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接骨院向けローカル完結型電子施術録をOSSで作っている理由

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接骨院・柔道整復院向けのローカル完結型電子施術録を、AGPL-3.0のオープンソースとして開発しています。リポジトリ名は judo-therapy です。現時点では、実際の院内業務でそのまま使える完成品というより、「接骨院領域の電子化をどう設計すべきか」を実装から検証するためのプロジェクトです。

この記事では、なぜこのプロダクトを作っているのか、なぜクラウドではなくローカル完結を選ぶのか、なぜOSSとして公開するのかを書きます。

接骨院にも電子化は必要になる

接骨院業界でも、電子化は避けられないと思っています。

理由は大きく2つあります。

1つ目は、単純な業務効率化です。
患者情報、施術録、保険請求、同意書、領収書、明細書、来院履歴などを紙や手入力中心で管理し続けるのは、現場負担が大きいです。特に個人院では、施術者が施術だけでなく、受付、会計、請求、記録、返戻対応まで抱えていることもあります。記録作成や検索に時間がかかる構造は、現場の生産性を下げます。

2つ目は、AI活用の前提です。
今後、問診補助、施術録の下書き生成、返戻リスクのチェック、患者説明文の生成、経過の可視化、統計解析など、AIが関われる領域は増えていきます。しかし、AIを使うには、まずデータが電子化され、一定の構造で保存されている必要があります。紙やバラバラのWordファイルでは、AI活用以前にデータ基盤がありません。

つまり、電子化は単に「紙をやめる」という話ではなく、将来の業務設計そのものです。

ただし、接骨院領域の制度は電子化を前提にしていない

問題は、接骨院領域の制度が、電子化を前提に設計されていないことです。

柔道整復師の施術に係る療養費の受領委任の取扱規程では、受領委任に係る施術について、施術録をその他の施術録と区別して整理し、必要事項を遅滞なく記載し、施術が完結した日から5年間保存することが定められています。つまり、施術録に関する明確な規定としてまず参照されるのは、療養費の受領委任の枠組みです。

一方で、この規程の施術録に関する条項は、電子保存を前提にした具体的な要件を示しているわけではありません。少なくとも、当該条項は「どのように電子化すればよいか」「電子保存で真正性・見読性・保存性をどう担保するか」といった技術的・運用的な要件までは定めていません。

ここにギャップがあります。

現場では電子化したい。しかし、制度側には接骨院向けの電子施術録ガイドラインが十分に整備されていない。結果として、各院や各事業者が独自解釈で実装・運用せざるを得ない状態になっています。

既存サービスだけでは不安が残る

すでに、接骨院向けの電子カルテや業務管理システムを名乗るサービスはいくつか存在します。それ自体は重要な取り組みですし、業界に電子化の選択肢が増えることは良いことです。

ただ、利用者側から見ると、気になる点があります。

公開情報を見ても、個人情報保護法上の安全管理措置や、医科電子カルテ相当の安全管理基準にどう対応しているのかが明確に読み取りにくいサービスが少なくありません。もちろん、各社が内部的に対策している可能性はあります。しかし、業界全体として「接骨院の電子施術録は、この基準を満たすべきだ」という共通の前提がまだ十分に見えていない。

一方で、コストをかけられない個人院では、Word、Excel、ローカルフォルダ、紙台帳などで記録を管理しているケースもあると思います。この方法は手軽ですが、記録の改ざん防止、作成者の責任所在、バックアップ、アクセス制御、長期保存、監査対応という観点では不安が残ります。

医療・介護領域の個人情報は、本人にとって不利益が生じ得る非常にセンシティブな情報です。個人情報保護委員会のガイダンスでも、医療分野は個人情報の性質や利用方法から、特に適正な取扱いが求められる分野とされています。

また、個人データを扱う事業者には、漏えい、滅失、毀損の防止などのために必要かつ適切な安全管理措置を講じる義務があります。医療・介護関係事業者についても、組織的、人的、物理的、技術的な安全管理措置が求められています。

接骨院の施術録も、患者の身体状況、負傷、施術内容、保険情報などを扱います。制度上の分類を厳密にどう整理するかは別として、実務上は医療情報に準じた慎重な扱いが必要だと考えています。

だから、医科電子カルテ水準を自主基準にする

このプロジェクトでは、「接骨院向けだから最低限でよい」とは考えていません。

むしろ逆です。接骨院領域に明確な電子施術録ガイドラインがないなら、医科電子カルテと同等水準を自主基準として採用し、その水準を満たす設計を先に実装すべきだと考えています。

医療情報システムの安全管理に関するガイドラインでは、電子保存の3要件として、真正性、見読性、保存性が整理されています。

要件 内容
真正性 正当な権限で作成された記録について、虚偽入力・書換え・消去・混同が防止され、第三者から見て作成責任の所在が明確であること
見読性 必要な場面で肉眼で見読可能な状態にできること
保存性 法令等で定められた期間にわたり、真正性を保ち、見読可能な状態で保存されること

この3要件は、接骨院の電子施術録でも最低限の前提にすべきだと考えています。

具体的には、次のような設計が必要になります。

  • 誰が、いつ、どの記録を作成・更新したかを残す
  • 記録の削除や改ざんが容易にできないようにする
  • 過去記録の履歴を追跡できるようにする
  • 必要なときに施術録を読める状態で出力できるようにする
  • データを長期保存できるようにする
  • バックアップと復元を前提にする
  • 院内の権限管理を行う
  • 外部送信やクラウド保存を前提にしない設計にする
  • 患者情報を扱うための安全管理措置を明示する

これらを「後から運用で頑張る」のではなく、最初からプロダクトの設計に組み込む必要があります。

ローカル完結にしている理由

このプロジェクトは、ローカル完結型を前提にしています。

技術スタックとしては、Next.js、Electron、SQLite、Prisma を中心にしています。WebアプリのようなUIを持ちながら、院内PC上で動作し、データも原則として院内に閉じる設計です。

クラウド型にはメリットがあります。複数端末で使いやすい、バックアップしやすい、アップデートしやすい、遠隔サポートしやすい。これは事実です。

しかし、接骨院領域では、まずローカル完結の選択肢が必要だと考えています。

理由は、患者情報を外部クラウドに預けることへの心理的・実務的抵抗が大きいからです。特に個人院では、クラウド事業者との契約、委託先管理、障害時対応、データ移行、サービス終了リスク、ランニングコストなどを十分に評価する余力がないこともあります。

ローカル完結であれば、少なくともデータの所在は明確です。院内PCに保存し、院の責任で管理する。もちろんローカルだから安全というわけではありません。むしろ、バックアップ、端末暗号化、アクセス権限、ウイルス対策、物理的盗難対策などをきちんと設計しなければ危険です。

それでも、外部クラウドに依存しない設計を最初に用意することには意味があります。院側が自分たちのデータを自分たちで保持できるからです。

なぜOSSにするのか

このプロジェクトは、基本無料のオープンソースとして公開します。

理由は、電子化によって現場の負担を増やしたくないからです。

医療機関では、電子カルテ、レセコン、予約システム、問診システム、オンライン資格確認、各種連携など、電子化に伴うコストが積み上がっています。もちろん、それらには必要性があります。しかし、接骨院の個人院に同じようなコスト構造をそのまま持ち込むと、現場が耐えられません。

電子化は必要です。しかし、電子化のために現場の利益が削られ続ける構造にはしたくありません。

OSSであれば、少なくともコードは公開されます。何をしているのか確認できます。必要であれば改修できます。業界内の開発者、柔道整復師、保険請求に詳しい人、セキュリティに詳しい人が参加できます。

これは単なる無料配布ではありません。柔整業界の業務基盤を、業界の内側から作るための方法です。

目指しているのは、単なる電子カルテではない

このプロジェクトで作りたいのは、単なる電子カルテではありません。

目指しているのは、柔整業界の共通プラットフォームです。

現状、柔整業界のデータは分散しています。各院には日々の施術情報がありますが、それは紙や個別システムの中に閉じています。一方で、保険者や行政側には請求情報が集まります。結果として、柔道整復師側が自分たちの業界データを十分に持てていない構造があります。

このままでは、将来的な制度設計、療養費の妥当性、施術傾向、地域差、患者属性、返戻傾向、業務負担などを議論するときに、柔整師側が十分なデータを持てません。

もし、院内で安全にデータを保持しつつ、同じデータ構造で記録が蓄積されるようになれば、将来的に業界全体の分析基盤を作れる可能性があります。

もちろん、個人情報をそのまま外部に出すという話ではありません。患者同意、利用目的の特定、匿名化・仮名化、第三者提供の整理、アクセス制御、研究利用のルールなどを前提にする必要があります。医療・介護領域のガイダンスでも、病歴や診療記録などは要配慮個人情報として慎重な取扱いが求められる情報に該当し得るため、この点は雑に扱えません。

それでも、柔整師が柔整師自身のためにデータを整備することには大きな意味があります。

電子化への不信をどう消すか

電子化には不信があります。

「データを取られるのではないか」
「クラウドに預けて大丈夫なのか」
「保険者や行政に不利に使われるのではないか」
「システム会社に依存するのではないか」
「費用だけ増えるのではないか」

これらは単なる感情論ではありません。現場から見れば合理的な不安です。

だからこそ、柔整師が使うシステムを、柔整師側で開発・運用・検証できる状態にする必要があります。コードを公開し、設計思想を公開し、データの扱いを明示し、改善提案を受け付ける。これによって初めて、電子化に対する不信を少しずつ下げられると思っています。

電子化は、現場から情報を吸い上げるためのものではなく、現場が自分たちの業務とデータを守るためのものであるべきです。

今後やりたいこと

現時点では、まだ追加開発中です。まずは、施術録の作成・保存・検索・出力といった基本機能を固めます。そのうえで、実際の院内業務に近い形で検証していきます。

今後やりたいことは、次のようなものです。

  • 患者管理
  • 施術録作成
  • 施術録の履歴管理
  • 更新履歴と監査ログ
  • PDF出力
  • バックアップと復元
  • 院内ユーザー権限管理
  • 保険請求業務との接続
  • 返戻リスクのチェック
  • AIによる施術録下書き補助
  • セキュリティ設計の明文化
  • 接骨院向け電子施術録ガイドライン案の作成
  • 実証実験
  • 業界内での議論
  • 行政への提案

最終的には、「接骨院の電子施術録はこうあるべきではないか」という実装例を提示し、柔整業界側からガイドライン策定につなげたいと考えています。

まとめ

このプロジェクトは、接骨院向けのローカル完結型電子施術録です。

ただし、単に「紙を電子に置き換える」ためのものではありません。

目的は、次の3つです。

  1. 接骨院領域における電子化の安全な実装例を作る
  2. 医科電子カルテ水準を参考に、柔整向けの自主基準を作る
  3. 柔整師自身が、自分たちのデータと業務基盤を持てるようにする

制度が整うのを待つだけでは、現場の電子化は進みません。一方で、基準のないまま各自がバラバラに電子化すると、セキュリティ、記録要件、データ主権の面で問題が残ります。

だから、まず実装します。実装して、検証して、議論して、業界側から標準を作る。

そのためのプロジェクトとして、judo-therapy を公開しています。

改善案、設計への指摘、制度面での指摘、セキュリティ面での指摘、実務上の要望は歓迎します。IssueやDiscussionで議論できればと思います。

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