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柔道整復師施術録の電子化と医科診療録の比較に関する調査(開発日誌#5)

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1. 柔道整復師施術録と医科診療録の必須記載事項の比較

柔道整復師の施術録(整骨院・接骨院におけるカルテ)と医師の診療録(医療機関のカルテ)では、法規やガイドラインによって求められる記載事項に違いがある。医師の診療録は医師法施行規則により患者の基本情報(住所・氏名・性別・年齢)、傷病名及び主要症状、治療方法(処方・処置)、診療年月日の記載が必須と定められている (診療所を解説した皆様へ 塩釜保健所 企画総務班) 複数の医師が診療に関与する場合には、誰が記載したか署名等で責任の所在を明確にすることも求められる。 一方、柔道整復師の施術録は法律上明文化された規定はないものの、受領委任制度の協定等に基づき作成が事実上義務付けられており、療養費請求に必要な情報を網羅する形で詳細な項目の記載が求められている (柔道整復師の施術録は電子的であってはいけない?(開発日誌#3) #開発日誌 - Qiita) 厚生労働省の通知や指導内容によれば、施術録には患者の識別情報(氏名、性別、生年月日等)、負傷名、負傷の原因・状況(いつ・どこで・どう負傷したか)、負傷年月日及び時間、初検年月日、施術終了年月日、施術回数、転帰(治癒・中止・転医の別)、医師の同意が必要なケースでは同意医師の氏名と同意日、施術の内容と経過、施術明細といった項目を漏れなく記載するよう定められているこれらの項目は柔道整復師による施術が健康保険の給付対象として適正かを示す根拠資料となるためであり、医科の診療録と比べて負傷原因や経過の詳細、保険証情報など保険請求に直結する情報の記録に重点が置かれている点が特徴である。なお施術録・診療録ともに最終記載日から5年間の保存義務が課されており患者からの開示要請や保険者からの照会に応じられるよう適切に保管する必要がある。

2. 柔道整復師と医師の業務範囲の相違

柔道整復師と医師では資格要件と業務範囲が大きく異なり、それが記録内容の違いにも反映されている。柔道整復師法第16条により柔道整復師は外科手術および薬剤の投与・指示等の医行為を行ってはならないと明記されており (労働政策審議会資料(提出用)1) この業務範囲の違いにより、医師の診療録には詳細な診断名や検査結果、手術記録、処方内容などが含まれるのに対し、柔道整復師の施術録は負傷部位の名称(例:◯◯部捻挫)、その発生機序や施術内容といった範囲内の事項に限られる。そのため施術録に記録される内容も、診療録と比べて限定的である一方、医師の同意取得の有無など柔道整復師特有の要件に関する記載が求められる点で相違している。

3. 医科電子カルテの技術基準・ガイドラインと施術録電子化の適用可能性

医科分野では1999年に厚生省(当時)から診療録の電子保存を認める通知が出されて以来、電子カルテ導入に関する技術基準やガイドラインが整備されてきた。 (柔道整復師の施術録は電子的であってはいけない?(開発日誌#3) #開発日誌 - Qiita) 電子カルテ運用にあたって満たすべき代表的な基準として**「電子保存の三原則」すなわち真正性・見読性・保存性の確保が挙げられる (医療情報システムの安全管理に関するガイドライン) 真正性とは記録が作成者の正当な権限に基づき作成され、虚偽の入力や改竄・消去が防止され、記録責任の所在が明確であることを指し ,見読性とは保存期間中に人が判読可能な状態であること**、保存性とは法定の保存期間(診療録は5年等)の間、安全に原本の内容を保持し続けられることを意味する (医療情報システムの安全管理に関するガイドライン) これらを担保するため、医科の電子カルテでは電子署名やタイムスタンプの付与、操作履歴の記録など技術的対策によって改竄防止と作成者認証を行い、記録の信頼性を確保している (柔道整復師の施術録は電子的であってはいけない?(開発日誌#3) #開発日誌 - Qiita) また同ガイドラインでは、情報セキュリティの観点から機密性(患者情報の保護)と可用性(必要時に遅滞なく利用できること)も重要な要件とされる (Microsoft Word - 03-01 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5版.docx) つまり電子化された診療情報は正確で改竄されていないことに加え、適切なアクセス制御による個人情報保護(第三者に不正閲覧させないこと)とシステム障害時にも記録を失わずすぐ参照できる運用(バックアップや耐障害性の確保)が求められる。これらの技術基準は柔道整復師の施術録を電子化する場合にもそのまま応用可能と考えられる。現在明確な施術録電子化ガイドラインはないものの、医科と同様に真正性・見読性・保存性を満たすシステムであれば施術録も電子保存が可能であるかもしれない。具体的には、柔道整復師が施術録を電子化する際にも電子署名の活用や改ざん防止のログ管理を導入し、紙と同等に信頼できる記録とすることや,保存期間中のデータ消失防止策(適切なバックアップ等)を講じることが必要となる。また電子化した施術録が監査や請求時に正式な記録として認められるには、医科の電子カルテガイドラインを参考にした運用基準を整備し、保険者・審査機関にも電子記録の有効性を理解してもらう必要がある。 総じて、医科で培われた電子カルテの技術的要件(セキュリティ基準や電子署名制度など)は柔道整復分野にも適用可能であり、施術録電子化に取り組む際はそれら既存の枠組みを参照することが有用である。

4. 柔道整復に関する現行の法制度・通達

柔道整復師の施術録作成および保存については、医師の診療録のように法律(柔道整復師法)に直接の規定が置かれていない。しかしながら、柔道整復療養費の支給を受ける際の受領委任制度の枠組みにおいて、施術録の整備は事実上の義務となっている。具体的には、柔道整復師が健康保険療養費を患者に代わって請求するには施術録を作成していることが前提条件とされており、その保存期間は転帰後5年間と協定で定められている。厚生労働省保険局から各都道府県宛に発出された通知(いわゆる「算定基準の実施上の留意事項」等)においても、療養費の支給対象となる施術については所定の記載事項を網羅した施術録を患者毎に作成し保存することが明記されているその通知の中で示された施術録の記載・整備事項(別添)には、第1節で述べたような記載項目が列挙されており、施術録はこれらを満たす形で整備しなければならないまた、同一患者については一冊の施術録に継続して記載し、書ききれない場合は別紙を添付して記録することや、保険者等から提示・閲覧を求められた際は速やかに応じる義務があることも通知で示されているこれらは保険者側(健康保険組合や協会けんぽ等)と柔道整復師側の協定書類にも反映されており、施術録を適切に記載・保存することは受領委任の取扱い上の遵守事項となっている。さらに、柔道整復療養費の算定基準や支給基準に関する通達では、不正請求防止の観点から施術録と申請書の内容整合性や記載漏れが厳しくチェックされる旨が度々強調されている例えば、厚労省の通知は**「施術録に記載のないものは申請できない」ことが施術者への指導原則として示されており、施術録は療養費請求の公式な根拠資料として位置付けられている。このように、現行制度では法令上は間接的な規定**ながらも施術録の作成・保存が事実上義務づけられ、厚生労働省や地方厚生局からの通達・通知によってその詳細な運用ルールが定められている。

5. 柔道整復師施術録の電子化の運用実態

現時点で柔道整復師の施術録電子化に関する統一的な制度やガイドラインは存在しないが、実務上は一部の施術所で電子カルテシステムが導入され始めている。紙の施術録を用いているところも依然多い。しかし近年では、レセプトコンピュータ(レセコン)と一体化した電子施術録システムを採用し、受付から施術記録入力・請求書作成までをデジタルで管理する整骨院も現れている。電子施術録を運用している施設では、手書きカルテに比べ業務効率が向上する利点がある。例えば、過去の来院歴や施術内容をキーワードで即座に検索できるため患者対応が迅速化し、紙カルテの保管場所も不要になることで物理的スペースと管理手間の削減につながっている。またデータのバックアップを定期的に行うことで、災害や紛失による記録消失リスクを低減できる点もメリットとして挙げられる。 一方、現場で電子化を進めるにあたってはいくつかの課題も認識されている。まず電子施術録が監査や保険請求時に正式な記録として認められるかという不安から、導入に慎重な施術所もある。実際には施術録を電子的に作成・保存すること自体は禁止されておらず法的にも問題ないと考えられているものの,保険者や審査機関への説明が必要になる場面も想定されるためだ。そのため電子化を進めている施術所では、電子記録の出力紙面を用意して監査に備える、あるいは電子署名や操作ログを残して記録の真正性を示せるようにするといった自主的な対策を講じている例も見られる。また、中にはレセコン機能のみデジタル化しつつ施術録は紙で並行管理するケースもあり、現場ごとに運用形態は様々である。電子化の課題として指摘されるのは費用面と技術面で、システム導入コストや職員のITリテラシー、データ管理の体制整備などが障壁となりうる(詳細は後述)。実際のトラブル事例として大きく報告されているものは現段階では多くないが、電子施術録を導入した施設からは「保険者からの施術録照会の際に電子データ提出で対応できた」「紙カルテ廃止による業務効率化効果があった」との肯定的な報告も聞かれる。一方で「システム障害時に記録参照ができなくなり困った」「導入直後は操作習熟に時間がかかった」等の課題も挙げられている (整骨院のカルテは電子化可能|メリット・デメリットを徹底解説) 総じて、柔道整復師施術録の電子化はまだ過渡期にあり、施設ごとの自主的な工夫と試行錯誤によって運用がなされているのが実情である。

6. 療養費とのデータ連携の可否

施術録を電子化することにより、療養費支給申請(レセプト)データとの連携を図ることも可能となる。従来は施術録に基づいて療養費支給申請書を作成する際、施術録から負傷部位や施術日数等の情報を転記する必要があった。しかし電子施術録とレセコンを連動させていれば、カルテに入力された情報をそのままレセプト作成に反映できるため二重入力の手間を省き、入力ミスを防ぐ効果が期待できる。あるいはその逆も然り。実際、電子カルテとレセコンを統合したシステムを用いることで、受付から施術記録、会計・請求までの情報を一元管理し、カルテ内容を再入力することなくレセプトを自動生成している事例が報告されている (レセコンと電子カルテの違いや連携させるメリットを解説) このようなシステム連携により施術録と請求内容の整合性が高まり、ヒューマンエラーによる不一致(例:カルテと請求書で負傷部位や施術日が食い違う等)を防止できるメリットは大きい。加えて、電子カルテ・レセコンが連携していれば、診療報酬や療養費算定基準の改定時に片方のデータを修正すれば自動的にもう一方に反映されるため、制度改正への対応も効率的に行える。一方、連携させない運用をあえて取る場合も考えられる。電子カルテとレセコンを別々のシステムにしておけば、どちらかが故障した場合にも残った一方で業務継続ができるという利点があり,リスク分散の観点から分離運用を選択するケースもある。また、施術録を電子化しても療養費請求自体は紙の申請書で行っている施術所も現在は多く、その場合は完全なデータ連携には至っていない。しかし国全体として医療・介護分野のオンライン請求が推進される中で、柔道整復療養費についてもオンライン請求の導入準備が進められている (『医療は国民のために』359 柔整での電子カルテの検討は始まるのか?) オンライン請求が本格化すれば、施術録から請求データへの電子的な連携は一層重要となり、将来的には施術録電子データからレセプト電算データへの直接変換も可能になると考えられる。現時点でも、柔道整復師向けのレセコン各社は施術録管理機能を搭載した製品を提供しており、施術録電子化と請求業務は技術的には連携可能な環境が整いつつある。

7. 関係団体・行政の見解と過去の政策・議論の整理

柔道整復師施術録の電子化に関して、関係団体や行政当局の公式見解はまだ明確に打ち出されていない。厚生労働省は医科領域では電子カルテ推進のガイドラインを発出し標準化を図ってきたが、柔道整復分野における電子施術録の検討はこれまでほとんど進んでいない (『医療は国民のために』359 柔整での電子カルテの検討は始まるのか?) 実際、2023年時点でも柔道整復師施術録の電子化について国のガイドライン策定や制度整備の動きは見られず、各施術所の自主的取組みに委ねられている状況である。一方で、柔道整復療養費の適正化やデジタル化について議論する場では施術録の在り方も度々話題に上っている。社会保障審議会医療保険部会や地方行政の検討会では、療養費の不正請求防止策の一環として施術録管理の厳格化や作成・保存義務の法令明記を求める意見が出された経緯がある(例:「施術録の作成・保管義務を法令に明記すべき」との提言。これは現在施術録義務が通知・協定レベルに留まっているため、より強固な制度的担保を求める声である。また全国柔道整復師会(日整)など職能団体も、会員に対して施術録の適正記載・保存を徹底するよう指導を行うとともに、将来的な電子化について関心を示している。2024年6月には日本柔道整復師会主催でオンライン請求や電子カルテに関する講演が行われ、生成AIを用いた記録の効率化・不正防止の研究や、将来的なオンライン請求に向けた電子カルテ等の研究成果を共有する場が設けられた (生成 AI による「外傷性が明らかな」の証明 ~不正請求を防止する試み 適応か否かを判断する試み~) その中では、ICD-11国際疾病分類に対応した電子カルテや高度なセキュリティを備えたシステムで療養費請求を行う構想も示されており、国際標準や最新技術を柔道整復領域に取り入れる試みが紹介された () これは職能団体側も将来的な電子化とオンライン化を見据えて議論を始めていることを意味する。一方、保険者団体の立場からは、電子化により請求内容の透明性向上や不正抑止が図れるとの期待がある一方で、実現にあたっては記録の信頼性確保(改ざん防止策)や従来の紙運用からの円滑な移行といった課題への対応が必要だとの指摘もある。総じて、公式なガイドライン策定には至っていないものの、関係者の間では徐々に電子施術録の必要性やメリット・デメリットが議論され始めている段階といえる。今後、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)政策の中で柔道整復分野にも電子化の波が及べば、行政主導でガイドライン策定や制度整備が進む可能性があり、職能団体や保険者と協力したルール作りが求められるだろう。

8. 国際標準規格や類似他職種の電子化事例との比較

医療情報の分野では国際的にHL7(Health Level 7)規格が電子カルテのデータ交換標準として広く用いられており、診療情報の相互運用性が重視されている。日本の病院システムでもHL7 v2や次世代標準であるHL7 FHIRの採用が進みつつあり、診療録や検査データの標準化が図られている。一方、柔道整復師の施術録は従来紙媒体前提で運用され、他の医療機関とのデータ交換を行うことはほとんどなかったため、標準規格とのなじみは薄かった。しかし施術録を電子化しデータとして活用するのであれば、医療分野の標準コード体系やデータ仕様を参照することが望ましい。例えば負傷名については国内標準である傷病名マスターや国際標準であるICD-10/ICD-11への対応が考えられ、実際に前述の講演ではICD-11に対応可能な電子カルテの研究が示唆されている。これにより、柔道整復師の記録する負傷内容が国際的にも通用する疾病・外傷分類コードで表現できるようになり、他職種や他システムとの情報共有が容易となる。また、電子化にあたってデータの項目定義をHL7標準に沿っておけば、将来的に病院の電子カルテシステムや地域医療連携システムと施術録情報を連携させることも可能となる。類似する他職種として、理学療法士や作業療法士などのリハビリ専門職は多くが医療機関内で業務を行っており、医師の指示の下で電子カルテにリハビリ記録を入力している例が多い。従ってこれら職種独自のカルテ標準はないが、看護師の看護記録については看護用語の標準マスターや看護記録のガイドラインが整備され、電子化が進んでいる。柔道整復師の施術録も、将来的に標準化されたデータ形式(例えば負傷部位は解剖学的部位のコード、施術内容は標準手技コードで表す等)を策定すれば、学術研究や統計にも資するデータベースを構築できる可能性がある。国際的に見れば、例えば米国のカイロプラクティッククリニックでは、患者管理ソフトウェア上で施術記録と保険請求を連動させているケースがあり、HIPAA(米国医療情報保護法)のもとで電子記録のセキュリティやプライバシー遵守を図っている。これらの海外事例は、日本の柔道整復においても電子化に伴うデータ標準の導入プライバシー対策がグローバル水準で求められることを示唆している。総じて、柔道整復師施術録の電子化に当たっては国際標準規格(HL7等)や国内標準仕様を積極的に参考にし、他の医療職種との情報共有や相互運用性を確保できる形でのシステム構築を目指すことが重要である。

9. セキュリティ・プライバシー保護の要件と対策

施術録を電子データ化することで情報管理上の利便性は高まるが、同時に個人情報の保護と情報セキュリティ確保が極めて重要となる。2017年の個人情報保護法改正以降、整骨院・接骨院・鍼灸院なども含め小規模事業者であっても法の適用対象となり、患者の氏名や傷病情報など個人データの適切な取り扱いが義務付けられている。紙の施術録であれば物理的な施錠保管が中心だったが、電子施術録ではサーバやクラウド上にデータが保存されるため、サイバー攻撃や不正アクセスによる情報漏洩リスクに備えた対策が欠かせない。具体的な対策としては、通信経路の暗号化、アクセス権限の設定(ID・パスワード管理)、ファイアウォール等による外部侵入防止、ウイルス対策など一般的な情報セキュリティ措置が必要である。万が一、患者の個人データが漏洩した場合には個人情報保護委員会への報告が求められ (医療分野のサイバーセキュリティ対策について - 厚生労働省) 施術所の信用失墜にも直結するため、そうした事態を招かない強固なセキュリティ体制の構築が求められる。また内部犯行や人的ミスによる情報漏洩にも注意が必要であり、職員に対する情報管理ルールの徹底や、患者情報に触れる端末を施術者以外が容易に操作できないようにするなど物理的・人的な対策も講じるべきである。施術録電子化の利点であるデータ共有性も、裏を返せばアクセス制御を誤れば無関係の第三者に情報が見えてしまう危険をはらむ。したがって必要最小限の関係者のみがアクセスできる権限設定や閲覧履歴の監査が重要となる。さらに、データの改ざんや消失を防ぐ観点から、システム上での操作ログ記録定期的なバックアップ保管は必須といえる。不正な記録改変が試みられた場合に検知できる仕組み(例えば改変履歴を残し電子署名の検証で改竄有無を判定)も有用である。実際、電子カルテ化に伴うデメリットとして**「システム障害による情報漏洩のリスク」「機器故障による情報損失のリスク」が挙げられており,これらに対処するには二重化構成やクラウドバックアップの活用、定期的なデータのエクスポートなどの対策が考えられる。また、情報セキュリティインシデントはサイバー攻撃だけでなく人的要因**(誤送信や画面の覗き見等)でも起こり得るため、院内での会話や端末画面からの情報漏洩にも注意する必要がある (教えて!接骨院の情報セキュリティ - 全国柔整鍼灸協同組合) 患者のプライバシーを守る観点から、電子化された施術録データへの患者本人のアクセス権(情報開示請求があれば応じる義務)も適切に管理しなければならない。総合的に、施術録の電子化に際しては**「機密性(Confidentiality)」「完全性(Integrity:真正性)」「可用性(Availability)」**の情報セキュリティ3要素すべてを満たすよう設計・運用することが肝要である (Microsoft Word - 03-01 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5版.docx) 具体策としては専門家の助言を仰ぎつつ、強度なパスワードポリシーやデータ暗号化、信頼性の高いクラウドサービスの利用、そして万一の事故発生時の報告・被害拡大防止手順の策定まで含めた包括的な対策計画を整備すべきである。

10. コスト・導入効果の検証

最後に、施術録電子化のコストと導入効果について検討する。電子カルテシステム導入には初期費用やランニングコストが発生し、小規模な整骨院にとって負担となり得る。オンプレミス型(院内サーバ設置型)の電子カルテの場合、サーバやネットワーク機器の構築費用として数百万円規模(300~500万円程度)の初期投資が必要との試算もある一方、クラウド型サービスを利用すれば初期費用を抑え月額料金で利用できるものの、長期的には利用料総額がかさむ可能性もある。さらに、職員への操作教育や紙から電子への移行期間中の二重管理など、目に見えないコスト(時間・労力)も発生する。こうしたコスト面のハードルから、電子化に踏み切れない施術所も少なくない現状である。いや,それだと踏み切る施術所は皆無だろう。しかし電子化によって得られる効果は大きい。業務効率化による時間短縮と人的ミス削減は代表的なメリットであり、カルテ記載やレセプト作成の省力化によって受付・会計業務の生産性が向上する。また紙代や印刷保管にかかるコスト、カルテ庫のスペースと維持費が不要になるため、長期的には運用コストの削減につながり得る。電子データは活用次第で経営分析や統計にも役立てることができ、患者数や施術内容の傾向分析により経営戦略を立てるなど付加価値の創出も可能となる。例えばカルテデータから頻度の高い傷病や来院間隔を分析し、サービス向上に繋げた事例も報告されている。また、電子化によって不適切な請求の未然防止(入力チェック機能により返戻を防ぐ等)や、監査対応の迅速化(検索機能で該当記録を即座に提示できる)が実現し、間接的に経済的損失を減らす効果も考えられる。導入効果を定量的に検証した公式な研究はまだ限られるが、既に電子カルテを導入した整骨院からは「年間◯時間の事務作業が削減できた」「レセプト返戻率が下がった」等の報告例がある。もっとも、投資回収(ROI)の時期は規模や運用形態によって異なり、小規模院では設備償却に時間がかかる可能性が高い。費用対効果を高めるには、自院のニーズに見合った適切なシステムを選択し、機能を十分に活用することが重要である。例えば紙カルテ時代に行っていた無駄な重複入力を排除したり,テンプレート活用で記載時間を短縮するといった運用上の工夫で効果は最大化できる。一方で導入後にシステム障害や操作ミスで想定外のトラブルが起これば一時的に業務停滞や費用増大もあり得るため、事前の検証とバックアップ計画も含め費用対効果を評価すべきである。総合的には、電子化に伴う直接の経済コストは決して小さくないものの、それによって得られる業務効率・サービス品質向上や不正防止効果など定性的メリットにも注目すべきである。それらを勘案すると、長期的な視野で電子施術録の導入効果は十分に投資に見合う可能性が高く、特に将来的なオンライン請求対応や医療DXの流れを見据えれば、早期に電子化に着手してノウハウを蓄積することは戦略的にも意義があると考えられる。

結論

本調査により、柔道整復師施術録の電子化と医科診療録の比較について多角的な検討を行った。柔道整復師施術録は法制度上医師の診療録と異なる扱いであるが、保険請求の要となる重要記録であり、その電子化には十分な根拠とメリットが認められる。一方で現行制度の未整備や運用上の課題も明らかとなった。医科分野の電子カルテで確立された真正性・セキュリティ確保の手法は施術録電子化にも応用可能であり、今後は関係団体・行政の協力のもとでガイドライン策定や標準化を進めていく必要があるだろう。電子化に際してはコストや技術面の課題を踏まえつつ、安全で有用なシステム運用を構築することが求められる。本稿の知見は、柔道整復領域における記録管理の向上と将来的な医療データ連携に向けた基礎資料となり得る。柔道整復師施術録の電子化促進は、適正な療養費請求と患者サービスの質向上の両面に寄与し得るものであり、今後の制度改善・ICT活用の議論に資する学術的意義を有するものといえる。

最大の壁は,①ガイドライン制定,②ツール開発,③導入コスト,であろう。

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