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JavaScriptな人のためのRustのFuture入門

Last updated at Posted at 2019-08-20

RustでI/Oを扱うプログラムを書く機会がありました。非同期I/Oのほうがパフォーマンスがよくなるらしく、tokio というフレームワークがよく使われているとのこと。tokio では Future をベースとして非同期処理を書くようです。明るい Future を生み出していけばよいプログラムがかけそうですね :thumbsup: 。しかし、 tokioやFutureがなんもわからんという問題がありました。そこで、JavaScriptのFuture、Promiseと対比させてRustのFutureについてまとめます。

JavaScriptのPromise

昔のJavaScript(Node.js)では、ファイル読み込みやネットワークアクセス等のI/O待ちが発生するときはコールバックという仕組みを用いていました。人々は辛くなり、ES2015ではPromiseが導入されました。さらにES2017ではasync/awaitが導入され、一層I/Oの処理が書きやすくなりました。

ではまずはJavaScriptで簡単なPromiseを書いてみましょう。

const promise = new Promise((resolve, reject) => {
    console.log("promise called");
    resolve('success');
});

promise の中身のコードはPromiseを定義した時点でランタイムにより実行されはじめます。そのため、上記のコードを実行するとすぐに promise called と表示されます。

Promise が成功したときの処理は then、失敗したときの処理は catch でつなげます。50%の確率で成功、50%の確率で失敗する promise を作ってみましょう。

const promise = new Promise((resolve, reject) => {
    console.log("promise called");
    
    if (Math.random() * 10 < 5) {
        resolve('success');
    } else {
        reject('failure'); 
    }
});

promise
    .then(res => console.log(res))
    .catch(err => console.error(err));

Wandbox で実行する

RustのFuture

JavaScriptのPromiseに対応するオブジェクトはFutureです。

Promise内では、処理が完了したときに resolveもしくはrejectを呼び結果を通知することになっています。一方で、Futureはポーリングモデルを採用しており、tokio等の非同期ランタイムがFutureの結果を取得しにいきます。tokioはFutureのpollメソッドを定期的に呼び出します。pollはまだ実行中だったら Poll::Pending を、処理が完了したら Poll::Ready を返します。

Futureは futures クレート1のものを使います。現時点(2019/08/14)では stable 版の Rust で利用できる futures クレートの最新版は 0.1.28 です。

futures バージョン 0.1 における Future は次のようなシグネチャをもちます1

pub trait Future {
    type Item;
    type Error;
    fn poll(&mut self) -> Poll<Self::Item, Self::Error>;
}

では Promise で書いた処理を Rust で書いてみましょう。 poll メソッドを実装すれば OK です。 50% の確率で Future が正常終了し "success" が出力され、 50% の確率で Future がエラー "failure" を返します。


struct MyFuture;
impl Future for MyFuture {
    type Item = String;
    type Error = String;

    fn poll(&mut self) -> Poll<String, String> {
        println!("poll called");
        
        let mut rng = rand::thread_rng();
        let i: i32 = rng.gen_range(0, 10);
        if i < 5 {
            Ok(Async::Ready("success".to_string()))
        } else {
            Err("failure".to_string())
        }
        
    }
}

Rust の Future を実行するには、 Future を executor にわたす必要があります。 futures クレートにも executor があるので、とりあえずこちらを使ってみましょう。

Promise の then は and_then に、 catch は map_err に対応します。 executor に突っ込む future は Item = (), Error = () にする必要があるため、 Ok(())() を返して型を合わせます。


fn main() {
    let future = (MyFuture{}).and_then(|res| {
        println!("{}", res);
        Ok(())
    }).map_err(|err| {
        println!("{}", err); // () を返す
    });

    // futures クレートの executor
    futures::executor::spawn(future).wait_future().unwrap();
    println!("finished");
}

これでも動きますが、wait_future は Future の実行が完了するまでスレッドをブロックしてしまうので、通常は tokio などのランタイムを使います。

impl Future for MyFuture {
    ...
}

fn main() {
    let future = (MyFuture{}).and_then(|res| {
        println!("{}", res);
        Ok(())
    }).map_err(|err| {
        println!("{}", err); // () を返す
    });

    tokio::run(future);
    println!("finished");
}

Rust Playground で実行する

RustのFutureのFuture

Rust においても async/await が使えるようにするため、 Rust 1.37 で Future が std::future に収録されました。さらに、Rust 1.38 では async/await が stable になる予定です。近い将来には、 std::future の Future が広く使われるようになるでしょう。 tokio も master ブランチでは std::future をデフォルトで使うように開発が進められているようです。

futures 0.1 の Future と futures 0.3 の Future は相互変換できるため、環境を移行するのも難しくはないと思います(希望をこめて)。

futures 0.3 や std::future における Future は次のようなシグネチャを持ちます。

pub trait Future {
    type Output;
    fn poll(self: Pin<&mut Self>, cx: &mut Context) -> Poll<Self::Output>;
}

std::future では成功/失敗の概念を Future から切り離しました。そのため、成功/失敗を表現するためには、Result を返すようにする必要があります。では、さきほどの処理を std::future の Future で書き換えてみましょう。

struct MyFuture;
impl Future for MyFuture {
    type Output = Result<String, String>;

    fn poll(self: Pin<&mut Self>, cx: &mut Context) -> Poll<Self::Output> {
        println!("poll called");
        
        let mut rng = rand::thread_rng();
        let i: i32 = rng.gen_range(0, 10);
        if i < 5 {
            Poll::Ready(Ok("success".to_string()))
        } else {
            Poll::Ready(Err("failure".to_string()))
        }
    }
}

この Future を実行するには、 Future を executor にわたす必要があります。 ひとまずは futures::executor::block_on を使ってみましょう。and_then はもとの Future と同じ型を返す必要がありますが、 map_ok ではもとの Future と違う型を返すことができます。

let future = (MyFuture{}).map_ok(|res| {
    println!("{}", res);
}).map_err(|err| {
    println!("{}", err);
});
let _ = block_on(future);

futures 0.3 では ThreadPool という executor もあります。ThreadPool は複数のスレッドを用いて Future を実行してくれるため、通常はこちらの executor を使ったほうがいいと思います。いずれは tokio 等のランタイムでも気軽に std::future も使えるようになるでしょう。

fn get_future() -> impl Future<Output=Result<(), ()>> {
    (MyFuture{}).map_ok(|res| {
        println!("{}", res);
    }).map_err(|err| {
        println!("{}", err);
    })
}

let future = get_future();
ThreadPool::new().expect("Failed to create threadpool").run(future);

Future の途中結果を print したいことは多々あると思います。このために、 inspect_okinspect_err が提供されています2。 print するだけだったら map ではなくて inspect を使ったほうがいいでしょう。

let future = (MyFuture{}).inspect_ok(|res| {
    println!("{}", res); 
}).inspect_err(|err| {
    println!("{}", err);
});

let _ = block_on(future);

ソースコードの全文は Github にあります。

ドキュメントについて

Rust に async/await を取り入れるためには、Future を言語のコア機能に取り入れる必要がありました。一方で、言語のコア機能に Future を取り入れてしまうと、 Future の変更が困難になってしまいます。そのため、 std::future::Future の機能は最小限になっています。
https://doc.rust-lang.org/std/future/index.html

Future の便利機能は今後も futures クレートで提供されるようです。std::future と互換性がある futures 0.3 のドキュメントを参照してください。
https://rust-lang-nursery.github.io/futures-api-docs/0.3.0-alpha.18/futures/index.html

then 等の便利メソッドは FutureExt トレイトで提供されます。これは use futures::FutureExt すると使えるようになります。

type Output = Result<String, String> のように Future の値を Result 型にした場合、 use TryFuture とすると TryFuture トレイト の機能が利用できるようになります。
また、 use futures::TryFutureExt すると、 TryFutureExt トレイト の機能が使えるようになります。map_okinspect_err はこちらで定義されています。

まとめ

この記事では JavaScript の Promise と対比させて、Rust の Future について解説しました。 Rust の Future はポーリングモデルを採用し、ランタイムが poll を呼び出すことで処理が進んでいきます。

Future には 0.1 系と 0.3 系があり、近い将来は 0.3 系が広く使われていくかと思いますが、これらは相互変換できます。現状は tokio 等のランタイムがデフォルトでサポートしており、ドキュメントの多い 0.1 系を使っていくのがいいでしょう。

ツッコミ、感想等コメントお待ちしています :sunglasses:

謝辞

この記事の一部は @__pandaman64__ 氏に助言をいただき執筆しました。この場を借りて謝意を表します。

  1. https://docs.rs/futures/0.1.28/futures/index.html 2

  2. https://rust-lang-nursery.github.io/futures-api-docs/0.3.0-alpha.18/futures/future/trait.TryFutureExt.html#method.inspect_ok

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