Sentinel-1 SARを用いた郡山周辺の洪水解析(2019年10月)
はじめに
本記事では、Sentinel-1のSARデータを用いて、郡山周辺における洪水の発生状況を「簡易的に」解析した結果をまとめました。
対象期間は、平常時に近い2019年9月24日と、洪水が発生した2019年10月12日で比較しました。
ちなみに、郡山での洪水解析は、最近発売された『SAR衛星データ入門』でも取り扱われています(pp.234-238)。この本では、マルチルック処理、局所的閾値法を適用して洪水の範囲を検出しようとしています。1
使用データ
本解析では、ASF(Alaska Satellite Facility)より取得したSentinel-1 GRDデータを使用しています。Cバンドです(波長は約5.5 cmで、植生の枝レベルで散乱する感じです)。
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2019年9月24日: S1A_IW_GRDH_1SDV_20190924T204259_20190924T204324_029168_034FDF_E269
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2019年10月12日:
S1B_IW_GRDH_1SDV_20191012T204223_20191012T204248_018447_022C0C_CBFE
いずれも、IWモードのGRDプロダクトで、大きさとしては1.7GB程(分析ではこれの一部を切り取り使用)です。このデータから地表の後方散乱特性を解析します。 2
解析手法
SNAP処理
Sentinel-1データの前処理にはSNAPを用いた。処理フローは以下の通りです。
| 手順 | 処理名 (Operator) | 主な設定変数 (Parameters) | 役割と目的 |
|---|---|---|---|
| 1 | Read |
source: .SAFEファイル |
データの読み込み |
| 2 | Apply Orbit File |
Orbit State Vectors: Sentinel PrecisePoly Degree: 3 |
衛星の位置情報を最新の精密軌道情報に更新し、位置ズレを数mレベルまで修正するらしい |
| 3 | Thermal Noise Removal |
Selected Polarizations: VV, VH |
画像内の暗い部分(水域など)に発生する熱ノイズ(背景ノイズ)を除去(詳細はまだ理解していない) |
| 4 | Calibration |
Output Sigma0 band: チェックONPolarizations: VV, VH |
最重要ステップ!: デジタル値(DN)を物理量である「後方散乱係数 $\sigma^0$」に変換 |
| 5 | Speckle Filtering |
Filter: Refined LeeWindow Size: 7x7 (標準) |
SAR特有のノイズ(スペックルノイズ)を、エッジを維持しつつ滑らかにする |
| 6 | Terrain Correction |
DEM: SRTM 1Sec HGT (Auto-download)Map Projection: WGS84 (EPSG:4326)
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地形の起伏による歪みを補正し、緯度経度を持つ地図座標に正しく投影する |
| 7 | Write (Export) |
Format: GeoTIFF / BigTIFFData Type: Float32
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QGIS等で読み込める形式で書き出し。Float32 |
QGISでの処理
この処理で、TIFF画像ができます。ただ、これらをそのままQGISで表示すると、びっくりするくらい真っ黒になっています。
図:TIFF画像が真っ黒(出典:国土地理院の地理院地図(淡色地図)を加工して作成)
また、解析に必要な領域よりもずっと広い範囲をカバーしており、(PCスペックにもよりますが)その表示に時間もかかります。
そのため、QGISで追加の処理をします。
具体的には、必要な領域(郡山周辺)だけを切り取り、その上でラスタ計算機を使って線形値の後方散乱係数を、対数(デシベル)単位に変換します。
これが変換後のtiff画像です。Band1にVV偏波(赤色)、Band2にVH偏波(緑色)が含まれており、それを地図に落とし込んだものです。
この後は、赤色のVV偏波を利用して洪水域を探していきます(画像は白黒にしたもので分析します)。
洪水抽出の考え方(教科書的)
SARによる洪水抽出において大事になるのは、水域が以下の特徴を持っていることです。
電波が鏡面反射する
→ 後方散乱(σ⁰値)が低くなる
→ 画像上では暗く表現される
この特性を利用して、 低いσ⁰値の領域を水域として判別して、時系列比較により新たに出現した水域を抽出する、という方法で洪水域を把握します。
結果
2019年9月24日(平常時)
平常時では、低後方散乱領域は主に既存の河川や水域に限定されています。
2019年10月12日(洪水時)
洪水時では、低後方散乱領域が拡大している様子が確認できます。
前後比較
2時期を比較する(差分を取る)ことで、新たに出現した水域(と思われる箇所)が識別可能です。今回は、一旦ここまでの解析にとどめます。
考察
2019年10月のデータでは、9月と比較して「低後方散乱領域の分布」が場所によって大きく変化しています。これは、水域の拡大を示唆するものであり、洪水による影響を反映していそうです。
一方で、SAR画像における低散乱領域は水域以外にも存在し得るため、単時点での判別には注意が必要(今回はそこまで踏み込めていない)。
まとめ
- Sentinel-1 SARデータを用いて洪水解析を実施した。
- SNAPによる前処理により、比較可能な後方散乱係数を取得した。
- 時系列比較により水域(と思われる地域)の変化を確認した。
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本記事では、すでにマルチルック処理のされているGRDに、Speckle Filteringを行います。 ↩
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VVとVHの2偏波データが含まれています。またSentinel-1の観測幅は250km、解像度は 5m × 20m です。 ↩







