前置き
セキュリティリスクを検知してから復旧するまでのワークフローも、イベント駆動型のセキュリティとして設計できないものかと、セキュリティドメインの案件に入っているころからずっと感じていました。
そのドメインでは、非常に業務が広範囲であったため、どうしてもいずれかの場所にイベント駆動型のアーキテクチャを適用しないといけないコンテキストでした。
その後いろいろ調べていくうちに、
SOAR (Security Orchestration, Automation, and Response) と呼ばれる分野の核心
=イベント駆動型セキュリティ
ということが判明し、それが現代のセキュリティオペレーションの理想形だということがわかりました、
セキュリティリスクの検知から復旧までのワークフローは、イベント駆動型アーキテクチャとして設計することが可能であり、多くの先進的な組織ではすでにそのように設計されているそうです。
分散アーキテクチャでは、このイベント駆動型セキュリティが必須と私は捉えています。
🚨 アナロジー:手遅れのビデオ監視 vs 即時作動の防衛システム
この設計思想の違いは、建物の警備で考えると明確です。
旧来のセキュリティ (バッチ処理)
ビルの警備員(セキュリティアナリスト)が、朝になってから「昨夜の防犯カメラの録画(ログ)」を早送りでチェックします。
夜中の3時に泥棒が入っていたことを発見しますが、その時にはもう時すでに遅し。
これは リアクティブ(事後対応) です。
イベント駆動型セキュリティ (SOAR)
ビルの窓に設置されたモーションセンサー(検知ツール)が、何者かが窓を割った「瞬間(イベント)」を検知します。
このイベントをトリガーに、事前にプログラムされたワークフローが自動で実行されます。
- 全フロアの 警報(アラート) が鳴る。
- すべての扉が自動でロックされる(被害の隔離)。
- 警察(担当チーム)に自動通報が行われる。
これはプロアクティブ(即時対応) であり、被害を最小限に抑えます。
インラインコード
イベント駆動型セキュリティのメカニズム
この「即時作動の防衛システム」は、まさにあなたがこれまでの対話で議論してきたコンポーネントで構築されます。
1. イベントの発生 (検知 - Detection)
まず、システムのあらゆる場所で「セキュリティ上意味のある出来事」がイベントとして監視されます。
イベントソース
・SIEM (Security Information and Event Management)
ログを集約・分析し、「不審なアクティビティ」を検知する中核。
・IDS/IPS
不正なネットワーク侵入を検知。
・クラウド監視ツール
AWS GuardDutyやAzure Sentinelが、「不審なAPIコール」や「マルウェアの疑い」を検知。
発行されるイベント (例)
HighConfidence_BruteForceLogin_Detected (高信頼度のブルートフォース攻撃を検知)
MalwareSignature_Found_On_Pod-XYZ (Pod-XYZでマルウェアのシグネチャを発見)
2. イベントのルーティング (Event Bus)
これらのイベントは、イベントバス (Kafka, AWS EventBridgeなど) にパブリッシュ(発行)されます。
3. ワークフローのトリガー (SOARプラットフォーム)
SOARツール(Splunk SOAR, Palo Alto XSOAR, Tinesなど)が、このイベントバスを購読(サブスクライブ)しています。
役割
イベントストーミングでいうところの「ポリシー(Policy)」や「プロセス・マネージャー」です。
アクション
MalwareSignature_Found イベントをトリガーに、あらかじめ定義された 「プレイブック(Playbook)」 と呼ばれるワークフローを起動します。
4. 自動化されたワークフロー (Orchestration & Automation)
このプレイブックは、APIを通じて様々なツールを自動で連携させる「原因と結果の連鎖」です。(例:MalwareSignature_Found_On_Pod-XYZ プレイブック)
①. [隔離] (Isolation)
・トリガー:プレイブック開始
・アクション
Kubernetes APIを呼び出し、Pod-XYZに「quarantine (隔離)」ラベルを付与する。
→ サービスメッシュ (Istioなど) がこのラベルを検知し、Pod-XYZを即座にサービスメッシュから切り離し、外部との一切の通信を遮断する。
爆発半径の封じ込めがなされています。
②. [情報収集] (Enrichment)
・トリガー: 隔離成功
・アクション
マルウェアのハッシュ値を、外部の脅威インテリジェンスサービス (VirusTotalなど) のAPIに送信し、脅威の深刻度を自動で格付けする。
③. [チケット起票] (Ticketing)
・トリガー:格付け完了
・アクション
JiraやServiceNowに、収集した情報(Pod名、マルウェア深刻度)をすべて記載したインシデントチケットを自動で起票し、担当者をアサインする。
④. [意思決定] (Decision)
・トリガー:チケット起票完了
・アクション
格付けが「High」以上の場合、自動復旧ステップに進む。
「Low」の場合は、人間のアナリストの判断を待つ。
5. 復旧 (Remediation)
トリガー: 格付け「High」が決定
アクション
-
Kubernetes APIを呼び出し、Pod-XYZを完全に削除(Terminate) する。
-
CI/CDパイプラインをトリガーし、クリーンなイメージから新しいPodを再デプロイする。(イミュータブル・インフラストラクチャの強み)
-
新しいPodに対してセキュリティスキャンを再度実行する。
-
スキャンが成功したら、Jiraチケットに「自動復旧完了」とコメントし、クローズする。
結論
イベント駆動型の設計思想は、セキュリティワークフローに
「速度」「一貫性」「スケーラビリティ」
という革命をもたらします。
人間のアナリストが数時間〜数日かけて行っていた調査と対応を、数秒〜数分で、プログラムされた通りに一貫して実行できるようにする。
これこそが、イベント駆動型セキュリティ(SOAR)の目指す姿でです。