一部のアフリカ地域では、2022年ごろのSentinel-1データがない。
内容
本記事では、Sentinel-1のデータのない(少ない)地域を視覚的に確認する方法を紹介します。
対象読者
- Sentinel-1のSARデータを利用した解析(GRDを用いた変化抽出など)を行う方
- 衛星データの取得計画を事前に確認し、解析の実現可能性を評価したいエンジニア
- ASF Vertexなどの検索ツールでデータが見つからない理由を特定したい方
解決する課題
Sentinel-1のSARデータを利用する際、以下のような問題に直面することがあります。
- 「ある時期の特定の地域のデータが思うように見つからない」
- 「観測頻度が地域によってバラバラで、解析計画が立てにくい」
これは、Sentinel-1が地域ごとに異なる観測計画に基づいて運用されているためです。本記事では、これらを視覚的に確認できる「ASF Acquisition Maps」の活用方法と、使用上の注意点を整理します。
ASF Acquisition Mapsとは
ASF Acquisition Mapsは、ESA(欧州宇宙機関)によるSentinel-1の観測計画をヒートマップとして視覚化したものです。
図1:2026年3月のSentinel-1A&C データ取得状況(©︎ ASF, ESA, NASA)
解析対象地域がどの程度の頻度でカバーされているかを、このマップを確認することで、実際のデータ検索(Vertex等の利用)の前段階で把握が可能になります。
ASF Acquisition Mapsの詳細
2026年4月現在、マップは主に以下の2つのカテゴリで構成されています。
1. 累積(Cumulative)マップ:SLC・GRD両方あり
2014年のミッション開始から現在までの全期間を合算したヒートマップです。ここにはSLCとGRDの両方があります。
1.1. SLC Cumulative
干渉解析(InSAR)などに利用されるSLCデータの全期間の蓄積状況を示します。
図2:Sentinel-1 SLC 累積取得マップ(Source: ASF DAAC; Contains modified Copernicus Sentinel data)
1.2. GRD Cumulative
強度(振幅)解析などに利用されるGRDデータの全期間の蓄積状況を示します。
図3:Sentinel-1 GRD 累積取得マップ (Source: ASF DAAC; Contains modified Copernicus Sentinel data)
これらの累積マップは毎月更新されますが、個別の取得タイミングを示すものではなく、あくまで「ミッション開始から現時点までの総計」を表示しています。
2. 月別・年別(Year/Month)アーカイブ:GRDのみ
もう1つは、2014年以降の各月・各年ごとに細かく分かれた地図ギャラリーです。こちらでは「Sentinel-1 GRD product data」のみが対象となります。時系列の変遷を詳細に追跡する際に活用します。
図4:2026年3月のSentinel-1A&C データ取得状況 (Source: ASF DAAC; Contains modified Copernicus Sentinel data)
エンジニア向けの視点:SLCの変遷を知るには?
残念ながら、SLCデータの月別変遷を視覚化する公式マップは用意されていません。SLCの時系列分布を確認したい場合は、ASF Vertex等の検索APIを利用し、メタデータを直接パースして解析する必要があります。 このサイトのマップは、あくまで「GRDの取得頻度をSLCの目安にする」という使い方が現実的です。
データ欠損をアーカイブから読み解く
2021年12月から2025年6月頃にかけてのSentinel-1データは、観測頻度が著しく低下している点に注意が必要です。
これは、2機体制の一翼を担っていたSentinel-1Bの故障に起因します。2021年12月に同機が運用を停止してから、2024年12月に後継のSentinel-1Cが打ち上げられ、観測網が正常化する2025年半ばまでの間、ミッションは長らく1機体制(Sentinel-1Aのみ)での運用を余儀なくされていました。
BEFORE: 2021年1月のカバー地図(GRD, Sentinel-1B故障前)
図5:2021年1月のデータ取得状況(2機体制による安定運用期) (Source: ASF DAAC; Contains modified Copernicus Sentinel data)
AFTER: 2022年1月のカバー地図(GRD, Sentinel-1B故障後)
図6:2022年1月の全世界データ取得状況(1機体制による欠損の発生) (Source: ASF DAAC; Contains modified Copernicus Sentinel data)
前後を比較すると、故障前は2機体制のため陸地の大部分がカバーされていますが、Sentinel-1Bの運用停止後はカバー領域が大幅に減少していることがわかります。
各地域における欠損の詳細(2022年1月時点)
図7:シベリア、中国東北部、モンゴル、中央アジア周辺の欠損状況 (Source: ASF DAAC; Contains modified Copernicus Sentinel data)
図8:アフリカ大陸におけるデータ欠損 (Source: ASF DAAC; Contains modified Copernicus Sentinel data)
図9:北米・南米大陸におけるデータ取得状況 (Source: ASF DAAC; Contains modified Copernicus Sentinel data)
このように、2022年頃のデータでは多くの地域で欠損が生じています。これらの地域でSAR解析を試みても「データが存在しない」という事態に直面するため、アーカイブ利用時は必ずこのマップ等で時期的なカバレッジを確認することをお勧めします。
終わりに:利用上の注意点と今後の課題
運用上の注意
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「モード不一致」の問題:
Acquisition Mapsで色が濃くても、期間内で観測モード(IW, EW等)が切り替わっている場合がある。異なるモード間では干渉性が得られないため、累積枚数だけで解析期間を設定するのは危険。
今後の調査事項(メモ)
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観測モードの可視化:
詳細な計画についてはESAのObservation Scenario Archiveを参照。 -
1C機のフル稼働タイミング:
2024年12月の打ち上げ後、試運転(コミッショニング)を経て完全復旧した時期の精査。 -
観測計画の決定ロジック:
EUの優先順位(気候変動、緊急対応等)や、衛星のリソース(電力・ダウンリンク)制約がどう反映されているか。 -
SLCデータの月別変遷を確認する場合:
検索APIを利用してメタデータを取得し、自ら時系列分布を算出する以外の方法はあるのか。