富浜定吉『宮古伊良部方言辞典』(沖縄タイムス社, 2013年12月)は、喉頭破裂音(グロッタルストップ)をかなり特殊な仮名で表している。
「あ」の上に乗っているのは「COMBINING RIGHT ANGLE ABOVE」とでも呼ぶべき記号なのだが、私(安岡孝一)の知る限り、ISO/IEC 10646 (Unicode)にはU+031A「COMBINING LEFT ANGLE ABOVE」はあっても、逆向きは無い。意味的にはU+02E4「MODIFIER LETTER SMALL REVERSED GLOTTAL STOP」が近いが、この文字は「あ」の上に乗せることができない。
ならば、発音記号の「aʔaᶻï」「kaʔam」「paʔa」はどうだろう。『南琉球宮古方言調査報告書』(国立国語研究所, 2012年8月)の基礎語彙aデータと見較べてみよう。
a143 東 | a124 鏡 | a186 墓 | |
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池間 | aɡai | kaɡaŋ | haka |
狩俣 | aːɯ /「東風」aːɡaʥi | kʰaɡaŋ | pḁka |
島尻 | aʁaɿ | kʰaʁaŋ | pḁχa |
大浦 | (aɡaɿ ~) aːɿ | kʰaɡaŋ / kʰaɡammu (鏡を) | pʰaka |
久貝 | aɡ̄az (ɡ̄ = 後ろ寄りのɡ) /「東風」aɡ̄azkʰaʥi | kʰaɡam | pʰḁka |
与那覇 | aɡaᶻɿ | kʰaɡam | pʰaka |
上地 | aɣal | kaɡam̩ | pḁka |
来間 | aɡaɭ [A]// aɡaz [B] | kaɡam | pḁka |
砂川 | aɡaz̩ | kaɡam̩ | pḁka |
保良 | aɡaɿ | kʰaɡam | pʰḁka |
伊良部 | aˁaɿ | kʰaaˁm | pʰaː ~ pʰa̰ː |
国仲 | aɡaɭ | kaɡam̩ | pḁka |
伊良部の「aˁaɿ」を見る限り、U+02E4で「喉頭破裂音」を表しているように見える。ただし「pʰaː ~ pʰa̰ː」でなくて「pʰaˁa」あたりでないと話が合わないし、U+02E4を仮名に挟んで「あˤあイ゚」「かˤあン」「ぱˤあ」でガマンする、というのは、やっぱりうまくいかなそうだ。このあたり、どうしたらいいかなあ。