SAP PP(生産計画・管理)モジュールとは?
SAPの生産計画・管理(PP)モジュールは、企業が製品の生産計画と管理を実行するための重要なツールです。具体的には、需給バランスの確保、生産ラインの能力計画、生産工程のスケジューリング、そして製品の製造と出庫を含む多くのプロセスを管理します。
生産計画と計画独立所要量登録または受注登録
生産計画は企業が製品を製造し、市場のニーズに応えるためのスケジュールを作成するプロセスです。計画独立所要量とは、計画期間中に必要な製品量を予測する手段です。これは市場予測や販売計画から派生します。一方、受注登録は具体的な顧客の注文を反映します。
見込生産と受注生産
見込生産は市場の需要予測に基づいて行われる生産方式で、受注が入る前に製品を製造します。一方、受注生産は特定の顧客の注文に応じて製品を製造します。受注生産はさらにMTO(Make to Order)、ATO(Assemble to Order)、ETO(Engineer to Order)の3つの方式に分けられます。
- MTO:特定の顧客注文に基づいて製造される製品。受注がなければ製造を行いません。
- ATO:標準的な部品を事前に製造し、顧客の要求に応じて最終的な製品を組み立てる方式です。
- ETO:特定の顧客の要件に基づいて設計と製造を行う方式。一般的には複雑な製品やプロジェクトに用いられます。
MRP・MPS(所要量計画)と能力計画
所要量計画は、製造に必要な材料と部品の量とタイミングを計算するプロセスで、材料要件計画(MRP)と主生産スケジュール(MPS)に分けられます。MRPは具体的な部品や材料の需給バランスを計算し、MPSは最終製品の生産スケジュールを計画します。
能力計画
能力計画は、製造プロセスが計画された生産スケジュールを達成できるかどうかを評価するプロセスです。これは、製造ラインの労働力、機械、およびその他の資源の可用性と能力を考慮に入れます。
計画手配から製造指図・購買依頼への変換
このプロセスでは、計画された生産スケジュールが具体的な製造指示と購買依頼に変換されます。製造指示は、製造ラインに対して特定の製品を指定された数量で製造するように指示します。購買依頼は、必要な材料や部品を調達するために供給業者に発行されます。
製造実績、構成品出庫、生産品入庫、作業時間
製造実績は、製造プロセスの実際の結果を記録したものです。これには、製造された製品の数量、使用された材料、消費された労働時間などが含まれます。構成品出庫は製造に使用する部品や材料の倉庫からの出庫を、生産品入庫は製造が完了した製品の倉庫への入庫を表します。作業時間は、製造プロセスに必要な時間を追跡します。
製造実績を計上するメリット
製造実績を計上することで、企業は製造プロセスのパフォーマンスを把握し、必要な場合に改善措置を講じることができます。また、これにより在庫管理が正確に行え、製品のコスト計算も可能となります。
PP(生産計画・管理)モジュールで使う組織:プラントと保管場所
プラントはSAP PPモジュールで使用される主要な組織単位で、一つの製造、製品製造、または販売場所を示します。保管場所はプラント内の特定の領域を指し、材料や製品の物理的な保管場所を表します。
PP(生産計画・管理)モジュールで使うマスタ
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品目マスタ:製品や部品の詳細情報を保持します。これには、製品の仕様、生産方法、および製造に必要な材料や部品が含まれます。
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BOMマスタ:製品を製造するために必要な部品や材料のリスト(Bill of Materials)を保持します。これには、各部品の数量も含まれます。
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作業区マスタ:製造プロセスの特定のステージを実行する工場内の場所(作業区)の情報を保持します。
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作業手順マスタ:製品を製造するための手順やプロセスを定義します。これには、必要な機器、労働力、時間、およびその他のリソースが含まれます。
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製造バージョン:特定の製品を製造するための特定の組み合わせを表します。これは、特定の作業手順とBOMを連携させるために使用されます。
周辺システム:MES(製造実行システム)とは?
MES(製造実行システム)は、製造プロセスの実行を管理し、工場の運用を最適化するシステムです。これは、製造工程のスケジューリング、生産ラインの稼働状況の監視、材料の追跡、および生産データの収集と分析を含みます。
MESとSAPの関係性と違い
MESとSAPは互いに補完的な関係にあります。SAPは主に企業全体の計画と管理を行うのに対して、MESは工場レベルでの製造プロセスの実行を管理します。つまり、SAPは「何を」と「いつ」製造するかを決定し、MESは「どのように」製造するかを実行します。
MESを導入するメリット
MESを導入すると、生産効率の向上、品質管理の強化、在庫管理の最適化など、多くのメリットがあります。具体的には、リアルタイムでの生産データの可視化、生産プロセスのトラブルシューティング、改善活動の推進、精度の高い生産スケジューリングなどが可能になります。
周辺システム:生産計画スケジューラーとは?
生産計画スケジューラーは、企業の生産計画とスケジューリングを自動化するシステムです。これには、MRP(Material Requirements Planning)とMPS(Master Production Schedule)の実行、生産能力の評価、および生産スケジュールの最適化が含まれます。
生産計画スケジューラーは、製造プロセスの全体的な効率を向上させ、製品の納期遵守率を高め、在庫レベルを最適化することができます。また、生産計画スケジューラーは、予想外の問題(例えば、材料の遅延や機械の故障など)に対応するための代替スケジュールを素早く作成することも可能です。
SAP PPモジュールと生産計画スケジューラーは、企業が生産計画を効率的に管理し、競争力を維持・強化するための重要なツールです。これらを適切に使用することで、企業は製造プロセスをスムーズに進め、顧客の期待に応えることができます。