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Copilot Studioに「Memory」が登場。AIエージェントは“毎回初対面”ではなくなる

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🧭 この記事でわかること

  • Copilot StudioのMemory機能が何を変えるのか、技術的に正確に理解できる
  • Knowledge・Tools・Memoryの違いと、エージェント設計における役割分担が整理できる
  • Memory導入前に整理すべきガバナンス観点と、使うべき業務・使わない業務の判断軸がわかる

👤 対象読者

  • Copilot Studioで業務エージェントを設計・開発している人
  • 社内AI活用の企画・導入を推進しているDX推進担当者・情シス
  • 「チャットボット」と「AIエージェント」の違いを設計面で理解したい人

✅ 結論(先に言い切る)

Copilot StudioのMemoryは「AIが自動的に賢くなる」機能ではない。正確には「過去の経験をコンテキストとして引き継げるエージェント」になる機能だ。その違いを理解したうえで設計しなければ、ガバナンスリスクを抱えたまま運用することになる。


背景:なぜこの問題が起きるのか

現場で起きがちな状況

Copilot Studioで社内エージェントを作った組織が直面する典型的な不満がある。

  • 毎回同じ前提を説明し直さなければならない
  • 営業担当Aと担当Bが同じエージェントを使っても、個人に応じた支援ができない
  • 継続中の案件やプロジェクトの経緯をエージェントが知らない

これはCopilot Studioが「会話をまたいで文脈を保持する仕組み」を標準で持っていなかったためだ。これまでも変数やDataverse、SharePointに情報を保存して疑似的に実現することはできたが、「何を保存するか」「いつ呼び出すか」「誰を識別するか」をすべて開発者が設計しなければならなかった。

放置すると何が困るか

  • エージェントの「使い捨て体験」から脱却できず、継続利用率が上がらない
  • 利用者ごとの業務文脈を引き継ぐために独自の記憶基盤を構築し、保守コストが増大する
  • Memoryを誤解したまま「AIが自動学習する」として導入説明すると、後にユーザーの信頼を損なう

全体像:解決アプローチ(まず設計)

Copilot StudioにおけるMemoryの位置づけを整理すると、エージェントを構成する要素の中の「経験・文脈レイヤー」にあたる。

MemoryはKnowledgeでもToolsでもなく、「このユーザーとの関係の継続性」を担う層だ。設計時にこの役割分担を明確にしないと、何でもMemoryに詰め込もうとして設計が崩れる。


解決策:実装手順(再現できる形で)

Step 0. 前提(権限/環境/準備)

  • 対象画面:Copilot Studioの新しいエージェント作成体験(New agent experience)
  • 利用条件:Microsoft 365 Copilotのエンタープライズライセンス(M365 Copilot Chat側のMemoryはGA済み。Copilot Studio側のエージェントMemoryは2025年時点でPreview)
  • 注意Microsoft Learn の「What's new in Copilot Studio」によると、Memoryは新エージェント体験(New agent experience)でのみ有効化できる。クラシック体験では表示されない
  • テナント管理者権限:テナント全体でMemoryを制御する場合はPeople Administratorロールが必要

Step 1. エージェントでMemoryを有効化する

新しいエージェント作成画面右ペインの「Memory」トグルをオンにする。

# エージェント設定の概要(Copilot Studio UIでの設定値イメージ)
agent:
  name: "営業支援エージェント"
  model: "gpt-4.1"  # 既定モデル(GPT-5 ChatはGA済み、より自律的な動作が必要な場合に選択)
  memory:
    enabled: true
    scope: "per_user"  # ユーザーごとに記憶を分離(共有エージェントでは必須)
  knowledge:
    - source: "SharePoint/営業ナレッジ"
    - source: "Dataverse/顧客マスター"
  tools:
    - name: "CRM更新"
    - name: "議事録生成"

ポイント:KnowledgeにDataverseの顧客マスターが含まれる場合、Memoryとの優先順位を指示文(Instructions)で明示する。「公式データと記憶が矛盾した場合はKnowledgeを優先する」と明記しておくことが重要。

Step 2. 記憶させる情報の分類と指示文設計

Memoryは「何でも覚える」ようにするのではなく、記憶対象を明示的に設計する。以下の分類をInstructionsに記述する。

# エージェントの記憶設計指示文(抜粋)

## 記憶してよい情報
- ユーザーの役職・担当業務・担当案件名
- 回答形式の好み(箇条書き/文章、詳細/要約)
- 継続中の業務フェーズと直近の意思決定
- フィードバック(良かった点・修正依頼の内容)

## 記憶してはいけない情報
- 顧客の個人情報・連絡先(Dataverseから参照するのみ)
- 契約金額・与信情報(マスターデータを参照するのみ)
- 人事評価・個人の勤怠情報

## 矛盾時のルール
- KnowledgeのDataverse・SharePoint情報とMemoryが矛盾した場合は、Knowledgeを優先する
- 6ヶ月以上前の記憶は「古い可能性がある情報」として扱い、ユーザーに確認する

Step 3. 動作確認(テスト観点)

期待値

  • 1回目の会話:担当案件名・好みを伝える
  • 2回目以降:前回の文脈を踏まえて応答が変わる(毎回説明不要)
  • 記憶更新時:「Memory updated」的な通知またはログが残る

失敗したときの切り分け

症状 原因の仮説 確認手順
記憶が引き継がれない 新エージェント体験でない 作成画面のURLとUIを確認
全ユーザーの記憶が混在する per_userスコープ未設定 Memory設定のスコープを確認
古い情報を優先する Instructionsの優先順位が未定義 指示文に矛盾時ルールを追加
M365 Copilot側と挙動が異なる M365 CopilotのMemory(GA)とCopilot StudioエージェントのMemory(Preview)は別機能 テナント管理者に確認

🔥 実務Tips(やると差がつく)

  • 「Memory ≠ 再学習」をチームで合意してから導入する:Memoryを「AIが成長する」と説明すると、ユーザー期待値が現実を超える。正確には「コンテキストを継続利用できる」と説明する。
  • 記憶のライフサイクルを設計段階で決める:「いつまで記憶を残すか」「誰が削除できるか」は機能有効化前に決めておく。後から決めようとすると、消せない情報が蓄積する。
  • Memoryと相性の良いユースケースから小さく始める:継続的な個人秘書・営業伴走・育成支援など、「前回の文脈が価値を生む業務」から着手し、公式情報案内系には適用しない。
  • 「Memoryを使わない」判断も設計だと伝える:情報系のエージェント(社内規程案内・申請手続き案内)にMemoryは不要どころか有害なケースがある。選択的に使う旨をガバナンスドキュメントに明記する。

⚠️ ハマりやすいポイントと回避方法

  • ハマり:「Memory = 自動学習」として展開説明し、ユーザーが「AIが賢くなっていない」と感じて不信感が生まれる
    回避:「過去の文脈を次の会話に引き継ぐ機能」と正確に説明し、具体的な活用シナリオを事前にデモする

  • ハマり:誤った情報をエージェントが記憶し、その後の回答に影響し続ける
    回避:Instructionsに「6ヶ月以上前の記憶は要確認」ルールを入れ、ユーザーが随時記憶を削除できることをUI上で案内する

  • ハマり:KnowledgeにあるDataverseの公式データとMemoryの情報が矛盾し、どちらが正しいかわからない
    回避:指示文に優先順位を明示する(「Knowledgeソースの情報をMemoryより優先する」)

  • ハマり:複数人が共同利用する窓口系エージェントにMemoryを適用し、利用者をまたいで文脈が混在する
    回避:共同利用エージェントにはMemoryを適用しない。またはper_userスコープを明示的に設定する

運用・セキュリティの補足(ガバナンス設計の詳細)

テナント管理者によるMemory制御

M365 CopilotのMemoryは、Microsoft Graph APIを通じてテナント全体の有効/無効を制御できる。

# Copilot Memory のテナント設定確認
Connect-MgGraph -Scopes "PeopleSettings.ReadWrite.All"

$Uri = "https://graph.microsoft.com/beta/copilot/settings/people/enhancedpersonalization"
Invoke-MgGraphRequest -Method Get -Uri $Uri
# isEnabledInOrganization: True が既定

# テナント全体で無効化する場合
$Settings = @"
{
  "isEnabledInOrganization": false
}
"@
Invoke-MgGraphRequest -Method Patch -Uri $Uri -Body $Settings -ContentType "application/json"

注意:このAPIはM365 CopilotのMemory(GA機能)に対するもの。Copilot StudioエージェントのMemory(Preview)の管理エンドポイントは別途Learnドキュメントを参照。

eDiscoveryとコンプライアンス

  • Memory関連のデータはMicrosoft Purview eDiscoveryの対象となる
  • 法的保全(Legal Hold)シナリオでは、Memory保存内容も対象に含まれる可能性がある
  • 社内コンプライアンス部門と事前に連携し、保存対象・保存期間のポリシーを決定する

事故りがちなパターン

  1. 個人情報を含む発言が記憶される:ユーザーが自発的に顧客氏名・連絡先を発言→記憶される可能性。Instructionsで記憶禁止対象を明示しても完全防止は難しいため、利用者への運用ガイドラインが必要
  2. 退職・異動後の記憶が残る:担当者変更後に前任者の記憶が残り、後任者に影響する。定期的なMemoryレビューと削除フローを設計する
  3. Memory有効化で既存エージェントの挙動が変わる:既存エージェントのInstructionsがMemoryを想定していない場合、指示と記憶が競合する。既存エージェントへの適用は検証環境で先行確認する

📊 結果 / 効果(仮でもOK)

  • 定量:「毎回の前提説明コスト」がなくなることで、1回の会話セッション開始に要するプロンプト入力が削減。M365 Copilot Memoryの先行事例では週あたり数時間の節約報告事例がある(Vodafoneグループで週3時間/人の効率改善報告)
  • 定性:「使うたびに仕事を説明し直す疲れ」が解消され、エージェントの継続利用率が向上する
  • エージェントが「単発で答えるAI」から「業務の経緯を知っているAI」へと位置づけが変わり、ユーザーの信頼度が変化する
観点 Memoryなし Memoryあり
会話開始コスト 毎回前提を説明(高) 差分情報のみ伝えればよい(低)
パーソナライズ 全員同じ応答 利用者ごとに応答が最適化
継続業務の支援 各会話は独立。経緯を知らない 前回の意思決定・状況を踏まえた支援が可能
開発コスト 記憶基盤を独自設計(高) 標準機能で代替できる範囲が広がる(低)
ガバナンスリスク 低(記憶しない) 要設計(何を記憶させるか明示が必要)
向いている業務 公式情報案内・申請案内 継続的伴走・個人秘書・育成支援

学び・まとめ

  • 学び1:MemoryはRAGでもファインチューニングでもない。「過去の経験をコンテキストとして引き継ぐ」仕組みであり、モデル自体を更新するものではない。この正確な理解がないと、導入説明で誤解を生む。
  • 学び2:「何を覚えさせるか」が設計の核心になる。Memoryをオンにするだけでは優秀なエージェントにならない。記憶対象・禁止情報・優先ルール・ライフサイクルを設計段階で決める必要がある。
  • 学び3:Copilot StudioはチャットボットツールからAIエージェント基盤へ変わっている。Model・Instructions・Knowledge・Tools・Connected agents・Memoryという構成要素を見ると、Microsoftがエージェントをどう捉えているかが明確だ。これからのCopilot Studio開発は、この6要素を組み合わせる設計力が問われる。

✅ 次のステップ(ここから行動)

  • 自分が担当するエージェントの業務が「継続的文脈が価値を生む」タイプか「毎回同じ正式回答を返すべき」タイプかを分類する
  • Memoryを適用するエージェントについて「記憶してよい情報・禁止情報・優先ルール」をInstructionsに書く
  • テナント管理者と「Memoryのテナント設定・eDiscovery対象・保存期間ポリシー」を事前確認する
  • Copilot StudioのNew agent experienceで、テスト用エージェントにMemoryを有効化し、2セッション以上にわたる動作を検証する
  • Memory導入に関する社内向け運用ガイドライン(何を言わない・どう削除するか)を1枚で作成する

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