - 内製日数 = 基準開始日 を算出します。
リードタイム日程計画の場合
基準終了日 - 製造後余裕日数 - 各作業の標準時間 - 製造前余裕日数 = 基準開始日
を算出します。 - さらに、基準開始日 - 開放期間 = 開放日 を算出します。
- 開放日とは、計画手配を製造指図に変換登録する目安の日付です。
- したがって、直接的に生産活動に関わるリードタイムの計算部分が、基準日程計画とリードタイム日程計画で異なっているのがわかります。
- 上図で出てくる日程計算のもととなるリードタイム要素がどのマスタに保持されているかについては、下記に説明します。
- 上表は、内製品の日程計算で使用される各計画要素がどのマスタに保持されているかを示しています。
外部調達品の日程計画について
- 上表は、外部調達品の日程計算で使用される各計画要素がどのマスタに保持されているかを示しています。
- 外部調達品に対する日程計画の方法について説明します。
- SAP ERPでは、「購買処理日数」、「納入予定日数」、「入庫処理日数」の3つの要素を考慮して、外部調達品に対する調達リードタイムを計算します。
- 「購買処理日数」は、購買担当者が購買依頼を購買発注に変換するためにかかる日数です。プラント単位で設定します。カスタマイズ(パラメータ設定)で定義します。
- 「納入予定日数」は、購買発注を仕入先へ出してから、納入されるまでの日数です。品目マスタ、購買情報で定義します。
- 「入庫処理日数」は、納品されてから、品質検査等の作業を経由して利用可能になるまでの日数です。品目マスタで定義します。
- 計画主導型MRPの場合、いつまでに品目が必要かを基準に日程計画を行います。この場合、利用可能日(所要日)から手配を開始するべき日付(つまり、購買依頼を登録しなければならない日付)を計算します。これを逆日程計画と言います。
- これとは反対に、発注点方式の場合、発注点を切った時点から、購買依頼を登録し、各リードタイムを加算して、いつ利用可能になるのかを計算します。これを順日程計画と言います。
能力評価(能力負荷確認)
- ここでは、能力負荷の確認について説明します。
- 能力所要量は、MRP実行で計算され、内製品の計画手配に対して生成されます。
- 能力所要量を計算、生成するためには、MRPをリードタイム日程計画で実行する必要があります。
- また、製造指図においても登録時に、リードタイム日程計算がなされますので、製造指図に対しても能力所要量が生成されます。
- 利用可能能力は、作業区マスタの能力ヘッダで、1稼働日あたりの作業量が定義されています。
- 能力所要量がどの程度積まれているのか、過負荷になっていないかを利用可能能力と比較しながら確認することを能力評価と言います。
- 上画面は能力評価確認の画面です。
- 期間単位での能力所要量(能力負荷)と利用可能能力が確認できます。合わせて、負荷率、残存利用可能能力 等も確認できます。
- 画面では、期間単位は週で表示されていますが、月単位、日単位に表示期間を変更することもできます。
- 赤色になっている行が、当該期間において過負荷であることを表しています。