1. はじめに
IT パスポート試験について調べてみると、「意味ない」「実務では使えない」といった言葉をよく見かけます。
「本当に受ける意味あるの…?」
受験を考える人にとって、まず気になるのはこの点かもしれません。
IPA 公式サイトでは、次のように説明されています。
この試験の狙いは、すべての社会人が備えておいてほしい情報技術の基礎知識を受験者に習得していただくことにあります。
(IPA 公式サイトより)
一方で、実務経験者の立場から見ると、「この試験で身につく知識って、仕事にどう効くんだろう?」と疑問に感じやすいのも正直なところです。
そこで今回は、実務経験や既存の知識はすべて封印し、IT パスポート試験の学習から受験、合格までを、10年ぶりにやり直してみました。
本記事は、次のような読者を想定しています。
- これから IT パスポート試験の学習、受験を考えている方
- 業界を問わず、社会人として IT の基礎知識を身につけたいと考えている方
- 自身が、少しずつ教育的な立場になりつつあると感じている方
学習から受験までをやり直してみて、そこで感じたことや見えてきた点を整理していきます。
学習、受験するかどうかを考える際の、「判断材料のひとつ」として読んでもらえたら嬉しいです。
本記事では、IT パスポート試験の勉強法・学習時間などには触れておりません。
2.今回の前提と「意味ない」と言われがちな理由
ここでは、今回どのような前提で IT パスポート試験に取り組んだのかを整理したうえで、この試験が「意味ない」「実務では使えない」と言われがちな背景を見ていきます。
2-1.学習、受験にあたっての前提
「初めて IT パスポート試験に触れる人」に近い目線で考えるため、次の前提で学習、受験を進めました。
- 学習教材は、市販教材と過去問のみを使用
- 受験時は、学習した内容だけを根拠に判断
- 経験的に答えが分かっても、学習した内容を根拠に判断できない選択肢は選ばない
実務経験があると、仕組みや前提を知っていることで、正解が分かる場面があります。
今回はそうした判断を使わず、教材の内容だけで解けるかどうかを基準に受験しています。
今回使用した学習教材
特定の教材やサイトを推奨する意図はありません。
一般的に入手しやすいもののみを使用しました。
| 種別 | 使用したもの | 位置づけ |
|---|---|---|
| 市販教材 | いちばんやさしい ITパスポート 絶対合格の教科書+出る順問題集 | 用語、概要の確認 |
| 過去問 | ITパスポート過去問道場 | 問題形式の把握 |
2-2.「意味ない」と言われがちな理由
IT パスポート試験は、ストラテジ・マネジメント・テクノロジの3分野で構成されています
(出題範囲の詳細はIPA 公式サイトで公開されています)。

※IT パスポート試験の出題分野(ストラテジ/マネジメント/テクノロジ)のイメージ図
本記事では、知識の粒度を「知る」「理解する」の2段階で整理しています。
この観点で見ると、IT パスポート試験は、各分野の用語や概要を「知る」ことに重点が置かれた試験だと捉えられます。
この粒度感で内容を見ると、特に実務経験のある人ほど、次のように感じやすいのではないでしょうか。
学んだ知識が、実務のどこに位置づくのか(=意味があるのか)、
どの場面で使えるのか(=実務で使えるのか)が見えにくいのでは?
IT パスポート試験は、幅広い分野に触れられる一方で、仕組みを深く理解したり、具体的な作業ができるようになることまでは想定されていません。
こうした試験の設計と、実務で求められるスキルとの間にあるギャップが、IT パスポート試験が「意味ない」「実務では使えない」と言われがちな理由のひとつだと考えられます。
3."今回"受験して感じたこと
IT パスポート試験を実際に受験してみて感じたことを、学習中 → 受験後 → 振り返りの3ステップで整理します。
3-1."学習中"に感じたこと
学習を進める中で、自分自身も「意味ない…?」「実務では使えない…?」と感じる場面がありました。
各分野の用語や概要は、学習を続けるうちに少しずつ頭に入ってきます。
ただ、それらが具体的な実務や行動のイメージに結びつく感覚は持ちにくく、実務目線では物足りなさを感じやすい内容だと思いました。
心の声:いろいろと「知る」ことはできたけど、これって実務でどう使うんだろう?
3-2."受験後"に感じたこと
受験を終えた状態で実務に入ったと仮定すると、学習中にはあまり意識していなかった変化も起きると感じました。
例えば、次のような場面です。
- 会議中に、用語が分からずに立ち止まる場面が減る
↪ 全く知らない言葉ではないため、用語の意味をその場で考えることに思考を取られず、会議の流れや本来の議題を追いやすくなる
心の声:あ、この用語は聞いたことあるな。
詳細は曖昧だけど、議題の話にこのまま集中できそうだ。
- 調べ物をするときに、何を軸に探せばよいか迷いにくくなる
↪「これはあの分野の話だったはず」と当たりがつき、調べ始める方向を決めるところで立ち止まりにくくなる
心の声:概要は忘れたけど、この分野の話だったはず。
まずはその前提で調べてみよう。
ここで起きている変化は、完全に手がかりのない状態から考え始める場面が減り、最低限の足場がある状態で思考を始められる場面が増える点だと感じています。
3-3."振り返り"して感じたこと
今回の受験を通して、IT パスポート試験は「何かができるようになる試験」ではなく、次の学習や実務に進む際、完全にゼロの状態から考え始めずに済むよう、「思考の足場」を用意する試験なのだと感じました。
用語や概要に一度触れていることで、会話や調べ物の入り口で立ち止まらずに済み、結果として次の一歩を踏み出しやすくなります。
今回の受験で、その役割が(自分としては)はっきりしたように思います。
ここでの「思考の足場」とは、完全にゼロの状態から考え始めるのではなく、なんとなく「聞いたことのある用語か」「どの分野の話か」「どう調べればよさそうか」がうっすら分かっている状態を指しています。
4."当時"受験しておいて良かったと感じたこと
今回の受験をきっかけに、10年前(新人の頃)に IT パスポート試験を受験していたことが、あとになって効いていたと感じる場面がいくつかあったことに気づきました。
4-1."当時"の自分にとって
IT パスポート試験を受験した当時、「この試験のおかげで何かができるようになった」という実感は、正直ありませんでした。
ただ、今になって振り返ってみると、実務の中で、ゼロの状態から考え始めていた場面は意外と少なかったように思います。
当時は意識していませんでしたが、考え始めるための「思考の足場」が、いつの間にか用意されていた状態だったのだと、今になって感じています。
4-2."立場"が変わって効いてきたこと
もうひとつ、時間が経ってから効いてきたと感じるのは、自分の立場が変わるにつれて、その価値がはっきりしてきた点です。
後輩指導や教育の立場に立つようになると、次のようなことを意識する場面が増えました。
- 相手が、どの程度の前提知識を持っていそうか
- どこまでを共通認識として話してよさそうか
IT パスポート試験の出題範囲や知識の粒度を把握していたことで、説明の出発点や深さを判断しやすくなっていたのだと思います。
当時は意識していませんでしたが、この感覚は、その後に受験した基本情報技術者試験や応用情報技術者試験なども同様で、相手の知識や理解度に応じて説明の仕方を切り替える意識につながっていました。
今振り返ると、IT パスポート試験で触れた知識の粒度そのものが、人に説明する立場になったときの、ひとつの基準になっていたように思います。
5.おわりに
「本当に受ける意味あるの?」という問いの答えは、受ける人の立場や目的によって変わるのだと思います。
IT パスポート試験は、「何かができるようになるか」で評価しやすい試験ではありません。
それでも、次の学習や実務に進む際、考え始めるための「思考の足場」になっていたと感じる場面がありました。
この試験が、次の学習や実務に進むためのひとつの「足場」になりそうかどうか、そうした観点から、学習や受験するかどうかを考える際の、「判断材料のひとつ」になれば幸いです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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