こちらの記事を読み、歴史を振り返ることはプロダクトに対する理解を深めるのに良いと感じたので、私の専門領域であるHRSDの歴史を振り返ってみたいと思います。
HRサービスマネジメントの誕生(~2015年)
ServiceNowは2013年DublinでHR向け機能を開始し、2015年GenevaでHRケース管理やセルフサービスポータルを本格化。2016年Helsinkiではモバイル対応HRポータルや電子署名を導入。ケース管理とナレッジを中核に、属人化していた人事対応を「管理可能な業務」に変換するなど、焦点はあくまでHR業務の効率化と可視化であり、従業員体験は副次的要素に留まっていたと考えられる。
Dublin(ダブリン)
Dublin は、IT サービスモデルをHR拡張する形で、HR Service Automation として位置付けた最初のリリースである。
分野 / 新機能のハイライト1
| Category | Description |
|---|---|
| HR Service Automation | ITSM で培ったサービスモデルと自動化を HR 業務に展開し、HR サービス提供の効率化と品質向上を実現 |
HRという独立した機能として誕生したのはDublinだったのですね。
ただこの時は独立したスコープでもなく、現在当たり前になっている高度なセキュリティもまだ存在しない赤ちゃんのような状態ですね
Eureka(ユーリカ)
Eureka は、HRSD 観点では特筆すべき機能追加はない。
Fuji(フジ)
Fuji は、HR Service Automation を実運用に耐える形へと強化した初期拡張リリースである。
分野 / 新機能のハイライト2
| Category | Description |
|---|---|
| HR Service Automation Enhancement | Workday との連携により、HR データとサービス管理の統合を実現 |
この頃から既にServiceNowはHCMシステムではない立ち位置として線引がされていたのですね。最初はWorkdayから始まったというのもServiceNow社らしい(この頃すでに使っていたのでしょう)
Geneva(ジュネーブ)
Geneva は、HR Service Management を本格的な製品領域として確立したリリースである。
分野 / 新機能のハイライト3
| Category | Description |
|---|---|
| HR Service Management | スキルベース割当、Workday 双方向連携、標準 HR ポータル、分析機能を提供 |
Dublinで初登場したHR領域に対して、ServiceNowの本質であるManagementが導入されたのは、3リリース後でした。
Helsinki(ヘルシンキ)
Helsinki は、従業員体験(Employee Experience)を明確に意識し始めた転換点である。
分野 / 新機能のハイライト4
| Category | Description |
|---|---|
| Service Portal | 従業員ライフサイクル全体を支援 |
| Pre-built Service | 福利厚生、給与、Employee RelationなどのCoEに対し20の事前定義サービスを提供 |
| eSignature | ドキュメントに対する電子署名機能を提供 |
Employee Experienceの概念が登場しました。
HRサービスデリバリーへの刷新(2016–2018年)
2016年IstanbulでHR機能はHRSDとしてスコープ化された。これはHRをITの延長ではなく独立した業務ドメインとして扱う意思表示と理解できる。Jakartaで名称をHR Service Deliveryに変更。これは「管理(Management)」から「提供(Delivery)」への思想の転換を示す。オンボーディング等のライフサイクル業務を追加し、HRSDは従業員に価値を届けるサービス基盤へ拡張され、対象は人事部門ではなく、従業員そのものになったと考えられる。
Istanbul(イスタンブール)
Istanbul は、人事部門の自律性と業務効率を大きく高めたリリースである。
分野 / 新機能のハイライト5
| Category | Description |
|---|---|
| Delegated Administration | 人事部門自身による管理・設定を可能に |
| Lifecycle Event Model | 昇進・異動などライフイベント単位でのサービス提供。従業員とFulfillerのタスク一元管理 |
| Case Management Optimization | ケース対応効率を高めるガイダンス機能(Fullfilment Instruction) |
人事部門がITに依存せずサービス設計できる構造が確立されました。
スコープアプリケーションとしてリリースされたのも、このIstanbulだったようで、人事データをより高セキュリティな構成で取り扱うことができるようになりました。
Jakarta(ジャカルタ)
Jakarta は、「HR Service Delivery(HRSD)」という名称と思想を確立した決定的リリースである。
分野 / 新機能のハイライト6
| Category | Description |
|---|---|
| Enterprise Onboarding | 人事部門のみならずITやFacilityなど全社横断のオンボーディングや異動のプロセスを一元管理 |
| Assisted Migration | 旧 HRSM からスコープアプリケーションへの移行支援 |
| Bulk Case Creation | 大量ケースの一括作成ユースケースを支援 |
| Personalized PDF | 電子署名付き PDF フォーム |
単なるHRサービスの管理ではなく、従業員エクスペリエンス全体を支援するプラットフォームへの進化を、呼称の変更によっても表現していると読み取れます。実際にこのリリースでは他部門連携を可能にし、以降セルフサービスやデリバリーの高度化に関する機能がリリースされ、サービス体験の向上が目指されています。
Kingston(キングストン)
Kingston は、コミュニケーションと即時対応を強化したリリースである。
分野 / 新機能のハイライト7
| Category | Description |
|---|---|
| Response Templates | 定型応答テンプレート |
| Mass Email | 対象の従業員セグメントへ一斉にメールを配信 |
| Embedded Connect | リアルタイムチャット連携 |
問合せ対応の効率化機能が強化され、Content Deliveryの前身機能もリリースされたようです
London(ロンドン)
London は、セルフサービスとナレッジ活用を高度化したリリースである。
分野 / 新機能のハイライト8
| Category | Description |
|---|---|
| Employee Document Management | 従業員ドキュメントの一元管理、コンプライアンス強化 |
| Virtual Agent | チャットボット機能。休暇の取得や従業員プロファイルの更新など事前定義のトピックが提供 |
| Targeted Content Automation | ポータル上で対象の従業員セグメントへコンテンツ配信する機能 |
| Knowledge Blocks | 条件付きナレッジ表示 |
セルフサービスやパーソナライズに関する機能強化がされました。
Madrid(マドリード)
Madrid は、キャンペーンと分析を通じた従業員エンゲージメントを強化した。
分野 / 新機能のハイライト9
| Category | Description |
|---|---|
| Lifecycle Events Builder | ライフサイクルイベントを構成しやすいインターフェースの提供 |
| Campaign Tasking / Analytics | 従業員へのToDo配信と効果測定 |
| Employee Forums | 従業員が自由に投稿できるコラボレーション機能 |
配信するだけでなく測定して継続的改善をする人事部門へ。
業務領域の拡大とEmployee Experienceへのシフト(2019–2021年)
Employee RelationsやAlumni Service Centerなど領域を拡大したり、ケース管理を超えて従業員ライフサイクル全体を扱うようになる。2020年前後からHRSDを含む製品群を「Employee Workflow」として位置付け、Employee Service CenterやVirtual Agentなど従業員のエンゲージメント向上や働きやすさに直結する機能強化を進めた。
New York(ニューヨーク)
New York は、モバイルとエコシステム連携を前面に押し出した。
分野 / 新機能のハイライト10
| Category | Description |
|---|---|
| Now Mobile | モバイルで自己解決やリクエスト起票できるように |
| Mobile Onboarding | 新入社員向けアプリ。今はNow Mobileに統合 |
| SAP SuccessFactors Integration | 大手 HR 基盤連携 |
フロント側はモバイル対応しつつ、バックエンドはWorkdayだけでなくSuccessFactorsとも繋げるように機能拡張。このときのIntegrationは固有のアプリケーションが組まれていたものでした。
Orlando(オーランド)
Orlando は、モバイル・ID 管理・事前構成コンテンツを拡充した。
分野 / 新機能のハイライト11
| Category | Description |
|---|---|
| Mobile EX, Lifecycle Events Enhancements | 従業員エクスペリエンス向上のための機能拡張 |
| OKTA Integration | ID・アクセス管理連携 |
| Experience Packs | 異動や休職など各種ライフイベントに合わせた事前定義コンテンツ・サービス |
Experience Packの提供により、従業員ライフサイクルに合わせたサービス提供を迅速に導入し、効果を出すことが狙いだったと思います。背景はわかりませんが、残念ながらXanadu以降廃止されてしまいました。
Paris(パリ)
Paris は、AI と HR エージェント体験を本格導入した。
分野 / 新機能のハイライト12
| Category | Description |
|---|---|
| HR Agent Workspace | 人事担当者向けのワークスペース。必要な情報が一箇所に集約され、AI支援も受けられるように |
| Now Intelligence | ケースのルーティングなど機械学習系の機能提供 |
| Employee Relations | 人事の中でもより機微な案件管理 |
| Document Templates | 編集可能なPDFやドキュメント生成のフロー化 |
今からするとクラシックな見た目ですが、ワークスペースがHRSDにも登場。PAD(Process Automation Designer)で最近脚光を浴び始めているPlaybookは、この頃からHRSDで部分的に組み込まれていました。
Quebec(ケベック)
Quebec は、全社横断の従業員体験統合を推進した。
分野 / 新機能のハイライト13
| Category | Description |
|---|---|
| Universal Request | 部門横断の統合サービス体験の提供 |
| Journey Accelerator | マネージャー支援機能。パーソナライズされた計画立案 |
| Mobile Agent for HR Service Delivery | 人事担当者向けのモバイル体験 |
| Teams Integration | コラボレーション強化 |
Universal Requestにより、GBS(Global Busuiness Service)もサポート。従業員体験の高度化を追求。マネージャーをペルソナとして意識し始めたのがこの時期のよう。
統合ポータル「Employee Center」とジャーニー管理の登場(2021年)
IT・総務などを含む横断ポータルとして定義されたEmployee Centerの登場、クロス部門ワークフローを実現するEmployee Journey Managementによって、従業員の体験価値を高めるための統合的かつ能動的なサービス提供へ思想が発展した。
Rome(ローマ)
Rome は、Employee Center を中核に据えた統合体験を完成させた。
分野 / 新機能のハイライト14
| Category | Description |
|---|---|
| Employee Journey Management | ライフサイクルイベントとジャーニーアクセラレーターを組み合わせ、よりパーソナライズされた従業員体験を提供 |
| Employee Center | どこからでも、キュレーとされた体験を提供可能な全社共通ポータル |
| Hybrid Workforce Support | Teams 連携 |
Quebecに引き続き、従業員体験の高度化を追求する機能として、Employee Centerが登場。Single Point of Contactの確立を協力にサポートします。
San Diego(サンディエゴ)
San Diego は、HR エージェントと従業員双方の体験を洗練させた。
分野 / 新機能のハイライト15
| Category | Description |
|---|---|
| HR Agent Workspace | Next ExperienceベースのモダンなUI/UXへ |
| Anonymous Reporting | 機微な情報を匿名通報できる機能 |
Next Experienceの波がHRSDにも。Employee Centerも細々継続的に改善されて行きます。
AIの活用・自動化と従業員体験の高度化(2022年~)
「Workforce Optimization for HR」「Issue Auto Resolution」など自動化、AI活用が始まり、2023年からは生成AI「Now Assist」によって本格化。2021年に導入された「Universal Request」に始まり他モジュールやプラットフォーム機能と緊密に連携するよう設計されるようになったのも、従業員体験向上のプラットフォームとして意識されてのことだと考えられます。
Tokyo(トウキョウ)
Tokyo は、マネージャー中心設計と AI 自動化を前面に出した。
分野 / 新機能のハイライト16
| Category | Description |
|---|---|
| Manager Hub | マネージャーがチームの状況を把握、迅速な対応を支援。マネージャー向けの資料など一元配信。 |
| Journey Designer | 従業員ジャーニーを統合的に設計し、一元管理。 |
| Issue Auto Resolution | AIを活用した問合せの自動解決機能。AI Searchでヒットした記事を一次回答する形式 |
| Process Optimization | プロセスにおけるボトルネックを可視化。分析と改善の自動化 |
マネージャー向けの体験がより高度に。IARのHR向けは日本語未対応、AIエージェントにシフトされた機能の1つと言えそうです。
Utah(ユタ)
Utah は、HR 組織運営そのものの最適化に踏み込んだ。
分野 / 新機能のハイライト17
| Category | Description |
|---|---|
| Workforce Optimization | 業務負荷・スキル・需要予測を可視化し、KPI分析やスケジューリングを最適化 |
| Manager Hub Enhancements | マネージャー向けに高度な分析と示唆を提供する機能を強化 |
| Employee Center Enhancements | 業務システムへのアクセス起点を一本化し、利便性とエンゲージメントを高める |
Employee Centerのエンハンスでは、コンシューマーグレードを意識しているとある。
Vancouver(バンクーバー)
Vancouver は、生成 AI を HRSD に本格実装したリリースである。
分野 / 新機能のハイライト18
| Category | Description |
|---|---|
| Now Assist for HRSD | HRケースの要約、チャット履歴要約や解決メモ生成により、人事担当者の業務効率と解決スピードを大幅に向上 |
| Employee Center Pro | ニュースを個別最適化して配信し、必要な情報を迅速に提供。AI検索や直感的なコンテンツ管理機能により、情報探索の負荷と運用工数を削減 |
| Journey Designer Admin Console | 従業員ジャーニーの設計・管理を簡素化する管理者向け機能 |
生成AIの機能がリリース。とはいえITSMで設計したものを横展開しただけの印象も強い…。
Washington(ワシントン)
Washington は、音声・動画・フィードバックまで含めた従業員体験へ。
分野 / 新機能のハイライト19
| Category | Description |
|---|---|
| Voice for HR | 問い合わせを自動分類・優先制御し、通話履歴をケース管理 |
| Video Communications | 動画配信を簡素化し、対象者別に最適な情報を迅速に共有可能 |
| Service & Experience Feedback | 業務フロー内で柔軟にフィードバックを収集し、体験改善を促進 |
テキストや画像の時代から音声や動画の時代へ。対応可能なコンテンツの幅が広がりました。
Xanadu(ザナドゥ)
Xanadu は、従業員体験と HR エージェントの生産性を同時に向上させる一連の機能を提供した。
分野 / 新機能のハイライト20
| Category | Description |
|---|---|
| Case & Knowledge Management | ケース作成改善、作業効率向上、応答テンプレート、パーソナルノート、ガイド付き意思決定ツリー等でケース精度と対応効率を向上 |
| Employee Journey Management | ジャーニー分析ダッシュボード刷新、マネージャー変更時のタスク再割当、プリビルトワークフローで従業員体験を最適化 |
| Now Assist for HR | LLM ベースのプロアクティブプロンプト、Copilot 統合、HCM システム連携による自動支援とセルフサービス強化 |
目玉機能があったというより、細かいところまで行き届くようなアップデートが多かった印象。Now Assistに関して人事らしい機能拡張がされてきた様子
Yokohama(横浜)
Yokohama は、GDPR 遵守、ケーストリアージ、代理応対、バーチャルエージェントと AI エージェントの進化など、HRSD の実運用に直結する強化が多数導入された。
分野 / 新機能のハイライト21
| Category | Description |
|---|---|
| Case & Knowledge Management | GDPR 対応サービス、トリアージダッシュボード、代理割当、デスクレス予約、UX 向上などでケース処理と管理効率を強化 |
| Now Assist for HRSD | ジャーニー生成、Knowledge Graph、成長計画生成、VA の高度化、AI Agent Studio、外部コンテンツ接続など AI 支援を拡張 |
| Employee Center Pro | 通知・AI 検索・予約・イベント管理を強化 |
Knowledge Graphはエクスペリエンス向上を支える基盤として大きなアップデートと思われるので、どの程度どのように機能するのか触ってみたいところ。
Zurich(チューリッヒ)
Zurich は、採用体験のソリューションを新規リリースし、HRSDの対象スコープを拡張。
分野 / 新機能のハイライト22
| Category | Description |
|---|---|
| Hiring & Growth Experiences | 採用・候補者管理、面接スケジュール、Manager Hub 拡張など、成長と採用体験を包括的に対応 |
| HR Multi-Instance Integration | 複数 HR システム/部門を統合し、中央ポータルで一元的に従業員サービスを提供 |
| Now Assist for HRSD | 生成 AI / 音声 AI エージェント対応によりセルフサービスとケース解決を高速化 |
| Employee Center Pro Enhancements | ブラウザ拡張、リクエスト UX 改善、コンテンツ管理自動化によるセルフサービス入口強化 |
採用系の機能リリース、タレント系とのライセンス統合が大きなトピック。スコープや機能の拡張に対して導入が遅れている感が否めないので、ServiceNowとともに自社も成長していきたいところ
振り返ってみての感想
他のアプリケーションは「xxxx Management」が多いのに、なぜHRSDはそうでないのだろうと思っていたけれど、過去は「HR Service Management」という呼称だったことを知ることができた。呼称の変更には人事部門ではなく従業員に焦点を当てたプロダクトへ昇華しようという強い意志を感じます。人事の業務高度化のために導入するのと、従業員体験の向上ために導入するのでは、ServiceNowの価値最大化の点では大きな違いがあるなと日々感じていたので、その意味が腹落ちしました。
みなさんもぜひ自分のお好きなアプリケーションの歴史を遡って、そのプロダクトの思想を理解する旅に出かけてみてはいかがでしょうか?
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What's New in HR Service Delivery | Washington D.C. Release ↩
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Xanadu Deep Dive – HRSD – Case and Knowledge Management /
Xanadu Deep Dive – HRSD – Employee Journey Management /
Xanadu Deep Dive – HRSD - Now Assist for HR ↩ -
Yokohama Deep Dive – HRSD – Case and Knowledge Management /
Yokohama Deep Dive – HRSD – Now Assist for HRSD ↩