#ジェネラティブアート
「ジェネラティブアート」とは、『数学から創るジェネラティブアート』によるとプログラミングによって「生成的(ジェネラティブ)」に制作されたメディアアート作品を指す言葉です。(ジェネラティブアートは視覚的だけでなく、音楽などその他の形態の作品をも指します。しかし、今回は視覚表現のみを取り扱っていきます。)
では、「生成的」とは何を意味するのでしょうか。マット・ピアソン1は、自律性と予測不可能性の2つを「生成的」と呼ぶべき条件としています。まず、自律性について考えてみましょう。ジェネラティブアートとして、とある図形を描くことを考えます。ジェネラティブアートはデータとアルゴリズムによって成り立ちます。作品の全体を隅から隅まで人間が操作するのではなく、データとアルゴリズムを人間が指定、実行すると自動で図形を描画されていきます。これが自律性です。ただ、人間が「このようなプロセスで描け」というプログラムを指定しているため、これを自律性と呼ぶことができるのかについては疑問が残るところではあります。また、ジェネラティブアートでは、人間による「このプログラムを動かしたらこのような結果になるだろう」という想定を超えた結果を生み出すものとしてプログラムが存在します。そのため、ジェネラティブアートは予測不可能性のあるものとなっています。
Processing
Processingとは?
Processingとは、視覚的な表現に優れたプログラミング言語、統合開発環境(IDE)です。

開発環境の整備やプログラムの実行も簡単に行うことができ、文法も比較的単純でわかりやすいものとなっています。グラフィックによる出力を手軽に得られることから、直感的かつ視覚的にコーディングの基礎を学ぶことができます。Processingでは、コーディングが「スケッチ」に例えられています。スケッチブックにスケッチするようにプログラムを書き、作品を作成することができます。利用するにあたり、お金はかかりません。公式サイトから無料でダウンロードし、すぐに利用を開始することができます。
ジェネラティブアートとProcessing
Processingの誕生は、ジェネラティブアートの歴史の大きな転換点でした。誕生以前は、ジェネラティブアートの制作には多額の資金と専門的な知識が必要でした。Processingは、高価な機器や、コンピュータについての専門的な知識がなくとも手軽にジェネラティブアートを制作できる環境です。今まで一部のプログラマーしか制作できなかったジェネラティブアートは、Processingによって多くの人々が制作できるものとなりました。Processingは今でも、世界中のジェネラティブアーティストに愛用されるプラットフォームであり続けています。
主な特徴
- Javaがベースとなった言語
Processingの構文はJavaがベースとなっています。Processingには、グラフィックとインタラクションに関する独自の構文が追加されています。
- オープンソースプロジェクトである
Processingはソフトウェアの設計図に相当するソースコードが公開されている、オープンソースプロジェクトです。誰でも無料で使うことができ、ソースコードの改良と再配布も可能となっています。誰でも新しい機能を開発し、追加することができるためオープンソースであるProcessingは拡張し続けています。Processingのコミュニティが形成され、様々なライブラリが作成されています。
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エディタが内蔵されている
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クリック1つでプログラムを実行できる
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クロスプラットフォームである(Windows、Mac、Linux上で動作する)
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マウス以外にも、マイクやカメラ、ペンなどあらゆる入力機器が使用できる
Processing誕生までの道のり
The Visual Language Workshop (VLW)
Processingは、MITメディアラボ2の長い歴史の中で生まれました。1975年に設立され、1985年にMITメディアラボへと移転したThe Visual Language Workshop(以下VLW)まで歴史は遡ります。VLWは、Muriel CooperがRon MacNeilと共に共同創設しました。インタラクティブなデザインを中心に、写真、活版印刷、製版など多岐にわたるデザインへのアプローチを行うワークショップでした。VLWで最も有名な公開デモのひとつが、「Information Landscapes」です。アニメーションでインタラクティブなタイポグラフィを3次元で表現した作品でした。VLWの研究や人々は、Processingが生まれたMITメディアラボのAesthetics and Computation Group(以下ACG)3という研究グループにも大きな影響を与えました。
Design By Numbers (DBN)
Processingの直接的な起源は、「Design By Numbers」(以下DBN)にあります。DBNは、「視覚的なアプリケーションの開発を通してプログラミングを教えること」を目標として作られたプログラミング言語、開発環境です。1999年、MITメディアラボのACGで誕生しました。当時、MITメディアラボの教授であったジョン前田を中心に開発が進められました。DBNは簡単にプログラミングの概念を大きく掴むことができるものでした。しかし、表示画面は100x100ピクセル、フルカラーではなくモノクロで、100段階の濃度でしか表現できないという表現の幅の狭さがありました。
Processingの誕生
2001年、Processingもまた、ACGで誕生しました。開発の中心となったのは、ジョン前田のもとで学んでいた博士課程の学生、Ben FryとCasey Reasです。DBNではできなかった、フルカラー、大きい表示画面、3次元のグラフィック作成などの幅広い表現が可能となりました。「数」によってデザインするDBNの思想を引継ぎながら、より高度な表現を可能としたものがProcessingです。2001年秋、MITメディアラボの授業(Computational Medeia Design)で初めてProcessingが使われました。開発後すぐに世の中には公開されず、MITメディアラボの研究者やその授業を受けていた人たちの間で機能の追加やバグの修正が繰り返されました。これらの改良を経て、2002年8月3日にProcessingは公開されました。Processingはオープンソースのソフトウェアです。現在も多くのユーザーにより開発が進められ、日々進化しています。コーディングの初学者だけでなく、アーティストやデザイナー、建築家や研究者などにも広く利用されています。
活用例
Processingは様々な場面で活用されています。
ここでは、その中の一部をピックアップして紹介していきます。
巴山 竜来4による作品。
Processingでデザインが制作され、ジャガード織りと呼ばれる機械織りによって作品となった。
Martin Wattenberg5による作品。
人工知能がチェスで対戦する時の思考の軌跡(「手」のパターン)を可視化している。
Processingによるジェネラティブアート(ソフトウェア開発者 Tom Cardenが作成)とファッション写真(写真家 Clayton Cubbitが撮影)を組み合わせたグラフィック作品。
Casey Reas(Processing開発者の一人)が制作した映像作品。テレビ塔の電波を捕まえて変換することで作られている。
もっと多くの活用例を知りたい方は
Processing公式ページで公開されている Exhibition からご確認ください。
開発環境の整備
Porcessingの開発環境は簡単に、無料で手に入れることができます。
ここでは、開発環境の整備について説明していきます。
まず、公式サイトにアクセスします。

動画の下にある DownLoad Processing あるいは左側のメニューにある Download をクリックし、
ダウンロード用のページに移動します。

このページからProcessingをダウンロードします。Windows版、Linux版、macOS版のProcessingをそれぞれダウンロードすることができます。
ここからは、macOSとWindowsでの整備方法をそれぞれ紹介します。
####macOSの場合
ダウンロードされた圧縮ファイルを解凍すると、Processing.app というアプリケーションファイルが現れます。

アプリケーションファイルは任意の場所で実行することができますが、使いやすくするためにアプリケーションフォルダに移動します。

Processing.app をダブルクリックで実行すると、Processingが起動します。
エディタが現れたら、フォントの設定をします。
Processingのプログラミングコードのフォントは、デフォルトだと「Source Code Pro」になっています。これでは日本語を使うことができません。フォントを変更することで、日本語に対応させましょう。
Processing > 環境設定 > エディタとコンソールのフォント から変更します。


「.SF NS Mono」 や 「Apple Color Emoji」、 「Menlo」など日本語に対応するフォントはたくさんあります。好みのものに設定しましょう。
以上で基本的な開発環境は整いました。
####Windowsの場合
ダウンロードされた圧縮ファイルを解凍すると、 processing-3.5.4 という名前のフォルダが現れます。
(バージョンによってファイル名は変わります)
フォルダの中にある processing.exe がProcessingの実行ファイルです。

processing.exe をダブルクリックで実行すると、Processingが起動します。
エディタが現れたら、フォントの設定をします。
Processingのプログラミングコードのフォントは、デフォルトだと「---」になっています。これでは日本語を使うことができません。フォントを変更することで、日本語に対応させましょう。
ファイル > 設定 > エディタとコンソールのフォント から変更します。


「MSゴシック」 や 「MS明朝」、 「UD デジタル 教科書体N-B」など日本語に対応するフォントはたくさんあります。好みのものに設定しましょう。
以上で基本的な開発環境は整いました。
## 基本的な使い方
Processingの開発環境
Processingの開発環境は上のようになります。なお、ここではmacOSの場合を扱っていますが、Windowsの場合はツールバーの上にメニューが表示されます。
コードの実行
コードはテキストエディタに入力していきます。入力が終わったら、ツールバーの右矢印を押します。すると、実行ウィンドウが現れ、そこにプログラムの出力が表示されます。
タブ機能
Processingにはタブ機能というものがあります。長いコードをいくつかのタブに分けることで管理が容易になります。タブバーの下矢印を押すし、新規作成を選択すると新たなタブを作成することができます。
#参考文献
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巴山 竜来『数学から創るジェネラティブアート』技術評論社、2019年
-
Casey Reas、Ben Fry、船田 巧(翻訳)『Processingをはじめよう 第2版』
オライリージャパン、2016年 -
田中 孝太郎、前川 峻志『Built with Processing デザイン/アートのためのプログラミング入門』
ビー・エヌ・エヌ新社、2007年 -
谷尻 かおり、谷尻 豊寿(監修)『Processing3による画像処理とグラフィックス』
カットシステム、2012年 -
Daniel Shiffman、尼岡 利崇(翻訳)『初めてのProcessing 第2版』
オライリー・ジャパン、2018年 -
Processing Foundation「Processing」
(http://processing.org/, 閲覧日:2020/11/08) -
M.Jones . IBM「Processingによるデータ視覚化」
(https://www.ibm.com/developerworks/jp/opensource/library/os-datavis/, 閲覧日:2020/11/08) -
田所 淳 . 技術評論社「Processingで拡がるクリエイティブ・コーディングの世界」
(https://gihyo.jp/book/pickup/2017/0047, 閲覧日:2020/11/08) -
東 成樹 . Dentsu Lab Tokyo「世界のクリエーティブ・テクノロジストに聞く コードからつくるアート」
(https://dentsulab.tokyo/article/?p=582, 閲覧日:2020/11/08) -
城一裕 . 大日本印刷「MITメディアラボ | 現代美術用語辞典ver.2.0」
(https://artscape.jp/artword/index.php/MIT%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%83%9C, 閲覧日:2020/11/18) -
巴山 竜来「Tatsuki Hayama's artworks」
(https://tomoe.me/fab, 閲覧日:2020/11/08) -
HMV & BOOKS online「マット・ピアソン プロフィール」(https://www.hmv.co.jp/artist_%E3%83%9E%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%94%E3%82%A2%E3%82%BD%E3%83%B3_200000001043679/biography/, 閲覧日:2020/12/06)
-
専修大学「研究者情報システム - 巴山 竜来」(https://kjs.acc.senshu-u.ac.jp/sshhp/KgApp?resId=S001740, 閲覧日:2020/12/06)
-
Clayton Cubitt「CLAYTON CUBITT」
(https://claytoncubitt.com/strange-attractors, 閲覧日:2020/11/08) -
Martin Wattenberg、Marek Walczak「Thinking Machine 4」
(http://turbulence.org/spotlight/thinking/, 閲覧日:2020/11/08) -
MIT Media Lab「Design By Numbers」
(https://dbn.media.mit.edu/, 閲覧日:2020/11/08) -
MIT Media Lab「Overview – MIT Media Lab」
(https://www.media.mit.edu/about/overview/, 閲覧日:2020/11/18) -
Casey REAS「KNBC (December 2015) 」Online video.vimeo
(https://vimeo.com/153406220, 閲覧日:2020/11/08) -
MIT Museum 「Visible Language Workshop - The MIT 150 Exhibition」
(http://museum.mit.edu/150/115, 閲覧日:2020/11/28) -
Processing Foundation . Medium「The History of Processing by Casey Reas and Ben Fry」
(https://medium.com/processing-foundation/a-modern-prometheus-59aed94abe85, 閲覧日:2020/11/28) -
ACT at MIT「VLW Archive」
(http://act.mit.edu/collections/vlw/, 閲覧日:2020/11/28) -
Jason Bailey . Artnome「Why Love Generative Art?」
(https://www.artnome.com/news/2018/8/8/why-love-generative-art, 閲覧日:2020/11/28)
-
マット・ピアソン: イギリス在住のプログラマー。『ジェネラティブ・アート - Processingによる実践ガイド』の著者。 ↩
-
MITメディアラボ: MITメディアラボとは、1985年にMIT(マサチューセッツ工科大学)に設立された革新的な技術とメディア革新的なデジタル技術に関する世界有数の研究・学術機関である。幅広い専門分野を扱い、現在も多種多様な何百ものプロジェクトが進められている。 ↩
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Aesthetics and Computation Group (ACG): ACGは、ジョン前田が1996年に始めた研究グループである。ビジュアルデザインの探求と新しいソフトウェア技術の融合を続けていた。ジョン前田が採用した学生たちは、VLWと似たようなテーマで活動しており、ビジュアルメディアを作るためのプログラミングツールの研究を続けていた。 ↩
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巴山 竜来: 専修大学経営学部准教授(2020年4月2日時点)。複素幾何学、および数学に関する視覚表現の実践を専門とする。『数学から創るジェネラティブアート』の著者。 ↩
-
Martin Wattenberg: データの可視化の研究を行うアメリカの研究者。 ↩


